お姫様のお仕事
「フェルナ!今日は私の手伝いをしてもらうわ!」
突然やってきたアイーナ様が、そんなことを言い出した。
「ええ、構いませんが……どういったことを?」
「あなた、回復魔法使えるのでしょう?」
「はい、それなりには」
「どのくらいのレベル?」
「そうですね、だいたいの外傷は治せますよ」
「大した自信ね!ならいいわ!外出の準備をなさい!」
「はぁ……」
特に目的も明かされぬまま、私は外出着へと着替えた。
アイーナ様はメイド一人と護衛の騎士二人をつけて、城内を進んでいく。
私とサリナはその後をつけていた。
「どこに向かうのでしょうかね?」
「さぁ?手伝いってことは何かをやらせようと思っているだろうけど」
そして私たちは城門を抜けたのだけど、結構歩くことになる。
その間、
「あ、アイーナ様、こんにちは」
「今日はいつものですね?いつもありがとうございます」
などと行き交う人々が話しかけてきた。
アイドル的な騒がしさに、アイーナ様もご機嫌である。
「アイーナ様の人気凄いですね」
「ふふん!そうでしょう!私は可愛いからね!」
「可愛いだけではこんなに人気になりませんよ。アイーナ様がお優しいからだと思いますよ」
「そ、そんなこと言われても嬉しくないもん!」
アイーナ様はそう言うと足早に進んでいく。
照れてる姿がなんて可愛らしいのかしら。
こうして向かった先は、王城を出て二十分ほど歩いたところにあった。
王城に負けず劣らずの壮大な建物は五階建てくらいで、外壁は白く塗られているが、つい最近ペンキで塗られたかのようにピカピカだ。
入口は広く開かれており、近くの壁にはプレートが壁はめ込まれていた。
『スイレース王立病院』
「ここが目的地よ!」
「病院、ですか?」
私はここで思い出す。
アイーナ様の加護が『回復』であったことを。
怪我だけではなく、病気まで治せてしまうアイーナ様の加護は医療においてはとても貴重な存在。
もしかして……
「治療なさるのですか?」
「そういうこと!これも王族の加護を持って生まれたものとしての使命!フェルナも覚えておきなさい!」
幼くしても誇り高い王女様に、私は感動を覚えた。
「ええ、よく覚えておきます」
「あっ!だからといってお兄様との結婚を認めたわけじゃないからね!」
「ええ、わかっています」
コロコロと変わるアイーナ様の表情に愛らしさを覚えつつ、私たちは中へと入っていった。
「これは、アイーナ様。ようこそおいでくださいました」
「院長、久しぶりね」
「ええ、いつもお世話になっております」
院内の受付で話しをすると、すぐに白衣をきた医師がやってきた。
どうやら院長先生のようだ。
「こちらは?」
「ディフェルナよ。回復魔法が使えるらしいから一応連れてきたけど」
「そうですか。ですが外傷の患者は少なくてですね……我々で対応できております」
あら、これは役に立たなさそうね。
「そう、ならいいわ。フェルナには私の加護を見せてあげるから」
そう言うアイーナ様だが、病院ということを配慮してか声のボリュームは小さくしてある。
王女様でなければ、頭を撫で回していたところね。
「はい、よろしくお願いします」
「それで?患者は何人いるの?」
「重症な患者が二名います」
「二人か、ならなんとかなりそうね」
「ですが、無理はなさらぬように。まだ成人なされていない御身ですので」
「大丈夫よ。案内して」
「かしこまりました」
会話を終えたアイーナ様たちは、院内を歩き始めたので私だけがついていく。
サリナや護衛さんとはここで一旦お別れのようね。
まあ大人数で病院を歩くのも良くないだろうし。
「これをつけなさい?」
「これは、マスク?」
「あら知ってるの?オルフェリアにあるとは思えないのだけど」
「えっと、本で読みました」
「そう。なら付け方も分かるでしょう」
私は渡されたマスクを歩きながら着けた。
そしてある病室へと案内される。
「一人目は二十代後半の男性です。症状と致しましては血便が出ておりまして、栄養素を体内に吸収できないのか痩せ細っております。おそらく腸に腫瘍ができているものと思われ、開腹手術を行いましたが経過がよくありません」
男性は骨と皮のようやせ細り、今にも命の灯が消えてしまいそうな状態でベッドで眠っている。
点滴もされているし、開腹手術の技術もあるなんて本当に凄いわね。
隣同士だというのにオルフェリアでは不可能な技術だわ。
「わかったわ」
アイーナ様はそう言うと病院着の上から触診していく。
頭から胸、そして腹部へと到達すると手を止めた。
「ここだわ」
アイーナ様はそう言った後、
「神様、加護の発動を願います……」
小さく呟く。
すると、手のひらにまばゆい光が現れた。
「ふぅ……これで大丈夫だと思うわ。ただ体力の低下までは補えないから、これからもしっかり診てあげて」
「かしこまりました。お身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」
気丈に振る舞うアイーナ様だけど、額からはうっすらと汗が滲んでいる。
まだ幼いアイーナ様に一人の命を救うほどの魔力は辛いものなのだろう。
「それで?次の患者は?」
「はい、ご案内いたします」
そうして次に案内された場所は、院内の奥にある病室だった。
「九歳になったばかりの女の子です。日々吐血を繰り返しておりまして、開腹手術をする体力もない状態であります」
小さな身体であろう女の子にはふさわしくないほどの大きなベッドで寝かされており、傍には両親であろう人たちがいる。
「ひ、姫様……なにとぞ、なにとぞ娘をお救いください……」
「お願いいたします……」
「……わかったわ」
アイーナ様はそう言うと、眠っている少女へとその手を近づけるのだった。




