三者面談
キレイン王に呼ばれた私は陛下の部屋へと向かっていた。
「おはよう、フェルナちゃん。呼び出ししてごめんなさいね」
「いえ、こちらも十分に挨拶できていませんので呼び出しいただき嬉しいです」
その途中でフェレスお姉様と合流し、さらに奥の部屋へと向かう。
するとそこには二人の衛兵がおり、お姉様が正面に立つと恭しく礼をした。
「陛下に呼ばれて来たわ。開けてくれる?」
「承知いたしました。少々お待ちくださいませ」
片方がノックをすると、執事風の装いをした人物が現れた。
「ようこそおいでなさいました。陛下がお待ちです。どうぞお入りくださいませ」
「ありがとう、クゼル」
クゼルと呼ばれた執事さん(かな?)は五十代くらいの白髪の方。
顔には皺があちこちに見受けられるけど、優しい笑顔は好々爺といった雰囲気でとても親しみやすい人だと思った。
「は、初めまして」
「ええ、ディフェルナ様。私はクゼルと申します。陛下の執事として奉公させていただいておりますのでお見知りおきを」
「よろしくお願いします」
クゼルさんはそう言うと静かに頭を下げた。
そして私が室内に入ると、そっとドアを閉じる。
「呼び立ててすまないね。ディフェルナ嬢」
「いえ、そのようなこと。私にとっては光栄です」
王様の部屋ということでさぞやきらびやかなものだと思っていたのだけど、木製のベッドに本棚、後は鉱石製のテーブルと革張りのソファーという陛下の家具としては質素な揃えで、むしろ私の部屋の方が豪華であった。
「座ってくれ、すぐにお茶を用意させるからな」
「ありがとうございます」
お姉様は陛下の隣に座られ、私はお二人の対面のソファーに腰を下ろす。
「改めてだが、キレインと言う。よろしく頼むぞ、ディフェルナ嬢」
「ご丁寧にありがとうございます。ディフェルナでございます」
「うむ」
困り眉の陛下が少し微笑むと、じっと私の顔を見つめてきた。
「まだまだ、幼さが残る君に国を裏切るような真似をさせて申し訳ない」
そして大きく頭を下げた。
これには私も大慌てである。
「そ、そんな!私はむしろ厄介者のようなものでして、逆に温かく受け入れてくれた陛下と御一家には感謝してもしきれません!」
「そう自分を卑下なさるな。身の回りのものをほとんど捨てて、こちらまでやって来てくれた姫を無下になどできはせん。それに我が国への危機も伝えてくれたのだ。こちらこそ感謝をせねばならん。何か欲しいものはあるか?」
この寛大な言葉に私は自分のエゴを最大限に向けてしまう。
「……でしたら、戦争に勝利した暁にはオルフェリアの兵や民たちを救ってくれませんか?」
敗戦国の民は粗末に扱われるのが歴史の常である。
だからこれは私のワガママで、陛下の優しさにつけ込むようなこと。
あまりにも卑怯なお願いであることは百も承知だ。
私は恐る恐る頭を上げて陛下の顔を見る。
「そのようなこと、当然であろう?オルフェリアが立て直るまでは我が国ができる限りの援助を行うことを約束しよう」
「そうよね?困っている時は助け合いだもの」
お二人の笑顔と言葉に、私は涙が込み上げてくる。
オルフェリアは皇王である父と皇子である兄、そして軍部が権力を掌握しているので誰も逆らえないでいるのだけど、民や内政官には平和を願うものも多くいる。
そういった彼らの言葉を聞いてきた私にとって、何よりも嬉しい言葉だった。
「ありがとう……ございます……」
「あらあら、泣かないで?フェルナちゃん」
「うむ、まだ何も始まっていない。全てが終わってから再びその言葉を聞かせてほしい」
「はい、わかりました」
私は流れる涙を拭いながら、クゼルさんが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
「ところでだが、アスタロスとの婚姻はそのまま進めても構わんのかな?」
ゴホッ!
突然の質問に紅茶が気管に入った。
「あの子ってばかなりフェルナちゃんのこと気に入ったみたいでね?最近嬉しそうなのよね」
「ほ、本当に良いのですか?私は敵国の姫ですが……」
「一戦終われば、オルフェリアとも友好国となる。そうすれば問題ないだろう?」
「ええ、むしろ連合国として一緒になってもいいと思うわ!」
「「それはちょっと……」」
お姉様の言葉に私と陛下が渋い顔をする。
さすがにそう簡単にことは進まないだろうけど、戦争をした国々が今では同盟国となった事実はいくらでもある。
当然、逆も然りだけど。
「ディフェルナ嬢。改めてこの国の未来とオルフェリアの未来を、そのか弱き身に頼むことを許してくれ」
「大丈夫です。こう見えて私、結構強いんですよ?」
「頑張ってね!フェルナちゃん!美味しいものいっぱい作ってあげるから!」
「嬉しいです、お姉様」
「ずっと気になっていたのだが……お姉様とは?フェレスも歳を考え……」
「あら?何かおっしゃって?」
「いや、なんでもない……」
惚れた弱みというものかしら?
陛下は言葉を続けることなく、お姉様の笑顔に屈した。
そんな二人の仲睦まじい様子に、笑みがこぼれるのだった。
───オルフェリア城内の皇子の部屋───
きらびやかな室内で、オルフェリアの皇子であるベクアールが数名の黒い軍服を着た部下たちと話し合っている。
「うるさいディフェルナが出ていってから、反戦主義の奴らが大人しいな」
「ええ、旗頭を失ったわけですからね」
「父上も上手くやったものだな!これで俺も前線へと行けるわ!」
「殿下が向かえばすぐに戦線を押し上げることができるでしょう」
「当然だ!半年もかからず落としてくれる!」
「さすがでございます!」
「ふははは!」
ベクアールと部下たちは大きな笑い声をあげた。
戦争の火種はゆっくりと燃え広がろうとしている。




