告白
今日も今日とてあちらこちらに引っ張り出される中、ようやく一息つける時間が取れた。
「ふぅ……中庭の美しさが疲れた心を洗ってくれるわね……」
綺麗に区分けされた花壇はグラデーションをかけながら、赤から紫へと移り変わっている。
まるで植物園にでも来たみたいね。
二階にあるベランダから下をのぞき込んでいると、後ろから声をかけられた。
「そう言ってくれると嬉しいものだ」
「アシュ様」
白い軍服を着たアシュ様は、少し疲れた様子を隠しつつも笑顔を見せてくれる。
「お疲れですか?」
「……わかるか?」
「ええ、ほんの少しだけ目が垂れていますから」
「ははは、よく見ているな」
アシュ様は目に力を入れて、険しい顔をしながら笑う。
「……申し訳ありません。平和なこの国に火種を持ち込むような真似をして」
「君が気にする必要はない。遅かれ早かれこういう状況にはなっていたのだ。それが早く起こったとはいえ有利な状況であることはむしろ感謝すべきことだ」
「それでも、いろいろな場所で話していくうちにこれが現実だということを思い知らされて怖くなってくるのです……」
「それは私も同じだ」
アシュ様は私の手を取ると、両手で包み込んでくれる。
その温かさに命を感じた。
「私も戦争を体験したことがない。父上だってそうだ。想像はできても実際にその場へと赴いたら身体がちゃんと動くだろうかという恐怖はある。だが……」
一瞬の間を置き、私を見つめる。
「守りたいものがある。それは家族であり民であり、そして国でもある。私はこの国が好きだ。だからこそ恐怖を感じていても上手く隠さないといけない」
「……失礼いたしました。このような弱いところを見せるなんて」
「いや、私の前では見せてくれていい。そうすることで君も一人の女性だと思えるからな」
「……アシュ様は私をなんだと思っていらっしゃるのですか?」
「うーん……そうだな?美しき戦乙女かな?」
「……そのような大層なものではありませんよ」
「そうかな?私は初めて出会って話した時に思ったんだ。理路整然と話し純白の少女は間違いなく神が贈ってくれた天使なのだとね」
真剣な表情でそんなことを言われてしまっては、さすがに照れるものがある。
「……」
「君もそんな表情をするんだな。とても可愛いよ」
「も、もう!アシュ様は意地悪ですね!」
「ははは、アイーナにもよく言われるよ」
その言葉を聞いて反撃してやろうと私は思った。
「好きな相手にはいたずらしたくなるのが男の子ですものね?」
「ああ、そうだな」
はっきりと言われてしまい、私の反撃はまったくもって通用しないどころか綺麗に反撃をもらってしまう。
「自分でもこのような子どもっぽいところがあるとは思わなかったな。嫌ならば嫌と言ってくれて構わない」
アシュ様は身体をこちらに向ける。
そして……
「私は君を、好きでいる」
こんな美少年に告白されるなんて、思ってもいなかった。
しかもこんなにはっきりと。
ルヴィア様もこのような一面にやられてしまったのね。
「……えっと、そのですね?」
「返事は君が落ち着いてからで構わない。私はいつまでも待つつもりだ。それが否定を意味する答えだとしても」
「は、はい……」
「ただ、ほんの少しだけ、先払いしてもらってもいいかな?君の中で私という人間に少なからず好意はあるだろうか?」
その質問はズルいと思います。
私の中に、アシュ様を否定するような考えないのだから。
「好意は……持っています……」
「それだけでも聞けて嬉しいよ、フェルナ。その気持ちを失わせないように私は頑張るとしよう。これからも私を見守ってくれ」
「かしこまりました……」
熱い熱い熱い!
照れくささと恥ずかしさ、それに心臓の鼓動の早さで体温がどんどん上昇しているように思える。
あっ……死んじゃいそう……
甘い言葉には『守護』は発動しないことを私は知った。
今後は気をつけないとダメね……
「少し寒くなってきたな。部屋まで送るよ」
「あ、ありがとうございます……」
そうして私はアシュ様に手を引かれ、自分の部屋の前までなんとか歩けた。
「それではまた明日」
「はい……」
アシュ様が見守る中、私は部屋に入り……
「もう、ダメ……」
ベッドへと倒れ込んだ。
「フェルナ様!?どうしたんですか!?」
そんな私にサリナが慌てて駆けつけてくれる。
「アシュ様に……」
「殿下に何かされたのですか?」
「告白されたの……」
「よかったじゃありませんか!どのようにですか!?早く聞かせてくださいよぉ!」
ルヴィアごめんなさい……
今になって昨日のことを思い出す。
ゆさゆさと私の身体を揺さぶるサリナに、返事をする体力はもはや残されていないのだった。




