第二十六話 そのパーティはレベルを上げたい
今日もフラビオがギルドの掲示板を眺めていると、またもやいつもの面々から、フラビオを指名した依頼があった。
「レベルを上げたいので助力を頼みます。パーティ、スターライト」
この前、ファイアージャイアントを倒す手助けをしたばかりだ。こう度々フラビオに依頼を出していては、稼ぎが厳しかろうと、他人事ながら心配になってしまう。
しばらくして、例の明るい四人組が姿を現した。
「フラビオさん、待っていましたよ」
リーダーは楯持ちの戦士のアルベルト。それからヒーラーのソフィア。槍使いの戦士エリアス。メイジのクロエ。この四人がスターライトという名のパーティメンバーである。全員レベル十三で、二十才と年若く、将来有望な冒険者達だった。
「よお。今回の依頼はレベル上げだって?」
我が意を得たりとばかり、アルベルトが胸を張って答える。
「そうなんです。安全に倒せる魔物だけじゃなく、ギリギリ勝てる程度の魔物を相手にした方が、レベルが上がるんじゃないかと思って」
フラビオが彼の目の前で手を振った。
「いや、ちょっと違うぞ。ギリギリ勝てるような相手は、確かに弱い魔物より経験が多く積めるんだが、倒すのに時間がかかるから、効率がいいとは言えないんだ。自分の身の丈に合った相手を数多く倒すのが、結局は早道になるだろうな」
「そうですか。じゃあ、フラビオさんに頼んでも、意味ないですかね」
明らかにがっかりした顔でアルベルトが言う。
「まあ、俺がいれば、そういうギリギリの相手を効率良く倒せるし、探知魔法で魔物の居場所も特定できるから、便利と言えなくはないかな。ただ、そのために金貨一枚に報酬分け取りだ。値段が高いのが難点だぞ」
「それは承知の上です。俺達、普段から節約してるんで、それほど金を稼がなくても大丈夫ですから」
彼ら四人も、ホームを借りたり所持したりすることなく、いまだにギルドを根城にしていた。冒険者はギルドでの宿泊が無料になるのだ。それを最大限使って、十七年も居着いているのがフラビオである。
「ならいい。お前さん達のレベル上げに付き合うよ」
「ありがとう。今回もお世話になります」
元気よく返事をするアルベルト。仲間達も揃って頭を下げた。
フラビオも、この若い連中を気に入っていたので、その助力をするのは悪い気分ではなかった。
そして五人は早速ダンジョンへと向かった。
間を飛ばすように、一気に地下五階へと下りる。
フラビオが探知魔法で周囲の様子を探る。
「アイアンゴーレム一体、ハイガーゴイル三体、おっとレッサーデーモンがいるな。これが一体。近くにいるのはそんなところだ」
「分かりました。順番に狩りましょうか」
「いいだろう。じゃあ、行くぞ」
そしてまずはアイアンゴーレムのいる場所へと向かう。
「硬いだけの相手だ。一気に倒そう」
以前はメイジがいなくて苦戦した相手だが、今はメイジのクロエがいる。全く問題はなかった。
まずはアルベルトが楯を構えて突進、ゴーレムの攻撃を防ぐ。
「ストレングス!」
ソフィアがエリアスに強化魔法を掛けて攻撃準備をする。その間に、クロエが早々に魔法を放つ。
「ファイアボール!」
拳大の火球がゴーレムの胴体を高熱で焼く。これが第一段階。
ゴーレムはそれに構わず反撃してくる。それをアルベルトがしっかり楯で押さえる。
「アイシクルランス!」
氷の槍が、先程火球が焼いた場所を直撃する。急激な温度差によって表面が脆くなり、一部が剥がれ落ちていた。これが第二段階。
「よし、もらった! 闘気槍、流星突き!」
強化魔法の恩恵を受けたエリアスが、必殺の槍を叩き込む。連続の突きがゴーレムの脆くなった部分に当たり、次々と砕いて大穴を開けた。
胴体を貫かれて、ゴーレムが地に倒れ、そして霧状になって消えていく。彼らもマスターレベル、やはり並の魔物は余裕で倒せるのだ。
「お見事。異常は?」
「確認します。俺はもちろんないです。楯の仕事でのダメージなし」
「私も強化魔法一発だけ」
「魔法二発使ったけど、問題なし」
「闘気槍一回消費、後は無事だ」
「了解。さすがだった。じゃあ、次に行こう」
次はハイガーゴイル三体だ。普通のガーゴイルより一回り大きく、体長は二メートル半。頑丈さや力が増した上位種である。空中を飛び回るので倒すのが面倒な相手だ。
「アイシクルランス」
交戦開始直後、フラビオが魔法を一発。それがハイガーゴイルの胴体を見事に貫いた。高レベルメイジのフラビオの魔法は威力も桁違いに強い。そうして一体早々に片付けた。
「後は任せる」
「了解。行くぞ、エリアス。ソフィア、強化魔法を」
「ストレングス!」
今回はアルベルトとエリアスの二人に強化魔法を掛ける。
そしてアルベルトが一体のガーゴイルの攻撃を防ぐ。その隙にエリアスが槍で攻撃という、彼らにとってはいつもの戦い方だ。
その間に、クロエはもう一体を引き付け、炎の中級魔法を発動させる。
「フレイムピラー!」
炎の柱が一体のガーゴイルを包み込み、大きくダメージを与える。この魔法の威力はマスターレベルでも十分に大きい。
「アイシクルランス!」
そしてとどめの一撃。急激な温度差もあって、氷の槍がフラビオの時と同様、見事にガーゴイルの胴体を貫く。そして霧状になって消えていった。
残りの一体。エリアスの槍で数多くの傷を受けたガーゴイルが、バランスを崩して地上に降りた。その隙を逃さず、アルベルトが必殺剣を放つ。
「闘気剣! 三段斬り!」
凄まじい斬撃によって、ガーゴイルの体が三つに分断される。そして霧状になって消えていく。マスターレベルパーティの強さの本領発揮というところだろう。
戦闘後に無事と異常の有無を確認することも怠らない。
「フラビオさん、全員の異常がないのを確認しました。次行きましょう」
「分かった。今回も見事だ。さすがだな」
褒められて悪い気がしないパーティ四人だった。意気も高く、次の相手の待つ場所へと向かった。
次の相手はレッサーデーモンだ。中級者では苦戦する相手である。
接近すると同時に、火球がいくつか飛んできた。デーモンは魔法を使えるのである。
もちろん、そんな魔法は彼らには通用しない。いとも簡単に回避すると攻撃態勢に入る。
「ストレングス!」
まずはソフィアが戦士二人に強化魔法を掛ける。そこへデーモンの拳が飛んできた。アルベルトが楯でしっかり防御する。
エリアスの槍がうなりを上げてデーモンを激しく突く。その鋭い突きが、わき腹にいくつかの穴を開けていた。デーモンがそれを嫌って、再び魔法を放つ。飛んできた火球はやはりアルベルトが楯でしっかりと防いでいた。
「アイシクルランス!」
クロエがエリアスの開けた穴に魔法を叩きこむ。傷がえぐられ、穴が大きくなる。ダメージを受けたデーモンが暴れ出し、殴る蹴るの反撃を加えてくる。アルベルトが楯で丁寧にその攻撃を捌いた。
焦ったような動きを見せたデーモンを見て、これがチャンスと見たエリアスが必殺技を放つ。
「闘気槍! 流星突き!」
威力のある突きが、次々デーモンに突き刺さる。傷口が多く、大きくなっていく。
それでもデーモンはまだ反撃をしてくるが、アルベルトが冷静に防いだ。
そしてクロエがとどめを放つ。
「エクスプロード!」
エリアスのつけた傷を起点に、クロエが爆発の魔法を発動させた。その威力は傷を一気に広げ、デーモンの体を真っ二つに裂いた。そして霧状になって消えていく。またもパーティスターライトの圧勝だった。
全員の無事と異常の有無を確認すると、アルベルトがフラビオに声を掛けた。
「異常なしです。次の索敵、お願いします」
「了解だ。それにしても、今日もやる気満々だな」
「ええ。いい加減に、レベルを上げたいと思ってますので」
マスタークラス、つまりレベルが十三にもなると、次のレベルにはなかなか上がらない。それでも早くレベルを上げて強くなり、今より強い魔物とも戦いたいと望んでいたのだった。
「質より量のヤツがいるな。ジャイアントバット二十体、この少し先だ」
「その他は?」
「ランドトータス一体、後キメラが一体いる。トータスもキメラもレベル的にギリギリってところだな」
「分かりました。まずはジャイアントバットですね」
そのジャイアントバットは、不規則に飛び回るので倒すのが厄介だ。さすがにここではフラビオも手を貸した。
「ウィンドカッター」
例によって真空の刃の魔法を使っていた。手慣れたもので、バットの軌道を予測し、一発の魔法で三体を同時に倒している。それを三回繰り返し、あっという間に十一体まで数を減らしていた。
もちろん、スターライトの面々も頑張っている。
「ホーリーシールド!」
ソフィアはバットの攻撃を防ぎつつ、動きをけん制して隙を作っている。そこをクロエの魔法が狙い撃つ。
「ウィンドカッター!」
そうやって一体ずつ確実に仕留めていく。この二人一組の連携は見事で、次々とバットを倒していった。
アルベルトは楯で攻撃を防ぎ、その次の瞬間に目の前にいる敵を斬撃で斬り伏せる戦い方をしていた。これも見事な腕で、囲まれないように気を付けつつ、確実にバットを仕留めている。
エリアスの槍捌きも見事だった。囲まれても焦ることなく、間合いの近い順に、正確に一体ずつ突き倒している。
四人がそれぞれ持ち味を生かし、ほんの数分で全てのジャイアントバットを倒していた。
無事と異常の確認でも問題なしである。
そしてそのまま奥へと進んでいく。
そこにはランドトータスがいた。陸亀の形をした魔物で、体長は三メートル半くらい。硬い甲羅に覆われていてダメージが通りにくい。その分、攻撃は噛みつきと踏みつけ程度で、味方が攻撃を受ける可能性は低かった。
「ストレングス!」
最初はソフィアが、戦士二人に強化魔法を掛けるところから始まる。
先程と同様に、温度差で砕く攻撃を加える。
「ファイアボール!」
そして、クロエの魔法から攻撃開始である。魔法の火球が甲羅の一部を高温で熱する。
続いて氷の槍の魔法だ。
「アイシクルランス!」
先程、火球が焼いた場所を正確に狙い撃つ。これでその場所がかなり脆くなっているはずだった。
「闘気剣! 三段斬り!」
「闘気槍! 流星突き!」
反撃の心配がないので、アルベルトとエリアスが問答無用で必殺技を放つ。大技は見事命中し、甲羅の一部が割れて砕けた。だが、ほんの一部である。 トータスの硬さはアイアンゴーレムの比ではなかった。
「何て硬い魔物だ」
パーティ四人が悔しそうにしているところに、フラビオが割って入る。
「俺が魔法を使う。もう一回試してみろ」
そして、フラビオがクロエと同じ魔法を使った。
「ファイアボール」
「アイシクルランス」
高レベルのフラビオの魔法は、同じ初級魔法でも、根本的に威力が段違いだった。かなりの範囲に渡って、甲羅が変色していて、脆くなっているのが分かった。
「よし、攻撃してみろ」
「了解、三段斬り!」
「流星突き!」
今度は二人の攻撃がきれいに入った。広範囲にわたって甲羅が砕け、体内が露出していた。しかし、さすがは頑丈な魔物、その攻撃だけでは倒し切れなかった。
「クロエ、爆発魔法だ」
「分かりました。エクスプロード!」
割れ砕けて露出した体内を起点に、クロエが爆発の魔法を発動させる。外側が頑丈でも、中はさすがにそうもいかない。爆発の威力がトータスの体を大きくえぐり、その破片が飛び散っていく。
トータスが地上に倒れ、霧状になって消えていった。攻撃さえ通れば、さすがに頑丈なランドトータスも倒せるのであった。
異常の有無を確認後、アルベルトがフラビオに尋ねる。
「キメラはどうしましょうか」
「ついでだから倒しておこうか。お前さん達でも十分勝てる」
「分かりました。よろしくお願いします」
キメラは合成獣とも呼ばれ、様々な魔物の合体した姿を持っている。獅子の頭に蛇の尻尾をした姿のものが一般的だろう。そして、炎を吐く個体も多い。また、双頭のものや羽を持つものなど、いろいろな種類がいる。このキメラは全長は四メートル程度と中型で、獅子と山羊の双頭、獅子の胴体、蛇の尻尾に羽の生えた、独特な形態のキメラだった。
「ストレングス!」
毎回、ソフィアが戦士二人に強化魔法を掛けるところから戦闘が始まる。
四人が突撃を始めてすぐ、キメラからの攻撃が飛んできた。二つの頭から同時に炎を吹き出してきたのである。
「ホーリーシールド!」
アルベルトの楯だけでは防げず、ソフィアも魔法の楯を発動させる。その陰に潜んだエリアスとクロエが、反撃の機会を窺う。
炎が止んだ直後、二人が飛び出し、攻撃を加える。
エリアスの槍が山羊の頭を繰り返し突く。さすがのキメラもその鋭い攻撃に手傷を負った。
「アイシクルランス!」
クロエも氷の槍を獅子の頭に叩き込む。額に突き刺さり、わずかだが傷をつけることに成功していた。
キメラから前足の蹴り、噛みつきと反撃が来た。エリアスとクロエが落ち着いてそれを避ける。
その隙にアルベルトが接近し、強烈な一撃を叩きこんだ。
「闘気剣! 三段斬り!」
山羊の頭に必殺技が炸裂し、大きな傷を負わせた。
「今! エクスプロード!」
クロエがその隙を見逃さず、爆発魔法で山羊の頭を吹き飛ばす。見事にそれが決まり、片方の頭を潰すことに成功した。
だが、キメラも反撃してきた。再び獅子の頭から炎が吹き出した。
「しまった!」
魔法に集中していたため、クロエが完全に無防備になっていた。
「マジックシールド」
間一髪、フラビオが魔法の楯でクロエを守った。
「ありがとうございます」
「礼はいい。もう片方の頭も潰すぞ。エリアス、頼む」
炎の後には尻尾の攻撃が飛んできた。フラビオとソフィアの魔法の楯がパーティをその攻撃から守る。
攻撃が止んだ直後、エリアスが必殺技を炸裂させた。
「闘気槍! 流星突き!」
威力のある鋭い突きが獅子に頭に次々に突き刺さる。
「三段斬り!」
そこにアルベルトも攻撃を加え、傷を一気に広げた。
「エクスプロード!」
できた傷にクロエが再度爆発の魔法を放つ。その一撃で獅子の頭も吹き飛バスことに成功していた。
頭を失ってもなお、キメラは反撃をしてきた。前足での殴りと、尻尾による攻撃である。しかし、それほどの脅威ではなく、五人は余裕をもってそれをかわした。
「とどめ、エクスプロード!」
クロエの爆発魔法が発動した。これで三発目。胴体を引きちぎり、キメラが地に倒れる。そして霧状になって消えていった。
まずは無事を確認。しかし、アルベルトは少しがっかりしていた。
「これだけ倒しても、レベル、上がりませんね」
他の三人も同様だった。せっかくフラビオに頼んで、厄介な敵も倒したというのに、目的は達成できなかったのだ。
「まあ、そう言うな。いずれ必ずレベルは上がるさ。何より無事に戻れることを喜ぶべきだろ。また次も戦えるからな」
そう言って、四人を慰めるフラビオだった。
ひたすら戦闘の回です。やはり冒険者は魔物を狩るために戦うのだということを描きました。本来苦戦するところを、要所でフラビオが手伝っています。マスターレベルパーティが大活躍でした。




