旅立ち
「こんなに早く追い出すなんて陛下はひどいと思います!」
私の侍女であるサリナが頬を膨らませている。
彼女は男爵家の娘で、二歳歳上だけど幼い頃から私と一緒に育ってきた姉のような存在ね。
だけど長い赤髪を三つ編みにまとめ、垂れ目な彼女は妹のように思えるほどに童顔だ。
実年齢的に言えば娘と言っても過言じゃない。
「あなたは残ってくれても良かったのよ?」
先日のパーティーの宣言からわずか翌日には王城から追い出され、今は数名の騎士の護衛とともに馬車に乗ってスイレース王国との国境へと向かっている。
「何をおっしゃいますか!フェルナ様を独りで行かせるなんて皇家が許しても我が家は許しません!」
「うふふ、頼もしい限りだわ」
「ええ!このサリナにどんと任せてください」
独りで敵地へと送られるに等しい中で、サリナのこの献身さは私にとって救いね。
なんとしても守ってあげたいわ。
「フェルナ様?」
「ん?どうかして?」
「いえ……フェルナ様の瞳から母のような温かさを感じましたので……」
一応この世界ではピチピチの少女だし、子どもを産んだこともない。
「サリナ。一応私はまだ未婚よ?」
「はい!そうでした!」
私が困ったように笑うとサリナも笑った。
そうしているうちにも馬車はガラガラと車輪を回して道を走っていく。
ろくに整備されていない道となっているのか、振動が大きくなりお尻が痛い。
一応クッションを敷いてはいるのだけど木製の座席のためかあまり効果は無いようね。
ただお尻の心配よりも私は命の心配をしなくてはならない。
もし兄の刺客が護衛の騎士たちに紛れ込んでいたら……
私たちの命はないだろう。
何とか護衛の隊長は私が幼い頃からの護衛騎士であり、信頼をおけるライゼンに人選を任せたから大丈夫だと思うけど……
コンコン。
走行中の窓からライゼンの顔が透けて見えた。
短い茶髪に細い目つき、少し伸びたヒゲという幼い頃から慣れ親しんだ顔だ。
サリナが窓を開く。
「馬上から失礼致します。ディフェルナ様、あと少しのところまでやってきました。もうしばらくの間我慢してくださいませ」
午後三時。
懐中時計が差す時刻だ。
早朝の六時から出発し、途中お昼休憩を取ったことと、馬車は常時自転車ほどの速さだったことを加味すると、大体200キロくらいかしら?そのくらいで国境である砦に到着することになるわね。
「ええ、ありがとう」
「それにしてもディフェルナ様がこうも早く嫁がれることになるとは……」
「ふふふ、私も驚いたわ」
「嬉しくもあり、寂しくもありますなぁ……」
「……ライゼンは、この国の先はどうなると思う?」
「私が口にするのはおこがましいですが、あまり明るいものとは思えませんな」
「やっぱり?」
「ええ、確かに領土は増えていますが、それを守る兵がいません。それに増加した民はこの国に反発をしているでしょうし、いつ反乱を起こされても仕方ありません」
「戦争に勝ってしまっているとも言えるわね」
「陛下や皇子は拡大主義ですからね。それに反してディフェルナ様は現状維持主義ですものね」
「現状維持というか、平和に過ごして欲しいだけよ。私も兵も民もね」
「そう言ってくれる方が他国に行ってしまわれるのは辛いものです」
「スイレース王国でも何とか頑張ってみるから。ライゼンも無理しないでね」
「その言葉、身に染みるものであります」
ライゼンはそう言うと一礼をして、離れていった。
「ライゼン様も来てくれたらいいのに……」
「そうはいかないわよ。ライゼンはオルフェリアの騎士なんだから」
「そうですけど……一人くらいいいじゃないですか?」
「一人くらいじゃないの大切な一人なのよ。ライゼンもあなたも」
「そう言ってくれるのはフェルナ様だけですよ……」
この国は人命が軽すぎる。
平和な国で過ごしてきた私にとってはそれが辛い。
衣食住もまだまだ発展途上だ。
それらを改善することすらできなかった。
スイレース王国は周辺国との平和を維持しているため、文化レベルは高く、戦闘力も高いと聞いている。
その力を持ってオルフェリア皇国の侵略を止めて欲しい。
こう考えてみると、私は平和な国に戦火を灯そうとしているかもしれない。
だけどそれは遅いか早いかの違いでしかない。
このことを分かってくれる人がいればいいのだけど……
ガラガラ……
そう考えている間にも馬車は道を着実に進んでいくのであった。




