謁見の間にて
ふかふかのお布団で寝られたおかげで私はスッキリとした目覚めを迎えられた。
コンコン!
「おはようございます!」
「おはようサリナ。今日は特に元気ね?」
「はい!ご飯は美味しかったしお風呂は気持ち良かったし、お布団はふかふかで最高でしたから!」
「うふふ、私も同じよ」
壁にかけられた時計を見れば、時刻は6時。
先日謁見の時間を9時とオレリアに教えてもらっていたのでまだまだ時間はある。
とりあえずオルフェリアから持ってきた白のドレスに着替えて、呼ばれるまで待つことにしよう。
「それじゃ、いろいろとセットしていきますね~」
サリナが手慣れた様子で私の髪をセットしてメイクをし、着付けを行なってくれた。
気づけばすでに2時間が過ぎている。
貴族様の準備は大変。
まあこれほどしっかりするのは今日が特別な日だからなのだけどね。
「今日は大変な1日となるわね」
「ご挨拶するだけじゃないんですか?」
「その挨拶が大変かな」
「あまり過激なことは言わないでくださいね?」
「うーん……ちょっと約束し辛いかな?」
「うぅ……何を言うつもりなのですかぁ……」
「秘密」
こうして準備を整えた私は、オレリアに呼ばれて謁見の間へと向かった。
玉座があるその空間を近衛兵が隅に並び、中心部に着飾った臣下たちが並んでいる。
そしてその奥、玉座に座るのがこの国の王……なのだけど、どうにも優しそうなおじさんにしか見えない。
だけどその隣にはフェレスお姉様が座っており、傍にはアシュ様とアイーナ様が立っている。
そうしてかろうじて威厳が出ているように感じた。
「その方が、ディフェルナ・レス・オルフェリアか?」
「はい、そうです。陛下にはお初にお目にかかります」
「うむ。私の名はキレイン・ルト・スイレース。オルフェリア皇国からよくぞやって来てくれた。皆のもの、歓迎の拍手を」
パチパチパチパチ!
「皆様方、ありがとうございます」
大きく歓迎を見せる方や小さく仕方なさそうに拍手をする方がいらっしゃる中に、ルヴィア様の姿が見えた。
彼女は笑顔で拍手を送ってくれている。
「これでオルフェリア皇国との平和は約束されたと思っていいのであろう?」
私が再び前を向いた時、陛下はにっこりと微笑んだ。
その言葉を肯定することこそが私がここに来た意味なのだけど。
「恐れながら申し上げます。残念ながらそのようなことは僅かな時のみでしょう」
私の言葉に広間がざわついた。
「そ、それはどういうことだ?」
「我が国が私をここまで送り出した理由は数年の時間が欲しかった故。その数年の間に周辺国を滅ぼしたオルフェリアは必ずや牙をこの国に向けるでしょう」
ざわつきはさらに大きくなる。
「し、静まれ!そんな馬鹿な……周辺国との停戦もこの婚姻の条約だというのに……」
「残念ながらその条約は守られないでしょう」
「やっぱり野蛮人じゃない!」
アイーナ様の言葉が広間に響く。
「こ、こらアイーナ……静かになさい」
「だってお父様!約束を守らないなんておかしいじゃない!」
「それは、その通りだが……」
「ええ、アイーナ様がおっしゃる通り、私も野蛮な国だと思います。ですが、私は平和が好きです。そう主張していたことがオルフェリアでは受け入れられませんでした」
「な、ならば一度戻って説得を……」
「そうなれば私は良くて幽閉、最悪の場合処刑ですね」
私はにっこりと微笑んだ。
「……」
ついに陛下は黙ってしまった。
それでも良いから行ってこいとは言わないところにお人好しさを感じる。
「それではあなたは何のためにこの国へ来たのですか?」
ルヴィア様がざわつく広間でも大きく通る声で、私に問いかけた。
「オルフェリアを止める為です。私はあの国が大嫌いです。民は重税に苦しみ、子どもを兵に取られ悲しんでいます。そんな国を止める為に内側から声を上げましたが、止められませんでした。ならば外側から止めるしかありません。その為に私は来ました」
「我が国の兵士たちに戦えと?」
ルヴィア様が険しい表情を浮かべる。
「そうしなければならない時なのです」
「言うは簡単ですが、ディフェルナ様は戦争となった場合どうなさるおつもりですか?」
「私は最前線に立ち、オルフェリア兵に向かって説得を試みます。必ずや少なくない兵士たちが降伏してくれるでしょう。それだけ兵士たちも苦しんでいるのです」
「……本気ですか?死ぬかもしれませんよ?」
「私の加護は『守護』そう簡単に死にはしません」
「その加護については私が確認した。それにリアスをも倒す武力は相当なものだ。それに祖国を敵にする覚悟もある。だからこそ、私はディフェルナを迎え入れたのだ」
アシュ様が私の言葉を追認してくれた。
ありがとうございます。
「でしたら、私には異論ありません」
ルヴィア様も頷く。
これで勢いづきそうだと、そう思った。
「一旦……ここまでにしよう……これ以上はこの場所で議論するものではない」
「「申し訳ありませんでした」」
私とルヴィア様が揃って陛下に向かって頭を下げた。
「姫からの進言を聞き、そのまま王子と婚姻をさせるわけにはいかん。とりあえずはこのまま賓客として迎えさせてもらうがいいかな?」
「陛下の思うがままに」
「ふぅ……それでは下がってよい……いずれ詳しく話を聞くこともあろう」
「出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」
「いや、いい。命を賭しての言葉、重く受け止めさせてもらうぞ」
「ありがとうございます」
陛下は困ったように笑った。
臆病さに隠れつつも、良き陛下なのだと私は思う。
だからこそ、後押しが足りない。
臆病な陛下がしっかりと渡りきれる橋をかけるのが、私の今後の目標なのであった。




