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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第二十四話 それでも魔物討伐は続けます

 フラビオはとりあえず小休止を取ることにして、その広間に一行を集め、水分補給などを行わせた。そして、今後の行動をどうするか、話し合っておくのがいいだろうと考えたのだった。

 それには、まずこの貴族の坊ちゃんが、どういうつもりでダンジョンに同行してきたのかを聞いておく必要があった。

「アレク様は、最初に王女殿下の護衛をするのだと伺いましたが、今回の王女殿下のダンジョン行に、どうして同行を希望されたのですか」

 丁寧に事情を問い質す。

 アレクは豪語した護衛を果たせず、醜態を晒してしまったことを恥じ、あからさまに不機嫌そうな表情でそれに答えた。

「王女殿下の関心を引きたかったからです。危険な場所で私が王女殿下を守って差し上げれば、私の強さを認めて頂けるだろうと。ひいては私に好意を抱いて下さるかもしれない。そう考えたのです。残念ながら、私の剣は魔物には通用しませんでしたが」

「そうお考えということは、アレク様は人間相手なら、それなりにお強いということですね」

 フラビオがフォローを入れた。お荷物だ、足手まといだと思っていても、侯爵家の一員なので持ち上げてやったのである。

「もちろんだ。騎士達相手でも互角に戦える腕が、私にはあるんだ」

 アレクが胸を張ってそう言った。なるほど、相手をしていた騎士達も、上手に手加減していたのだろうなと、訓練の様子を見なくても想像がつく。コモドドラゴンに斬りつけた腕前は、世辞にも優れた剣筋とは言えなかったからだ。明らかに修練不足の剣だった。

 いっそ辛辣だったのはカタリナ王女の方だった。

「アレク様に念のため申し上げておきますと、先程の魔物、レッサーコモドドラゴンは、魔物の中でも弱い部類です。私の魔法二発で仕留められる程度なのですから。それでも全く歯が立たなかったアレク様には、やはりダンジョンは危険に思われます。しかも、これから、あれより強い魔物が出る場所にも向かうわけですが、それでもまだ同行なさいますか」

 アレクの表情が見る間に情けないものに変わった。ついて行くのも嫌だが、自分達だけ戻るのも嫌だ、そう顔に書いてある。

「ここまで来て引き返せるわけがないだろう。せめて、最後まで王女殿下のお供をするのでなければ、ダンジョンまで来た意味がない。決して王女殿下の邪魔はしないから、どうか連れて行って欲しい」

 最後のプライドをかき集めて、アレクがそう頼んできた。表情も必死である。話の中身は情けないの一言に尽きるが、あれだけ豪語して同行してきた以上、途中で脱落したとあっては恥さらし以外の何者でもなかった。

 フラビオはそれを見て、この荷物を背負う覚悟を決めた。

「分かりました。王女殿下には心置きなく魔物討伐に専念できるよう、アレク様方の身は俺が守りましょう。それでいいですね」

 ばつが悪いとはまさにこのことだ。見下していた平民に守ってもらうのは情けないが、それでも最後まで同行できる方がましである。

「分かった。フラビオ、よろしく頼む」

 虚勢を張りつつ、それでもアレクはきちんと頭を下げた。頼むことができるだけ、まともな判断力があって幸いである。

「お任せ下さい」

 フラビオはそう言うと、王女に向き直った。

「では、次はジャイアントスネークに参りましょうか」


 先程探知魔法で確認した場所に来ると、確かにジャイアントスネークが三体いた。体長三メートルほどもある大きな蛇型の魔物である。

「アイシクルランス!」

 王女が氷の槍を放つ。スネークの一体の口の中を直撃し、その体を大きく引き裂いた。そして霧状になって消えていく。

「お見事ですね、一撃とは。残りもお任せします」

 フラビオはそう言うと、アレク達にも声を掛けた。

「みなさんは下がって見物していて下さい。王女殿下の魔法の腕前は、前回見た時より上がってますね。安心して見ていられます」

 言われたアレクとその部下二名が後方で待機する。王女の護衛二人も、手を出せばかえって邪魔になると思い、同様に後方に下がった。フラビオの判断が適切なのは、先にアレクを救った一件で証明されている。だから護衛達もそれで彼を信用し、その言葉に従ったのだった。

 その間にも戦いは続いている。

 スネーク二体に思考能力があるわけではないが、王女の魔法を脅威と認識し、接近して攻撃してきた。王女がその噛みつきを避け、尻尾の攻撃をかわす。そして至近距離で、一体の口の中に再度魔法を放り込む。

「アイシクルランス!」

 スネークは表皮こそ硬いが、体内はそれほどでもない。口の中に氷の槍を食らい、もう一体も先程と同じように引き裂かれ、霧状になって消えていった。これで二体。

 そして最後の一体。スネークが踊りかかり、大きく口を開けて襲い掛かってきた瞬間、その最大の隙を見逃さず、王女が魔法を放つ。

「アイシクルランス!」

 最後の一体も仲間と同じ運命をたどった。口の中に叩きこまれた氷の槍が、三度スネークの体を引き裂く。そして同様に霧状になって消えていく。

「仲間は全員無事。私も魔法が後三十発。問題なし、と。これでいいですよね、先生」

 王女は前回教えた戦闘後に状態を確認することをしっかり覚えていた。フラビオが感心して、苦手な丁寧語を駆使して最大限の賞賛をした。

「素晴らしいです。前回はファイアボールを使ったのを、アイシクルランスに変えて一撃必殺できたことも良かったですし、こうやって戦闘後に確認するところもさすがです。何より、冷静に魔物の攻撃を見切って回避できたのが見事でした。あれからよく修練したのですね。それが良く分かって、とても感心しました」

 いろいろと褒められて、王女がうれしそうな表情を浮かべる。

「先生の教えが良かったからです。ダンジョンの怖さは忘れていません。だからこそ、できる場面で最善を尽くす、そう考えていたんです。今日、それが実戦で試せて、とても良かったです」

「それは何よりでした」

 そこで王女がアレク達に声を掛けた。

「見ている方は心配になると思いますが、危ない時には必ずフラビオ先生が助けてくれます。ですから、安心して見ていて下さい」

 魔物を一人で三体も倒す王女の姿を見て、アレクは目を丸くしていた。しかし、その強い王女が安心して良いと言うからには、フラビオの強さは本物なのだろう。何より主筋である。王女の言葉を信用したのだった。

「承知いたしました。お言葉に従います」

 アレク達の方も問題はなさそうだ。フラビオが一行に声を掛けた。

「では、次に参りましょうか」

「はい。行きましょう、先生」


 次はジャイアントバット三体だ。硬くもなく耐久力も低いが、不規則な軌道を飛んでくるため、倒すのが厄介な相手である。

 さすがに三体は厳しかろうと、フラビオがここで手を貸した。

「ウィンドカッター」

 真空の刃の魔法である。フラビオのそれは、威力はもちろんのこと、自在な軌道を描いて飛ばせることができる。今回はあえて二体を順に斬り裂く軌道を選んで放った。順に一体ずつ見事に斬り裂き、地上に落としていた。そして魔物が霧状になって消えていく。

「では、残り一体、お任せします」

「分かりました。援護、感謝します」

 フラビオに礼を言うと、王女はジャイアントバットと向き合った。

 バットが真っ直ぐ突っ込んでくる。しかし、王女はそれがフェイクだと見破っていた。

 知能がないはずの魔物だが、突進すると見せかけ、右に回り込んでくる軌道を描いて飛んできた。その行動をどのように決めているのかは謎だが、人間側の弱点を突いて攻撃してくる魔物は多い。

 王女は爪でひっかいてきた攻撃をかわし、魔法を撃とうとした。しかし、バットの動きが良く、当てられそうにないので断念した。

 だが、慌てることはない。機会はいくらでもある。そう自分に言い聞かせ、バットの動きを慎重に追う。

 その機会はすぐにやってきた。今度は左側から回り込み、襲ってきたバットの姿を、王女ははっきりと捕えることができた。

「ウィンドカッター!」

 眼前に迫ったバットを真空の刃が斬り裂く。王女の魔法の威力でもしっかりとその体を斬り裂いていた。ジャイアントバットが地に落ちる。そして霧状になって消えていった。さすがに一対一では問題なく倒せていた。

「全員無事、魔法残り二十九、異常なし」

 そしてすぐに王女は安全と自分の状態を確認した。面倒ではあっても大事なことなのできちんと順守している。

 フラビオには、そんな王女の姿が格好よく見えた。魔術師としてとても見事だった。恐らくアレクや護衛達も同様に思ったことだろう。そこで遠慮なく褒める。

「さすがです。身のかわし方、カウンターでの一撃、見事でした」

「ありがとうございます。でも、三対一だと力量不足で、攻撃を受けてしまったかもしれません」

 そんな謙虚なところも立派だと思った。確かに不規則な攻撃が三体分重なれば、王女がケガを負っていた可能性は否定できない。それを避けるためにフラビオは同行しているのだ。

 だがまあ、この調子で適当な魔物を倒していけば、十分な経験が得られるだろう。そう思い、先に進むことを告げた。

「では、もう少し奥まで行ってみましょうか」

「はい。まだまだ頑張りますよ」

 張り切っている姿が愛らしい。フラビオは一行を連れて、奥へと進んでいった。


「それにしても、王女殿下は、これほどまでにお強かったのですね」

 道中、アレクがフラビオに話し掛けてきた。王女が次々に魔物を倒す姿に最初は驚いていたが、その強さをようやく認めたらしい。

「私がお守りしようなどとは、愚かな考えでした。宮廷魔術師から魔法の手ほどきを受けているとは聞いていたのですが、これほどとは思いませんでしたよ。そしてあなたは、そんな強い王女殿下が先生と呼ぶほどに、さらに強い人だ。そうとも知らずに偉そうな口をきいて申し訳なかった。これまでの無礼をお詫びします」

 いけ好かない貴族だとばかり思っていたが、根は正直で人柄もいい。フラビオはこの御曹司を見直した。

「アレク様も勇気を振り絞ってダンジョンに来られたのでしょう。強い魔物が多いと知っていて、それでも王女殿下を守ろうと考えられたのですから、そうそうできることではありません。立派だと思います」

 最大限に褒める。自分を律して正直な心境を訴えるような相手には、フラビオも親切なのだった。

「ありがとう。ちょっと救われた気分だ。でも、さすがに足手まといになったことは十分反省している。迷惑を掛けるが、最後までよろしく頼む」

「分かりました。お任せ下さい」

 そんな二人の姿を見て、王女も微笑を浮かべた。最初は敵対しそうになっていたが、友好的になれて何よりだと思っていた。

「先生、魔物はまだいそうですか」

 二人の会話の隙間に、王女が声を掛けてきた。

「そうだな、探知してみるか。サーチ」

 フラビオが探知魔法を発動させる。反応がいくつか返ってきたが、フラビオの表情はあまりパッとしなかった。

「マンティコア、アースジャイアント、トロル、どれも一体ずつ。ちょっと相手が悪いですね。王女殿下一人では厳しい相手ばかりです」

 その返答を聞いて、王女も眉根を寄せた。

「厳しいですか」

「強いて言えば、トロルなら何とかなるかもしれません。でも、やたらと丈夫ですから、魔法が何発必要になるか分かりませんよ」

 王女が意を決してフラビオに訴えた。

「勝てる可能性があるなら、私戦います。どうでしょう、何とかならないでしょうか」

 フラビオがあごに手を当てて考え込んだ。王女の実力は中級者レベルだ。決して倒せない相手ではない。だが、かなり苦戦するだろう。

「分かりました。トロルと戦いましょう」

 フラビオは同意して、その場所へと案内していった。


 体長三メートルほどの人型の巨体。体表は黄土色と茶色の中間くらいか。見るからに力が強く頑丈そうな魔物、それがトロルだった。

「なるべく同じ場所を狙って攻撃魔法を当てて下さい。繰り返すうちに傷が大きくなります。その傷が広がったところで、爆発魔法を撃ち込んでとどめを刺します。攻撃も激しいので絶対に回避を。よろしいですか」

 フラビオが簡単に作戦を告げる。結局のところ、後は王女の腕次第だということになる。もちろん、危険だと判断すれば、割って入るつもりだ。

「分かりました。では行きます。アレク様、護衛のみなさんは安全な場所で待機をお願いします」

 そう言うと、王女は一人トロルのいる方へと向かった。

 トロルが王女の姿に反応する。そして拳を振り上げる。確かにこの一撃を受けたら無事では済まない。

 王女は拳の攻撃を見切り、わずかな動きでそれを避けた。そして反撃を始める。

「ファイアボール!」

 拳大の火球がトロルの腹部に直撃する。高熱が多少はその体表を焼くが、大したダメージにはなっていない。しかし、それは織り込み済みである。

 トロルから反撃の蹴りが飛んできた。これも先程と同様、必要最小限の動きでかわす。そして、即座に再び魔法を放つ。

「アイシクルランス!」

 氷の槍が先程火球が当たった場所を正確に突いた。温度差で脆くなった体表に、王女が三度目の魔法を放つ。

「ウィンドカッター!」

 これもまた正確に同じ場所に当たった。真空の刃がトロルの腹部を斬り裂く。しかし、思ったほどにはダメージは入っておらず、トロルは平然と反撃の拳を振り上げてきた。

 王女がその攻撃をまた避ける。

「なるほど、先生の言われた通り、すごく頑丈なのですね」

 こうなると、後は根気の勝負だ。

 王女が二度目の火球を放つ。トロルの腹部にそれが直撃する。反撃の拳が飛んでくる。王女がそれをかわす。氷の槍の魔法を放つ。同じ場所にその槍が突き刺さる。トロルの蹴りが飛んでくる。王女がまたそれを見切ってかわす。真空の刃の魔法を王女が放つ。それが腹部を斬り裂く。それでもトロルはまだ反撃してくる。その繰り返しであった。

 全部で九発の魔法を放ったところで、さすがの王女にも疲れが見えてきた。王宮でも独自に体術などの訓練をしてきたが、これほど長く動き回ることはなかった。しかも、攻撃力の高いトロルの拳や蹴りに晒されながらの回避運動である。緊張感から、いつも以上に体力を消費していた。

「少しでいい、呼吸を整える時間が欲しい」

 王女はそう思い、トロルから距離を取ろうとした。

 しかし、トロルがそれを許さない。王女が離れた分だけ間合いを詰めてきて、執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 さすがの王女も疲れから、一瞬動きが止まってしまった。そこに容赦のない拳が振り下ろされる。

「しまった!」

 直撃する、そう思った瞬間、淡く光る魔法の楯が王女を守っていた。当然フラビオの魔法である。

「惜しかったですね。こればかりは実戦経験の積み重ねが必要なこと、よく健闘したと思いますよ」

 王女をかばいながら、フラビオがのんびりと言った。その間にも、トロルの拳や蹴りが飛んでくる。しかし、フラビオの魔法の楯は頑丈で、そんな攻撃を一切受け付けなかった。

「ありがとうございます、先生」

 危ないところを救われ、王女から自然と感謝の言葉が出た。やはり先生は信頼できる。こうして危機から自分を守ってくれる。それが王女にはとてもうれしかった。

「元々、パーティ単位で戦う相手ですからね。苦戦するのは当然です。でも、あともう一押しです。もう一度、攻撃を順に当てて下さい」

「はい、分かりました!」

 元気を取り戻した王女は、さらに魔法を発動させる。

 火球、氷の槍、真空の刃の順に繰り返し攻撃を当ててきた場所を正確に狙って放つ。三発全て狙った位置を穿ち、傷口を広げていた。

「とどめを」

「はい! エクスプロード!」

 王女が広がった傷口を起点に爆発の魔法を発動させた。爆発の威力が傷口をえぐり、押し広げていく。さすがのトロルも大きくわき腹に穴を開けられて、地上に倒れた。

「もう一発、エクスプロード!」

 爆発で広がった穴に再度爆発の魔法を叩きこむ。トロルの体が完全に上半身と下半身に分かれてちぎれる。そして霧状になって消えていった。

「やりました。倒せました、私」

 王女が安堵する。そしていつもの確認を行う。

「護衛は全員無事、私は魔法が残り十三回。先生のおかげでダメージはなし。でも避けるのが大変だったから、体がきついですね。異常はないけど、強い相手と戦うのは難しそうです」

「冷静な判断、さすがですね。念のため、ヒールを掛けておきましょう」

 ヒーラーの魔法も使えるフラビオが、王女に回復魔法を掛ける。

 王女の体の疲れがかなり軽減され、軽く体を動かして感触を確かめた。しっかり身軽に動ける程度に回復していた。

「ありがとうございます、先生」

「いえいえ。ご苦労様でした。今日はもう引き上げましょう」

「はい。分かりました」

 一行は魔物の討伐を終えて、ダンジョンの出口へと向かった。

 王女の戦闘編です。さすがレベル十、格下の魔物は簡単に倒せています。最後は激戦で、さすがに独力では倒せませんでしたが。とは言え、フラビオも言う通り、大健闘なのは確かなのでした。

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