第七話 たまには無料で人助け
ここ最近、フラビオは、ダンジョンの浅い階層しか潜っていない。そういう依頼が多かったのも確かだが、少し無精になっていたのだった。
この日は、久しぶりに十階層まで下りた。
キメラの上位種グレイトキメラや、ファイアージャイアント、ガーゴイルの上位種アークガーゴイルの群れなど、厄介な魔物達を蹴散らすように倒し、久々にかなりの魔石を稼いできた。
「うん。たまには強敵とも戦っておかないとな。腕が鈍る」
とは言え、まだまだ十分ソロで狩れる範囲内だ。フラビオがパーティを組まないと厳しい相手は、最深部くらいにしかいないだろう。
十分狩ったと判断したフラビオは、地下二階に戻ってきた。
念のため、そこで探知魔法を使ったところ、魔物と戦闘中のパーティの反応があった。
一昔前なら人の邪魔をしないよう、戦っている場所を避けて通っていたものだが、以前とあるパーティの危機を救った経験から、一応様子を見に行くようになっていた。
「ん、あのパーティは」
近づいて見ると、見覚えのある連中だった。以前、金貨一枚で手助けをした戦士二人とヒーラー一人のパーティだ。メイジが一人増えている。
相手はリビングアーマー二体。十分に勝てるはずだがと、フラビオは思ったが、戦士が一対一で切り結ぶ対決になっていて、なかなか決着が付かないようだった。
フラビオはヒーラーの女性に近づいて声を掛けた。
「えっと、確かソフィア、だよな。ヒーラーの」
彼女もフラビオのことはよく覚えていた。
「フラビオさん、この前はお世話になりました」
そして戦況について尋ねる。
「これ、ちゃんと勝てそうなのか」
「そうですね。あとは火力の支援だけです。クロエ、ちょっと来て」
ソフィアがメイジの女の子を連れてきた。少し背が小さく、少女にも見えたのだが、実際は他のパーティメンバーと同じ二十才である。
「こちらフラビオさん。以前助けてもらった高レベルメイジなの。フラビオさん、良ければクロエに魔法を使うタイミングを教えてあげて下さい」
「ん、俺が直接魔法を使うのではなく?」
「だって、フラビオさん、報酬高額ですから。口だけ手伝って下さい」
フラビオが苦笑した。なるほど、それなら確かに報酬は請求できない。
「えっと、クロエと言ったか。まずは槍使いを助けようか」
「分かりました。使う魔法はファイアボールとアイシクルランスでいいんですよね」
少女っぽい見た目に反し、実力の方はしっかりとマスタークラスである。意図を汲み取り、即座に了承していた。
「いいと思う。じゃあ、支援に入ろう」
槍使いの男はエリアスという名前だ。リビングアーマーは剣を持っていて、それを振り回して攻撃してくる。それを回避したり、見事な槍捌きで剣の攻撃を防いだりして、隙を見て反撃を加えている。しかし、アーマーの硬さが勝り、大きなダメージを与えられないようだった。
そのアーマーの背面に回り込んだ二人は、動きが止まるのを待った。
しばらくして、アーマーの攻撃を避けざま、エリアスが鋭い突きを放った。それが見事に入り、一瞬だがその動きが止まる。
「よし、今だ」
「ファイアボール!」
エリサが魔法を初級の発動させる。拳大の火球が見事にアーマーの背に直撃し、周囲を高熱で焼く。
すかさずエリサが次の魔法を放つ。
「アイシクルランス!」
今度は氷の槍の魔法だ。これも初級魔法である。リビングアーマーのような小型の相手に派手な魔法はいらない。確実に弱点を突くことが大事である。二発目の魔法が直撃し、アーマーの体が急激に冷やされる。炎と氷の温度差によって一気に脆くなった。
「エリアス、今よ!」
「助かる! 闘気槍!」
エリアスが闘気を槍に伝える技を使った。戦士の基本技で、威力をかなり底上げすることができる。槍が淡い光に包まれたと同時に、エリアスは必殺技を放った。
「流星突き!」
威力のある突きを七連続で放つ、エリアスの得意技だった。それがリビングアーマーの脆くなった箇所を繰り返し穿つ。見事に大穴が空き、リビングアーマーが地に倒れ、やがて霧状になって消えていった。
「よし、あと一体!」
三人がもう一人の戦士の元へ駆けつける。
こちらの戦士は名をアルベルトと言う。楯使いの剣士で壁役だ。
「そっちは片付いたんだな。って、フラビオさん、何でいるんだ?」
アーマーの攻撃を弾きながら、アルベルトが尋ねた。
「ただの通りすがりだよ。報酬は請求しないから安心しな」
フラビオが苦笑交じりにそう伝えた。この連中、まだ王都に来たばかりで稼ぎも少ないだろう。金貨一枚の出費は痛手のはずだ。その事情が分かるだけに、一番気にすることを先に言ったのである。
「そうか。じゃあ、見ててくれ。エリアス!」
「おう、あれだな」
「いくぞ、闘気剣!」
二人が共に闘気をまとわせた武器を構える。
「流星突き!」
「三段斬り!」
二人が同時に必殺技を放った。さすがのリビングアーマーも、その硬さを上回る攻撃を受けて、その体が斬り裂かれ、いくつもの穴を開けられた。そして地に倒れ、霧状になって消えていく。二人も伊達にマスタークラスの戦士ではないのである。
「おお、見事な連携技だな。感心したよ」
フラビオが手放しで賞賛した。硬いだけでそれほど強くない敵だが、一撃で仕留めたのは素晴らしいと、素直にそう思ったのである。
「やったな。エリアスの援護のおかげだ」
「ああ。クロエのおかげで、こっちがすぐ片付いたからな」
「二人ともお疲れ様。それとクロエ、見事な魔法だったわ」
「ありがとう。私も頼れる仲間と戦えて良かった」
四人が笑顔で声を掛け合う。
フラビオは、この面々がいいパーティになった様子を見て、昔も自分はこんな風に仲間と信頼し合っていたなと思い出していた。だからこそ、自分達のパーティが壊滅寸前になった時に、弱い自分が許せず、ひたすらに強さを求めたのだ。それからもう十六年が過ぎている。
「フラビオさんも、レクチャーありがとうございました」
ソフィアに言われ、フラビオが我に返った。
「バランスも連携もいいパーティになったな。クロエはいつから?」
話のついでに聞いておこうと、フラビオが尋ねた。
「今日からです。私、地方で別のパーティに入っていたんですけど、マスタークラスになれたのを機に、このカルスのダンジョンに挑戦したくて、王都に上ってきたんです」
「あれ、じゃあ、前のパーティは?」
「はい、他のみんなは、カルスはまだ早いと反対していて。結局話し合いは物別れになって、私だけ王都に来たんです。それで昨日王都に着いて、冒険者ギルドで泊めてもらって、今朝アルベルト、エリアス、ソフィアの三人を紹介してもらって、その足でこのダンジョンに挑戦しに来たんです」
「なるほどね。いい偶然ってあるものだな。良かったじゃないか、これで満足のいく挑戦ができそうだな」
「はい。ありがとうございます。ところで、フラビオさん、でしたよね。あなたはどうしてこんなところに?」
クロエならずとも、なぜこんな所を通りすがるのか不思議に思うのが当然である。
「ああ。今日はソロで魔物を狩ってたんだよ」
「ちなみにどこまで行ったんですか?」
「地下十階層だ」
「地下十階!」
高レベルメイジであるフラビオの実力の凄さを、三人は良く知っている。何せ目の前で、アイアンゴーレムだのキメラだのをごく簡単に倒して見せたのだ。それを見ていないクロエにも、高難度と言われるこのダンジョンで、地下十階層まで一人で行ける実力のすごさを感じ取っていた。
「はあ、やっぱりすごいんですね、フラビオさんは」
ソフィアがため息交じりにそう言った。自分達はいつになったらそこまで行けるだろうかと、気が遠くなりそうに思ったのだ。
アルベルトとエリアスも同じ気分だったようだ。クロエは一人目を丸くしながら、じっとフラビオを見つめ、正直な感想を口にした。
「フラビオさん、とてもそうは見えないんですけど、本当は凄いんですね」
何せ平々凡々の容姿、街中ではただのおっさんにしか見えない。当然の反応だろうとフラビオも自分で納得してしまうくらいだ。
「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ」
「あ、ごめんなさい。実力の凄さは良く分かりましたから」
フラビオが笑った。別に見た目のことで何か言われても、気にする質ではなかった。
「で、お前さん達は、この後どうする?」
フラビオが尋ねると、アルベルトが気真面目な顔で答えた。
「もう一戦だけして戻るつもりです。それでですね、あの、もしフラビオさんが良ければ、最後の一戦もアドバイス頂けませんか」
フラビオも生真面目な顔で返答した。
「報酬は?」
「すみません、今日パーティ組んだばかりで、出せる余裕ないです」
「正直だな。どうするかな」
フラビオが腕組みして考えこむ。この前助けた時も、この連中は気分の良い若者達だった。クロエ一人増えてもそれは変わっていない。こういう伸び盛りの冒険者を無料で助けておくのもたまには悪くないか。そう思った。
「いいだろう。ソフィアが言ってた、口だけ手助けってヤツで」
「本当ですか。やった、すごく心強いです」
話がまとまったところで、ソフィアが割り込んできた。
「フラビオさんの探知魔法なら、魔物がいるかどうかわかるんですよね。この近くに、ちょうどいい魔物がいたら教えて下さい」
リーダーはアルベルトだが、参謀はこのソフィアのようだ。早速とばかり的確な助言を貰おうとしてくるあたり、見事だと思った。
「んー、ちょっと待ってな。えっと、ガーゴイル三体、これはジャイアントスネークか、同じく三体、それとキメラ一体、近くにいるのはそんなところかな」
「キメラかよ、縁があるな、俺達」
「正直、会いたくない相手だなあ」
「ちょっと私達には厳しいわよね」
三人が口々にこぼした。
フラビオは、前回手助けをした時、この三人ではキメラに歯が立たなかったことを思い出した。だが、この前とはメンバーが違う。
「今はメイジのクロエがいるだろ。四人でも倒せるぞ」
「本当ですか?」
三人の表情がぱっと明るくなり、新メンバーのクロエを見つめた。
「もちろん。作戦は必要だけどな」
パーティの四人が顔を見合わせた。強敵のキメラだが、この四人で倒せるとなれば、この先の戦いでも大いに役に立つだろう。
「ぜひ教えて下さい。挑戦してみます」
前のめりで四人が頭を下げて懇願した。
「口だけなら無料だもんな。もちろん、いいぞ」
フラビオはそう言ってニヤリと笑うと、四人に作戦を説明した。
その場所から奥に少し進んだところに、フラビオが言った通りキメラがいた。全長は三メートル。キメラとしては中型の部類だ。頭部が獅子、体が山羊、尻尾が蛇と形態も標準的である。
「じゃあ、手筈通りに頑張ってみな。もし危なくなったら、それは俺の作戦指示ミスだ、無料で助けてやるから安心しな」
フラビオらしく、余計な一言を添えて、四人を応援して送り出した。
四人が黙ってうなずき、キメラへと接近していく。
「最初に強化魔法、ストレングス!」
ソフィアが、アルベルトとエリアスの戦士二人に強化魔法を掛ける。そして四人でまとまって接近していく。
キメラの方も冒険者の存在に気付き、向き直ってきた。口を開いて火炎を吐いてくる。
「これは私が防御、ホーリーシールド!」
ソフィアの魔法の楯が火炎を防ぐ。
次の瞬間、戦士二人が左右に分かれ、攻撃を加えていく。
キメラはそう硬い方ではないが、それでも通常の攻撃ではなかなかダメージが入らない。前足や尻尾で反撃もしてくる。それを避けながら、戦士二人が丁寧に一撃ずつ攻撃を加えていく。
「足を止めたら牽制攻撃、アイシクルランス!」
クロエが氷の槍の魔法を放つ。キメラの顔面を直撃し、多少だがダメージを与えていた。
その攻撃を嫌がり、キメラが炎を吐こうと再び口を開く。
「ここで決める! エクスプロード!」
口を開いた時が最大の隙である。以前、フラビオも同じ手段でマンティコアを仕留めている。体内を起点に爆発の魔法を発動させるのだ。
大きな爆発が起こり、さすがにフラビオほどの威力はないが、キメラの顔面が吹き飛んでいた。大きなダメージが入った今がチャンスである。
「闘気剣!」
「闘気槍!」
戦士二人が必殺技の態勢に入った。それぞれの武器が闘気に包まれ、淡い光を放っている。
「三段斬り!」
「流星突き!」
二人の必殺技が、傷ついたキメラの体を大きく切り裂き、そして抉った。見事にその連携が決まり、キメラが地に倒れる。そして霧状になって消えていく。作戦通り、四人だけでキメラを倒すことに成功したのだった。
「やりました、フラビオさん!」
「ありがとうございました!」
「さすがですね。的確な作戦でした」
「私の魔法、役に立ってよかったです」
四人が喜びに満ちた表情で口々に言う。
フラビオも四人に喜んでもらって悪い気はしない。同じように四人を褒め返した。
「俺が出したのは口だけ。四人の連携が見事だったから、作戦通り倒せたんだよ。これはみんなの実力だ」
実際そうなのだ。四人にマスタークラスの実力があってこその作戦なのである。四人もそれを実感していた。
「クロエ、正式に俺達とパーティ組んでくれ。今の戦闘で分かった。やっぱり実力のあるメイジである、君の力が俺達には必要だ」
「同意見だ。クロエが良ければ、ぜひうちに入ってくれ」
「私からもお願いするわ。今日は試しにだったけど、キメラが倒せたのもクロエのおかげだし、いてくれないと困るわ」
そう、クロエは、今日はあくまで試しにパーティに加わっただけだったのだ。そして戦闘を通じて、このパーティなら信頼が置けるとクロエも感じ、自分が必要とされるうれしさもあって、即答を返してきた。
「私もそんな風に言ってもらえてうれしいです。私が王都にいる間は、ぜひ三人とパーティを組みたいです。だから、これからよろしくアルベルト、エリアス、ソフィア」
四人が手を重ね合って、パーティ結成を誓い合う。
「クロエ、ありがとう。よし、じゃあこれからはこの四人で頑張ろう」
「パーティの名前も考えなくちゃね」
「そうだな、何か名前があった方が締まるよな」
「ギルドに戻ったらみんなで考えようね」
フラビオはそんな四人の姿を見て、自分のことのようにうれしく感じていた。たまにはタダ働きもいいものだと、思っていたのだった。
結局フラビオは四人と一緒に冒険者ギルドに戻ってきた。
クロエ達のパーティとは別々に、フラビオも自分の稼いできた魔石を換金する。ギルドの職員はがめついフラビオを敬遠しているので、フラビオも何となく遠慮して、いつもステラのところで対応してもらっていた。
「ソロで金貨二枚ですか。相変わらずの強さですね」
金貨一枚は銀貨二十枚になる。一日でこれだけ稼げるパーティは、さすがに王都のギルドでもごく少数だろう。
「今日は地下十階まで下りたから。魔物の質も数も良かったからな」
「それより、アルベルトさんのパーティと一緒でしたけど、何かあったんですか?」
「ああ、帰りの途中で出会って。ちょっと手伝った」
あちらのパーティ四人は、魔石を換金した後も、ロビーに残って何か話をしていた。恐らく今日の出来事を振り返り、パーティの名前を一緒に考えているのだろう。あの一戦は、彼らが結束する良いきっかけとなったようだ。そこに居合わせたのも何かの縁、フラビオにとっても良い出来事だった。
「いやあ、若いっていいねえ。あんな風にすぐに打ち解けて」
「そうですね。それにしても、フラビオさんが無料で手伝うなんて、珍しいですね」
ステラがそんなことを言った。パーティの女の子達の魅力に惹かれたのではないかと、少し嫉妬心が混じっている。
「手伝ったと言っても、少し助言をしただけだよ。ちゃんと役に立って、初めてキメラを倒せたって、とても喜んでくれたよ」
なるほど、そういうことかとステラも納得した。
「そうだったんですね。やっぱりフラビオさんは優しい良い人です」
「ありがとう。素直に褒め言葉として受け取っておく」
「いえいえ。ところで、明日休みなんです。どうです、明日一日、ご一緒しませんか」
おっと、またもお誘いである。せっかくの休日なら一人でのんびりするなり、友達と遊ぶなりできるだろうに。こんなおっさん誘うとはなあ。いい娘だからご一緒するのはいいんだけど、もっと格好良い奴相手にすればいいのに、もったいないよな。フラビオはそんなことを考えた。
とは言え、無下にもできないのも確かだ。
「うーん、そうだなあ、ステラさんがわざわざ誘ってくれたんだし、ご一緒させてもらおうかな」
「やった! じゃあ、九時にギルド前で。楽しみにしてますね」
「分かった。また明日な。それじゃあ、風呂に行ってくるよ」
最近ステラがやけに積極的だな、うれしいような恥ずかしいような、そんな不思議な気分でフラビオは公衆浴場へと向かうのだった。
マスターレベルパーティの強さが描けていなかったので、キメラリベンジ戦です。レベル十三はしっかり強いのだと描けて良かったです。フラビオが無料で手伝うのもらしくないですが、たまにはこんなこともあるのです。




