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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第三十一話 パーティには連携が重要

 フラビオは朝一番に井戸端へと向かう。顔を洗って水を飲み、体を目覚めさせるのが習慣だった。

 それが終わると、一息入れた後に料理屋に行って朝食を取る。この日はたまたまステラも来ていた。

「やあ、ステラさん。相変わらず早いな」

「フラビオさんこそ。せっかくですから、一緒に食べましょう」

 ベーコンスクランブルエッグとサラダにスープ、それにパンという定番のメニューを注文し、ステラの前の席に座る。

「昨日は楽しかったですね。カタリナ様も良い方でしたし」

「これもステラさんが俺を誘ってくれたおかげだ。改めて礼を言うよ。ありがとう」

 そして二人で雑談をしながら朝食を取る。一人で食べるより、二人の方がおいしく感じる。

「ごちそうさま。ステラさんはすぐ仕事かい?」

「そうです。じゃあ、また後で」

「ああ。また後で」

 ギルドの受付は朝が早い。逆に昼頃は空くので交代で休憩を取る。そして夕方が魔石の換金などでまた忙しくなる。

 ステラが立ち去ると、フラビオも一旦自室へと戻るのだった。


「あれ、この男、前にも依頼出してたよな」

 いつものように冒険者ギルドの掲示板を見ると、フラビオ指名の依頼が貼ってあった。

「パーティの連携についてご指南頂きたい。ニコル」

 いつぞや、キメラにフラビオを倒させようとして失敗した男である。またステラ絡みで何かあるのだろうか。少し警戒しつつ、ステラに依頼について聞いてみる。

「この依頼なんだけど」

 フラビオに聞かれ、ステラはなるほどとうなずく。

「この人、レベル十五の戦士なんですが、これまで戦士二人、ヒーラー一人でパーティを組んでいて、時々メイジやバッファーの助っ人を頼んでいたんです。最近になって、ようやくメイジが加入してくれたみたいで、それで新しいメンバーとの連携を深めたいみたいです。ほら、スターライトってパーティの人達、レベルが上がったじゃないですか。彼らに追い抜かされたくないみたいで、今回はかなり真剣みたいですよ」

 なるほどとフラビオがうなずく。まともな依頼なら引き受けてもいいだろうと思う。

「ありがとう。話を聞いてみるよ」

 フラビオは受付を離れてロビーでしばらく待った。

 やがて、以前見かけた顔がフラビオの元へとやってくる。

「フラビオさん、依頼見てくれましたか」

「ああ。連携の指南という話だったが」

「そうなんです。改めて自己紹介しておきます。俺はニコル、レベル十五の戦士でアタッカーです。みんなも名乗っておいてくれ」

 パーティの仲間達がうなずき、それぞれが名乗りを上げる。

「俺はパスカル、同じくレベル十五の戦士で、同じくアタッカーです」

「俺はクレマン、同じくレベル十五のヒーラーです」

「俺はトニオ、最近ニコルのパーティに加入しました。レベル十五のメイジで、炎と氷の上級魔法が使えます」

 一通り名乗ったところで、ニコルが話を続けた。

「トニオが入ってくれたので、戦い方にも幅がもてるようになりました。でも、なんか連携がしっくりいかないい感じで。戦い方を直接教わりたくて依頼を出しました」

「なるほど。ところで、ステラさんの件はもういいのか?」

 以前の話をフラビオが蒸し返した。意地悪でそう言ったのでなく、ただ実際のところを確かめたかっただけである。あれからもフラビオとステラが親しげにしている場面は何度も見ているだろうから、その辺の遺恨が残っているなら指南どころではないだろうと思ったのだ。

「それはその、ステラさんには憧れてますけど、でも、もういいんです。王都にはかわいい娘も大勢いるって分かりましたし」

「そうなんですよ。この前、工房街で働いている女の子達と知り合いましてね。一緒に仲良く一杯飲んでたんです。あれは楽しかったなあ」

「ニコルもパスカルも調子いいことばかり言ってたっけな。でもまあ、満更悪い反応じゃなかったよな」

「総勢八人が、集団お見合いかと思ったくらい、楽しく飲んでたんですよ。冒険者なんてすごい、魔物と戦うんでしょ、かっこいいとか言われて、結局俺達全員、かなり浮かれてましたね。ですから、そこの三人も以前のことは申し訳ないと思っていますので」

 話を聞いてみると、若い連中だけあって現金なものだった。だが、それで納得しているならそれでいい。

「報酬の件はどうだ。いつも通り、金貨一枚と、それを除いた分の報酬を分け取りにすることになるが」

 金貨一枚は銀貨二十枚である。一日の指南でそれだけ取るのだから、相変わらずフラビオががめついと言われるのも当然である。

「もちろん承知しています。それでこの先の討伐が楽になるなら、安いものですよ」

「分かった。そういうことなら引き受けよう」

「ありがとうございます」

「よろしくお願いします」

 四人が揃って頭を下げた。その様子に彼らの本気を感じて、フラビオも真剣に指南してやろうと思ったのだった。


 ダンジョンに着くと、フラビオの案内で、一行は一気に地下八階にまで下りた。マスターレベル以上でないと厳しい魔物ばかりの場所である。彼らはそれより二レベル高いので、魔物を倒す練習にはちょうど良い階層だった。

 そこでフラビオが探知魔法を使う。

「マンティコアが一体、ハイガーゴイルが三体、トロルが一体。近くにいるのはそんなところだ。魔法をうまく使えば簡単に倒せるだろう。そういや楯役はいなかったんだっけ?」

「ヒーラーのクレマンがホーリーシールドで楯役を兼ねてます」

「分かった。負担は重いが、クレマン、よろしく頼む」

 そして、まずはマンティコアの待つ場所へと向かう。

 探知した通り、確かにマンティコアがいた。人の顔をした胴体が獅子の魔物で、尻尾には毒針がついている。大きさは三メートル程度。噛みつきや尻尾の攻撃に加え、魔法まで使ってくる。この前、マスターレベルのスターライトという名のパーティが倒した相手だ。連携がうまくいけば、そんなに厄介な相手ではないだろう。

「先制の魔法一発でマンティコアの魔法を止めて、一気に接近、戦士二人でうまく顔面にダメージを入れるんだ。その間、楯役が攻撃を防ぐ。メイジは後方で待機、ダメージが入ったら爆発魔法を叩き込め」

「分かりました」

 四人がうなずく。

 そして最初は強化魔法からだ。

「ストレングス!」

 クレマンの魔法がニコルとパスカル、二人の戦士に掛けられる。身体強化のこの魔法は戦術の基本とも言える。

「エンハンスウェポン!」

 メイジだが強化魔法を使えるトニオも、攻撃力増強の魔法を戦士二人に掛けた。これで準備完了である。

「よし、突撃だ」

 まずは前衛の三人が突っ込む。それと同時にトニオが魔法を発動させた。

「アイシクルランス!」

 マンティコアの口の中を狙って、氷の槍を放った。三人の突撃を見たマンティコアが魔法を放とうと口を開いた正にその瞬間、氷の槍が口の中に突き刺さる。マンティコアの魔法が不発に終わり、大きな隙ができた。

 そこにニコルとパスカルが一気に接近して斬りかかる。顔面目掛けて鋭い斬撃を叩き込んだ。大きく傷が入り、マンティコアがぐらつく。

 それでもマンティコアは反撃してきた。前足で殴り掛かり、尻尾を振るって毒針を突き刺しにくる。

「ホーリーシールド!」

 作戦の通り、クレマンが魔法の楯を展開して攻撃を防ぐ。戦士二人が楯の陰に隠れ、攻撃から身を守る。

 その間に、トニオも楯の後ろへと駆けつけてきた。攻撃がうまく決まったら、魔法を叩き込むために接近してきたのだ。

「よし、攻撃だ」

「任せろ」

 ニコルとパスカルが楯の外へと飛び出し、両側から攻撃を再開した。時折尻尾についている毒針が飛んでくるが、その程度は難なく避ける。一撃、また一撃と着実に顔面にダメージを与えていく。強化魔法の恩恵もあって、着実に傷を深くしていった。

 ある程度傷が大きくなったところで、トニオが叫んだ。

「とどめ、いくぞ!」

 ニコルとパスカルの二人がさっとマンティコアから離れる。

 それを見て、次の瞬間にはトニオが魔法を発動させていた。

「エクスプロード!」

 傷だらけのマンティコアの顔面を起点に爆発が起こった。さすがはレベル十五、威力も十分である。爆発が顔面を粉砕し、上半身にまで威力が及んでいた。そしてマンティコアが霧状になって消えていく。

「よし、やったぜ!」

 ニコルが快哉を上げる。そして仲間の無事と異常の有無を確認する。基本をきちんと守るところは、立派な冒険者であった。

「フラビオさん、どうでしたか」

 余裕で倒せたとは言え、やはり事前に作戦を教えてもらったのが大きい。メイジのトニオがいなかった頃は、ひたすら斬っては隠れ、飛び出しては斬りの繰り返しだったから、とどめの魔法の効果も大きかった。それらも含めて、先達の意見を聞きたかったのである。

「いいと思うぞ。前衛がダメージを与え、後衛でとどめというのは、よくある作戦だからな。楯役もしっかり仕事をしていたし、作戦通り手際よく倒せていた。見事だ」

 フラビオがきちんと説明を加えてニコル達を褒めた。

「ありがとうございます」

 四人がそれを聞いて喜んだ。すんなりと作戦通りに戦えたことが、連携が高まった証拠のように思えたのである。

「では、次に行くか」

「はい。よろしくお願いします」


 次の相手はハイガーゴイルが三体。ガーゴイルの上位種で体長二メートル半と一回り大きい。頑丈さや力強さも増していて、空中を飛び回るので倒すのに手間のかかる相手だ。

「さて、どう戦う?」

 今度はフラビオもパーティメンバーに作戦を尋ねた。連携を深めるなら、自分達で作戦を考えることも必要だろうと思ったのである。

「そうですね。俺とパスカルが一対一で敵を引き付けている間に、トニオの火力で一体を片付ける。その後は、一体ずつ丁寧に仕留めれば、楽に勝てるのではないかと」

 ニコルが作戦を考え、そう提案してきた。トニオがうなずく。

「クレマンのシールドを使わせてもらえれば、俺の魔法で一体は仕留められると思う。でも、その間、ニコルとパスカルは大丈夫なのか。一対一だと厳しい相手だぞ」

 その疑問にはパスカルが答えた。

「大丈夫だ。トニオが入る前は、三体相手の場合、クレマンが一体押さえている間に、俺とニコルが一体ずつ片付けていたんだ。もちろん、激しい攻防になって、傷をいくつももらうような戦いになるけどな。無理に倒さないでいいなら、攻撃を避けて防ぐだけでいいから、大したことはない」

「一体倒した後は?」

 これはクレマンだ。パスカルが続けて答えた。

「戦力を集中して当たるのが筋ってもんだろ。二人はニコルの応援に行って、さっさとその一体を片付ける。最後に全員で俺が相手してるヤツを倒せば終了だ。それでどうだ」

 ニコルがそれに賛成した。

「パスカルには負担掛けるが、俺はそれでいいと思う」

 そしてフラビオに向き直る。

「そんな感じの作戦でいこうと思いますが、どうでしょうか」

 フラビオが感心した。理に適っているし、自分達の戦力をしっかりと見切っているし、良い作戦だと思った。

「パーティメンバーのことをよく考えてあるな。いい作戦だ。頑張れ」

「ありがとうございます。じゃあ、いくぞ」

 そして四人がハイガーゴイルのところへと突撃する。

「俺が真ん中、パスカルは右、クレマンとトニオは左!」

 ニコルの指示で、それぞれが相手に向かっていく。

 そのニコルにも、早速ハイガーゴイルの鍵爪が襲い掛かってくる。

「当たるか!」

 体ごと攻撃を避けて、反撃を放つ。浅かったが、わずかに傷をつけることに成功していた。

 同じようにパスカルもハイガーゴイルとの対決に入った。攻撃を避け、剣で弾き、時折反撃を加える。一対一では長い戦いになりそうだった。

 だからこそ重要なのがクレマンとトニオの二人組だ。

「ホーリーシールド!」

 クレマンが攻撃を受け止め、ハイガーゴイルの動きを引き付ける。執拗な攻撃が加わるが、魔法の楯はその程度ではびくともしない。

 ガーゴイルが飛び回るのを止めたことで、大きな隙が生じた。

 トニオがシールドの後ろから魔法を放つ。

「フレイムピラー!」

 炎の柱がハイガーゴイルを包み込む。高熱に焼かれて、その動きが一瞬だが完全に静止した。

「とどめ、アイシクルランス!」

 氷の槍が高熱で焼かれたハイガーゴイルの体に突き刺さる。急激な温度差もあって、その体が見事に貫かれていた。そして、魔物が霧状になって消えていった。

「よし、まず一体」

「次はニコルのところだな」

 一体仕留めた二人がニコルの援護に駆けつける。

「ホーリーシールド!」

 クレマンがニコルとハイガーゴイルの間に割って入り、その攻撃を食い止める。ニコルは元々アタッカーだ。これで攻撃に専念できる。

「アイシクルランス!」

 相手が増えたところで空中に逃げようとしたガーゴイルの体に、トニオの魔法が突き刺さる。ガーゴイルの動きが止まり、地上へと落下する。

「お見事! とどめだ、闘気剣!」

 ニコルが必殺技を放つ。闘気によって剣の威力を増す技である。威力を増した斬撃が、真っ向からハイガーゴイルを斬り裂く。

 見事に真っ二つとなり、ハイガーゴイルが霧状になって消えていく。

「残り一体!」

 三人がパスカルの援護に向かう。

 パスカルは一人で防御主体に戦っていて、一進一退の攻防が続いていた。そして、その戦いも終わりを迎えることとなった。

「待たせたな。とりゃっ!」

 ニコルが横から斬撃を加え、ハイガーゴイルの羽に大きな傷をつけた。

「ありがたい。闘気剣!」

 パスカルもここで反撃に転じ、必殺の斬撃を放って、ニコルとは反対側の羽を斬り裂く。両羽に大きなダメージを受けて、ハイガーゴイルが地上に落ちた。

「とどめ、エクスプロード!」

 トニオが爆発の魔法を発動させた。ハイガーゴイルの体が砕け、破片が飛び散っていく。そして霧状になって消えていった。

「みんな無事か、異常はないか」

 ニコルの確認に、全員が無事と異常のないことを伝えてきた。

「やりましたよ、フラビオさん。作戦通り、ケガ人もなく倒せました」

 ニコルがうれしそうに伝えてくる。フラビオも強くうなずいた。

「これだけ連携できれば大丈夫だろう。次、いってみようか」


 次はトロルだった。体長三メートルほどの人型の巨体。体表は黄土色と茶色の中間くらいか。力が強く頑丈そうな魔物である。

「左足に集中攻撃、倒れたら頭部を潰す。いくぞ、みんな」

 たった二戦だったが、ニコルも作戦に関しての自信がついたようだった。仲間に指示を下すと、即座に交戦に入った。

「ストレングス!」

「エンハンスウェポン!」

 まずは戦士二人に強化魔法だ。

「闘気剣!」

 その上にさらに威力を上乗せする。そしてトロルの攻撃を避けると同時に、強烈な斬撃を叩き込む。

 二人の攻撃が見事にトロルの左足を捉え、一気に斬り裂いた。左足を失って、トロルがバランスを崩し、地に倒れる。

「今だ、頭部を!」

 アタッカー二人の攻撃は強烈だった。二人の一撃で、トロルの頭部は粉砕されていた。

 そして二人は、そのまま胴体へも斬撃を加えた。あっという間にトロルが斬り裂かれ、そして霧状になって消えていった。防御面では少し不安のあるパーティだが、その攻撃力は圧倒的に高かったのである。

「見事だ。あっという間だったな。さすがだよ」

 フラビオが褒めた。強化魔法に闘気剣で攻撃力を最大限に上げ、一気に倒し切る。本当に大したものだと思ったのである。

 全員の無事と異常のないことを確認したニコルが、フラビオの言葉に胸を張った。

「俺達もレベル十五ですから。トロルごとき、簡単なものですよ。でも、おかげで連携をうまく取れる自信もつきました。ありがとうございます」

「これでもう、パーティみんなの実力が生かせるだろう。俺からはもう言うことはないな」

 フラビオはそう言ったが、ニコルがニヤリと笑って言い返してきた。

「いいえ、まだあるでしょう。今日の討伐、まだ赤字だってヤツ」

 フラビオが目を丸くした。確かにその通りだが、それをまさか先に言われるとは思わなかったのだ。

「黒字になるまで討伐を続けましょう。フラビオさんも、適当に戦ってくれて構いませんから」

「分かった。じゃあ、もう少し、魔物倒して帰るか」

 そして五人は、そのまま魔物の討伐を続けたのだった。

 フラビオは高レベルメイジですから、後進のパーティに支援をすることがどうしても多くなります。今回は久々登場の、ステラさんに憧れていた面々です。一人増えて戦力も高まり、見事な連携も身に付けました。

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