第二十七話 四人のレベルアップ
ダンジョンから引き揚げている最中、パーティスターライトの面々から、また要望が出された。
「明日もご一緒していただけませんか」
リーダーのアルベルトを皮切りに、エリアス、ソフィア、クロエの三人も訴えてきた。
「頼まれてくれるとありがたい。あと少しでレベル上がる気がするんだ」
「フラビオさんがいると、安全度が一気に増しますから、ついてきてくれるとすごく助かります」
「魔法を撃つタイミングとかも教えてくれるので、ありがたいです」
フラビオがちょっと驚いた顔になった。いくらレベル上げたいとは言っても、報酬として稼ぎの多くを持っていくフラビオだ。二日連続で頼んだりしたら、懐が痛いのではなかろうか。
「俺の報酬、高いのを知ってて、それでも頼むのか?」
念のため聞いてみる。すると、全員が揃ってうなずいた。
「今が一番大事な時なので、金は惜しみません」
そんな返答が返ってきた。
「そういうつもりなら、俺は構わない。いいだろう。明日も同行しよう」
フラビオとしても、ちょうど良い稼ぎになるだけでなく、彼らの成長を見届けたいという気持ちもあった。
「やった! じゃあ、また明日お願いします」
「頼りにしてるぜ、フラビオさん」
「本当に助かります。ありがとうございます」
「またいろいろ教えて下さいね」
四人が口々に同行を喜んでいた。そんな風に頼りにされるのは、フラビオとしても悪い気分ではなかった。
「おかえりなさい、フラビオさん。今日も四人の手助け、順調にできたみたいですね」
ギルドに戻ると、いつものようにステラが受付で出迎えてくれた。
「もちろん。あの連中、ずいぶん連携も良くなったし、技の切れも良くなってる。良く成長してるよ」
ステラが微笑む。若い男共がうらやむ美しい笑顔である。
「そうですか。フラビオさんの教えが良かったのも大きいと思いますよ」
「そうかな」
「きっとそうですよ。それに、いざとなれば上手に手助けしてくれますし、一緒にいると安心感も違いますから」
「なるほど。連中も同じようなことを言ってたな。実は、明日も同行してくれと頼まれた。どうしてもレベルを上げたいんだと」
「さすがフラビオさん、頼りにされてますね」
ステラと話していると気分がいい。自分が他人の役に立っているのだと実感できる。何よりステラは美人で、見た目でも癒される。
「ありがとう。俺もやる気出てきたよ。連中、スターライトって名前だったな、確か。そのスターライトの四人、きっちり面倒を見てやるさ」
そう言うフラビオは本当に頼もしい。ステラも目を見張るくらいに心強さを感じた。
「ええ。大事な若手冒険者、どうぞよろしくご指導くださいね」
「任せろ。じゃあ、風呂にでも行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
ステラがフラビオの後姿を笑顔で見送る。彼女にとって、このごく短い時間のやり取りでも、とてもうれしい時間なのだった。
そして翌日。フラビオも早々に支度を済ませ、ロビーに下りた。
スターライトの四人はすでに来ていた。やる気十分である。
「今日もよろしくお願いします」
四人が揃って頭を下げる。
「分かってる。任せておいてくれ」
そしてフラビオはステラに一言掛けた。
「それじゃあ、いってきます、ステラさん」
「はい。吉報、お待ちしてますね」
四人もそれぞれ挨拶をして出発である。
ダンジョンに向けて、元気良く歩いていくのだった。
フラビオは、途中の面倒を避けて、一気に地下五階にまで下りた。少し魔物は強くなるが、その分、経験も多く積めるはずである。
まずは探知魔法を使う。
「まずはトロルにマンティコア、レッサーデーモン、どれも一体ずつだ。少し重めだが、十分勝てるだろう。ん、まだ大物がいるな。ファイアージャイアントだ。前にも戦ったよな。またイレギュラーらしい」
フラビオの言葉に、四人が眉根を寄せた。以前、フラビオに手伝ってもらって、何とか倒したことがある。しかし、かなり苦戦した相手だ。レベル的にまだ厳しいのは良く分かっていた。
「ファイアージャイアントは後で考えよう。まずは三体、行けるか?」
フラビオが問いかけると、四人が力強くうなずいた。
「じゃあ、まずはトロルからだな」
そして、魔物の討伐が始まった。
トロルは体長三メートルほどの人型をしている。体表は黄土色と茶色の中間くらいで、見るからに力が強く頑丈そうな魔物である。つい最近では、フラビオは王女殿下とこの魔物を狩っている。彼女はレベル十で、しかも一人で立ち向かったため、かなり苦戦していた。
しかし、マスターレベルともなれば、十分に倒せるはずだ。
「ファイアボール」
フラビオが火球の魔法で先制の一撃を与える。胴体に直撃し、トロルが軽く後ずさる。パーティの面々のために、一瞬の隙を作ったのだ。
「ストレングス!」
戦士二人が強化魔法を掛けてもらい、猛然と突進する。
エリアスの刺突がトロルの胴にいくつもの穴を開け、アルベルトの斬撃が大きく腹部を斬り裂く。
一気にダメージが入ったところに、クロエの魔法が炸裂する。
「エクスプロード!」
爆発魔法が傷口を起点に炸裂した。そしてその胴体を大きく深くえぐり、体を二つにへし折った。トロルが地に倒れ、霧状になって消えていく。
「フラビオさん、ありがとうございます」
リーダーのアルベルトが礼を言った。たった一発の魔法だが、それが短時間で勝利を得るのに効果的だったからだ。そして、仲間の無事を確認する。いかに楽勝であっても、無事と異常の有無の確認は怠ってはならない。
「全員大丈夫です。では次に」
「分かった。マンティコアだな」
マンティコアは、人の顔をした胴体が獅子の魔物で、尻尾には毒針がついている。大きさは三メートル程度。噛みつきや尻尾の攻撃も厄介だが、それ以上に魔法を使ってくるのが脅威である。
ここでもフラビオが先制の一撃を放った。
「アイシクルランス」
氷の槍がマンティコアの口の中に突き刺さる。その一撃で、魔法と噛みつきを封じ込めたのだ。
「チャンスだ。一気に行くぞ」
「ストレングス!」
またも強化魔法の支援を受けた戦士二人が突進し、強烈な攻撃を見舞う。
「三段斬り!」
「流星突き!」
二人の攻撃がマンティコアの顔面を斬り裂き、大きな穴を開けた。
そして同じくクロエのとどめの魔法が炸裂する。
「エクスプロード!」
顔面を起点に爆発が起こり、マンティコアの前半身を吹き飛ばす。そして霧状になって消えていった。
そして全員の無事を確認したところで、アルベルトがフラビオに尋ねた。
「先制の一撃、助かるんですけど、珍しいですね。何か理由でも?」
フラビオは事も無げに答えた。
「レベル上げたいんだろ。効率良く倒さないとな」
なるほど、そういう配慮だったかと、パーティの四人が納得する。確かに相手の攻撃を一撃で封じ、隙を作ってくれればすぐに倒せる。
「そうでしたか。ありがたいです」
「よし、次はレッサーデーモンだな」
五人は二戦目も圧勝し、次へと進んでいった。
レッサーデーモンは、体長三メートル半近い悪魔型の魔物だ。悪魔らしく角の生えた頭部に赤っぽい色の体表。人型をしていて羽はない。デーモンの中では下級だが、魔法をレジストする能力がある。レジストに対抗するには、至近距離から高威力の魔法を繰り出す必要があった。
なので、今回はさすがにフラビオも接近せざるを得ない。
パーティに先駆けて、デーモンめがけて突進する。
途中、火球がいくつか飛んできた。デーモンが放ったファイアボールの魔法である。フラビオはその軌道があらかじめ分かっているかのように、ごく簡単にそれらを避けていった。
そして間合いに入るなり、魔法を一撃放つ。
「アイシクルランス」
またも氷の槍がデーモンの口を貫く。これで当分魔法は使えないはずだ。
「ストレングス!」
いつも通り、ソフィアが強化魔法を戦士二人に掛ける。
突進したアルベルトとエリアスが、即座に必殺技を放つ。
「闘気剣! 三段斬り!」
「闘気槍! 流星突き!」
その攻撃はデーモンの左足に集中していた。斬撃と刺突の威力がその足を一気にへし折る。デーモンが体勢を崩し、地に倒れた。
「まだまだ! 三段斬り!」
「流星突き!」
今度は倒れたデーモンの頭部に攻撃を集中する。さすがのデーモンもこの攻撃に頭部を破壊され、大きなダメージを受けた。
そして、またもクロエが一気に接近し、とどめの魔法が放った。
「エクスプロード!」
原形を失った頭部を起点に、爆発が湧き起こる。その威力はデーモンの上半身を吹き飛ばした。そして霧状になって消えていく。
仲間の無事を確認し、アルベルトが嘆息した。
「いつもはもっと苦戦するんですけどね。フラビオさんがいるだけで、こんなに簡単に倒せるんだから、こいつはずるいよなあ」
仲間も同じ心境のようだった。
「本当ね。私、強化魔法しか使ってないわ」
「同じく。爆発魔法でとどめ刺すだけだった」
「俺もあっさり攻撃が通るから、すごく楽だったな」
さすがはフラビオだと感心していた。やはり金貨一枚を報酬として要求するだけのことはある。
「さて、ファイアージャイアントだが、やるか?」
フラビオの確認に、アルベルトが答えた。
「こんな風に手伝ってもらえるなら、勝てると思います。やります」
「分かった。なら、戦おうか」
そして五人は、次の場所へと向かった。
ファイアージャイアントは、体長四メートルを超える炎の巨人だ。力も強く、岩などは簡単に割り砕く。表皮も硬く、その上耐久力も高いので、少々の傷ではびくともしない頑丈さをもっている。
前回は、フラビオに必要最小限の手助けをもらって、何とか倒せた相手だが、かなり苦戦したのを四人はよく覚えている。
「今回は一気にやるぞ。ブリザード」
間合いに入るなり、フラビオが氷の中級魔法を発動させた。一定範囲を凍り付かせる威力のある魔法だ。その一撃は、ファイアージャイアントを凍り付かせ、動きを封じていた。
「うわ、反則だろ、これ」
あまりの威力にアルベルトが呆れ、つぶやいた。
「いいから、さっさといくわよ。ストレングス!」
ソフィアがそんなリーダーを叱咤し、強化魔法を掛けた。もちろん、もう一人の戦士エリアスにもである。
「分かってる。突撃する」
戦士二人が突っ込むのを見て、フラビオが魔法の続きを発動させた。
「クラッシュ」
ファイアージャイアントを包んでいた氷が一気に割れて砕けた。無数の氷の破片が、ジャイアントを次々と傷つけていく。氷がなくなった時、その全身は傷だらけになっていた。
「左足!」
「了解!」
アルベルトとエリアスが息を合わせて必殺技を放つ。
「闘気剣! 三段斬り!」
「闘気槍! 流星突き!」
その攻撃が見事に決まり、ジャイアントの左足を砕くことに成功した。
ジャイアントが地上に倒れる。後は頭部に集中攻撃だ。
アルベルトとエリアスが斬撃と突きをジャイアントの頭部に集中する。一撃ごとに穴が開き、傷が開き、ごく短時間で大きな穴を開けていた。
「とどめ、エクスプロード!」
最後はまたもクロエの爆発魔法だ。破壊された頭部を起点に爆発を起こし、一気に上半身を砕いていた。ファイアージャイアントが動きを止め、霧状になって消えていく。
「よし、楽勝だ。全員無事だよな」
まずはアルベルトがいつもの通り、無事と異常の有無を確認をする。もちろん、全員問題なしである。
「ブリザード一発でこの威力、さすがフラビオさんね。こんなに簡単にファイアージャイアントが倒せるなんて、驚きだわ」
ソフィアが心底感心して言った。同時にあることに気付く。
「あ、みんな、冒険者証を確認して」
全員が携帯している冒険者証を取り出す。すると、冒険者証が淡く発光しており、レベルや能力値など、記された数値が書き換わっていく。
「やった、久々のレベルアップだ!」
「長かったような、短かったような。でもこれで晴れてレベル十四だな」
「ええ。王都に来てから、ずいぶん魔物と戦ったものね」
「私がパーティに加わってからも、ずっと戦っていましたから」
四人が苦労が報われたことを喜んでいた。
フラビオも、かつてそんな時期もあったなと、感慨深く思い出していた。若く有望な冒険者が育つのは、見ていても気分のいいものだった。
「やっぱり、今のファイアージャイアントが大きかったな。フラビオさんのおかげで、無事に目標に到達できました。本当にありがとうございます」
四人が次々と頭を下げてきた。
「無事に依頼が果たせて、俺も良かったよ。みんな、よく頑張ったな」
フラビオが彼ら四人を労った。勝てるきっかけを作ったのはフラビオだが、実際に倒したのは彼らだ。その頑張りを評価していたのだった。
「せっかくの目標達成だし、戻ったら祝杯あげましょう。どう?」
「お、いいね。こういう時くらい、景気よくいかないとな」
「俺も賛成。やっぱりうれしいもんな」
「私もいいと思う。フラビオさんもご一緒にどうですか?」
クロエがそう言って誘ってくれた。せっかくの誘いだ。たまに若い連中と交流をもつのもいいだろう。フラビオは同意した。
「ありがとう。せっかくの誘いだ。ご一緒させてもらうよ」
フラビオが参加するとなって、他の三人も喜んだ。
「やった! フラビオさんからいろんな話、聞きたかったんですよ」
「そうそう、他の冒険者を手伝ってるときの様子とか」
四人が口々にフラビオへの関心事を話し出した。フラビオとしても、そうやって考えてもらえるのは悪い気分ではなかった。
だが、いつまでもこうしていても始まらない。
「さて、そうと決まったら引き上げるか」
「そうですね。本当に良かった。みんな、戻ろうか」
こうして無事にレベルアップを果たして、五人はダンジョンの外へと向かった。
その日の晩、フラビオは、近くの料理屋でパーティスターライトの面々とささやかな酒宴を開いた。ギルドの仕事を終えたステラも、フラビオが参加するなら自分も出ると言い出し、この場に加わっていた。総勢、男女各三名ずつの、楽しい宴だった。
「乾杯!」
早々にエールの酒杯を合わせて、楽しく飲み始める。
「この前、フラビオさんは、パーティ赤い牙の手伝いをしてたんですよ」
「え、あのセカンドマスターのパーティですか」
「そうそう。どんな相手でも手助けができちゃうんだから、本当にフラビオさんはすごいわよねえ」
ステラも積極的に話に加わり、場を盛り上げるのに一役買っていた。
「それにしても、あなた達もすごいわ。マスターレベルからレベルを上げるのって、とても根気が必要ですもの」
「本当にそうです。俺達、自分で言うのもなんですが、かなり粘り強く頑張ったと思います」
「そうそう。強敵相手に苦戦しながら、それでも諦めなかったもんね」
「フラビオさんにも、危ないところを助けてもらって。あの時は本当にダメかと思ったもんな」
「グレーターデーモンね。思い出してもぞっとするわ」
「そのフラビオさんのおかげで、こうして祝杯もあげられる。良いことだよな。では、フラビオさんからも一言どうぞ」
五人の目がフラビオを向く。急に話を振られて、ちょっと困ったように、お決まりの台詞を吐くフラビオだった。
「スターライトのみんな、レベルアップおめでとう。これからも頑張れよ」
戦闘回の続きです。要領よく魔物が倒せるよう、フラビオが上手に手助けをしています。相手の動きを封じて、レベルを上げたい連中に止めを刺させるという、見事な手際なのでした。




