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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十二話 勇者を名乗る少年

「今日から王都オルクレイドの冒険者ギルドで世話になります。勇者アレンと申します。どうぞよろしく」

 まだ少年と呼ばれる年代の男の子がギルドの受付に現れたのは、とある日の夕方近くだった。

 フラビオもちょうどダンジョンから引き揚げてきたところで、その少年達を見かけた。男女各二名ずつのパーティで、この剣を背負った戦士がリーダーのようだった。他は戦士の男、ヒーラーの女、メイジの女という編成だ。

 周囲がざわついている。それはそうだろう。大声で自分が勇者などと名乗るような輩は、自信過剰なのかよほど頭が悪いのかのどちらかとしか思えないからだ。

 受付で応対していたのはステラである。さすがに笑顔が固まった感じで、困っている様子がありありと見えた。

「それで、今日からギルドに宿泊したいのですが」

 少年の話は続いていた。冒険者であればギルドに無料で宿泊できることになっている。それを利用したいという申し出だった。なお、その制度を最大限使って、十七年もここに居着いているのがフラビオだった。

「分かりました。まずは冒険者証を確認します」

 ステラに言われて、アレンとその仲間達が冒険者証を取り出す。

 勇者を名乗ったアレン少年は、職業が戦士のレベル九で十七才だった。ただし、攻撃や回復など、一部の魔法を使うことができた。なるほど、魔法が使える戦士ということで、自らを勇者と名乗っていたのだ。

 もう一人の戦士は名をロッド、同じくレベル九で十七才。ヒーラーはアイリという少女でレベル九の十七才。メイジがセリアという名でレベル九の十七才。同レベルで同年代ということは、ずっとこのメンバーでパーティを組んでいたのだろうか。

「みなさんはずっと一緒にパーティを組んでいたのですか?」

「そうです。学院の卒業後、四人で一緒にイズミルのダンジョンで鍛えてきました」

「なるほど、そうですか。でしたら、パーティのみなさんは、部屋が近い方がいいですよね」

 ステラが他の職員と話をして空き部屋を確かめる。ちょうどフラビオの部屋の隣から順に四つ、使われていない部屋があった。

「当然ですが部屋の管理は各自でお願いします。清掃も時々行って下さい」

「もちろん承知しています」

「では、ご案内します」

 ステラは鍵を四つ持つと、パーティの四人を案内して上の階に向かった。アレンと名乗った少年とその仲間達が後について行く。周囲の好奇の視線が彼らに突き刺さる。それに構わず階段を上っていくあたり、度胸だけは一人前のようだった。

「何だかねえ。変な新人が来たもんだな」

 そんな感想を他人事のように漏らしたフラビオであった。


 翌日。朝食後、いつものようにフラビオは掲示板を見にギルドのロビーに下りてきた。

 すると、ステラが困った顔で応対しているのが見えた。相手は昨日勇者を名乗った少年とその仲間だった。

「ですから、レベル九では、カルスのダンジョンに行くには、実力不足だと申し上げているんです。シーフがいて、危険な魔物を回避できるなら、何とかなると思いますが、みなさんのパーティ編成だと、かなり厳しいです」

「ご心配には及びません。僕達勇者パーティは、イズミルのダンジョンでも最下層まで行けた実力があります。ご安心下さい」

「安心できません。せめて護衛を一人、雇って下さい」

 ステラの視線がフラビオに飛んできた。あ、これ助けてっていう合図だなとフラビオにも分かった。ため息を一つつくと、フラビオは受付へと足を運んだ。

「何だ、少年達、カルスのダンジョンに潜る気なのか。あそこはレベル十三からが適正だ。レベルは足りてるのか?」

 フラビオが横合いから割って入った。ステラに助け船を出した形である。

 アレンが平然と言い返した。

「レベルは九だが、僕達にはそれ以上の実力がある。あなたの心配はもっともだが、僕達なら大丈夫だ。構わないで欲しい」

 こいつは自信過剰だな。フラビオは大げさにため息をついて見せると、諭すように言った。

「お前さん達がダンジョンでくたばっても、それはお前さん達の問題だろうさ。だが、ギルド職員はそうもいかない。初めから無茶だと分かっているのに、行かせたりしたら問題になるからな」

 アレンが真剣な表情で訴える。彼はどこまでも本気だった。

「危険なことはありません。僕達の強さは本物です。王国一難易度の高いカルスのダンジョンでも十分やれます。護衛など不要です」

 折れる気が全くないようだった。フラビオはステラと顔を見合わせ、大きくため息をついてしまった。

「フラビオさん、お願いしてもいいですか?」

「ステラさんの頼みじゃ仕方ないか。報酬もこの連中からじゃ期待できないしな。かといってギルド持ち出しってわけにもいかないだろ。無償で良しとするよ」

 ステラが改まって、アレン達に向き合った。

「どうしてもダンジョンに行きたいという希望は分かりました。でしたら、見届け人として、このフラビオさんをお連れ下さい。危険があった場合でも、この人と一緒なら無事に戻れるでしょう。それがダンジョン行きを許可する条件です」

「断ったら?」

「無許可でダンジョンに入った者は処罰の対象です。無事に戻れたとしても、牢屋に入って頂くことになります」

 ステラも本気で押し切るつもりで、かなり厳しく言い渡した。そうでもしないと話が終わらない。

 アレンがふっと笑うと、承諾の返答をした。

「いいでしょう。僕達の強さを、そちらのフラビオさんに見届けてもらえれば、次からは問題なく出入りできるでしょうから」

 フラビオがげんなりした。王女でさえレベル十でも手助けが必要だったのだ。あまりに無謀すぎると思った。だが、危急の際は彼らを守らなければならない。それも無償で。うれしくない仕事だった。

「まあいい。俺はフラビオ。よろしくな、アレン。仲間のみんなも名前を教えてくれ」

「戦士のロッドです」

「ヒーラーのアイリです」

「メイジのセリアです。どうぞよろしく」

「よろしくな。何かあったら俺に言ってくれ」

 そんなわけで、フラビオはレベル九のパーティのお守りをすることとなったのだった。


「ここがカルスのダンジョンか。みんな、油断なく行こう」

 ダンジョンに到着すると、アレンが仲間に声を掛けた。

「分かってる。真剣にやるさ」

「十分気を付けるわ」

「はい。がんばりましょう」

 それぞれが意気込みも高く、返答してきた。

 まずは地下一階で小手調べだ。

「少し待て。俺が探知魔法を使う」

 フラビオは四人に声を掛けると、魔法を発動させた。

「運がいいな。ジャイアントスネーク三体、ジャイアントバット三体、ロックゴーレム一体、どれもお前さん達の適正レベルだ」

「そうですか。強敵の方が良かったんですけどね。とりあえず、そいつらを蹴散らして、僕達の強さをお見せしましょうか」

 アレンの返答にフラビオがまた脱力した。この程度の相手に手こずるようでは話にならない。強さを見せるほどの相手ではないのだ。

「分かった。順に当たろうか」


 最初はジャイアントスネークとの対戦である。数は三体。

「エンハンスウェポン!」

「ストレングス!」

 セリアとアイリの魔法がアレンに掛けられる。武器強化と身体強化の魔法である。

「ロッドが右、アイリとセリアが真ん中、僕が左をやる」

「了解!」

 まずはロッドが突進する。大楯を構え、スネークの攻撃を見事に防ぐ。噛みつきも尻尾での殴りも、きれいに止めていた。

「ホーリーシールド!」

 ヒーラーのアイリが魔法の楯を使う。彼女も見事にスネークの攻撃を防いでいる。セリアが隙を見て魔法を撃とうと身構えている。

 その間、アレンも突進し、ジャイアントスネークの攻撃をひらりとかわすと、即座に必殺技を放った。

「闘気剣!」

 強化魔法の恩恵もあり、剣の威力が格段に上がっている。真っ向から振り下ろされた一撃が、見事にスネークを両断した。たった一撃でスネークが霧状になって消えていく。

 なるほど、大言を吐くだけのことはあると、フラビオも納得した。しかし、中級者なら十分倒せる魔物である。当然の結果とも言えた。

 アレンはそのまま動いて、アイリとセリアが対峙しているスネークの元に向かう。そして、闘気剣を力強く振り下ろす。

 これも見事に両断。一撃で、スネークが霧状になって消えていった。残り一体。

 アレンは続いて、楯戦士のロッドが攻撃を押さえているスネークへと向かった。そして横合いから鋭い斬撃を放つ。見事に一撃でスネークの首を斬り飛ばす。そしてスネークが霧状になって消えていく。

「全員、無事だな。異常はないか」

「もちろん。大丈夫だ」

 アレンが仲間の無事と異常の有無を確認する。他のダンジョンで鍛えていただけあって、この種の基本はちゃんと身に付いていることに、フラビオは安堵した。それさえいい加減だと、さすがに不安しかない。

 それにしてもだ。

「アレン、何でお前さん一人で全部倒したんだ。セリアの攻撃魔法だってあるだろうし、ロッドが武器を使って戦っても良かったんじゃないのか」

 当然の疑問だった。連携として、火力一極集中というのも決して悪いことではないが、仲間の戦力を生かさず、無駄が多いようにも感じたのだ。

「これが僕達の戦い方なんです」

 アレンが淡々と答える。

「もちろん、ロッドもアイリもセリアも戦えますが、僕の攻撃が一番威力があるので、効率重視でこういう戦い方をしているんですよ」

「そうか。分かった。次も頑張れよ」

 フラビオとしても、ここで何を言っても始まらないと思い、彼の言葉をそのまま受け入れることにしたのだった。


 次の相手はジャイアントバット三体。体長一メートルくらいの大型のコウモリ型の魔物である。周囲を飛び回って、噛みつきやひっかきなどの攻撃を行うが、それほどの威力はない。ただ、動きを捉えるのが少し難しい。

 そして交戦が始まった。

 リーダーのアレンが指示を飛ばす。

「強化魔法はいらないだろう。ロッドとセリアが楯、後は僕がやる」

「了解」

「分かったわ。マジックシールド」

 戦士のロッドが大楯を構え、メイジのセリアが魔法の楯を発動させた。アイリがその楯に守られる形になる。

 当然、ジャイアントバットもこの動かない相手を放ってはおかない。周囲を飛び回って、うるさいばかりの攻撃を仕掛けてきた。

 しかし、二人の頑丈な楯を突破する威力はない。三人はじっと身を守りながら、アレンが反撃してくれるのを待った。

 しばらくして、楯を攻撃して動きが止まったバットの一体に、アレンが強烈な斬撃を放った。一撃でバットが両断され、霧状になって消えていく。作戦通りである。

 味方が一体倒されたことで、バットの動きが活発になった。思考力などはないはずだが、危険を察知し、攻撃を警戒するような動きだった。そして不意を突いて攻撃してくる。

「チャンスだ、シールドバッシュ!」

 ロッドが、そのうちの一体が攻撃を仕掛けてきた瞬間、カウンターで技を放った。楯を突き出し、相手を攻撃する技である。見事バットにダメージが入り、一瞬だが動きが止まる。

「もらった!」

 ここで、またアレンが痛烈な斬撃を放ち、バットの体を見事に両断する。そしてそのバットが霧状になって消えていく。残り一体。

 最後の一体が、急上昇から急降下して攻撃をしてきた。しかし、二人の楯に阻まれて攻撃は通らない。しかし、反撃を避けて急上昇し、手の届かない場所まで逃げていく。大きく円を描くように飛び回り、攻撃の隙を窺っているようだった。

 しかし、所詮は魔物である。しつこく攻撃してきたところで、またもロッドが技を放つ。

「シールドバッシュ!」

 攻撃の瞬間にこそ最大の隙ができるのだ。それを見事に捉えた技だった。カウンターで楯の攻撃が入り、バットの動きが一瞬止まる。

「よし、いいぞ!」

 すがさずアレンが斬撃を放つ。これまた見事にバットを両断した。そしてバットが霧状になって消えていく。

 アレンはそのまま仲間の無事と異常のないことを確認する。問題のないことが分かると、フラビオに向かって胸を張って言い放った。

「どうです、僕達の強さは本物でしょう」

 フラビオが内心で呆れながらも、口では褒めるようなことを言った。

「確かに作戦は良かったな。安全に倒せるし、楯でカウンターを入れたのも良かったし、剣の斬撃も見事だった」

 それでも、一言だけ苦言を呈した。

「だが、攻撃魔法を使えば、もっと早く片付いただろう。その辺の連携も身に付けた方がいいぞ」

 アレンが見るからに不服そうな顔をした。

「僕達は安全に、確実に魔物を倒しています。それで十分でしょう」

 フラビオはそれを軽くいなした。

「手際がいい方が、より安全で確実なだけだ。覚えておくといい」

 そして一言付け加えた。

「ロックゴーレムとはどう戦うのか、じっくり見させてもらおうか」


 それから五人は先へと進み、少し開けた場所に出た。

 その場所の中央に、大きな岩の塊があった。

 近づいて見ると、その岩が形を変え、手が生え足が生え、そして頭が作られていった。岩でできた全長三メートルほどの人型の巨体、それがロックゴーレムだった。

「面倒な相手だが、ここは一つ、勝てるところを見せてやろう」

 アレンがそう言うと、仲間の三人がうなずいた。フラビオも、それだけ自信があるなら、さぞ見事な戦いをするのだろうと期待していた。

「ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

 今回もアイリとセリアの強化魔法がアレンに掛けられる。ロッドが楯を構えて前進し、その後ろをアレンがついていく。

 やがて、ゴーレムの間合いに入ったところで、ロッドが楯をしっかりと構え直す。

 ゴーレムの拳が飛んでくる。ロッドがその攻撃を楯でしっかりと受け止める。その瞬間、隙を窺っていたアレンが飛び出し、ゴーレムに勢いよく斬撃を浴びせる。

「闘気剣!」

 三重に強化された斬撃がゴーレムの腰の辺りを斬り裂く、はずだった。しかし、ゴーレムの硬さが上回り、わずかな傷をつけただけに終わった。アレンが繰り返し同じ場所を狙って斬りつけ、少しずつゴーレムの傷を増やしていく。

 そこへゴーレムの蹴りが飛んでくる。アレンが急ぎそこから離れ、攻撃を避ける。ロッドがその蹴りを楯で防ぎ、アレンを守った。

 そしてゴーレムの拳が再び飛んでくる。二人は体勢を整え、その攻撃に備えた。ロッドの楯が高らかな音を立て、その攻撃を防ぐ。そしてアレンが飛び出して斬撃を加える。ゴーレムにある程度傷が入ったところで、反撃を避けてアレンがまた楯の陰に戻る。ゴーレムの蹴りをロッドがまた楯で受け止める。

 その戦いぶりを見ていたフラビオが呆れた声を出した。

「おいおい、まさか、これでゴーレムを倒し切る気か」

 そんな地道な作業を重ねて倒すなど、非効率にもほどがある。もっと簡単な倒し方があるというのに。

 その疑問に答えたのはメイジのセリアだった。

「ええ、そうです。ロックゴーレムがいくら硬いとは言え、限度というものがありますから。いつもこうやって倒してきたんです。見ていて下さい。アレンならやりますから」

 戦いが始まって五分ほどが経過し、確かにゴーレムの腰回りの傷が大きく、深くなっていた。

「強化魔法!」

 アレンが叫ぶ。最初に掛けた魔法の効果が切れていたのだ。

「ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

 再びアイリとセリアの強化魔法がアレンに掛けられる。

「闘気剣!」

 そして攻撃が再開された。ゴーレムの攻撃をロッドが防ぐ。アレンが飛び出して斬りつける。ゴーレムの反撃をアレンが避け、ロッドが受け止める。アレンが再び飛び出し、ゴーレムに斬りつける。その繰り返しを何度行っただろうか。

 そしてついに、その時が来た。

 頑丈なロックゴーレムも、三重に強化された斬撃を同じ場所に受け続けたことによって、腰の部分が大きく削られていた。そこから体が二つに折れたのである。

 ついにゴーレムが霧状になって消えていった。

 アレンが仲間の無事と異常のないことを確認し、一息ついた。

「どうです、勝ちましたよ」

 さすがのアレンも結構疲れたらしく、息を荒くしている。

 まあ、確かに勝つには勝ったが、それにしても苦労の多い戦い方である。

「アレン、ゴーレムを温度差で砕くって攻撃方法、知らないのか?」

 純粋に疑問に思ったフラビオが尋ねる。アレンが軽く首を振った。

「知りません。どういうことです?」

 これにはさすがのフラビオも驚いた。まさか本当に知らなかったとは。パーティの全員が、強力なアレンの斬撃に頼っていたことが良く分かった。それが通用しなくなったら、このパーティは下手をすれば全滅してしまうだろう。せっかく若く有望な冒険者達なのだ。無駄に失うようなことはあって欲しくないと思った。

 さて、どうするか。フラビオとしても考えどころであった。

 この作品の舞台には勇者という職業はありません。それでも勇者を名乗る少年がいて、彼らのパーティがダンジョン攻略に挑む話です。もちろんレベル不足。フラビオが同行しますが、支援が難しいのでした。

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