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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十六話 王女達を連れてダンジョンを脱出

 王女の護衛が転移の罠にかかってしまい、それを助けるべくフラビオ達も後を追って罠へと入り込んだ。

 転移した先は地下八階。フラビオの探知魔法で、かなり多くの魔物がいることが分かった。しかし、迂回しても意味がなさそうだと判断し、最短距離を進むことにしたのだった。


「深い階層に入ると、ダンジョンも恐ろしく感じますね」

 地下八階を歩きながら、王女がフラビオにそう言った。それはそうだろう。どんな強敵が待ち受けるのか分からないのだ。とてもレベル十の王女が倒せる相手ではないだろう。

「その感覚、分かります。俺もレベルが低い頃は、新しい階層に入る度、相当に緊張したものです」

 こんな場合である。フラビオは当然のことを当然として受け止めていた。恐怖に駆られて暴走するのでなければ、純粋に怖いと感じる気持ちを無理に押し止めても良い結果にはならない。

「ですが、ご安心下さい。俺が無事に地上までお送りします」

 高レベルメイジのフラビオにとって、地下八階など何の問題もなく一人で歩ける場所である。三人を守り切ることに絶対の自信をもっていた。

「はい。頼りにしてます、先生」

 こんな場合でも王女が笑顔を見せた。心底フラビオを信頼しているのだ。

「私が罠にかかったばかりに申し訳ない」

 騎士の一人が繰り返し謝罪してきた。

 だが、フラビオが首を振って否定した。

「俺のミスです。帰りの道中、油断なく進むようにと言いそびれました。配慮不足でした。ですから、もう謝罪は不要です。後は無事に戻ることだけ考えて下さい」

「フラビオ殿、本当にありがとう。世話をかけます」

 もう一人の騎士が、同僚への慰めを聞き、礼を言った。さすがは王女が先生と仰ぐだけあって、頼りになる人物だと信頼を深めていた。

「さて、そろそろおしゃべりは終わりですね」

 通路をかなり進んでから、フラビオが声を掛けた。

「近くに魔物がいます。繰り返しますが、俺が全て倒しますので、安心して離れた場所で見ていて下さい」


 最初に出くわした魔物はキメラだった。合成獣とも呼ばれ、様々な魔物の合体した姿を持っている。獅子の頭に蛇の尻尾をした姿のものが一般的だろう。そして、炎を吐く個体も多い。また、双頭のものや羽を持つものなど、いろいろな種類のキメラがいる。レベル十三のパーティでも勝てるかどうか微妙なほどの強敵である。つい先日、勇者を名乗る少年のパーティがフラビオの助けを借りて対戦し、何とか倒していた。

 そう、相手が普通の冒険者ならば強敵になるのである。フラビオの強さからすれば、大した相手ではない。

「三人は離れて見ていて下さい」

 フラビオがそう声を掛け、一人でキメラに近づいていく。

「先生、お気を付けて」

 王女が声を掛ける。大丈夫だと信頼しているが、それでも安全を願って声を掛けるのは、人として自然な姿だった。

「まあ、お任せ下さい」

 キメラがフラビオを発見した。このキメラは一番標準的な形態で、獅子の頭に蛇のしっぽをもっていた。体長は四メートルほどのやや大型である。

 思考力などないだろうに、フラビオが無造作に歩み寄ってくる様子を怪訝に思ったような感じで、キメラの方から近づいてくることはなかった。

 フラビオが遠慮なくキメラの間合いに入り込む。

 ここでキメラが動いた。さすがに炎の範囲内にまで接近されて、敵だと認識したようだった。

 大きな口を開いて炎を吹き出す。かなりの広範囲に渡り、高熱の炎が広がっていった。

 フラビオはそれを読んでいて、あっさりと回避していた。キメラの右前からさらに接近していく。

 ここで蛇の尻尾が動いた。フラビオに噛みつこうと鞭のようにしなりながら襲い掛かってくる。

 フラビオがそれもあっさりと避ける。

 そしてキメラが再び炎を吐こうと口を開いた瞬間、フラビオが魔法を発動させた。

「エクスプロード」

 開いた口を起点に激しい爆発が起こった。それはキメラの顔面を一瞬で消し飛ばし、上半身をも粉微塵に砕いた。そしてキメラが霧状になって消えていく。

「お待たせしました。終わりましたよ。全員無事ですね」

 フラビオも同行者のことはしっかり気に掛けている。ちゃんと離れて見ていて、無事なことを確認した。もちろん、魔石はしっかり回収している。

「さすが先生、一撃ですね」

 王女が笑みを浮かべて、フラビオを称える。

 騎士達二人が驚きの表情でフラビオを見ていた。彼らはフラビオが戦うところを初めて見たのである。激しい攻撃をいとも簡単に避け、そして魔法の一撃で手強い魔物を倒してしまう。そのすごい実力を目の当たりにして、心底感心していたのである。

「これがフラビオさんの実力ですか」

「こんな強そうな魔物をたった一撃ですか」

 二人の騎士が呆然とつぶやいた。

「だからいつも言っているのです。ダンジョンに潜るのに護衛はいらない、フラビオ先生さえいれば十分だと。ですが、あなた方の職責も理解しております。ですから、こうして同行を許しているのです」

 王女が誇らしげに語った。自分の師の凄さが自慢なのだ。

「ですから、この先も先生にお任せして、私達は無用な負担を増やさないように気を付けましょう」

「はい。承知致しました。王女殿下」

 騎士達が礼を施す。フラビオのおかげで助かるのだということが実感でき、安心感が心に広がっていた。

「まあ、その辺で。次に行きますよ」

 フラビオはいつもと変わらない。その様子が実に頼もしかった。


 しばらく通路を進み、またも魔物が出現している場所に来た。

 次の相手はレッサーデーモンだった。

 体長三メートル半近い大型の魔物だ。悪魔であることを表す角の生えた頭部の形状。赤っぽい色の体表。人型をしていて羽はない。下級のデーモンとはいえ魔法を操り、遠距離の魔法をレジストするし、耐久力も高い。中級冒険者が勝つのは容易ではない相手である。

 かつて王女も一度対戦し、かなりいい線までいったのだが、結局フラビオの助けを得てようやく倒した相手だ。フラビオ以外の三人だけでは勝ち目がないと言って良かった。

 しかし、フラビオはやはり並ではない。

「では、倒してきます」

 ちょっと食事に行ってきます、くらいの気安さで言う。

「はい。離れた場所で待機します。先生もお気を付けて」

 フラビオを信頼している王女も相変わらず平然としていた。

「よろしく頼みます」

「手間をかけて申し訳ない」

 騎士達二人も同様にフラビオの強さを理解し、信頼していた。しかし、足手まといになっているという罪悪感があり、二人揃って頭を下げていた。

「気になさいますな。冒険者は助け合いが大事ですから」

 軽く片手を振って、フラビオはデーモンの方へ歩いて行った。

 近づいて見るとやはり大きい。フラビオには慣れたものだが。

 レッサーデーモンが先制で魔法を放ってきた。何発もの火球が降ってくる。

 フラビオは着弾点が分かっているかのように、それを難なく避ける。

 続いてデーモンの拳が飛んでくる。フラビオがそれを避ける。

 デーモンの蹴りが放たれる。これも問題なくかわす。

 そして至近距離。レジストもできない位置で、フラビオが再び爆発の魔法を発動させた。

「エクスプロード」

 容赦のない爆発がレッサーデーモンの腹部で湧き起こる。

 その威力はデーモンの腹部を微塵に砕き、大穴を開けた。前回対戦した時には、王女にとどめを刺させるために足を吹き飛ばしたのだが、今回は遠慮なく、一撃でとどめを刺していた。

「お待たせしました。みなさん無事ですね」

 軽く片付けてきた、といった口調でフラビオが言う。みなの無事を確認すると、先に進むように声を掛ける。

「さあ、参りましょうか」

「はい。分かりました。ですが」

 王女が三人を代表して答える。少し口調に迷いがあるようだった。

「それにしても、やはり先生はお強い」

 先程とは違い、王女が少し暗い表情で言った。

「これほど強い先生に、私のダンジョン行きにお付き合い頂くのは、何か申し訳ない気がしてきました。先生ならお一人でも、もっと強敵を倒してお金を稼げるでしょう。私を指南するためだけに手間を取らせてしまって、本当にすみません」

 前回のレッサーデーモン戦のことを思い出したのか、王女がそんな謝罪をしてきた。フラビオとしても、その気持ちは分からなくはない。しかし、すでに王女も互いをよく知る仲になっている。

「何をおっしゃる。カタリナ様は、もう俺の大事な弟子ですよ。弟子のために師が労力を割くのは当然のこと」

 フラビオは優しく言い諭した。

「それに、カタリナ様の成長をこの目で見るのは、俺としてもとてもうれしいことなんです。贅沢してるなって気がするくらいです。師弟が行動を共にして、互いに得るものがあるのですから、俺はこの先も喜んで同行させて頂きますよ」

「フラビオ先生……」

 王女が軽く涙を浮かべた。こんな風に言われて、とてもうれしかったのだ。

「ありがとうございます。先生の弟子として、これからも精進します。これからもよろしくお願いしますね」

「もちろん。ですが、まずは脱出が先です。行きましょうか」

「はい。行きましょう」

 フラビオと王女は固く握手を交わすと、先へと進むのだった。


 それからしばらくは魔物がいない場所を進んだ。

 探知魔法で、地下八階の出現場所は一通り押さえてある。最短距離になるよう道を選びつつも、戦闘を避けられるところは道を変えて、戦闘回数を減らしていた。

 ダンジョンの内壁は不思議な材質でできている。なぜか発光していて、松明などを持ち歩く必要がないくらい明るい。こういう時には、その不思議な作りに感謝したいくらいである。一々明かりを持ち歩く必要もないし、迷わずに進むことができる。

 そして地下七階への階段近く、魔物との交戦が避けられない場所に来た。

 しかも相手が悪い。グレーターデーモンだった。

 レッサーデーモンと同じ悪魔型の魔物である。頭部は角の生えた悪魔の形をしていて、体長は四メートルを超える。黒っぽいような青みのある体表は物凄く硬く、アイアンゴーレムと同程度である。かつてマスターレベルパーティが壊滅寸前に追い込まれた相手だ。

 グレーターデーモンのいる場所の手前でフラビオはみなを止めると、真剣な表情で話し掛けた。

「本来は地下二十階より下に出現する魔物です。それでもイレギュラーでたまに上層に出ることがあるんです。強さも今までの魔物とは比較になりません。中級魔法を撃ってくるので、後ろに控えていても危険な相手です。この通路から先に進まず、待っていてもらえますか」

 王女としてはうなずくべきだったのだろうが、フラビオの戦いぶりを見たいという気持ちが勝った。

「私も先生の戦いぶりを拝見したいです。グレーターデーモンの魔法は自分で防げます。もちろん、安全なように離れて待機するので、どうかご一緒させて頂けませんか」

 さすがのフラビオも困った顔になった。確実に王女の安全を確保するのが第一である。しかし、グレーターデーモンの強さや倒し方を見るのも、修練の一環として意味があるだろう。

「そうですね、どんな風に倒すのか、それを直接見たいという気持ちも分かります。でしたら、魔法の楯を用意して待機、グレーターデーモンの魔法が来たら即座に展開して下さい」

「はい、分かりました」

 相当に危険なことは王女も承知している。真剣にうなずいた。

「では、極力離れて、魔法が来たら落ち着いて対処をして下さい」

 そう言うと、フラビオがいつものように一人で接近していく。

 魔物に思考力はないだろうに、グレーターデーモンはすぐにフラビオに反応した。そして遠距離から魔法を放ってきた。ブリザードの魔法である。氷の粒が混じった猛烈な吹雪が襲い掛かってきた。

「マジックシールド」

 フラビオが魔法の楯を展開させた。まだ王女や護衛達から距離を取っていない。自分が避けると、待機している三人に被害が及ぶからだ。

 しかし、その猛烈な吹雪も、フラビオの魔法の楯は全て防ぎ切っていた。王女が魔法の楯を発動する必要もなかった。

 魔法の楯を維持しつつ、フラビオはさらに接近していく。

 すると、またも遠距離から魔法が来た。今度はフレイムピラーの魔法である。炎の柱がフラビオを中心に吹き上がる。しかし、またも魔法の楯がその炎を防いだ。

 フラビオは無傷のままグレーターデーモンへと接近していく。

 ここで今度は無数の火球が降り注いできた。ファイアボールの魔法である。今度は三人に影響なしと見てフラビオは回避に入った。

 フラビオは、次から次へと飛んでくる火球を、ものともせずに避けていく。そして次第に距離を詰め、ついにはグレーターデーモンの間合いへと入った。

 グレーターデーモンが咆哮したように見えた。繰り返すが、思考力などはないはずである。それでも攻撃を避けられた怒りを発したように見えた。

 そして今度は拳で殴り掛かってきた。強烈な一撃がフラビオめがけて真っ直ぐに飛んでくる。

 フラビオはギリギリのところを見切ってその拳をかわす。

 そして次の瞬間、フラビオは床を撃った拳に飛び乗り、そのままグレーターデーモンの腕を駆け上がった。そして頭部までたどり着くと、そこで真上に跳び上がり、そして魔法を発動させる。

「バーストエンド」

 最上級の爆発魔法である。その威力は一瞬でグレーターデーモンの頭部を吹き飛ばし、上半身を粉微塵にし、下半身を砕いた。

 そして、グレーターデーモンが霧状になって消えていった。後には魔石を残すばかりである。それを拾って、フラビオは王女達の元へと戻った。

「全員無事ですね。魔法がそちらに行かなくて良かった」

「あれが最上級の爆発魔法、バーストエンドですか。すごい威力でした」

 王女が驚いた表情のままつぶやいた。強力だと知っていることと、実際にその威力を見るのとでは、大きな違いがあった。心の底からその凄まじさに感心したのだった。

「私がこれを使えるのは、一体いつになるのでしょうか」

「まあ、そう焦らず。カタリナ様は一歩ずつ着実に成長しています。いずれ習得できる日も来るでしょう」

「そうでしょうか。そうだといいのですが」

「俺もそのためにダンジョンにご一緒しているんです。いずれ必ず、もっと強いメイジになれますとも」


 そして一行は地下七階へと上がった。

 そこから先は、フラビオは探知魔法を駆使して、安全なルートを選んでいた。魔物との戦闘は最小限に止め、安全に戻れるよう配慮したのである。

 道中にはイレギュラーもなく、戦った魔物も階層相応の相手ばかりで、フラビオが簡単に倒していた。

 一行は無事に地下六階、五階、四階と上がっていき、二時間ほどで地下一階にまで戻ることができた。

「あと少しです。最後まで気を抜かず、無事に戻りましょう」

 フラビオの言葉に安堵したのは、護衛の騎士二人だった。そのうち一人は、自分のせいで一行を危険な深い階層まで転移させる羽目に陥らせ、守るべき王女を危険にさらしたことで強く自責の念を抱いていた。それだけにこうして無事に戻れたことに心底安心していた。

「今回はアクシデントもありましたが、そのおかげでダンジョンの危険性をより深く理解できました。先生の本当の強さも間近に見られましたし、有意義な時間でした。ありがとうございます」

 王女は軽く笑みを浮かべてそう語った。配下の騎士の負担を和らげる意味もあったが、心からそう思っているのもまた事実だった。

「そうですか。そう言ってもらえると、ありがたいですね」

 フラビオも事故を回避できなかった責任を感じていたので、その事故も含めて有意義だと言ってもらえてほっとしていた。

「それでですね、先生。次回もまた私にお付き合い願えますか」

 強力な上目遣いがきた。王女の強くなりたい気持ちは本物だ。またフラビオと一緒にダンジョンで修練を積みたいのだ。

 フラビオも笑みを浮かべて答えた。

「もちろん、大事な弟子のためにご一緒しますとも」

「ありがとうございます。次は六日後が空いています。お時間作って頂けますか」

「分かりました。六日後ですね」

「またよろしくお願いします。楽しみにしています」

 王女がうれしそうに答える。のびのびとした良い表情だった。元より美しい女性だが、朗らかな笑顔がさらにそれを引き立てていた。

 本当に不思議な王女だ。これほど美しいのだから、社交界などでも大人気だろうに、好んでダンジョンで修練を積みたいという。しかし、それを含めて、素直さや粘り強さなど、長所が多いのも確かだ。

 フラビオが王女をじっと見つめていると、王女から笑顔が返ってきた。

「ようやく出口ですね」

「そうですね。無事に戻れて何よりでした」

 王家の馬車がいつものように出口で待っていた。

 一行は無事にダンジョンを出て、馬車に合流したのだった。

 フラビオ無双の回です。最近手助けばかりだったので、大暴れできる機会を得て、大活躍しています。強い魔物の攻撃も余裕で避け、そして一撃必殺、高レベルメイジの本領発揮です。

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