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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第五十話 フラビオのごく普通の日常

「おはようございます、フラビオさん」

 フラビオが料理屋で朝食を取っていると、またステラがやってきた。彼女とは朝食が一緒になることが多い。ちょうど行動する時間が同じくらいなのである。

「おはよう、ステラさん」

 フラビオは先に朝食を食べ始めている。ステラが席に着いて、それを追うように自分も食べ始めた。

「のどかな朝だな。ステラさんも元気そうで何より」

「そう言うフラビオさんこそ。相変わらずですね」

 雑談をしながら朝食を取っていく。フラビオもステラと他愛のない話をするのは好きだった。

 やがて、二人は食事を終えてギルドに戻ると、それぞれ自室と受付へと別れる。フラビオは小休止しつつ、ダンジョンに潜る支度をする。

 しばらくして、フラビオはギルドの掲示板を見る。何か依頼があればそれを受けるし、良いのがなければソロでダンジョンに潜るのだ。

「お、またスターライトの連中か」

 マスターレベルパーティ、スターライトの四人組からフラビオを名指しで依頼があった。何でもファイアージャイアントとまた戦いたいらしい。

 フラビオがその依頼書を手に取り、受付へと向かう。

「ステラさん、この依頼なんだけど」

 いつものようにステラに聞くと、いつも通りに説明があった。

「はい、また昨日貼り出したものですね。書いてある通り、フラビオさんご指名で、また強敵と戦いたいので助言を頼みたいそうです」

「それはまた。あの連中、稼ぎは大丈夫なのかな」

 フラビオが苦笑する。手伝ってもいいが、報酬は高いのだ。

「それは承知の上みたいですよ。やっぱりこういう時、フラビオさんは頼りになりますからね」

 二人でそんな話をしていると、ちょうどそこへ依頼主のパーティ、スターライトの面々が現れた。リーダーの楯戦士アルベルト、アタッカーの戦士エリアス、ヒーラーのソフィア、メイジのクロエ、全員レベル十四である。みなまだ二十才と若い。

「フラビオさん、依頼見てくれたんですね」

 フラビオが持つ依頼書を見て、アルベルトがうれしそうな表情になる。

「この前の話ですが、またファイアージャイアントに苦戦しまして」

「フラビオさんが魔法を使ってくれた時は簡単に倒せましたけど」

「やっぱり魔法が重要なんだろうと思って、依頼を出しました」

 パーティの仲間達が言葉を補い、そう説明してくれた。

 フラビオは人の悪い顔を浮かべて答える。

「俺としては手伝ってもいいが、報酬は高いぞ」

 アルベルトがそんなことは気にせず、平然と答えた。

「それは十分承知の上です。金貨一枚と稼ぎの分け取りですよね。この先戦っていくことを考えたら、十分安い投資ですよ」

 この連中も肝が据わってきたな。フラビオは、彼らのレベルアップの手助けもした。良い素質をもつ冒険者達だと思っている。高い報酬よりも将来の戦いに目を向けているのも、大したものだと思う。

「分かった。なら、今日同行しよう」

「よろしく頼みます」

 フラビオがステラに声を掛けた。

「というわけだ。俺もこのパーティに臨時参加な。じゃあ、いってくる」

「はい、いってらっしゃい。大丈夫なのは分かってますが、お気を付けて」

 ステラに送り出され、五人はカルスのダンジョンへと向かった。


「お前さん達には荷が重いが、地下十階まで下りるぞ」

 フラビオがそう言って、パーティを先導する。ファイアージャイアントほどの強敵となると、滅多に上の階には出現しないのだ。

 ファイアージャイアントは体長四メートルを超える炎の巨人である。力も強く、岩などは簡単に割り砕くだろう。耐久力も高く、少々の傷ではびくともしない。その頑丈さに手こずりはしたが、彼らスターライトの面々も一度はフラビオの助言だけで、自力撃破している。二度目の時はフラビオが援護の魔法を放ち、その時はあっさりと撃破していた。

 地下十階に着くと、フラビオが探知魔法を使った。

「サーチ」

 魔物を感知し、種類などを確認する魔法である。強敵の反応が次々と返ってくる。その中に、目的のファイアージャイアントの反応もあった。

「他の魔物は無視だ。ファイアージャイアントだけ狙うぞ」

 フラビオが彼らを案内し、先に進む。余計な魔物を避けるため、少し回り道になった。

「よし、いたぞ。で、作戦はどうする?」

 フラビオが問いかける。

「この前、フラビオさんがブリザードの魔法で凍らせたじゃないですか。それを狙ったんですが、私の魔法ではまだ威力不足でした」

 メイジのクロエが言う。

「結局、粘り強く左足に魔法と剣の攻撃を集中して倒し、そのあと頭部に集中攻撃を加えました。私のシールドが大活躍で大変だったんです」

 そう言ったのはヒーラーのソフィアだ。

 二人の言葉を聞いて、フラビオがなるほどとうなずく。

「残念ながら、その戦い方で正解だ。魔法で一気に凍らせられるならともかく、それができないとなると、地道に足を折るのが早道だろうな」

 四人が残念そうにため息をついた。また地道に足を折る戦いをするのは、それだけ大変だったのである。

「それ以外となると、そうだな、足を手早く折るのに、アルベルトとエリアスは強化魔法と闘気剣全て注ぎ込んで威力を底上げして、なるべく大きな傷をつけるんだ。クロエは氷の槍を最初に撃ち込み、二人が攻撃する目印を付ける。それで足に傷がついたら爆発魔法を使え。戦力を惜しまず一気に押し切るんだ。長期戦覚悟で、回避優先が本来の戦い方なんだが、ソフィアのシールドをフルに使って、短時間で一気に畳み込め」

「分かりました。やってみます」

 そして四人はファイアージャイアントに向けて突撃した。

「ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

 まずはソフィアとクロエが、戦士二人に強化魔法を掛ける。

「ストレングス!」

 ソフィアが自分にも強化魔法を掛けた。これが今回の要である。

 接近したところで、ファイアージャイアントから拳が飛んできた。今回は回避でなく、防御を選ぶ。

「ホーリーシールド!」

 ソフィアの魔法の楯が強烈な拳を防ぐ。しかし、ジャイアントの拳の威力はすさまじく、ソフィアがぐっと押し込まれてしまった。ソフィアが必死にそれに耐える。

「アイシクルランス!」

 そうしてできた隙に、クロエが氷の槍の魔法を放ち、ファイアージャイアントの左足に直撃させる。軽くだが突き刺さり、わずかな傷をつけた。

「闘気剣、三段斬り!」

「闘気槍、流星突き!」

 アルベルトとエリアスがいきなり必殺技を放つ。その威力は十分で、ジャイアントの左足にそこそこ大きな傷をつけることに成功していた。

「今、エクスプロード!」

 魔法を惜しむなという教えに従い、クロエが爆発魔法を放つ。ジャイアントの左足の傷が一気に広がる。

 ファイアージャイアントの反撃が来るが、クロエは構わず次の魔法の準備をする。守りはソフィアのシールドが頼みだ。

 激しい衝撃がシールドに加わり、ソフィアが歯を食いしばって何とかそれを持ちこたえる。その隙にクロエが魔法を発動させる。

「二発目、エクスプロード!」

 再度爆発魔法が炸裂する。その威力がさらに傷を広げ、あと一歩で左足が折れるというところにまで追い込んだ。

「もう一度、三段斬り!」

「流星突き!」

 アルベルトとエリアスが再度必殺技を放つ。その攻撃により、ついにジャイアントの左足が折れた。そして地上に倒れ込んでくる。

 四人は倒れたジャイアントの頭部に回り込み、総攻撃を掛けた。

「三段斬り!」

「流星突き!」

「エクスプロード!」

 火力だけなら、以前フラビオが面倒を見た他のパーティの連中より上かもしれない。あっという間に頭部を砕き、上半身にまで傷を広げ、そして爆発魔法によって上半身を粉々にしていた。そしてファイアージャイアントが霧状になって消えていく。正に短期決戦、見事な勝利だった。

「よし、勝てたぞ! みんな無事か、異状はないか」

 アルベルトが戦闘後の確認を行う。

「俺は大丈夫。必殺技の連発がちときつかったが」

「私はちょっときついかな。あの拳、威力が凄くて。全身にまだ衝撃が残ってる。少し休憩させて」

「私は魔法連発して消費が大きかったけど、異状はなし」

 やはりソフィアの負担が大きかったようだ。本来、回避重視で戦うべき相手なのだから、当然の結果であろう。

「どうだ、手ごたえは」

 フラビオが尋ねる。作戦を指示したのはフラビオだが、それを成し遂げたのは彼らの力だ。見事な連携だと思っていた。

「やっぱり、時間がかかっても、回避重視の安全策の方がいいようですね。ソフィアの負担が大き過ぎるみたいです」

 アルベルトの答えに、クロエが続いた。

「私も魔法十発分一気に消費は、後のこと考えると厳しいですね」

「俺としては、いざという時、こうやって最大火力を一気に叩き込むやり方を実際にできて、良かったと思うけどな」

 これはエリアスだ。確かにその通りではあった。

「来た甲斐があったな。リスクを負って短期決戦か、安全優先で回避重視か、その時の状況に応じて使い分けるといい」

 フラビオがそう言ってまとめた。四人がそれにうなずく。

「さて、小休止したら上の階層に戻るぞ。俺の報酬の分、いつも通り頑張って稼いでくれよ」

「分かってますよ。とにかく、ソフィアの回復待ちだな」

「ありがとう。あと少しで普通に動けるから」


 小休止の後は、一行は地下五階にまで戻り、あまり強くない魔物を倒して回った。フラビオも適当に参戦し、効率良く倒せるように手伝った。そのおかげもあり、順調に討伐を進め、彼らは冒険者ギルドへと戻ったのだった。


 ダンジョンから戻ると大概夕方である。

 フラビオは荷物を片付け、風呂の支度をして公衆浴場へと向かう。

 オルクレイド王国では、水や薪の供給、設備の設置、沸かす手間などの都合で、風呂のある家はかなりの金持ちか貴族など身分の高い者に限られていた。普通の住人達は公衆浴場を利用するのである。冒険者ギルドにも風呂はなく、冒険者も基本公衆浴場を利用する。

「一仕事の後の風呂は、ご馳走だよなあ」

 そんなことを思いつつ、温かな湯船につかる。よほど忙しくない限りは、こうして風呂を楽しむのがフラビオの日常だった。

「いいですよね、風呂」

「俺もゆったりのんびり浸かるのは好きだなあ」

 この日はさっきまでダンジョンで同行していたアルベルトとエリアスも一緒に入っていた。

「スターライトの四人も強くなったな。あんな強引な戦い方で、ファイアージャイアントを倒せたんだから、大したものだと思うぞ」

「ありがとうございます。おかげさまで戦術の幅も増えましたし」

「フラビオさんこそさすがじゃないですか。魔物討伐の時、的確な援護の魔法がすごく助かりましたよ」

 そんな雑談をしながらのんびりと浸かる。中々に気分がいい。

 しばらくして、スターライトの二人が先に上がった。

「じゃあ、今日はありがとうございました」

「また何かあったら、その時はよろしくです」

「ああ、じゃあ、またな」

 二人と別れ、フラビオは大きく息をつく。

「こうして誰かに礼を言われるのは気分いいな。まあ、あのパーティ、気分のいい連中が揃ってるせいもあるけどな」

 そんな独り言をつぶやきながら、フラビオはのんびりと風呂を楽しんだ。


 風呂の後、部屋で小休止して、今度は夕食を取りに行く。ギルドでは食事が提供されないので、料理屋での外食になる。

 ギルドを出ようとすると、またステラから声が掛かった。

「もう少しで仕事終わるので、夕食、ご一緒しませんか」

 いいタイミングだった。食事は一人より二人の方が楽しいだろう。

「分かった。じゃあ、一緒に行こう」

「ありがとうございます。少し待ってて下さいね」

 フラビオはステラが書類などを片付けている様子を眺めた。彼女もこの仕事に就いてから七年、かなり手際のよい仕事ぶりだった。

 やがて、片付けを終え、私服に着替えたステラが出てくる。

「フラビオさん、お待たせ。今日はどこで食べますか」

 相変わらずこの女性は美しい。普通の私服姿でも華がある。こんなきれいな女性と二人で食事するなどと知られたら、うらやましがる若い連中も多いだろう。

「今日は煮込みの気分かな。シチューのうまいあの店にしよう」

「いいですね。あと一杯飲みたい気分ですね」

「そんなに仕事大変だったのか?」

 何か大変な事があって酒でも飲みたいのかと思ったらそうではなかった。

「いつも通りだったんですけど、せっかくフラビオさんが一緒だし、少しくらい飲みたい気分なんです」

「そうか。じゃあ、俺もたまには飲もうかな」

 そして二人はいつもの料理店へ。

 席に着くと、シチューとパスタをメインに、ソーセージ、ポテトなどを適当なつまみに頼む。そしてエールを一杯ずつ。

「今日もお疲れ様。乾杯」

「乾杯」

 二人で酒杯を合わせ、軽くあおる。芳香が口の中に広がり、すっきりとしたのどごしが爽やかだ。

「ふーっ、久々だとうまいなあ。一人じゃ飲んでもつまらないから、酒飲まないしな」

「私もそうですよ。フラビオさんが一緒だから、楽しく飲めるんですよ」

 そして料理が運ばれてくる。

 夕食を肴にエールを飲む。のどかな時間だった。

「今日の依頼はどうでした?」

「ああ。今日もあのスターライトの連中、見事な連携だったよ」

「フラビオさんの教え方がいいんだと思いますよ」

「自分で言うのも何だが、確かに最低限のことはちゃんと教えたな。でも、あのパーティは本当に良かった。言われたことを即座に実行できて、しかも連携も忘れない、あれは将来伸びるだろうなあ」

「そうですか。フラビオさんが有望な若手を育ててくれると、本当に助かります。安定して魔石が供給できますし。それに冒険者のみなさんが安全確実に魔物を討伐できるのは、ギルド職員にとっても喜ばしいですし」

 そんな風にダンジョンでの出来事を中心に、二人でエールを飲みながら雑談を楽しむ。

 話しているうちに気分が一層良くなり、エールのお代わりを頼む。

「この前の、カタリナ様との視察はどうでしたか?」

 ステラも実はこの件を相当気にしていた。王女も機会があるごとにフラビオを誘い、仲の良い時間を過ごしていることに、多少の焦りを感じていたのだった。

 もちろん、そんなステラの内心はフラビオには分からない。

「工房街で、かなり詳しく視察してな。仕事の一つ一つを見て回ったんだけど、驚きの連続だったよ」

「カタリナ様はどうでした?」

「立派に視察の役を果たしてたよ。工房長から聞き取りをして、作業に不具合とかがないか良く見て、ついでに俺にも工程の説明をしてくれてな。物作りの大変さをよく知っていて、順調かどうかしっかり確認してた」

 ステラが苦笑した。質問の意味が伝わっていない。返事が別の話になってしまっている。まあ、それもフラビオのいいところなので文句は言えない。

「昼食もご一緒に取ったとか。さぞいい店だったんでしょう」

「その通りだ。例の百年以上やってるっていう老舗、あそこでうまい料理を頂いてなあ。あれば驚きの味だった。俺もびっくりした」

 そういうところがフラビオのかわいいところだと、ステラは思っていた。青春時代を強くなることに費やした結果、そこで経験するいろいろなことを取りこぼし、時折少年のような感じになるのである。歴戦の冒険者の部分との落差が一つの魅力になっていた。

「お金に余裕ができたら、ぜひご一緒したいですね。その驚きの味というのを、私も経験してみたいです」

「ステラさんでもそう思うんだ。その気持ちも分かるなあ。そうだよなあ、一度は体験したい味だよなあ」

 そんな話をして、二人は楽しく飲みながら、夕食の一時を過ごした。


 夕食後、フラビオはステラを家まで送っていった。楽しい時間を一緒に過ごしてくれた礼のつもりであった。

「ありがとう、フラビオさん。では、また明日」

 ステラも心からの笑顔を浮かべていた。それだけ一緒にいる時間がうれしかったのである。

 ステラは妙齢で美しい女性だ。その笑顔はとても魅力的である。フラビオもいい物が見られたと内心で喜んでいた。

 ギルドへの帰り道、フラビオは振り返って考える。

 自分は冒険者として魔物を討伐している。同じ冒険者仲間の手助けもしている。時には街中の依頼をこなすこともある。ステラにも頼りにされている。木犀園の子供達にも慕われている。王女の指南も順調だ。人の役に立てているという実感があった。

「こんな俺でも、誰かのためになれることがうれしいんだな」

 そんな風に思いながら、やがてギルドへと帰り着く。

 そして就寝。今日もごく普通の一日だった。

「さて、明日からも頑張るか。また良いことがあるといいな」

 フラビオの話もここで完結です。全五十話、いろいろと活躍してきた高レベルメイジのフラビオです。思ったより無双しなかったのですが、しっかり他人の助けになっていましたね。ステラや王女との関係も中途半端ですが、それはこの先どうなるか、ご想像にお任せしたいと思います。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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