殿下の知りたいこと
謁見の後、私は自室でのんびりと過ごしていた。
「フェルナ様、気持ちいいですか?」
ソファーに座っている私の髪を梳きながらサリナが問いかけてくる。
「ええ、気持ちいいわ。それにしてもサリナ、すごく嘆いていたのにすっかり元気ね?」
「はい!私は何があってもフェルナ様についていくと決めていますので!」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」
そうして穏やかな時間が過ぎていると、
コンコン。
ノックの音が鳴った。
「はーい」
サリナがドアを開くとそこにはアシュ様がいた。
「失礼、少し話せるかな?」
アシュ様の問いには私は微笑みとともに返す。
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
アシュ様は私の対面に座ると、じっとこちらを見つめてきた。
「あ、あの……私はここにいてもよろしいのですか?」
「ああ、構わない。今はまだ未婚の令嬢の部屋に二人きりとなるのは良いことではないからな。ただ、この場での会話は他言無用だ」
「か、かしこまりました」
サリナは礼をすると私の後ろに移動した。
「それでは話しというのだが……」
「はい」
「明日、緊急で会議が開かれることになった」
あら、意外と早い対応だわ。
1週間は待たされると思っていたのだけど。
「父上もああ見えて決断力はあるのだぞ?」
「失礼いたしました」
どうやら驚きの表情を浮かべていたらしい。
気を引き締めておかないとね。
「それでだ」
「はい」
明日集まる要人たちのことを教えに来てくれたのかしら?
それともこの国の軍事力のことを詳しく教えてくれたり?
「君はどういったものが好きなのかな?」
……?
前言とのギャップに脳の処理が追いつかないでいる。
そのせいで室内に気まずい沈黙が流れてしまう。
「き、聞こえなかったか?君の好きなものを聞いている」
「いえ、聞こえていましたが、どういった意図の質問ですか?」
「……一応君は私に婚約者と言える立場だろう?ならば少しは君のことを知っておきたいと思うのは普通ではないか?」
「……ふふっ、そうですか」
「……何がおかしい?」
「アシュ様も男の子なんですね」
「その言い方はやめてほしい……まるで母上のようだ」
「失礼しました。それはそうとして、私の好きなものですか……」
なんだろう?
特に好きなものはあったかしら?
前世と比べることで大体のことは新鮮で興味あるのだけれど。
「サリナ?何か知っていることあるかしら?」
「フェルナ様の好きなものですか?たくさんありますよ?」
えっ?そんなにあったかしら?
「おお、教えてくれないか?」
「まずは美味しいご飯ですね。この国のご飯はとても美味しいようで食べている時はニコニコです」
「ほう、我が国の料理は他国に誇れるものだから嬉しく思う」
「他には可愛いものが好きです。特にぬいぐるみがお好きらしいのですが、オルフェリアではそういったものを常々欲しいなとおっしゃっていましたが、使えるお金は厳しく管理されていましたので」
「ぬいぐるみも買わせてもらえなかったのか!」
「ええ!酷いと思いませんか!?年頃の女の子にぬいぐるみも買わせないなんて!」
「アイーナはいくつも欲しがってその度に父上が買ってあげているというのに……辛かったであろう……」
「そうなんです……ですがフェルナ様はそのような環境でも頑張ってこられたのに、あっけなく追放ですよ!?おかしいと思いませんか!」
「おかしいと思う!思うが、こうやって出会えたことは感謝している……」
「あらぁ……殿下ってば素直ですねぇ……」
「……からかうでない」
私の頭上で会話がポンポンと弾んでいる。
当人を放っておいてずいぶんと楽しそうだこと。
「コホン、そろそろよろしいでしょうか?」
「あ、ああ」
「お聞きになったように私、可愛いものが好きです。それでなのですが、ぜひともアイーナ様と仲良くさせていただきいと思っていますが、何か良い案はありませんか?」
「ううん……アイーナはなかなか気難しくてな……」
「アイーナ様の好きなものはなんですか?」
「フェルナと同じく可愛いものが好きだが、特に好きなものは母上の作ったお菓子だな」
「なるほど……どのようなお菓子がお好きで?」
「特に甘いものだ。虫歯になるということであまり食べさせてくれないといつも文句を言っている」
「わかりました。ありがとうございます」
「それはよかった。ワガママな妹だが、仲良くしてあげてほしい」
「もちろんです。私も妹が欲しかったものですから」
「それでは私は失礼する。明日は大変だろうが共に頑張ろう」
「もちろんです」
「サリナもありがとう。君がくれた情報は大いに活用させてもらうよ」
「いえ!お役に立てて光栄です!」
アシュ様は礼をすると、そのまま部屋から去っていった。
深刻な話となるかと思ったのだけど、意外な方向で盛り上がってしまったわね。
「殿下はいい方ですね!」
「ふふふ、本当にね」
押し付けられたに等しい存在だというのに、大切にしようとする想いが伝わってくる。
私もこの国の為にしっかりとしないとね!
それに……
お姉様!大好き!
アイーナ様にそう言われる日を目指すのよ!
「フェルナ様……お顔が欲望にまみれていますよ……」
「おっと、いけないいけない……」
またしても顔に出てしまっていたようだった。




