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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十四話 国王一家がお見送り

「ずいぶんご機嫌だな、カタリナ」

 王宮の居室で、第二王女カタリナにそう話し掛けたのは、父王のアンドレアである。娘と同じ金髪に青い瞳。体格も良く、表情は温和だが威厳のある人物だ。壮年期にそろそろ差し掛かろうという年代だった。

「それはもちろんです。もうすぐフラビオ先生と、またダンジョンで魔物討伐ができるんですから」

 意気揚々と話すのはカタリナ王女その人である。美しい金髪の王女が物騒なことをうれしそうに話すのには、さすがの父も苦笑した。

「すっかりダンジョンの楽しさにはまってしまいましたね」

 こちらは王妃のエリーゼである。夫婦そろって金髪に青い瞳。夫と同じくらいの年代である。

 カタリナがその言葉を聞いて、首を振った。

「ダンジョンはただ楽しいだけの場所ではないのです。危険も多く、強力な魔物も数多く存在しています。ですが、その危険を乗り越えて魔物を討伐することの充実感、自分が強いんだと自覚できるその時間が、私には何より貴重に思えます」

 父王がため息をついた。

「いい年頃の娘がダンジョンに夢中とは。本来なら、良き相手を見つけたり、婚姻の話があったりしてもおかしくないのだがな。だがまあ、ダンジョンでの修練がカタリナにとって大切なことなのは理解しているつもりだ。存分に戦ってくるといい」

 母王妃も苦笑しながら続けた。

「カタリナがそこまで言うからには、そのフラビオ殿は、とても素敵な方なのですね。そう言えば、かなり前に、魔物に襲われたところを救って頂いた旅人の方だったとか」

「ええ、そうなんです。あの時の旅人がフラビオ先生だったのです。王国最強のメイジの実力に加え、その謙虚さや、優しく丁寧に指南して下さる人柄は、とても好ましいと思っております」

 父と母が顔を見合わせ、互いに苦笑した。娘が惚れ込んだ相手を否定するようなことはしない。カタリナには兄も姉も弟もいて王家は安泰である。娘を政略結婚させようなどという気は毛頭なく、自由に相手を選んでも構わないと思っていた。ただ、相手が冒険者で、危険と隣り合わせな生き方をしているところが引っかかる点である。

「私達も、一度はそのフラビオ殿を見てみたいものだな。その王国一の実力も、できることなら直接見てみたい。呼び立てても構わぬか」

 父はそう言ったが、カタリナは首を振った。

「一介の冒険者なのがフラビオ先生の良いところです。王宮に呼びつけるなどあの方にはそぐわないでしょう。むしろ、お父様、お母様がダンジョンまでお越しになって、直接お会いしてみてはいかがですか」

 ふーむと父王が考え込む。本気で考えるくらい、フラビオ本人を見てみたいという気持ちは強かった。

「そうだな。この際だ、自ら出向いてみよう。エリーゼも一緒に行くか」

「そうですね。私も一度拝見したいものだと思っていました」

 二人の言葉にカタリナが驚いた。半ば冗談のつもりだったのだ。

「よろしいのですか。そのような用件で城を留守にして」

 カタリナが確認を取ると、父王は楽しそうに笑った。

「カタリナが先に申したことだろう。その王国最強のメイジの顔、とくと拝見させて頂こうか」


 翌日、王女がフラビオと約束をした当日である。

 例によってフラビオは先にダンジョンの入り口に到着していた。王族を待たせる無礼をするわけにはいかないからだ。

 すでに何人もの冒険者達がダンジョンへと入っていた。フラビオ達より深い階層で魔物を討伐する連中である。フラビオも軽く激励をして送り出してやった。

 約束の九時より少し前、例によって王家の馬車がやってきた。

 ところが、今回はそれが三台も連なっている。まさかそんなに大勢でダンジョンに入る気なのだろうか。フラビオが疑問を感じていると、やがて馬車は目の前で止まり、中から王女が姿を現した。

「フラビオ先生、いつもありがとうございます」

 そう挨拶してすぐ、後続の馬車を示して、言葉を続けた。

「今日は先生に会いたいという人達が一緒なのです」

 そして、後続の馬車からは、身なりの良い中年の男性と女性、それとその護衛が、最後尾の馬車からは若者が男女合わせて三名下りてきた。王冠もなく衣装も外出着だが、立派な装飾のついた衣服を見て、相当に身分の高い人物だということが分かる。それは若者達も同じであった。

「お初にお目にかかる。オルクレイド国王のアンドレアだ」

 やはり父王陛下だったか。フラビオはうやうやしく膝をつき、胸に手を当てて礼を施した。

「今日は非公式の場だ。礼はいらん。立って挨拶を受けてくれ」

 国王が自らそう言って立つように促したので、フラビオもそれに従った。

「こちらは王妃のエリーゼ。それから年上から順に、第一王子のサジアス、第一王女パレアナ、第二王子コリウスだ。今日はカタリナが傾倒する王国最強のメイジの姿を直接見たくてな。それで家族全員で訪れたのだ」

 フラビオが立ったまま礼を施し、挨拶を返す。

「ご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。俺がメイジのフラビオです。どうぞお見知りおき下さい」

 フラビオも一人称が俺であること以外は、一応礼儀を守っていた。さすがに無礼を働くわけにもいかない。

「あまり強そうには見えぬな」

 国王とはいえ、いきなり遠慮のない口ぶりだった。実際、フラビオは中肉中背で、あまりさえない印象をした三十二才の男である。外見を売り物にしているわけではないので、さほど気にしなかったが。

 しかし、王女はそうもいかなかった。自分の敬愛する先生に、いくら父王とはいえ、あまりに失礼だと思ったのだ。

「でしたら、実力を見て頂きましょう。先生、よろしいですか」

 王女が憤然とそう言った。フラビオも断るわけにもいかず、少し考えてから返事をした。まあ、自分を立ててくれているのだ。指南役の実力を見せたいのも当然だろうなと思った。

「分かりました。俺が魔法の楯を使います。どのくらい頑丈か見て頂きましょうか」

 そう言うと、フラビオが魔法の楯を展開する。

「マジックシールド」

 淡く光る魔法の楯がフラビオの前面に現れた。

「では、遠慮なくこの盾に攻撃を加えてみて下さい」

 フラビオの言葉に、父王が笑みを浮かべた。

「良かろう。では、フォルス近衛騎士隊長、遠慮なく撃ち込んでみよ」

「はっ。では、参ります」

 近衛騎士隊長とは、また容赦なく凄腕の騎士を指名したものだ。そう思いつつも、フラビオは静かに攻撃を待ち受けていた。

 フォルス隊長が剣を抜く。そして素早く斬撃を放った。

 高らかな金属音と共に剣が弾かれる。フォルスが信じられないようなものを見る目で魔法の楯を見た。彼の一撃は金属鎧も断ち割る威力があるのだ。

「もう一度」

 今度は渾身の一撃を上段から振り下ろした。しかし、高らかな金属音がして、弾かれてしまった。

「私達にも試させて下さい」

 第一王子のサジアス、第二王子のコリウスが進み出た。

「いざ参ります」

 二人同時に斬撃を放つ。結果はもちろん同じで、高らかな金属音と共に剣が弾かれて終わった。

「何て硬さだ。まさかこれほどとは」

 王子二人が魔法の楯の強度に驚き、まじまじと見ていた。

「おお、これはすごい。なるほど、カタリナに王国最強と言わせるだけのことはある」

 三人の斬撃を弾き返したのを見て、父王が感心して賞賛を送った。

「見事である。その腕前なら、ダンジョンでもカタリナを守れること、疑いようもない。今日も我が娘をよろしく頼む」

 フラビオが魔法の楯を解除して、再び礼を取る。どうやら納得してもらえたようだと安堵する。いくら人の来ない場所とはいえ、さすがに派手な攻撃魔法を使うわけにもいかない。魔法の楯だけで済んで良かったと思う。

「はい。必ず無事にお帰し致します」

 父王が笑顔になった。これは信頼に足る男だと見て取ったのだ。

「フラビオ殿、そなた冒険者になって何年になる?」

「十七年です」

「なるほど。正に熟練の冒険者というわけか」

 そして父王は真顔になって言った。

「今日はフラビオ殿に会えて良かった。これほどの人物だとは思っていなかったものでな。さすが、カタリナが師と仰ぐだけのことはある」

「ありがたきお言葉。もったいなく存じます」

 フラビオが丁寧に一礼を返す。この程度の礼儀は守れるのである。少し窮屈ではあるが。

 そんなところも良き人物だと見て、国王がうなずく。

「フラビオ殿、カタリナへの指南、そして魔法の指南と護衛をよろしく頼む。大事な娘だ、何事もないように頼むぞ。では、これで城に戻る。カタリナ、あまり無茶はせぬようにな」

「分かっております、父上。そちらこそお気を付けてお帰り下さい」

 父王達が馬車に乗り込む。

 後にはフラビオとカタリナ王女、そして今回は護衛の騎士二名が残された。王女が護衛も不要だとしたのを、念のため二名は付けることにしたのだった。

 そして馬車が去っていく。

 四人でそれを見送り、いよいよダンジョン突入となったのだった。


「カタリナ様、どうして今日は突然国王陛下のご一家が、お見送りに来られたのですか」

 ダンジョンの中を歩きながらフラビオが尋ねた。これまでは、ダンジョンに来るのは王女と護衛だけだったのだし、そもそも国王自らが出向くことなど異例のことだ。当然の疑問である。

 カタリナが笑みを浮かべながら答えた。

「父も母も兄弟達も、みなフラビオ先生の人柄を見たかったのですよ。私がここまで信頼している人物に興味があったのです」

「はあ、それだけのことで、わざわざ足を運ぶものですかね」

 自分を呼びつけるだけの権力があるはずだろうと、フラビオはそう思ったのである。

「私が呼びつけるのはよろしくないと言ったからですね」

「いや、だからと言って、顔を見るためにわざわざお越しとは、普通ではないと思いますが」

「それは私が先生に好意を抱いているからですよ。それがどんな相手なのか、家族としては気になるのでしょう。兄も弟も本気で斬りかかってきたでしょう。大したことのない男なら、本気で斬り捨てようっていう一撃でしたね。さすがは先生、そんなのはものともしませんでしたが」

 フラビオが内心で大きくのけぞった。動揺を表情に出さないようにするのに結構苦労した。そうか、ステラさんが一緒だったあの日の、好意云々の話は偽りのないことだったのかと、事態を再認識した。

「そ、そうですか。で、ですが、カタリナ様にはもっと釣り合いのとれた、素敵な方が他におられると思いますよ。魔物討伐以外に取り柄のない、見た目も貧相な俺なんかではなくてですね」

 王女が、先生ならそう言うだろうな、という顔で笑って答えた。

「その取り柄は他の誰にもない素晴らしい取り柄です。それに加え、誠実な人柄や優しいところなど、先生には素敵なところがたくさんあります。どうか卑下なさらず、自信をもって下さいませ」

 ステラもそうだったが、王女もひいきが過ぎるとフラビオは思った。しかし、これ以上この話題の会話は避けようと、話を変えた。

「ありがとうございます。では、地下一階から、討伐を始めましょうか」

 王女もそれ以上踏み込むことはなく、気持ちを切り替えた。

「はい。今日もよろしくお願いします」


「まずはジャイアントバット五体です。ちと多いですね」

 大したことのない魔物で、王女も何度か自ら倒している。しかし、一対一ならともかく、五体はまだ荷が重いだろう。

「三体なら、私一人でも何とかしてみます」

 王女の言葉に、フラビオが少し考え込んだ。二体までなら余裕だろう。だが、三体となると話がガラッと変わってくる。不規則な軌道で飛び回る相手だ。無事に倒せるか微妙だと思っていた。

「先生に教わった回避の技術を駆使して、何とか倒してみます」

 王女が再度三体との対戦を望んできた。まあいいだろう、危険なら割って入ればいい。フラビオもそう決心した。

「分かりました。三体と対戦してみて下さい」

 そしてフラビオと王女、その護衛騎士二人は魔物のいる場所へと突入した。

「ウィンドカッター」

 フラビオが先制で魔法を放つ。真空の刃が大きな曲線を描いて飛び、二体のジャイアントバットを順に斬り裂いた。そして霧状になって消えていく。

 動きを先読みして一撃の魔法で複数を倒すなど、普通の魔術師にできる技ではない。フラビオの長年の討伐経験によるものだった。

「さすが先生。では、次は私の番ですね」

 王女が前に出る。

 ジャイアントバット三体が、順に襲いかかってきた。

 鋭い鍵爪の攻撃を、王女はしっかりと見切っていた。右に避け、左に避けと、バットの攻撃に空を切らせる。その直後、一度飛び去ろうとするバットの背中が大きな隙になっていた。

「ウィンドカッター!」

 王女が魔法を発動させる。狙い違わず、一体のバットの背を真空の刃が見事に斬り裂く。一撃で倒し切り、バットが霧状になって消えていく。

 戦闘が長引くと不利になることを王女はよく理解していた。バットの初撃直後に、即座に反撃したのはそのためである。狙い通り、いともたやすく一体を倒している。王女も着実に成長しているなと、フラビオが感心した。

 残り二体が王女に接近し、再び攻撃を加えてきた。二体までならどうということはない。いとも簡単にその攻撃をかわすと、王女が再び魔法を発動させる。

「ウィンドカッター」

 先程のバットと同様に、飛び去ろうとする背中を真空の刃が斬り裂く。これも見事に一撃で倒し切っていた。バットが霧状になって消えていく。

 王女の回避技術は本物だった。王宮生活の中でも、時間を作ってステップの練習をしてきたのが良く分かる。その事実にフラビオがまた感心した。

 最後の一体はもう余裕である。バットが接近してきたところで、王女が真っ正面から魔法を放つ。

「ウィンドカッター」

 真空の刃が接近してきたバットの体を両断した。そして霧状になって消えていく。ごく短時間の戦闘で、見事三体のジャイアントバットを王女は倒し切ったのだった。

 戦闘の後は全員の無事と異常の有無を確認する。その基本もフラビオに教わったことだ。王女もしっかりそれを守っていた。

 それが済むと、王女がうれしそうに話し掛けてきた。

「やりましたよ、先生」

 フラビオも真剣にうなずき、そして褒めた。

「お見事でした。王宮でも回避の練習を欠かさなかったことが良く分かりました。短期決戦で一気に倒したことも良かったですよ。冒険者は無事に戻ることが第一ですからね」

 敬愛するフラビオに褒められ、王女がとても喜んでいた。

「頑張った甲斐があります。先生、ありがとうございます」

 フラビオもこうして師弟として接するのは悪い気分ではない。それが好意云々が混じってくると、どうすれば良いものやら、困ってしまうのだ。貴重な青春時代を、自分を強くするための魔物討伐に費やしてきた弊害なのだった。なまじ王女が美しいだけに、平常心ではいられなくなる。

「どうかしましたか、先生」

 王女が首を傾げる。内心を見透かされたわけではないが、フラビオが少し慌てて答えた。

「い、いや、何でもないんだ。次、行こうか」

「そうですか。次の相手は何でしょう」

「ジャイアントワームですね。数は三体。ジャイアントスネークより手強いです」


 硬い表皮に数の多い足。頭部には鋭い牙が生えている。体長は三メートル程度。中級者パーティには適正の相手である。

 それが三体となると、王女一人では手が足りないだろう。ここは先手を取って数を減らしておこうかとフラビオが考えていたら、王女が強気の発言をした。

「私一人で頑張ってみます」

 おいおいとフラビオは思ったが、話には続きがあった。

「危なくなったら助けてくれるのでしょう。まずは挑戦です」

 なるほど、危険なら割って入ればいいのなら問題ないかと、フラビオも納得した。

「分かりました。お気を付けて」

「はい。では、いきます」

 王女が一人魔物に向かっていく。フラビオも危機に備えて身構える。手出しできない護衛の騎士達も、相当気を揉んでいる様子だった。

「先手、フレイムピラー!」

 王女が魔法を発動させる。炎の柱が吹き上がり、一体のジャイアントワームを捉えた。高熱でワームを焼いていくが、残念ながら一撃で倒せるほどの威力ではなかった。

 そこに残った二体のワームが突っ込んでくる。王女がそれを器用に避け、距離を取る。そして、一体を焼いていた炎の柱が消えた直後に、そこにもう一発魔法を放つ。

「アイシクルランス!」

 氷の槍が高熱で焼かれたワームに突き刺さる。温度差で脆くなっていたこともあり、そのまま氷の槍がその体を貫いた。そのワームが霧状になって消えていく。

「まずは一体」

 残ったワーム二体が地を這い、交互に王女に襲い掛かる。その牙に噛まれては、一撃でも大きな傷を受けてしまう。王女は丁寧にその攻撃を避けた。あまり大きくは動かず、反撃の隙を窺っている。

 一体のワームが迫り、口を広げて噛みつこうとした瞬間、王女が魔法を発動させた。

「エクスプロード!」

 開いた口の中で大きな爆発が起こった。その威力はワームの前半部分を見事に消し飛ばした。そして霧状になって消えていく。

「これで二体」

 フラビオはまた王女が強くなっていることに驚いていた。パーティで戦う相手を一人で見事に倒している。レベルを考えれば大したものだと、ここでも強く感心した。

 王女も、残り一体には余裕をもって当たることができた。先程と同様、襲ってきて口が開いたところに、また爆発の魔法を撃ち込む。

「エクスプロード!」

 ワームの前半部分が消し飛び、霧状になって消えていく。

「無事と異常の確認。魔法残り三十回。問題なし、と」

 一緒に魔物を討伐するのはまだ三回目だが、王女はその才能を見事に発揮して、大きな成長を遂げていた。フラビオはその姿を見て、ますます感心するのであった。

 王女も度々登場します。国王一家が見送りに来ました。王女の身を案じてますから、同行者がどんな相手なのか気にしていたのです。今回もまたダンジョンで一緒に魔物討伐。王女の成長にはフラビオも驚きです。

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