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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第四十六話 再戦、レッサーデーモン

 フラビオと王女、護衛の二人は、ダンジョンの地下一階で手持ちのパンを昼食に取っていた。

「そんな具合で、またレベル九のパーティの面倒を見ましてね。ジャイアントホーネット二十体にはかなり苦労していましたね」

「二十ですか。それはすごく多い数ですね。先生も手伝ったのですか」

「いえ、ここが彼らの頑張り時だろうと、見物してました。実際、彼らもよく頑張って、見事な連携で全部倒してましたよ」

「それはすごいですね。私も負けてられませんね」

 そんな雑談をしながら、のんびりと休憩をして英気を養う。

 昼食を食べ終えて、次の魔物を探すこととなった。

「では、地下二階に下りましょうか」

 フラビオがそう言った。口調は丁寧なままである。王女には距離があるように思われてしまうが、さすがに護衛の二人もいる以上、失礼な言動は取れないのだった。

 王女もそれは仕方ないと受け入れ、気にしていないように答えた。

「分かりました。参りましょう」

 王女の方こそ口調が丁寧なのだが、これは育ちから来るもので、今さら変えようがないのであった。フラビオもそれを知っているので、それについては何も言わない。

 四人は先に進み、地下二階への階段を下りる。

 そして、いつものようにフラビオが探知魔法を使う。

「サーチ」

 魔物が探知できるのは非常に大事なことだ。シーフのいないパーティだと、手探りで魔物の有無を確認することになるが、探知魔法があれば事前に魔物の存在が分かる。本職はメイジだが、戦士もシーフもヒーラーもレベルを上げたフラビオだからできる芸当である。

「ガーゴイル三体、マンティコア一体、それと、またレッサーデーモンですね。定番とは言え、レッサーデーモンにはよく出くわしますね」

 フラビオはこの前レベル九のパーティを助けて、レッサーデーモンを討伐させたばかりである。王女も以前レッサーデーモンと一対一で戦い、惜しいところまで追い詰めたが負けそうになり、フラビオの助けをもらってようやく勝ったことがあった。

「そうですか。またレッサーデーモンがいるんですね。さすがに勝つ自信はまだないですけど、また挑戦してみたいです」

「分かった。なら、また順に当たっていこう」

 こうして魔物の討伐戦は再開された。


 しばらく歩いて、最初の魔物のいる場所へとくる。

 ガーゴイルは悪魔の形をした石像である。空中から攻撃してくるのが厄介な相手だ。

 しかし、つい先程、不規則に飛び回るジャイアントバットを王女は倒している。この程度の相手は問題ないだろう。

 それでも、後にレッサーデーモンという難敵を控えているので、ここはフラビオも手を貸すべきだと考えた。

「レッサーデーモンに備えて、カタリナ様の力を温存しましょう。俺も参戦します」

「分かりました。先生にお任せします」

 そしてガーゴイル三体との戦いが始まった。

 今度はフラビオと王女の二人が魔物に接近する。ガーゴイル達が近づく人間がいることを感知し、空中に飛び上がる。

 間合いが遠いうちは二人も攻撃の備えて待機だ。

 やがて、ガーゴイルが接近してきて、鍵爪での攻撃を行ってきた。

「アイシクルランス」

 フラビオの魔法が発動した。氷の槍がカウンターとなってガーゴイルの腹部を貫く。

 それとほぼ同時に王女も魔法を発動させる。

「アイシクルランス!」

 フラビオと同様に、氷の槍がガーゴイルの腹を貫く。

 攻撃が失敗して、再び空中に逃げようとしたガーゴイルの一体に、フラビオが追撃の魔法を放つ。

「アイシクルランス」

 今度は背中側から氷の槍がガーゴイルを貫いていた。

 ほんの三十数秒ほどの出来事だった。三体のガーゴイルがあっという間に倒され、地に落ちて霧状になって消えていった。

「さすが先生、あっという間でしたね。これで魔法が残り三十一回、異状はなしと。護衛二人も無事。先生の方も大丈夫ですね」

「もちろんだ。初級魔法二発くらい、減った内にも入らない」

 平然としているフラビオを見て、王女が疑問を差し挟んだ。

「そう言えば、先生は魔法何回くらい撃てるんですか」

「三百二十回くらいです。こればかりはレベルがものを言う世界なので、無理して追い付こうなんて考えないで下さい」

「三百二十……」

 王女が絶句した。とても想像できない回数だった。王国最強の噂はやはり本当だったのだと強く思った。

「それでは次に参りましょうか」

「はい。マンティコアでしたね」

 そして一行は次の魔物がいる場所へと向かった。


 マンティコアは人間のような顔をした、胴体が獅子の魔物で、尻尾には毒針がついている。大きさは三メートルとそれほどでもないが、人間に比べれば十分に大きい。

「ここはカタリナ様にお任せします。大丈夫だと思いますが、万一何かあればお助けしますのでご安心下さい」

 フラビオは王女が勝つことを疑っていなかった。

 王女もその期待に応えるべく、気合を入れた。

「分かりました。お任せ下さい」

 そして王女は一人で魔物に接近していく。

 繰り返しになるが、魔物には知性はないはずである。それでも近づいてくる人間を感知し、攻撃の態勢を取っていた。魔法で生み出されたはずの存在だが、案外簡単なことなら考えられるのかもしれない。

 王女にはそんな余計なことを考える余裕があった。

 マンティコアが火球を放ってきた。ファイアボールの魔法である。高熱の火の玉が三発ほど王女に迫ってきた。

 王女はそれを落ち着いて避ける。回避には磨きをかけてきたので、三発程度の魔法は余裕でかわすことができる。

 至近距離に迫って、今度はマンティコアから前足の攻撃が来た。殴り掛かってきたその足も、よく見て、すっと流れるように避ける。

 そしてその足が引っ込む直前、王女はマンティコアの顔面目掛けて魔法を発動させた。

「エクスプロード!」

 爆発の魔法である。その爆発の威力が一瞬でマンティコアの顔面を吹き飛ばし、体の前半部分まで砕いていた。至近距離からの痛烈な一撃は、マンティコアをそれだけで倒し切る力があったのだ。そしてマンティコアが霧状になって消えていく。

「先生と護衛も無事、私は魔法が残り二十八回、異状なし」

 確認作業を終えると、王女がうれしそうにフラビオに話し掛ける。

「以前、先生が見せてくれたのと同じ方法で、無事に勝てました。しっかり回避もしましたし、一撃必殺もできました。先生の見本が良かったからですね。自分でもうまくいったと思います」

 フラビオも王女の言葉に答える。

「お見事でした。確かに以前俺が倒したのと、全く同じ方法でしたね。至近距離から爆発魔法を直撃、一番手っ取り早い方法です。よくここまでできるようになりましたね。さすがです、カタリナ様」

 先生と慕う相手から褒められて、王女が素直に喜ぶ。

「ありがとうございます。うれしいです」

 ここまでは順調だった。問題は次である。

「カタリナ様、本当に次も戦うんですか」

 フラビオが念のため聞いてみた。

 王女は表情を引き締めると、覚悟の決まった様子で答えた。

「もちろんです。また先生の助けが必要になるかもしれませんが、できるだけ一人で頑張ってみたいです」

 強敵だと分かっていても臆することはなかった。自分の実力を試してみたくて仕方ない感じだった。いざとなればフラビオが助けてくれるという安心感も大きい。

「分かりました。では、次に行きましょう」

「はい。頑張ります」

 そして一行は次の場所へと歩き始めた。


 しばらく歩いて、開けた場所に一体の魔物がいるのを見つけた。レッサーデーモンに間違いなかった。三メートル半近い体長、悪魔であることを表す角の生えた頭部に赤っぽい色の体表。遠距離からの魔法を無効化する能力をもっている。メイジには天敵である。ついこの前、フラビオの助言を受けてレベル九のパーティが討伐に成功している。だから、レベル十の王女一人でも、わずかだが勝ち目もあるはずだった。

「では先生、行きます」

「はい。頑張って下さいね」

 またもや王女が一人で接近していく。フラビオは護衛二人に後方で待機するように声を掛けると、その後を追って前に出た。いざという時、援護に入るためである。

 レッサーデーモンがじろりと王女をにらんだ。そんな風に見えた。

 次の瞬間、三発ほど火球が飛んできた。ファイアボールの魔法である。レッサーデーモンも魔法が使えるのである。

 王女が右に左にと、軽く動いてその火球を避ける。

 続いて王女の足元に炎の輪が生じた。危険を察知して、王女が大きくその炎をかわす。すると先程王女がいた場所に炎の柱が発生した。フレイムピラーの魔法である。避けなければ、一瞬で黒焦げである。

 恐ろしい攻撃だが、王女は焦らず間合いを詰めていった。

 すると今度は拳が飛んできた。レッサーデーモンの巨体から繰り出される拳は威力も速度も凄まじい。当たれば一発で吹き飛ばされてしまう。

 王女はそれも良く見切って、丁寧に回避した。

 そして反撃の魔法を発動させる。

「狙いは左足。ファイアボール!」

 至近距離で火球が放たれる。威力は多少減衰したものの、さすがにレジストしきれず、レッサーデーモンに魔法が直撃する。

 間髪を入れず、王女が追撃を放つ。

「アイシクルランス」

 氷の槍が火球と同じ場所に直撃する。ゴーレムなどを倒す時と同じように、温度差によって命中した場所を脆くするのである。その狙いは的中し、多少はレジストされたものの、左足の一部が変色して脆くなっていた。

 そのわずかな隙にデーモンが反撃の拳を放ってきた。それをしっかりと見切り、王女がそれを避ける。

「ここがチャンス! エクスプロード!」

 王女は前回、フラビオが左足を爆発魔法でへし折ったのを覚えていた。自分の魔法の威力でそれを実現するにはどうすればいいのか、いろいろと考えていたのである。初めからこれを狙っての魔法だった。

 爆発の魔法が変色して脆くなったデーモンの左足を直撃した。その威力は足をへし折るのに十分だった。デーモンが左足を失い、バランスを崩して地上へと倒れ込む。

 すかさず王女はデーモンの頭部へと回り込む。

 しかし、地上に倒れながらも、レッサーデーモンは魔法で反撃してきた。炎の柱が再び吹き出してくる。

「それはもう見切りました」

 王女が冷静にその魔法を避ける。炎の柱が空振りし、何もない空間を焼き払った。

「これでとどめ! エクスプロード!」

 二度目の爆発が起こった。その威力はデーモンの頭を吹き飛ばし、上半身の一部まで砕いていた。さすがのデーモンも体の半分近くを失っては終わりである。霧状になって消えていった。

「ついに勝った!」

 王女が額の汗を手の甲でぬぐった。冷静に行動はしていたが、やはりデーモンの一撃は恐ろしい。その恐怖に耐えての見事な回避だったが、それでも紙一重なのも確かだったからだ。

「先生と護衛は無事、私は魔法が残り二十回、異状なし」

 確認を終えると、ふうと大きな息をついた。

 フラビオと護衛二人が王女の元へとやってくる。

「やりましたね。ついにレッサーデーモンまで倒すとは、本当にお見事でした。頑張りましたね」

 フラビオもうれしそうな表情を浮かべて王女を褒めた。本来は中級者がパーティを組んで戦う相手なのである。メイジでレベル十の王女が単独撃破したのは、かなりの快挙なのだった。

「はい、やりました。でもやはり強敵の重圧が凄くて。短い時間でしたが、すごく疲れました」

 王女も笑みを浮かべて答える。今日はジャイアントスパイダーも倒せている。レッサーデーモンも独力で撃破できた。これ以上ない成果を上げられていて、内心喜びで一杯なのだった。

 フラビオも喜んでいるのは同じだった。本当に良い弟子に恵まれたものだと思う。見事な成長が見られて良かったと思っていた。

「では、ここで小休止を取りましょう。いや、本当に素晴らしかった。カタリナ様の成長、しかと見届けましたよ」

「ありがとうございます。少し休ませてもらいますね」

 王女達はそこに座り込むと、休憩を取ったのだった。


「しかし、見事な戦いぶりでした。あのファイアボール、アイシクルランス、エクスプロードの連発は、初めから狙っていたんですか」

 一休みしながら、フラビオが王女に問いかけていた。それだけ弟子の勝利がうれしかったのである。

「はい。以前先生が左足を爆発魔法で吹き飛ばしたのを見てましたから、それと同じことができないか、いろいろ考えていたんですよ」

「なるほど。良い戦術でしたね」

 フラビオが感心する。公務の合間を縫って考えていたのだろう。それだけ強くなりたいという気持ちが本物だという証拠だ。そして実際にそれを成し遂げる行動力。本当に見事だと思っていた。

「あ、そうでした。こういうこともあろうかと飴玉を用意してあります。少しは疲れが取れると思います。お一つどうぞ。護衛のお二人も」

 フラビオがそう言って飴玉を取り出した。護衛にも渡したのは、毒見の必要があると思ったからだ。護衛の二人が軽く頭を下げ、さっと口に入れた。即座に毒見をする辺りがさすがだと言える。

 王女が少し驚いた顔をして、それからにっこりと笑った。気が利く人だとは思っていたが、飴玉まで用意してあることに驚き、そして細やかな配慮がうれしくなったのだ。

「ありがたく頂きます」

 王女が飴玉を受け取って口の中に入れる。

「当たり前ですけど、甘くておいしいですね。先生はいつもこうやって飴玉を持ち歩いているんですか」

 何気なく王女がそう尋ねると、フラビオが生真面目な顔で答えた。

「ダンジョンじゃ気軽に食事できないですからね。ちょっと疲れたなと思った時に便利なので、基本いつも持ち歩いてるんですよ」

「なるほど。さすがは先生ですね。ご配慮、ありがとうございます」

 そして飴玉をなめながら、別の話を切り出した。

「話は変わりますが、明日なんですけど、お時間頂けませんか」

 急に話が変わり、フラビオが少し驚く。しかも時間を頂くとは、まさか王宮に呼ばれたりするのだろうか。身分の高い人々の中に行くのはかなり嫌だなあと思いつつ、一応用件を聞いてみる。

「冒険者ですから時間は自由に使えますので、時間を取ることはできますが、一体どんな用件なのですか」

「またいつものように王都の街中の視察です。明日は丸一日かけての視察で、昼食も街中で取ります。なので、もし良かったら、先生にもそれに同行して頂きたいと思いまして」

 フラビオが少し渋い顔をした。

「カタリナ様、それ、視察なんですか、本当に」

「え、ええ。もちろん視察ですよ。公務です、公務」

 フラビオがじーっと王女を見据える。王女は目をそらさず、涼しい顔で軽く笑みを浮かべていた。その態度を見て、これは明らかに視察という大義名分を得て、気分転換に出かけるつもりなのだろうとフラビオは察したが、口に出しては何も言わなかった。もちろん王族だから、きちんと視察の仕事はこなすのだろうが。

「どうでしょう、私がレッサーデーモンを討伐した褒美だと思って、ご一緒して頂けませんか」

 そうきたか。中々断りにくい口実を考えつくものだ。

「そうですか。褒美ですか。そうですか」

 またステラさんに何か言われそうだなあと思いつつ、ここで断れないのがフラビオである。

「分かりました。ご一緒しましょう」

「やった! うれしいです! ありがとうございます!」

 王女がうれしそうに両手を上げ、そして頭を下げてきた。美貌の王女なのだが、こういうところは年齢相応のかわいらしさがある。

「では、九時に冒険者ギルドまで迎えに行きます。護衛も二名付きますが、気にせず楽しく視察して回りましょう」

 あ、楽しくって言ったな。結局、嘘をつき切れない王女なのだった。フラビオが苦笑する。

「九時にギルドですね。了解です。では、あともう一、二戦して引き上げましょうか」

「はい。分かりました」

 一休みしたところで、王女の討伐が再開された。

 その後は、ガーゴイル三体とロックゴーレム一体と戦い、王女が単独で見事にそれらを撃破していた。

 そしてダンジョンから出ると、いつものように王族専用の馬車が待っていた。護衛の騎士達もほっと一息ついていた。

「では先生、また明日よろしくお願いします」

「ああ、分かった。また明日な」

 いつものように出口で別れる。今回は明日の予約付きだった。

「まあ、たまには街巡りもいいだろう。でも一人じゃつまらないし、これは誘ってくれたカタリナ様に感謝かな」

 そう思いつつ、フラビオもギルドへの帰り道についたのだった。

 王女大活躍編です。レベル九パーティの時もそうでしたが、中級者にとってレッサーデーモンが一つの大きな壁なのです。今回、見事にそれを単独撃破するところを描きました。王女が翌日の予約をするのですが、これは以前から彼女が望んでいたことなのです。

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