乙女会議
アイーナ様との仲を深めた(個人的感想)翌日。
コンコン。
昼食後、今度は私の部屋に来客があった。
なのでサリナが急いで対応に向かい、ドアを開く。
「ディフェルナ様はいらっしゃるかな?」
「あっ、フェルナ様。ルヴィア様です。お通ししてよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
「ルヴィア様、どうぞ」
「失礼いたします」
軍服を着たルヴィア様が部屋に入ってきた。
そのなんとも丁寧な仕草に少し寂しさを覚えるのは、歳の近い友人のように思っていたからだと思う。
「どうぞ、座ってください」
私はテーブルを挟んだソファーに着席を勧める。
「はい」
ルヴィア様の令嬢としてではなく軍人としての所作は美しく、女の私でも見惚れてしまう。
いや、女だから見惚れてしまったのかもしれない。
「それでは早速ですが、オルフェリアの軍事力について詳しい話を聞かせていただきたく、こちらにお邪魔させていただきました」
「ええ、知る限りのことはお話しさせていただきます」
「では、最前線にあるガレイン砦の兵数はどのくらいでしょうか?」
「そうですね。さすがに砦を預かる将からは答えてもらえませんでしたが、目算では二千ほどの兵士がいると思います」
ガレイン砦を預かるグリッドからそれとなく聞いてみたのだけど、笑って誤魔化された。
「なるほど。国境預かる砦としては小規模なものですね?」
「私がこちらに来たことでその他の地域に派兵したのだと思われます」
「では条約を完全に信じていると?」
「キレイン陛下が約束を破るような方ではないことの現れでしょう」
「誠実な方ですから。間違いなく優しき王であられると思っています。平和な世なら」
ルヴィア様が最後に付け加えたように平和な世であれば、間違いなく賢王と言える。
だけど今はそうではない。
優しき王よりも強き王が求められる時代なのだ。
それからも私たちは軍事に関わることを話し続けた。
「兵の損失ですが、どれくらいを考えていますか?」
「ガレイン砦での初戦では千の損失をシミュレーションしています。これはディフェルナ様が説得を失敗した時のものですので、こちらとしましてはぜひとも説得に成功していただきたく思っています」
十代の乙女が話すにしてはあまりにも血なまぐさい会話だ。
だけどこれがこの世界の現実。
十五年もこの世界で生きてきた私にとってもはや迷いはない。
「ありがとうございます。充分な内容のお話しができたことを、感謝いたします」
ふと時計を見れば三時過ぎ、およそ二時間以上は話していたようね。
「ルヴィア様、もう少しお話しよろしいですか」
私は切り上げようとしたルヴィア様を引き留める。
「まだ重要なお話しがあるのですか?」
「ええ、とっても大事な話があるの」
「……聞きましょう」
お互いにサリナが淹れてくれた紅茶を口にし、少し間を置いて問いかけた。
「アシュ様のことはどう思われていますか?お好きなのでしょう?」
「……なっ、なっ!?」
ルヴィア様のお顔が急に赤くなった。
「どういったところがお好きなのですか?」
私の問いに近くで待機しているサリナはウズウズしている。
自分も参加したいのだろう。
「そ、それは関係ない話でしょう!」
「まあまあ、軍人としてのルヴィア様との会話は終わりました。今はご令嬢としてのルヴィア様とお話ししたいのです」
「別に私は殿下のことは、その……尊敬しているだけです!」
「そうは言われますが、殿下を見つめる瞳は恋する乙女でしたよ?」
「ディフェルナ様!からかうのはおやめください!」
「あっ、今はフェルナって呼んでほしいな。後、敬語もなし」
「……フェルナって本当に姫?どうもそんな気がしないのだけど」
「一応、姫やらせてもらってるわ」
私の答えにルヴィアは笑った。
「なによそれ」
「で?アシュ様のことはどう思ってるの?」
「……それはまあ、憧れくらいの気持ちはある」
「好きなのよね?」
「……一般的にはそういった感覚だとは思っているわ」
少し視線を反らした彼女の白い頬は真っ赤に染まっている。
「うーん……可愛い!」
「そ、そう言うあなたはどうなのよ!」
「私?そうねぇ……」
前世の実年齢が二十代後半、現世で十五年と精神年齢はもはやアラフォー。
だけども息子ではなく、歳の離れた弟と思うのは女性としての抵抗だろうか?
ただ、それだけではないという感覚もある。
「そうね。好意は少なからずあると思うわ」
「なんだかずるい言い方ね?あなた本当に私よりも歳下なの?」
「ふふっ、いくつに見える?」
「私のお母様よりも歳上に見えるわ。雰囲気がだけどね」
「お母様っておいくつ?」
「ことしで三十八になるわ」
「……お若いわね」
「ちょっと嬉しそうなのどういうことよ?」
「うふふ、まあそういう話は置いといて……アシュ様とどんな出会いがあって好きになったのか教えてもらいましょうか?」
「お聞かせくださ~い……」
どうやら我慢の限界だったようでサリナも興味津々な様子で近づいてきた。
「ちょ、ちょっと!帰らせて!」
「だーめ。全部話してもらうんだから」
「い、いやぁぁぁ!」
それからたっぷり一時間。
初々しい恋バナを聞いた私たちの肌は潤っていた。
「も、もう……帰る……」
ただ、ルヴィアはげっそりしていたけれど……
まあ良しとしておいてね。




