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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十三話 あえて強敵に挑ませてみる

「地下五階まで下りるぞ」

 フラビオは決断した。この連中、やはり一度は痛い目を見ておくべきだ。そう考え、あえて強敵と戦わせようと思ったのである。

「フラビオさんも僕達の強さが分かったみたいですね」

 アレンがうれしそうに答える。確かに分かった。攻撃が通用する相手には十分強いのだと。

 裏を返せば、通用しなかったら逃げ出すよりない。まあ、レベルが低いうちはそんなものである。レベル三十のセカンドマスターパーティ赤い牙でさえ、アークデーモンを相手には勝てずに退却しているのだ。

 フラビオは五人を引き連れて、地下五階へと下りた。その間、魔物と遭遇しないよう、探知魔法で位置を調べ、避けて通っていた。

 地下五階は地下一階に比べて強い魔物が出る。

 フラビオが探知魔法で目的の魔物を探す。まずは一体、ちょうどいい魔物を確認できた。

「アイアンゴーレムがいる。戦ったことはあるか」

 フラビオが問いかけると、四人が揃って首を振った。

「ロックゴーレムの硬い奴だ。まあ、試してみるといい」

 そう言うと、フラビオは先に歩いてパーティ四人を案内していった。


 アイアンゴーレムはやはり人型の魔物で、全長三メートル半とロックゴーレムより一回り大きい。体も岩でなく、何かの金属でできている。それを鉄と名付けたのは、鉄のように固いという比喩であって、実際は何の物質でできているのか不明である。

「いつも通りいくぞ。強化魔法頼む」

 アレンの言葉に、アイリとセリアの二人が応える。

「ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

「よし、闘気剣!」

 アレンもいきなり必殺技を使った。さすがに地下五階、手を抜いて戦える相手ではないと、すぐにそう感じたのだ。その辺はさすがにレベル九まで実戦を積み重ねただけのことはあった。

 アイアンゴーレムから拳が飛んできた。ロッドが楯で防ぐ。しかし、力負けして、大きく後ろに押し出されてしまった。

「すまん、俺にも強化魔法頼む」

 さすがのロッドも支援を求めてきた。アイリがそれに応える。

「分かった。ストレングス!」

 その間にもアレンが楯の裏から飛び出し、ロックゴーレムの時と同じように腰の部分に斬りつける。高らかな金属音。

「な、何だ、この硬さは」

 ロックゴーレム相手では、ある程度斬ったという感触があった。しかし、このアイアンゴーレムはそうはいかなかった。表面にわずかな傷をつけただけで、斬撃が弾かれてしまった。マスタークラス、つまりレベル十三の戦士が攻撃しても、同じ程度にしかならない相手なのだ。その凄まじい硬さをアレンも身をもって知ることとなった。

 そこにゴーレムの蹴りがきて、アレンは慌てて身をかわした。

「くそ、もう一度だ」

 避けた体勢を立て直し、再び渾身の一撃を放つ。再び高らかな金属音がして、ゴーレムの表面のごく浅い傷をつけていた。

「全力の一撃だったのに」

 アレンは悔しがったが、傷がつくだけましというものである。そのくらい硬い魔物なのである。

 ゴーレムの攻撃はロッドが引き受けているが、強化魔法の支援を受けてなお、彼の大楯でさえ何度も押し込まれてしまっている。

「くそ、このままじゃもたない」

 ロッドが悔しそうに言う。数多くの魔物の攻撃を防いできた自分の楯が、通用しない相手がいることを初めて知ったのだった。

「マジックシールド」

 ロッドの楯の外側に、魔法の楯が展開された。もちろん、フラビオの魔法である。

「カルスのダンジョンを甘く見過ぎだったな。どうする、このままじゃ勝てないぞ」

 フラビオがパーティメンバーに声を掛ける。このままだと全滅するかもしれないという恐怖が、四人の頭をかすめた。フラビオなら一人で倒せることを彼らは知らない。五人まとめてここで倒れるのかと、本気で怖れていた。

 フラビオがそんな彼らを見て、言葉を続けた。

「セリア、フレイムピラーとブリザードは撃てるな」

「は、はい。もちろんです」

「なら勝ち目はある」

「本当ですか?」

 アレンがすがるような目で見てきた。自慢の斬撃がほとんど役に立たなかった悔しさも一瞬忘れ、身を乗り出すように食い付いてきた。

「温度差で砕くってヤツだ。アレンは攻撃態勢で待機。ロッドとアイリは念のため楯の準備をしておけ。セリア、やるぞ」

「は、はい」

 フラビオの指示で、全員が攻撃態勢に入る。

「まずはフレイムピラーからだ」

「はい。フレイムピラー!」

 セリアが魔法を発動させた。炎の柱がアイアンゴーレムを包み込む。派手な見た目の通りにかなりの高温だったが、表面を溶かすには至らない。

「すぐブリザードだ」

「はい。ブリザード!」

 氷の嵐が吹き荒れる。それがゴーレムの体を包み込み、表面を凍結させた。その二つの攻撃で、ゴーレムの表面が変色していた。温度差によって体が脆くなっていたのである。

「よし、アレン、攻撃しろ」

「分かりました。いくぞ!」

 アレンが突進し、必殺の闘気剣で再度ゴーレムの腰に強烈な斬撃を加えた。高らかな金属音と共に、ゴーレムが腰から砕けていく。元より威力のある斬撃が、脆くなった体に加わり、見事一撃で砕ききったのだ。

 アイアンゴーレムが霧状になって消えていく。四人はその光景を呆然と眺めていた。

「な、勝てただろ」

 フラビオの言葉に、四人が我に返る。そしてアレンが無事と異常の有無を確認した。

「僕は問題ない。みんなは?」

「俺はちょっと厳しいな。楯で何発も防いで、腕がかなり重い」

「私は大丈夫。ロッドにヒール掛けるわね」

「私は中級魔法二発で、魔法の残りが二十回くらい。後は平気」

 一戦だけだったが、かなり消耗したものである。

「相手がアイアンゴーレムで良かったな。さて、もう少し頑張ってもらおうか。強敵と戦いたいんだろ」

 フラビオが容赦なく言った。言われた方は、さすがに意気消沈していたが、それでもまだ戦う気はなくしていなかった。

「すみませんでした。その言葉は撤回します。でも、もう少し戦わせて下さい。この程度で諦めたくはありませんから」

 フラビオがふっと笑った。いい根性だと思った。

「いいだろう。次はキメラが相手だ」


 キメラは合成獣とも呼ばれ、様々な魔物の合体した姿を持っている。炎を吐く個体が多い。また、双頭のものや羽を持つものなど、いろいろな種類のキメラがいる。レベル十三でも勝てるかどうか微妙な相手である。それほどの強敵だった。

 今回の相手は全長三メートル半、獅子の頭に蛇の尻尾をした姿をした中型の魔物だった。

 さすがにこの勇者パーティも、これほどの魔物と戦ったことはなかった。足がすくんで動けなくなりそうなところを、自分を叱咤して励まし、ようやくにして前に進んだくらいである。

「俺が前で攻撃を防ぐから、セリアは爆発魔法の用意。いつも通り、アレンに強化魔法を使え。ロッドは楯で他の攻撃を防ぐ。最初は攻撃を防ぐのに専念、合図したら総攻撃だ」

 フラビオが全員に指示を出した。さすがに初めての魔物相手に、無茶をさせるようなことはない。

 そして今回はフラビオが前面に出た。キメラがそこに炎を吹いてくる。

「マジックシールド」

 フラビオの魔法の楯は範囲も広く、強度も高い。ごくあっさりと炎を防いでいた。

「強化魔法をアレンに」

「了解。ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

 アイリとセリアの強化魔法がアレンに掛けられる。その間にキメラが前足と尻尾で同時に攻撃を加えてきた。

「ロッド、尻尾を頼む」

「了解!」

 前足の攻撃をフラビオが防ぎ、横から来た尻尾の攻撃はロッドの大楯が防いだ。同時攻撃の後で、再び炎を吐こうとキメラが身構える。

「読み通りだな。アイシクルランス」

 魔法の楯を維持したまま、フラビオが氷の槍の魔法を放つ。それがキメラの口の中に突き刺さる。炎を吹く直前に氷の槍を口の中に受けて、キメラが硬直し、一瞬だが動きを止めていた。

 フラビオの指示が続く。

「セリア、爆発魔法、口の中だ」

「はい! エクスプロード!」

 その言葉に従って、セリアが爆発魔法を発動させた。キメラの口の中で派手な爆発が起こり、顔面を半分ほど吹き飛ばした。まだレベル九で爆発の威力は大きくないが、それでも十分な威力を発揮していた。大きなダメージを受けてキメラの動きがまた止まる。

「アレン、今だ」

「はい! 闘気剣!」

 アレンが三重に威力を高めた剣で、渾身の斬撃を放つ。真っ直ぐに振り抜かれた剣が、キメラの顔面を見事に断ち割った。

「もう一撃!」

 斬り裂かれ、露出した体へと再度斬撃が放たれる。渾身の一撃が見事に決まり、キメラの体が斬り裂かれ、地に倒れた。そして霧状になって消えていく。レベル九でキメラを倒したのはかなりの快挙である。

「や、やった、勝った」

 さすがのアレンもキメラ相手には冷や汗をかいていた。これまで戦ってきた魔物とは迫力が違う。良く勝てたものだと正直に思った。

「全員無事か? 異常はないか?」

 そして仲間に問いかける。

「もちろん問題ない」

「私も大丈夫。強化魔法使っただけだし」

「私は爆発魔法で消費した分、残りが十七回。後は大丈夫」

 仲間の無事と異常のないことを確認し、アレンが安堵してフラビオに礼を言った。

「ありがとうございました。フラビオさんのおかげで、これほどの強敵を倒すことができました。僕達も、まだまだ強さが足りないことが分かりましたし、頑張って実力をつけて行こうと思います」

 フラビオがうなずく。そして淡々と言った。

「礼をいうのはまだ早い。お前さん達も冒険者なら、まさか俺にタダ働きさせるわけじゃないよな」

 当初はやむなく同行してもらう形だった。しかし、これだけの恩を受けたのだから、報酬を支払うべきだろう。パーティの全員がそう思った。

「やはり報酬を支払うべきですよね。おいくらでしょうか」

「俺の報酬は高いぞ。金貨一枚だ」

「え、ええ?」

 さすがの四人もこれには驚いた。金貨一枚稼ぐのには、相当数の魔物を倒す必要があるからだ。フラビオが、普段からがめついと言われるゆえんであるが、彼らはそんなことは知らない。

 ただ、確かに金貨一枚支払うだけの支援を受けたのも確かだ。四人がうーんと唸りながら、困り果てていた。

 フラビオはふっと笑うと、前言を撤回した。

「と言いたいところだが、今回はカルスのダンジョンに初めて潜った記念ということで、今日の稼ぎを山分けするということで勘弁してやろう」

 今のところ、ジャイアントスネーク三体、ジャイアントバット三体、ロックゴーレム一体、それにキメラ一体で銀貨十一枚というところだ。フラビオの普段の稼ぎにも全く手が届いていない。

「というわけで、キリキリ稼いでもらおうか。もちろん、俺も手を貸す」

「は、はい。分かりました」

 さっきの元気もどこへやら、魔石を稼ぐために魔物討伐が続行されることとなって、少しうんざりした感じのパーティ四人だった。


 それから地下二階にまで戻り、フラビオの探知魔法で弱い魔物を狙い撃ちにするようにして、彼らは討伐を続けた。

 弱い敵でも数が多いと倒すのは大変である。

 その辺はフラビオも考慮していて、数が多い相手には、自分が魔法を使って数を減らし、彼らが安全に戦えるようにしてやった。

 三度ほど追加で交戦し、合計銀貨三十枚分稼いだところで、セリアの魔法の残り回数が少なくなった。

「セリアも良く頑張ったな。将来はいいメイジになれるだろう」

 フラビオがそう言って褒めた。今まではアレンの攻撃に頼ることが多かったのだが、攻撃魔法の使い手として、十分な実力はあるのだ。

「ロッドの楯も安定してていい。アイリの強化魔法と回復魔法はパーティに欠かせない。二人がいるとパーティが安定するな」

 そう言って、残る二人も褒める。言われた当人達も喜んでいた。

「アレンの火力はもちろん見事だ。それに頼っていい場面と、みなで分担して戦う場面を使い分けられれば、もっといい連携ができるだろう」

 フラビオの言葉にみながうなずく。今日の戦いは彼らにとっていい経験になったようだった。彼らの成長に一役買うことができ、フラビオ自身も満足のいく結果だった。報酬が少ないことを除けば、である。

「さて、セリアの魔法も少ないし、今日は引き上げだな」

 こうして一行は、冒険者ギルドに戻ることになった。

 行きは意気揚々だったが、連戦で疲れ気味の四人は、やっとギルドに戻れると心底安堵したものである。


 ギルドに戻ると、いつものようにステラのところへと向かった。

「フラビオさん、ご苦労様でした。それからアレンさん達もお疲れ様」

「いつもありがとうステラさん。魔石の換金、頼むな」

「はい、分かりました」

 ステラが銀貨を手渡しながら、フラビオに尋ねた。

「それでどうでしたか。勇者を名乗る少年達のパーティは」

「独特の連携の仕方をする連中だったが、筋は悪くない。個人個人の力もレベル相応だったし、上層の魔物なら問題なく倒せていたな」

 フラビオの返答に、ステラが真剣な表情で相談してきた。

「彼らにカルスのダンジョンへの出入りを許可して良いものでしょうか」

 本来は、レベルが低いパーティの場合、他のダンジョンに行くことを勧めるのが筋である。レベル十三が適正のカルスのダンジョンに、レベル九の彼らが挑むことを許可するのは、やはり大きな抵抗があった。

「そうだなあ。地下二階までなら、問題ないだろうな。火力だけなら、マスターレベルとそれほど遜色はなかったしな。それに、今回強敵と戦って痛い目にも遭ってもらったし、これからは危険な相手とは戦わないだろう。レベルが上がってから、その先へ進むことを許可するかどうか決めるってことで、ダンジョン自体への出入りは許可していいと思ったな」

 フラビオの言葉には説得力があった。ギルドとして適正レベルは設定しているが、それより低いレベルで出入りしてはいけないという法があるわけではない。王女のようにレベル十で、強力な支援者フラビオと一緒にダンジョンに潜る場合もあるのだ。

「分かりました。なら、彼らにそう伝えましょう」

 そして、ロビーで待機していたアレン達の元に、ステラが赴いた。

「今日の戦いはいかがでしたか」

 まずはそう問いかける。痛い目に遭わせたとフラビオが言っていたので、それでもなお余裕のあるようなことを言うのであれば、カルスのダンジョンへの出入りを禁止するつもりだったのだ。

 しかし、フラビオの教えが強烈に効いていて、アレンも殊勝に答えた。

「はい。正直カルスのダンジョンを甘く見てました。僕達の実力では、まだ上層の魔物を倒すので精一杯のようです」

「そうですか。分かって頂けて何よりです」

 ステラも内心で安堵していた。この調子なら、出入りを許可しても無茶なことはしないだろう。

「ギルドマスターには、アレンさん達のパーティは、地下二階までに限り出入りを許可すると報告することにします。それより下の階へ行きたい場合、今日のフラビオさんのように、強力な支援者が同行することを条件とします。それでよろしいですか」

 アレン達四人が顔を見合わせた。彼らはてっきり他のダンジョンを勧められると思っていたのである。

「分かりました。出入りを許可して頂き、ありがとうございます」

 アレンが代表して礼を言った。そして四人が一斉に頭を下げた。

「無事の戻れてこそ一流の冒険者です。それが守れるなら、ギルドとしてあなた方の行動の自由を尊重します」

「はい。肝に銘じます」

「私からの話は以上です」

 それだけ言うと、ステラは受付に戻っていった。

 代わりにフラビオが四人の元へとやってきた。

「さて、今日の稼ぎを山分けしようか」

 そう言って、さっき換金したばかりの銀貨三十枚を取り出す。

「一人六枚だ。今日は頑張って稼いだな」

「ありがとうございました」

 ここでも四人が礼を言った。無事に戻れて稼ぎがあることを素直に喜んでいた。それも今日の経験があってこそである。

「カルスへの出入りを許可してもらえましたし、フラビオさんには何度お礼を言っても足りないくらいです。本当に助かりました」

 心からの言葉だった。そんな風に思えて何よりだと思う。

「そうか。なら、これからも頑張って強くなれよ」

 今後の成長が楽しみだと、心からそう思うフラビオだった。

 勇者を名乗る少年達も、強敵の厳しさに目を覚まし、最後は素直に助言に従うこととなりました。フラビオもそれを狙って、彼らに良い経験をさせるのでした。自分が倒せばすぐに済むところを、彼らに倒させるのが大人の配慮です。

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