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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十八話 商人の護衛の帰り道

「フラビオさんはお好きな料理とかありますか」

「俺は無骨者なんでね。おいしければ何でも食べますよ」

「そうですか。なら、私の自慢の料理、一度は食べて欲しいです。これでも料理には自信があるんですよ」

「それはすごい。商売の手伝いだけじゃなくて、料理とかも相当努力したんですね」

「褒めて頂いてありがとうございます」

 二人はそんな雑談をしながら馬車を進めていく。

 ナタリーは相当フラビオが気に入ったようで、長い時間、話が尽きることはなかった。それほど話し上手ではないフラビオも、それにつられていつの間にかたくさん話をしていた。

 そのせいか、二時間ほどがあっという間に過ぎた。民家が増えていき、王都の隣町サルトルの中にいつの間にか入っていた。

「ごめんなさい。ずっと私が話してばかりで」

「いや、楽しかった。むしろ暇にならなくて良かったよ」

「そう言ってくれると助かります。それじゃあ、ここからが仕事です」

 ナタリーが馬車を市街地へと乗り入れる。

 そして商店街へとやってきた。王都の商店街に比べ、はるかにこじんまりとしているが、それでも四十軒ほどは店があるだろうか。

 まずは道具屋へ。そこで荷を下ろし、代金を受け取る。次に陶器店。その次は服屋、雑貨屋といった具合に、次々と店を巡っては品物を納めていく。かなり大量の商品を売って回ったので、収入もかなりの額に上ったはずだ。

 品物を売り捌いた後は、空荷で帰っては損なので、王都で売りさばく商品を仕入れる。王都のような都会では、やはり食料品の需要が高いので、それらを仕入れていく。

 まずは青果市場へ。そこで野菜類を大量に購入する。穀物市場では小麦や大麦を仕入れる。それから食肉市場にも寄り、加工肉を仕入れる。結局帰りもまた荷台が満載になった。

 そしてパン屋で遅い昼食を仕入れ、馬車を街の外へと進ませる。

 そして川縁に馬車を停めると、ナタリーが馬を馬車から外して、水を飲ませ、近場の草を食べさせた。馬にも休憩が必要なのである。彼女は馬の扱いにも良く慣れていて、とても手際が良かった。馬の方も彼女に良くなついていて、良く指示に従っていた。馬と人との信頼関係がそこにあって、それを見ていたフラビオが思わず和んだほどだった。

 もちろん、人間も昼食休憩である。先程買い出したパンを二人で分け合って食べる。

「フラビオさん、こんな昼食でごめんなさいね。馬を休ませる都合で、人間は料理屋に入ってる暇がないので」

「いや、俺も普段はダンジョンの中で、パンを一人でかじっているから、こういうことには慣れている」

 ナタリーがほっとした。改めてフラビオは、親切ないい人だと思ったようだった。

「こんないい人に護衛してもらえて、とても幸運です」

 そう言うとうれしそうにパンをかじる。本気で言っているのが分かるので、フラビオとしてもありがたい限りである。

「そいつは良かった。俺もナタリーと馬車の旅ができて良かったよ」

「フラビオさんは褒め上手ですね。うれしいです」

 しばらく二人は川面を眺めながら昼食を取った。近くでは馬が草を食べている。何とものどかな光景だった。

「パン屋はどの町でもそれなりにうまいな。いつもは王都の冒険者ギルド近くのパン屋を使ってるんだが、そこのパンに味では負けてないな」

「確かにそうですね。うちの近所のパン屋もおいしいですよ」

「なるほど。どこの店でも頑張って作ってるってことだな」

「そうですね。それが商売ですものね」

 そして二人はほぼ同時に食べ終わり、少し食休みを取る。

 小休止した後は、また王都に向けて出発である。


 帰り道でもナタリーの話は続いた。

「うちの店、父の名がついているでしょう。父がよそで働いてお金を貯めて、自前の馬車を購入して店を開いたんですよ」

「そうか。ナタリーのお父さんも頑張ったんだな」

 フラビオが相槌を打つ。他人の苦労話でも聞くのは嫌いではなかった。

「馬車もかなり値が張りますからね。それが買えるまで頑張って稼いだわけですから、相当な苦労があったみたいです。家ではたまに当時の苦労話を聞かされることもありますね。あの頃は店の誰よりも先に動いて、率先して働いていたんだ、とかそんな話ですね」

「なるほど。働き者のいいお父さんなんだな」

「ありがとうございます。フラビオさんは話を聞くのも上手ですね」

 ナタリーがそう言って褒めてくれた。

 普段ダンジョンで独り身のフラビオにとっては、こうして旅の相棒の話を聞くだけでも十分に楽しかった。それに商人の苦労話は、冒険者しか経験のないフラビオには新鮮な話だった。

「ナタリーの話は面白いよ。それで、お父さんのサルジオさんは、この馬車を買うまで、相当苦労して働いたんだろうな」

「そうなんです。馬車も相当な値段がしますから、たくさん仕事をして、節約もして、一生懸命にお金を蓄えたそうですよ」

「やっぱり、雇われて働くより、こうやって自分で交易して、売ったり買ったりした方が儲かるのかな」

「もちろんそうです。今回、道具や被服などをサルトルの町で売った分に加えて、食料品を王都で売り捌けば、粗利で金貨十枚くらいにはなります」

「なるほどねえ。それは確かに額が大きいな」

「とは言っても、馬車の維持費や店の消耗品、父母や私の生活費なんかもありますから、実際の利益はもっと少ないです。それなので、護衛の報酬も少ない訳です。申し訳なく思いますけど」

「護衛は俺がやりたくてやってるんだから、それは気にしなくていい」

「ありがとうございます。おかげで無事にこうして交易ができました。やっぱり私一人じゃ不安でしたから、とても助かりました。今後も何かの機会にご一緒できるとうれしいですね」

 そんな風に、帰りの馬車でも話は弾んでいた。


 そうして二時間ほど馬車に揺られて、行きに強盗が現れた場所の近くまで戻ってきた。

 すると、拘束して並べておいたはずの男達がいない。

「おかしいな。確かこの辺に転がしといたはずなんだが」

「ええ、そうでしたね。フラビオさんが拘束して、並べていましたよね」

 馬車を停めて周囲を探ると、近くに切られた縄が落ちている。

「ちょっと甘く見てたかな。刃物で拘束を解いたらしい」

「それでそのまま逃げ去ったのでしょうか」

「いや、そうじゃないらしいな」

 フラビオがそう言ったとたん、街道の外から五人の男が現れた。行きにフラビオに倒され、拘束された男達だった。

「待ってたぜ。どうせ帰りもここを通るだろうと思ってな」

「さっきは良くもやってくれたな」

「今度はそうはいかねえ。覚悟しやがれ」

 今度は手に棒を持っている。意気に叩きのめされたのを、相当恨みに思っているようだった。

 フラビオは馬車から降りると、男達に近づいていった。戦う必要がありそうなので、馬車からなるべく離れた場所の方がいい。ナタリーを巻き込みたくはない。

「なあ、止めないか。そんなことをしても良い事ないぞ」

 フラビオは一応言ってみたが、効果を期待してのことではない。それでも気分が変わってくれる方がありがたい。人間相手に力を振るうことに、何となく抵抗感があるのだ。

 もちろん、相手はそんな事情を汲み取るはずもない。

「うるせえな。今度こそお前を叩きのめしてやる」

「容赦しねえからな。覚悟しやがれ」

「許して下さいって言っても、もう遅いからな」

 口々に男達が言う。

 フラビオは大きくため息をついた。

「分かったよ。好きにするといい。俺も遠慮はしないけどな」

 あからさまに挑発の言葉を口にする。

「やられたい奴からかかってこい」

 男達がせせら笑った。一度やられたのは単なるまぐれで、今は棒という武器を持っている。負けるはずがないと思い込んでいるのだ。

「そうかい。じゃあ遠慮なくやらせてもらうぜ」

「後で泣きを見てもお前のせいだからな」

「この野郎、覚悟しやがれ」

 そして男達が棒を振りかざし、打ち込んできた。

 フラビオは最初の一人目の攻撃をさっとかわす。そして軽く踏み込み、すれ違いざまに拳をみぞおちに撃ち込んだ。腹部の急所に一撃を受けて男が崩れ落ちる。

「この野郎!」

 次の男は棒を横薙ぎに振るってきた。フラビオは軽く後ろに下がって避けると、次の瞬間にはさっと踏み込み、男に肉薄する。そしてまたもや腹部にきつい一撃。みぞおちを撃たれて、男が地に倒れる。

 三人目は棒を振りかぶって胴体ががら空きになったところを、さっと踏み込んで同じく一撃。みぞおちを強打して地に倒した。

 次の男も棒で殴りかかってきたところを、軽く棒の脇を叩いて軌道を逸らし空振りさせた。そしてがら空きになった腹部に拳を一撃。これまた正確にみぞおちを撃ち抜き、地に倒した。

「やりやがったな!」

 仲間がみな倒されていても、闘志を失わなかったのは大したものなのかもしれない。しかし、それも無駄なことであった。棒で殴りかかってきたところで、その棒をフラビオは軽々と片手で受け止めた。そして空いた拳をその男のみぞおちに撃ち込んだ。男が悶絶して、崩れ落ちる。

 ここまで一分少々。男達は棒という武器をもっていたが、結局何の役にも立たなかった。行きの時と全く同じ結末になったのだった。

「さて、また拘束しとかないと」

 ナタリーからまた荷造り用の縄を貰い、せっせと男達の手足を拘束していく。そして街道の脇に並べておく。

「おっと、そうだ。刃物があるとまた逃げられるな」

 男達の衣服を一人一人探って、刃物の類がないかを確認する。四人は特に何も持っていなかったが、一人が小さなナイフをもっていた。行きの時、意識が戻ってから、このナイフで縄を切ったのだろう。今度は逃げられないように、そのナイフを没収しておく。

「これでいいだろう。さて、王都に戻ったら騎士団に報告だな。それじゃあ行こうか、ナタリー」

「はい。じゃあ出発します」

 男達を転がしたまま、二人の乗る馬車は王都へと向かっていった。


「行きの時もそうでしたが、本当にフラビオさんは強いんですね」

 馬車を進ませながら、ナタリーが話し掛けてきた。

「今度は相手も棒を持っていましたけど、全然ものともしなかったですね。あっさり避けたり止めたりして倒してましたし」

 ナタリーは人間同士で乱闘をするようなことはないのだろう。やはり人間の暴力が怖い、普通の人なのだ。その普通の感覚がフラビオは麻痺しているかも知れない。何せ、人よりはるかに強い魔物と、毎日のように戦っているのだから。

「俺に限らず、ある程度レベルの上がった冒険者は、みんなこんな感じだ。ダンジョンでもっと強い魔物と戦ってるんだから」

「うわ、想像できないです。人間同士の殴り合いだって怖いのに、魔物なんて、そんな恐ろしいのと戦うなんて。怖くないんですか」

 ナタリーの反応は大袈裟ではない。普通の人にとってはそちらの方が当然なのだ。

「自分より強い相手だったら、俺だって怖い。冒険者になり立ての頃は、強い魔物に立ち向かうのに、勇気を奮い起こしたもんさ。でも、さっきも話したけど、長年冒険者をやって、魔物よりも自分が強くなってしまえば、もう怖くも何ともないな」

「そうなんですね。これで見るのも二回目、フラビオさんが相当に強い冒険者ってことが良く分かりました。納得です」

 ナタリーが腑に落ちたという表情でフラビオを見た。見た目はごく普通の三十代の男だが、恐ろしい強さを秘めた熟練の冒険者だ。それに親切だし、優しい。良い人と知り合えたという思いが視線にじんでいた。

「まあ、王都に戻ったら、騎士団に捕まえてもらおう」

 それから別の話題で雑談をしながら時間を潰しつつ、一時間ほど馬車を進ませた。

 そして市場に行く途中、フラビオは騎士団本部の前で下りた。

「じゃあ、俺が騎士団に伝えておくから、ナタリーは商品を売り捌いてくるといい。後でどうなったか伝えにサルジオ商会まで行くよ」

 そう言って、一旦ナタリーと別れた。


「すみません、強盗が出たんですが」

 フラビオはそう言って受付の騎士に声を掛ける。

「強盗が出たのはいつ、どこでですか」

 騎士に促され、フラビオが詳しい説明をする。

 商人の護衛をしていたが、街道に沿って隣町サルトルまで行く途中、王都を出て一時間くらいのところで五人組の男が、積み荷ごと馬車を置いて行けと脅してきたこと。殴り掛かってきたのを返り討ちにして、拘束して街道に転がしておいたこと。サルトルからの帰り道、拘束を解いた男達が今度は棒を持って襲い掛かってきたこと。これもまた返り討ちにして拘束したこと。それが今から一時間ほど前だということ。

「事情は分かりました。少々お待ち下さい」

 それを聞いた騎士が、上役に報告しに行った。

 待つことしばらく、五人の騎士がやってきた。

「貴殿はフラビオと申したな。その強盗が出た場所へ案内を頼む」

「承知しました。ご案内します」

 そしてフラビオと五人の騎士は二台の馬車に分乗して王都を出発した。

 馬車を進ませること一時間。フラビオが話した通り、五人の男達が街道沿いに転がされていた。手足は拘束されたままだが、意識は回復しているようで、逃げ出そうと必死でもがいているところだった。

「強盗の容疑で連行する。抵抗は無駄だぞ」

 騎士隊長が男達に声を掛け、部下達がその身柄を馬車に乗せていく。

 そして王都の騎士団本部へと引き上げていった。

「確かに証言の通りでした。それでは調書を作成するので、もう少しご協力頂きたい」

 帰りの馬車の中で、フラビオは受付で話した内容を繰り返し伝えた。それを騎士の一人が記録していく。話はそう難しいことでもなかったので、騎士団本部に着く前には、調書の作成は終わっていた。

「ご苦労様でした。男達の身柄は預かって、騎士団が責任をもって事情を確認し、処罰致します。どうかご安心下さい」

 こうして無事に強盗連中は確保され、フラビオも安心して帰路につくことができたのだった。


「お待たせ。無事に片付いたぞ」

 フラビオはその足でサルジオ商会に向かい、ナタリーに事の顛末を報告しに来ていた。時間もすでに遅く、夕方を過ぎて夜になっていた。

「あ、フラビオさん。お疲れ様でした」

 ナタリーが店の中から出迎えに出てきてくれた。父のサルジオ、母のセリアも一緒に出てきていた。

「娘を無事に護衛して頂き、ありがとうございました。何でも強盗を捕まえたとか。さぞお腹も空いてお疲れでしょう。我が家の手料理で申し訳ありませんが、どうか夕食を召し上がっていって下さい」

「そうですか。では、ご厚意に甘えて」

 そしてフラビオはサルジオ一家と夕食を共にした。まだ商業学院通いだという息子のトリスもこの時は同席していて、中々に賑やかな食卓だった。

「家庭料理はずいぶん久しぶりです。ナタリーさんが言った通り、とてもおいしいですね」

「お口に合って何よりです。母と私で作ったんですよ」

 ナタリーが誇らしげに胸を張る。

「では、おいしい料理を頂きながらで申し訳ないのですが、今日の出来事についてお伝えしますね」

 フラビオがそう言って強盗騒ぎの一幕について説明した。そして最後に、強盗を働こうとした男達は、騎士団本部に無事捕えられ、事情聴取の後、きちんと処罰されることを伝えた。

「そうでしたか。いや、フラビオさんが護衛をして下さって、本当に助かりました。もし一人なら、ナタリーの身も危なかったことでしょう」

「本当にありがとうございました。せめてものお礼に、どうかどんどん召し上がって下さい」

「姉さん、こんな強い人と一緒だったんだ。良かったね。ありがとう、フラビオさん」

 一家三人がそう言ってフラビオを労ってくれた。

「そうなの。こんなにすごい人、私初めて見たわ。本当に助かったし、それに一緒にいると楽しい人なのよ」

 ナタリーはその後もフラビオのことを褒めちぎり、フラビオは持ち上げすぎだろうとばかり、半ば苦笑していた。

 フラビオはこうしてサルジオ一家に歓待され、気分のいい夜を過ごした。それは楽しい夕食の一時だった。

 商人の護衛編、帰り道です。強盗連中がしぶとく再び襲ってきます。もちろん問題なくやっつけるフラビオなのでした。蛇足ではありますが、倒して終わりではなく、ちゃんと捕まらないとおかしいだろうと、その事後処理についても描きました。

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