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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第二十三話 王女殿下とお荷物な護衛

「フラビオ先生!」

 朝、フラビオが冒険者ギルドで借りている部屋を出て、階段を下りてロビーに出ると、どこかで聞いたような声が聞こえた。周囲を見渡すと、確かにいた。服装こそ、ごく普通の町娘のような感じだが、顔の造作も整っていて、誰が見ても美しいと思うだろう美形だった。この肩甲骨までの長さの美しい金髪に、青い宝石を思わせる瞳に真っ白な美しい肌。オルクレイド王国第二王女カタリナ殿下その人である。

 フラビオは、過去に二度ほど彼女とは接触があった。一度目は視察というい名目でダンジョンを案内した。二度目は魔法の指南を頼まれ、体術などを教授した上で、またもダンジョンで魔物の討伐をした。その際、またの機会にとダンジョンへの同行を頼まれ、承知したという経緯がある。

「これは王女殿下。お久しぶりでございます」

 相変わらず護衛の騎士四名を連れている。今日は魔法の指南役は同行していなかった。彼らの手前、話し方に気を付ける必要があり、フラビオには珍しい丁寧語であった。

 その辺の事情を知ってか知らずか、王女の方はフラビオに近づくと、親しみを込めて話し掛けてきた。

「フラビオ先生こそ、元気そうで何よりです。それにとてもすっきりした表情で、何か良いことでもありましたか?」

「いえ、これといって特には。いつも通り、パーティの助っ人などをしてました。いや、この前一週間ばかり、護衛の仕事で旅をしたので、それで気分が晴れたというのはありますね」

「そうですか。でも良かった。これならお願いしても大丈夫そうですね」

 そう言うと、フラビオの両手を取ってぴょんぴょんと跳ねる。元気の良い王女である。周囲にも話は丸聞こえだったが、周りの冒険者達は関わらぬが吉とばかり、離れて聞き耳を立てているばかり。受付ではステラが笑顔を貼り付けたまま、内心で苛立っていた。若く美しい王女にこうも接近されては、フラビオが取られはしないかと心配だったのである。

 周囲の様子を気にもかけず、王女が用件を切り出した。

「先生、またお時間が頂けないかと、こうして直接尋ねに来ました。また一緒にダンジョンへ行きましょう。お願いします。いつならご都合よろしいですか」

 王女はとても真剣な表情だった。フラビオは表情を緩めて返答した。

「そういう約束でしたね。俺の方は特に用事がないので、今回はいつでもお引き受けいたしますよ」

 王女の表情がふっと緩む。即答で、しかもいつでもというのがうれしかったのだ。

「やった! じゃあ、早速明日にでも。いかがですか?」

 何とも急な話だ。しかし、当日の朝、依頼を受けてそのままダンジョンということも良くある話だ。一日猶予があるだけ配慮してもらったと言っていいだろう。

「分かりました。なら明日ですね」

「はい。明日、九時にダンジョンの入り口で合流しましょう」

「了解しました。報酬はお任せします」

「ええ。いつも通り金貨三枚お支払いします。よろしく頼みます」

 繰り返しになるが、金貨一枚は銀貨二十枚である。金貨三枚とはさすが王族、余裕のある支払いっぷりだった。

 話がまとまると、王女は残念そうに言った。

「本当はもっと先生と話をしたいのですが、さすがに周りのみなさんの邪魔になりますよね。今日はこれで帰ります。では、また明日」

 何のかんのと、王女らしく周囲の人々への配慮を忘れていなかった。こうした心遣いができることにフラビオが感心し、王女を外まで送った。

「では、また明日、お会いしましょう」

「ありがとう、先生。明日が楽しみです」

 ギルドの前には王族専用の馬車が停まっていた。王女がそれに乗り込み、騎士達も同様に乗車する。

 そして馬車が出発する。フラビオはそれを見送ってつぶやいた。

「そんなにダンジョンがうれしいのかねえ。不思議な王女様だ」

「それもあるでしょうけど、フラビオさんと一緒なのがうれしいんですよ」

 気が付くとステラが隣にいた。フラビオがちょっと驚く。

「それだけ慕ってるということです。まあ、フラビオさんを好きになる気持ちは分かりますけど」

「強くなれるのがうれしいって、この前言ってたから、それだと思うけど。俺を好きっていうのは、指南役としてだろ?」

 ステラが小さくため息をついた。

「じゃあ、そういうことにしておきましょう。フラビオさん、指南役として頑張って下さいね、指南役として」

 ちょっと棘のある言い方だった。フラビオとしても、ステラの気持ちも察せられるので、そこは生真面目に答えた。

「もちろん、魔法の師として、しっかり指南するさ」

 ステラが軽く肘鉄を入れてきた。ちょっと妬けるという意味のようだ。まあ、そのくらいは許されるべきだろう。

「戻りましょう、フラビオさん」

「そうだな。さて、今日はどうするかな」

 そうして二人はギルドの中へと戻っていった。


 翌日。フラビオは早々に起き出し、朝食や身支度を済ませた。

 さすがに王族を待たせるわけにはいかない。時間に余裕をもって行動していた。

「大丈夫だと思いますけど、お気を付けて」

 ステラに見送られて、ギルドを出発する。

 約束の九時よりも十数分早くダンジョンの入り口に到着した。まだ王家の馬車は来ていない。間に合って良かったとほっと胸を撫で下ろす。いかに王女がフラビオを慕っていても、やはり約束を違えては大問題になるだろう。

 しばらく待っていると、馬車が二台やってきた。

 一台は王族専用の、昨日もギルドに来た馬車だった。もう一台、立派な装飾の施された馬車がいる。護衛の人数を増やしたのだろうか。フラビオが疑問に思いつつ、二台の到着を待った。

「お待たせいたしました、先生」

 王家専用の馬車から、護衛がいつも通り四名、そして後から続いて王女が姿を現した。

 そしてもう一台の馬車からは、騎士が三名と、貴族の服を着た若い男性が一名降りてきた。二十才くらいで、肩までの金髪をした紫の目の男だった。顔の造作も良く、女性に人気がありそうな雰囲気をしていた。もちろん、フラビオの知らない顔である。

「お前がフラビオか。ふん、大したことのなさそうな男だな」

 開口一番がこれである。明らかにこの男はフラビオに敵意をもっていた。

「カタリナ王女殿下、この方は?」

 フラビオが尋ねると、王女が苦い顔で答えた。

「こちらはスティード侯爵家の次男、アレク様です。侯爵家は王家を支える重鎮として、数多くの功績のある家柄なんです。今回、アレク様は私がダンジョンに行くことを知って、何か危険があってはいけないと、私を護衛するために同行されたのです」

 フラビオの目が丸くなった。この貴族のお坊ちゃん、ダンジョンがいかに危険な場所か知っているのだろうか。のこのこ貴族服で現れて、護衛どころか単なる足手まといである。

 当のアレクは前髪をかき上げて、偉そうに言った。

「こんな平民の冒険者では当てになりませんからね。この私が直々に、王女殿下をお守りするために足を運んだのです。そこのお前、感謝するように」

 フラビオが呆れてため息をついた。貴族の前で無礼かもしれないが、ここはしっかり話しておくに限ると思ったのだ。

「アレク様でしたね。あなた様がいかにお強いかは存じませんが、ダンジョンは本当に危険な場所でございます。俺一人では、この大人数を守り切る自信がございません。どうしても同行するのであれば、せめて人数を減らして頂きたいのですが」

「な、何だと?」

「強い魔物がそれこそうじゃうじゃいる場所です。大勢が一斉に襲われては守れないと言っているんです。そうですね、俺を抜かして全部で六人、この辺が限度です」

 アレクが眉を吊り上げた。フラビオの言い分が気に入らないのである。

「何を言う。この私を含め、我が騎士達はいずれも腕の立つ者ばかり。それをお荷物扱いするとは許し難い。ならば、お前が行かなければ良かろう」

「俺がいなくて、誰がダンジョンの案内をするんですか」

「う、そ、それもそうか。しかし、人数を減らせとは、魔物と戦う時、かえって危険なのではないか」

「人数が多い方が危険だと申し上げているのです。お分かり頂けないなら、今日はダンジョンへ潜るのは止めた方が良いでしょう」

 話がそこまでこじれたところで、王女が割って入った。

「今回のダンジョン行きは、私の強い希望で決まったものです。私を抜きにして、勝手に話を進めないで頂きたいのです。特にアレク様、あなたの同行は最初お断りしたはずでしょう。それを私の指示には必ず従うということで無理を通されたのではありませんか。先生の指示は私の指示です。いかにアレク様でも従って頂きます」

 王女はかなり真剣に怒っていた。

「大体、アレク様はダンジョンに立ち入った経験もないではありませんか。ダンジョンに詳しい先生の言葉を聞かず、勝手な行動をして命を落とされては、私も悲しく思います。改めてお考え下さい」

 アレクはその剣幕に押されて、さすがに貴族の次男として、主筋の言葉を立てる必要があると気付いた。不興を買うためにわざわざこんなところまで来たわけではない。王女を守る功績を立て、王女に自分の存在を認めさせ、ゆくゆくは婚約者の座を狙っていたのである。

「申し訳ございません、王女殿下。私の発言が軽率でした。撤回し、謝罪いたします。ダンジョン内へ入る人間を、私とその部下二名に致しますので、王女殿下も護衛を二名お選び下さい。それでこの者の申す通り、六名となりましょう」

 すんなりと聞き入れられてことで王女も安堵した。そもそも、フラビオがいれば護衛の騎士も不要なのである。人数を減らせるならかえって面倒が減っていいと思ったくらいである。

「では、カール、グスタフ、ダンジョンへの同行を頼みます。ヨルクとオルセンは馬車に残留して下さい」

 王女が護衛を指名すると、アレクもそれに倣った。

「では私の方は、カルロス、ソラストの二名を同行者とします。ドレッドは馬車に残留を頼みます」

「先生、これでよろしいですか」

 王女がフラビオに確認すると、フラビオが気難しい顔でうなずいた。

「人数はいいだろう。しかし、もう一つ。ダンジョン内は本当に危険だ。王女殿下護衛の騎士達はすでに知っていることと思う。しかし、侯爵のご次男アレク様とその護衛の二人は、それを良く知らないだろう。勝手な行動を取らないこと、特に魔物との戦闘になったら、必ず俺の指示に従うこと。それが守れなければ、命の保証はできない」

「生意気な平民だな」

 アレクの最初の返答がこれだった。しかし、フラビオが睨み返すと、慌てて言い繕った。

「いや済まない、ダンジョンは冒険者の領域だ。その言葉に従おう。必ず指示を守ると約束しよう」

 本当かとフラビオは訝しがっていたが、疑い出すときりがない。まあ、危険な目に遭ったら自業自得ということにしよう。さっさとダンジョンに入らないと話だけで一日が終わってしまうと思い、王女を促した。

「では王女殿下、同行者は殿下の護衛が二名、アレク様とその護衛が二名、それからこの俺フラビオと言うことで。いざ、参りましょうか」

 面倒な会話が続いたが、それも終わり、やっとダンジョンに入れると思い、王女も表情を緩めて答えた。

「ええ。行きましょう」

「では、先導します」

 ダンジョンの勝手を知るのはフラビオだけである。アレクも不承不承、それを認めて、後に続いたのだった。


 ダンジョン内は壁面が発光する不思議な材質でできている。明らかに人工物なのだが、その由来ははっきりしない。王女達はこれで三度目なので驚きはしなかったが、アレクとその護衛二人は、その不思議な光景に目を丸くしていた。

 フラビオはさっさと地下一階に下りると、探知魔法を使った。とりあえず、弱い魔物でも相手にして、この侯爵家次男の強さを確認しようと思ったのである。

 その結果、それぞれジャイアントバット三体、ジャイアントスネーク三体、レッサーコモドドラゴン三体の反応があった。どれも初級冒険者でも、経験を積めば何とか倒せる相手である。強さを見るのにちょうどいいだろう。

「まずはレッサーコモドドラゴン三体と戦闘しましょう。一体は俺が、もう一体は王女殿下が倒します。それで、残りの一体をアレク様にお任せしたいのですが、よろしいですか?」

 フラビオは内心、丁寧口調で話すのが面倒だったのだが、さすがに一国の王女の御前で雑な言葉を吐けるはずもない。精一杯丁寧語を駆使して話をしていた。それでも一人称が俺、だったが。

 一応は丁寧なその言葉を受けて、王女とアレクがそれぞれ返答した。

「分かりました。一体倒せばいいんですね」

「いいだろう。私の剣の腕を見せる良い機会だ。引き受けよう」

 どうやら大丈夫そうだ。そう思い、フラビオが魔物のいる場所へと一行を案内した。


「あれがレッサーコモドドラゴンだ。固くて頑丈、鋭い歯で噛まれたら大ケガ間違いなし。油断せずに相手をしてくれ」

 フラビオが簡単に魔物の説明をした。レッサーと名がつくのは、同じ名前の魔物に上位種がいるからである。コモドトカゲは普通の爬虫類だが、その姿に似た魔物のことを、人はコモドドラゴンと呼んでいた。レッサーで体長二メートル程度、上位種のミドルコモドドラゴンで三、四メートル、最上位種のアークコモドドラゴンともなれば五メートルを超えることもざらにある、巨大な魔物である。

「さて、始めるぞ。アイシクルランス」

 フラビオが先制の魔法を放った。氷の槍の初級魔法だ。しかし、高レベルメイジのフラビオが使うと威力が段違いだ。初級者ならようやく傷がつく程度のこの魔法一発で、コモドドラゴンの体を口から貫き、一撃で倒し切っていた。そして霧状になってコモドドラゴンが消えていく。魔物が倒されて消滅する光景を初めて見て、アレク達三人が呆然とする。

「フレイムピラー!」

 次は王女の番だ。惜しまず中級の炎魔法を使う。炎の柱がコモドドラゴンを包み込み、大きなダメージを与えていた。しかし、惜しいことに威力が足りず、倒し切るには至らなかった。

「アイシクルランス!」

 フラビオと同様、王女が氷の槍を放った。高温に熱せられたところに極低温の氷の槍が見事な威力を発揮した。ここでもコモドドラゴンの体を見事に貫き、倒すことに成功していた。さすがはレベル十である。

 二体目が霧状になって消えたところで、残るは一体だけである。

「アレク様、やれますか?」

 魔物との戦いを初めて見て、呆然としているアレクに、フラビオが声を掛けた。こんなことで本当に大丈夫なのかと心配である。

「ま、任せておけ。では、いざ参る」

 そう言ってアレクは剣を抜き、コモドドラゴンに斬りかかった。

 コモドドラゴンは動きが鈍い。斬撃に特に反応せず、斬られるに任せている感じに見えた。

 そして高らかな金属音。だが、アレクの斬撃は全く功を奏さず、傷一つつけることなく硬い表皮に弾かれてしまった。

 何と、初級冒険者より弱いのかと、フラビオは内心で驚いていた。あれだけ大口を叩いたアレクである。中級戦士並の腕前はあるだろうと思い込んでいたのだ。ところがとんだ素人だったわけだ。

 さすがのフラビオも焦った。このままだとアレクが危ない。

 アレクが自分の攻撃が全く通用しなかったことに焦り、繰り返し剣を振り下ろす。一撃、二撃、三撃、何度撃っても結果は変わらず、剣が弾かれるばかりだった。護衛の騎士二名が加勢して、一緒になって剣を振り下ろすが、これも何の役にも立っていない。

 コモドドラゴンが大きな口を開いて噛みつきにきた。目の前にいたアレクはその恐ろしさのあまり、尻もちをついてしまった。

「うわ、やめろ、やめてくれーっ!」

 アレクが絶叫したその瞬間、フラビオが魔法の楯を展開した。

「マジックシールド」

 間一髪、噛みつき攻撃は魔法の楯に当たり、アレクを守ることに成功していた。アレクは尻もちをついたまま、恐怖に顔を強張らせていた。

「三人は下がれ」

 フラビオがそう言うと、護衛の騎士二人がアレクを抱えて、急いで後ろに下がった。

「アイシクルランス」

 一発目の噛みつきが不発に終わり、もう一度、今度はフラビオに噛みつこうとしていたコモドドラゴンの口めがけて、再度氷の槍が放たれる。威力のある氷の槍が、またもや見事にコモドドラゴンを貫いた。

「間に合ったか」

 コモドドラゴンが霧状になって消えていく。フラビオは負傷者を出さずに済んだことに安堵し、大きな息を吐きだした。

 そしてアレクの醜態はなかったことにして、フラビオの方から謝罪した。

「無事で何よりでした。今回は俺の判断が悪く、アレク様を危ない目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 フラビオの言葉を聞いて、アレクは表情を引き締め、そっぽを向いた。ばつが悪かったのである。渋々といった感じで返事をした。

「いや、助けられたのは私の方だ。何だ、その、いろいろと言って悪かった。どうか許して欲しい」

 フラビオは王女と顔を見合わせた。護衛しに来たなどと言いながら、結局はただのお荷物である。せっかくダンジョンに実戦を積みに来たのに、とんだ足手まといがいたものだと、表情に出さず、内心でため息をついていた。

 王女殿下、三度目の登場です。フラビオを先生と慕っている美人の王女、今回もフラビオに同行してもらって喜んでいます。そして、おまけがついてきます。魔物との戦闘で役に立たないお貴族様が登場です。

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