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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第四十一話 パーティの仲間は物じゃない

 朝、フラビオがいつものように冒険者ギルドのロビーに下りてくると、いつもの受付にステラがいない。珍しいこともあるものだと思いつつ、周囲を見渡すと、ステラが困ったように立っているのが見えた。その周囲には七人の冒険者が集まっていて、何やら不穏な雰囲気で話をしている。

 そのうち四人は見知った顔だった。例のスターライトという名前のパーティで、戦士アルベルト、戦士エリアス、ヒーラーソフィア、メイジクロエの四人組である。この前レベルアップを果たしたばかりだ。フラビオもそれに一役買っている。

 残る三人はみな男で、顔に見覚えのない連中ばかりだった。ここにいるからには冒険者のはずだが、長く居着いているフラビオでさえ知らないのだから、最近王都に出てきたばかりなのだろう。

 その三人とスターライトの四人が何か揉めていて、ステラはそれに立ち会っているようだ。ギルド職員とは言え、冒険者の揉め事の仲裁も大変だと思う。仲の良いステラをさすがに放っては置けず、助けになろうとフラビオは近づいていった。

「だから何度も言っているでしょう。パーティの仲間は物じゃないんだ。貸すことなんてできません」

「俺達だって困っているんだ。うちのメイジが、王都には行かない、故郷に帰るってパーティを抜けちまったんだ。これじゃあダンジョンに潜れない。だから、そっちのメイジを貸してくれって頼んでるんじゃないか。同じレベルのよしみで、融通してくれてもいいだろう」

 漏れ聞こえてきた話を聞くと、三人組の冒険者はパーティを組んでいるが、メイジが抜けて困っているらしい。それでスターライトのメイジ、クロエを貸して欲しいと頼んだようだ。

 双方がにらみ合いを続けているところに、ひょっこりフラビオが顔を出した。そしてステラに声を掛ける。

「よお、ステラさん。何か困ったことになってるみたいだな」

「あ、フラビオさん、ちょうどいいところに」

 強力な助っ人の登場にステラの表情が明るくなった。

「今ちょっと揉めてまして」

「ああ。話は何となく分かった」

 すると、横から割り込んできたことが気に入らなかったのだろう。三人組の一人が文句を言ってきた。

「何だよ、おっさん。大事な話をしてるんだ。邪魔をするな」

 フラビオはそれを聞いても穏やかに答えた。

「まあ、そう言うな。メイジが必要なんだろ。俺が入ってやってもいいぞ」

「おっさん、メイジなのかよ」

 三人組は間違いなく、ここ最近王都に来たばかりのようだ。このギルドでフラビオの顔を知らない冒険者はいない。

「何だよ、あんたらフラビオさんを知らないのか」

「来たばかりじゃ仕方ないかもね。この人、王都で最強のメイジなのよ」

「俺達も何度助けられたことか」

「カルスのダンジョンで、どんな魔物にも勝てるほど強いの」

 スターライトの面々が、フラビオに代わって紹介をしてくれた。

「改めて名乗っておこうか。俺はフラビオ、聞いての通りメイジだ」

 三人組が顔を見合わせた。フリーのメイジ、それも相当の強者がいるならそれでもいいかという気になったようだ。

「他のパーティからメンバーを借りるのは、完全なマナー違反だ。借りるならパーティ全員に依頼を出して、報酬も全員分支払うべきだろう」

 フラビオがここでビシッと正論を言った。メイジを貸せなど、話がひどすぎる。それこそ仲間は物ではないのだから。

「そうですね。すみません。俺達も焦ってしまって」

「分かってくれればいい。ほら、ギルド職員の人も困っていただろう。人を困らせるのは冒険者としてみっともないぞ」

「そうですね。ご迷惑をおかけしました。そちらのパーティのみなさんも、無理を言ってすみませんでした」

 フラビオの言葉で、どうやら一段落着いたようだった。スターライトの面々が話は終わったとばかりに離れていく。ステラだけは、この後の交渉がどうなるかを見届けるために残っていた。

 しかし、話は穏便に済まなかった。もちろん報酬の件である。

「ただし、俺は高いぞ。報酬は金貨一枚と、稼ぎの山分けだ」

「金貨一枚!」

 三人組が驚いていた。弱い魔物だと二十体倒す必要がある。

「そんなに高いのかよ。おっさん、本当に強いのか」

「まあ、試してみれば分かる。それで、どうする? 無理にメイジがいなくても、浅い階層で弱い魔物を倒すという手もあるぞ」

 三人がひそひそと相談を始めた。報酬は高額だが、安全を考えたら頼んだ方がいいという意見と、弱い魔物を狩って日銭を稼げばいいという意見に分かれていたようだ。

 しかし、しばらくして意見はまとまった。

「やっぱり、本格的にカルスのダンジョンを探索したいので、同行をお願いします」

 彼らが王都に来た目的はやはりそれだった。

「いいだろう。必要な分は稼げば済むだけの話だ。よろしく頼む」

 三人組の男達が姿勢を正して、改めて名乗った。

「こちらこそよろしくお願いします。俺はリーダーのアルド、レベル十四の戦士で、アタッカーです」

「モレノです。レベル十四のシーフで、同じくアタッカーです」

「サンドロです。同じくレベル十四のヒーラーです」

 フラビオは三人とそれぞれ握手を交わすと、ステラに言った。

「これで一件落着だな。ステラさん、ご苦労様でした」

「いえ、フラビオさん。助かりましたよ。では、私はこれで」

 そう言うとステラは立ち去っていった。

「じゃあ、俺達もダンジョンに行こうか。準備を済ませて、もう一度ここに集合だ」

「はい、分かりました」


 ダンジョンに行く途中で話を聞くと、三人はこれまで王国の北の外れにあるトレンティという場所にあるダンジョンで魔物討伐を行っていたそうだ。しかし、やはり一度は王都近くにある、このカルスのダンジョンに挑戦したいと切望していて、今回思い切って王都に出てきたのだという。ただ、そのせいで仲間が一人離脱することになってしまったのだが。

「そうか。自力でレベル十四まで鍛えたんだから、大したもんだな」

「ありがとうございます。俺達もかなり粘り強く戦いましたから。努力が実って良かったと思っています」

 そうやって聞くといい話ではある。しかし、せっかくここまで成長できたというのに、メイジはなぜパーティを抜けてしまったのだろう。

 気にしても仕方がないので、フラビオもそこは聞かないことにした。

「ようやく到着だ。ここがカルスのダンジョンだ」

 道をだどった先に小高い丘があった。その麓に入り口が大きく開かれている。誰かが造った人工の入り口である。オルクレイド王国建国以前から存在していて、何者が造ったのかは謎のままである。

 一行は、シーフのモレノを先頭に、案内役のフラビオ、戦士のアルド、ヒーラーのサンドロの順に進んでいった。壁面は不思議な材質でできており、発光しているので松明などの必要がない。ダンジョンが人工物の証拠なのだが、その素材が何なのかは明らかになっていない。

 そして一行は地下一階へと入る。

「探知魔法を使います。サーチ」

 そこでシーフのモレノが、魔物の存在を確認するために魔法を使った。

「ジャイアントスネーク三体、リザードマン三体、ゴーレム一体。近くにいるのはそんなところです」

 フラビオはそれを聞いて、問い返した。

「で、どうする、戦うのか」

「そうですね。せっかくの初のダンジョンですから、軽く戦っておきたいですね」

 リーダーのアルドが事も無げに答える。まあ、中級者でも十分倒せる相手ばかりだ。レベルが十四もあれば、何の問題もないだろう。

「分かった。じゃあ、行こうか」

 四人は魔物のいる場所へと進んでいった。


 最初はジャイアントスネーク三体である。この前、王女が見事に一撃で倒していたのを、フラビオは思い出した。それより強い彼らは、どんな戦い方をするのだろうか。

「一体は俺が片付ける。後は任せるぞ」

「分かりました。お任せ下さい」

 いよいよ交戦開始である。

「アイシクルランス」

 まだ距離もあるうちから、フラビオが魔法を放った。氷の槍が一体のジャイアントスネークの口に突き刺さる。フラビオの魔法の威力は非常に高い。ごく簡単に一体のスネークを倒していた。

 霧状になって一体が消えたのを見て、アルドとモレノが勢いづいて突進していく。

「一人一体だ。やるぞ」

「了解」

 アルドが一体、モレノが一体、相手をするようだった。強化魔法はなく、ヒーラーのサンドロは待機である。

 アルドが一体のスネークに斬りかかる。上段からの斬り下ろしが見事に決まり、スネークの体に大きな傷をつけた。

 そして、スネークが反撃の噛みつきをしてきたのを、アルドはきれいに避けた。アルドはすかさず反撃の斬撃を繰り出し、またも体の一部を斬り裂いていた。

 しかし、フラビオが首を傾げた。彼のレベルなら一刀両断にできたはずなのではと思ったのだ。

 モレノの方も似たようなものだった。斬撃を加えて傷を与えては回避し、避けたついでとばかりに反撃を加える。こちらも良く戦っているが、実力通りには見えない。中級者並と言われても仕方がない。

 それでも強さは二人の方が数段上で、しばらくして二体のスネークが霧状になって消えていった。

「どうです、フラビオさん。しっかり倒しましたよ」

 そう自慢げにアルドが言ってきた。

 フラビオは疑問をそのままぶつけた。

「悪くはないが、手を抜いていたのか」

「まさか。普通に戦ってましたよ」

「一撃で倒さなかったのには、何か理由があるのか」

「一撃で、ですか。強化魔法なしではちょっと厳しいですね」

 その返答を聞いて、フラビオは驚いた。レベル十四のアタッカーがジャイアントスネークを一撃で倒せないなど、いくらなんでも弱すぎると思ったのである。

「そうなのか。それは困ったことだな」

「そうですか? ちゃんと倒せてますけど」

「それは分かってる。次の戦いを見てから言わせてもらおうか」

 フラビオはそれだけ言うと、眉をひそめたのだった。


 先に進むと、今度はリザードマンが三体がいた。モレノの探知魔法の通りである。

「また俺が一体倒すから、後は任せる」

 フラビオが指示を出す。残る三人が威勢よく返答した。

「了解!」

 そしてまたフラビオが先手で魔法を放つ。

「アイシクルランス」

 氷の槍が勢いよく飛んでいき、一体のリザードマンの腹部を貫いた。これもまた一撃で倒し切り、リザードマンが霧状になって消えていく。

「ストレングス!」

 今度はサンドロが強化魔法を二人に掛けた。身体能力を向上させる魔法である。さっきフラビオに一撃でと言われたのを気にしていたのだ。

「助かる。じゃあ、いくぞ」

「一人一体だな。任せとけ」

 アルドとモレノがそれぞれの相手に向かっていく。

 強化魔法の恩恵で、二人の動きは先程よりはるかに良い。

 アルドがリザードマンに斬撃を加える。大きな傷をつけ、相手を怯ませる。追撃しようとして、尻尾の反撃が飛んできたのを余裕をもって避け、間合いを外す。そして再度踏み込み、また斬撃を加える。

 モレノも同じように、丁寧な斬撃でリザードマンの傷を増やしていく。反撃を受けることなく、綺麗に回避していた。そして繰り返しの攻撃によって、リザードマンの体を傷だらけにしていく。

 しかし、やはりリザードマンを一撃で倒すには至らなかった。斬撃は綺麗に入っているが、やはり威力が十分ではないのである。それでも安定した戦いで、二人は見事にリザードマンを倒し切っていた。魔石を残し、リザードマンが霧状になって消えていく。

「やっぱりだ。この連中、レベルの割に弱い」

 フラビオがそう結論付けていた。レベル十一か十二相当と見て間違いなさそうだ。彼らが鍛えていたというトレンティのダンジョンには、それほどの強敵が出ないのだろう。一撃の重要性を身に染みて理解できていないのだ。だから、強くない魔物にも時間がかかる。それでも数多くの魔物を倒し、経験を積んだからレベル十四にまで到達できたのだろう。

 フラビオは渋い表情で三人を見た。

「こんなことを言うとショックを受けるかもしれないが、この際だからはっきり言っておく。お前達三人は、残念ながらレベルの割に弱い。普通の相手なら大丈夫だと思うが、強敵と戦うのはまだ厳しいだろう」

 はっきりとそう宣告した。

 アルド達が憤然と言い返した。

「そんなことはありません。俺達は十分以上に経験を積んできました。だからレベル十四にまで上がることができたんです」

「そうです。今だって、しっかりリザードマンを倒したじゃありませんか」

「そこまで言う根拠は何なのですか」

 まあ腹を立てるのも無理はないかとフラビオは思った。しかし、これは間違いない事実である。なので、厳しく言い渡す。

「攻撃力が明らかに足りない。ジャイアントスネークもリザードマンも、マスターレベルのアタッカーなら一撃で倒せるはずだ。手数を掛けてようやく倒せる程度なら、中級者並と言われても仕方ないところだ」

 アルドもモレノもそう言われてはさすがに言い返せなかった。代わりにサンドロが口を開いた。

「ではフラビオさん、私達は戦力不足だと言われるのですか。今までも、トレンティのダンジョンで負けることなく、全ての魔物を倒してきました。それでは不十分だと言われるのですね」

 不服そうだが、それでも忠告を受け入れるような姿勢だった。

 冒険者は無事が何より重要視される。例え勝ってもぼろぼろになったら、次の戦いには勝てない。常に勝ち続けることが要求される。だからこそ、彼らも今まで戦い抜いてこられたのだし、今後戦い抜くためには欠点を補う必要があるのも事実だ。

「もしかすると実力は足りているのかもしれない。回避はもちろん重要だが、それを維持した上で、一撃の威力を増すようにすれば、もっと効率よく戦えるかもしれない。威力にこだわるのには理由がある。ここカルスのダンジョンでは、頑丈な魔物が多いからなんだ。強力な攻撃が要求される場面が多いんだよ」

 丁寧な説得で、アルドもモレノもサンドロも納得したようだった。

「そう言えば、ここは王国で最難関のダンジョンでしたね。俺達、だからこそ挑戦しに来たということを忘れていたようです。強力な攻撃が必要なことは理解しました。次から気を付けてみます」

「俺も手数で補えばいいと考えていましたが、強敵相手なら、威力も確かに重要ですよね。良く分かりました」

「では、次の魔物では、威力に気を付けて戦うようにしましょう。私も強化魔法を惜しみません」

 分かってもらえて何よりだ。フラビオも安心し、モレノに尋ねた。

「次はゴーレムと言ってたな。何のゴーレムだ」

「すみません、確認しませんでした。たぶんロックゴーレムかと」

「まあ、いい。行けば分かるか」

 そして彼らは次の魔物のところへと向かった。


「おい、アイアンゴーレムだぞ」

 フラビオがその魔物を見て、他の三人に声を掛けた。少し黒みがかった色の金属の体。その素材はアイアンと呼ばれているが、決して鉄ではなく、素性の分からない金属でできている。人型で、大きさは三メートル半くらい。普通ならそれほど難易度は高くない相手なのだが、このパーティではやはり不安がある。

「倒し方は知ってるか。魔法なしでは歯が立たないぞ」

「初めての相手ですが、温度差で砕くことは知ってます。なのでフラビオさん、頼みます」

 さすがにその程度は知っているようだった。パーティを抜けたというもう一人のメイジは、それなりに優秀だったのだろう。

「分かっているならいい。俺が胴体に魔法を撃ち込む。そこを狙え」

「了解です」

 フラビオ達がゴーレムにある程度接近する。ゴーレムがそれを感知して向かってきた。知能などあるはずもないが、動く相手を反射的に敵だと認定したような動きだった。

「ファイアボール」

 フラビオが一発目の魔法を放つ。拳大の火球がまっすぐに飛んでいき、ゴーレムの胴体を焼く。さすがにフラビオの魔法はかなりの高温で、わずかに表面が溶け出すほどだった。

 続けざまにフラビオは魔法を放つ。

「アイシクルランス」

 氷の槍が火球の当たった場所に直撃する。温度差により命中した箇所がわずかに砕け、その周辺が脆くなって変色していた。

「では、私も。ストレングス!」

 サンドロが強化魔法を二人に掛ける。これで準備は良いはずだ。

「助かる! よし、いくぞ!」

 アルドとモレノが勢いよく突撃し、変色した場所に斬撃を繰り出す。

 高らかな金属音がして、ゴーレムの体の一部が砕け、破片となって飛び散った。しかし、砕けた部分はそう大きくはなく、ゴーレムは平然と反撃の拳を繰り出してきた。

「くそっ、威力不足って、こういうことだったのか」

 二人は必死でゴーレムの攻撃を回避する。自分達の弱点をはっきりと知ったことで、二人にも焦りが生まれていたのだった。

 新規パーティの登場です。マスターレベルパーティなのですが、またもやメイジがいない編成になっています。そこでフラビオがまた助っ人になるのですが、パーティに重大な欠陥があったわけです。最初の回でも登場したアイアンゴーレム、別の意味で活躍してます。

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