第十七話 若いパーティへのレクチャー
「俺はオリアス、戦士で壁役です。レベル九の十七才。レベルと年はみんなみんな一緒です」
「私はクリス、ヒーラーでリーダーをしています」
「グレイです。シーフでアタッカーを兼ねてます」
「メイジのメアリです。この四人でパーティ組んでます」
夕食の途中だが、料理屋で四人から自己紹介があった。礼儀もきちんとしていて、なかなか立派な若者達だった。
「フラビオ、メイジだ。よろしく」
「ステラです。元ヒーラーで今はギルド職員です。よろしく」
二人も名乗りを返した。頼りになる先輩がレクチャーしてくれることで、四人もかなり気合が入ったようだった。
「では、フラビオさん、明日八時にギルド出発ということで、よろしくお願いします」
「分かった。俺達もギルドで泊まりだ。集合は問題ない。じゃあ、頑張ろうな、みんな」
「はい。では、私達は食べ終わったので、先に失礼しますね」
そうして四人が立ち去り、フラビオとステラは食事の続きである。料理をつまみにエールを軽くあおる。
「それにしても、ステラさんがダンジョン見たいって、意外だったな」
現役の冒険者だった頃、辛い役回りをしてきたから、ダンジョンなど見たくもないかと思ったのである。
ステラが軽く笑みを浮かべて答えた。
「あの頃はあの頃、今は今です。ギルド職員になってから、ダンジョンの中に入ることなんてまずないですからね。何よりフラビオさんが一緒ですから、こんなに安全にダンジョンに行けるなんて、いい機会だと思ったんですよ」
「そうか。じゃあ、俺がしっかり守らないとだな」
「ええ。期待してます。王都最強の腕前、ぜひ見せて下さい」
まさか旅先でもダンジョンに潜ることになるとは。だがまあ、それを望んで職業にしているのが冒険者だ。若い連中が育つのもいいことだし、ステラの希望も叶えてやりたい。一つ、頑張ってみるかと思うフラビオだった。
二人は冒険者ギルドの一室で泊まらせてもらい、次の日の朝を迎えた。同室だが、フラビオも距離をしっかり保っていた。ステラはそれがやや不満なようなのだが、その気持ちを表情に出すこともなく、雑談などを一緒に楽しんで過ごした。
近くの料理屋で朝食を取り、部屋に戻って身支度をする。
そして八時。若者パーティと合流した。
「いよいよですね。今日はよろしくお願いします」
リーダーのクリスが代表して挨拶してきた。
「ああ、こちらこそよろしく。では出発しようか」
総勢六人で冒険者ギルドを出発する。
北の方に道なりに進み、途中細い道へと分け入る。途中から森になっていて、そこを抜けた先にタルトス北のダンジョンがあった。
ダンジョンに入ると、素材不明の発光する壁に覆われた通路になる。幅も広く天井も高い。どこのダンジョンでも作りに多少の違いがあるが、どこも似たような感じだ。ステラが久々に見て懐かしそうな顔をしていた。
フラビオがお目当ての魔物について尋ねた。
「ホーンドデビルは何階に出たんだ?」
「地下五階です」
「分かった。まずはそこまで案内を頼む」
「了解。俺の出番だな」
シーフのクレイが先頭に出る。地図を作ったり見たりするのが得意で、探知魔法が使えるシーフは、探索には欠かせない存在だ。
道はそれほど面倒ではなく、基本一本道だった。途中で二度ほど曲がって、昇降機へと出る。魔法仕掛けで動いていることは分かるが、どうやって作ったのかは謎の装置である。
「この昇降機で最下層の地下十階まで行けるんです。どんな仕組みで動いているのかは知らないんですが」
「そうだろうな。全く、ダンジョンは不思議な物が多いな」
六人が乗り込むと、リーダーのクリスがレバーを操作し、目的地の地下五階にそれをセットする。しばらくして床全体が沈み込み、段々と下へと進んでいった。
「なるほど、これは便利ですね」
「そうだな。カルスのダンジョンにも地下十階まで下りれば、奥の方に同じようなのがあるんだけどな。使える奴はなかなかいないんだ」
フラビオの解説に、若い四人が目を剥いた。カルスのダンジョンと言えば高難易度で知られている。適正レベルがマスタークラス以上という、難関なのである。そこを地下十階まで潜れるとは、最強のメイジというのは本当なのだと思ったのだ。
やがて昇降機が地下五階で止まる。六人はそこから降りると、近くに敵がいないか、周囲の様子を探った。特に異常がないことが分かると、早速シーフのグレイが探知魔法を使う。
「右手に蛇型の魔物三体、その奥に悪魔型が一体。恐らくこれがホーンドデビルだな」
「じゃあ、早速行こうか」
グレイの先導で六人がダンジョンを進んでいく。魔物との戦闘を控えて、若い四人は緊張しつつも、絶対勝とうと気持ちを高ぶらせていた。
「ジャイアントスネーク三体か。四人に任せて大丈夫か」
フラビオがそう尋ねると、心強い返事が返ってきた。
「任せて下さい。レベル九は伊達じゃないですから」
クリスがそう言って、仲間達を見回す。みな自信のある顔つきでうなずいていた。普段もこのレベルの魔物を狩っていることが良く分かる。
「なら任せた。危なくなったら手を貸すつもりだが、どうやらその必要はなさそうだな」
「ええ。お任せ下さい」
リーダーの言葉で、四人が魔物のいる場所へと飛び出す。
「先手、ブリザード!」
メイジのメアリがいきなり中級の氷魔法を放った。三体のスネークがそれに巻き込まれ、凍り付いて動きの自由を奪われた。
「ストレングス!」
ヒーラーのクリスが強化魔法を仲間に掛ける。身体能力を高め、攻撃力を上げる魔法だ。
「無想斬り!」
シーフだがアタッカーを兼ねているグレイが短剣を振るう。流れるような動きで敵を斬り裂く必殺剣である。見事に一匹の首を刎ね飛ばし、倒していた。たったの一撃で、そのスネークが霧状になって消えていく。
「闘気剣!」
楯持ちの剣士、オリアスも負けていない。闘気を込めた剣を構えて突進し、上段からの渾身の一撃を見舞う。これも見事な威力で、スネークを両断していた。そして魔物が霧状になって消えていく。
二体が倒されている間に、魔法の拘束が解け、残り一体のスネークが動き出した。無防備そうなメイジのメアリに向かって襲い掛かってくる。
メアリが俊敏な動きでそれを避けたところに、魔物を一体ずつ倒したグレイとオリアスがすぐに駆けつけてきた。そしてそれぞれ剣を一閃。スネークは見事に三つに斬り裂かれ、霧状になって消えていった。
ここまでわずか数分である。四人が自信たっぷりに任せてと言った理由が良く分かった。
「見事だ。こんなにあっさり倒せるとは、大したもんだと思うぞ」
「そうですね。見事な連携、見事な技でした。さすがです」
フラビオとステラの二人が四人を褒めた。
「ありがとうございます。でも、問題は次ですね」
「そうです。今度こそ、ホーンドデビルに勝たないと」
勝っても浮かれることはない。ちゃんと目的意識をもっていた。そういうところも実に立派である。
「そうだな。なら、次に行こう」
フラビオの言葉に四人は表情を引き締めてうなずいた。
「確かにホーンドデビルだな。レベル九だとギリギリくらいか」
通路から開けた場所を窺うと、中央に悪魔型の魔物がいた。角と羽のある赤い魔物。武器は持っていないが、空中からの鋭い鍵爪の攻撃と、初級までだが魔法も使ってくる、厄介な相手である。
「作戦だが、最初のうち、壁役のオリアスはひたすら耐えろ。その陰から、グレイが後の先で一撃を入れるんだ。傷が入ったら、メアリが爆発の魔法で傷を広げる。クリスは強化魔法の後、負傷に備えて待機、必要があればシールドを使え」
「分かりました。まずはカウンターを決めるんですね」
「責任重大だな、俺。オリアスの負担も大きそうだし、頑張らないと」
「俺なら大丈夫。きっちり壁役務めてみせるさ」
「私の魔法も重要ですね。ダメージきっちり広げないと」
四人がそれぞれ作戦に納得してうなずく。
「ステラさんは後方で待機。俺はその護衛だ。危なくなったら手伝うが、みんな自分達の力で勝ちたいんだろ。頑張れよ」
「はい!」
「よし、じゃあ、行こうか」
六人は魔物が待ち構える場所に突入した。
まずは楯役のオリアスが突進する。
ホーンドデビルが反応し、空中へと飛び上がる。
オリアスは楯を構えたまま、その攻撃を待ち受ける。その後ろに三人が待ち構える。
「ストレングス!」
クリスが強化魔法をオリアスとグレイに掛ける。後は最初の一撃を決めることだ。
デビルが急降下し、鍵爪で攻撃してきた。高らかな金属音。オリアスは自分の言葉通り、きっちりとデビルの攻撃を防いだ。グレイが隙を窺うが、この時は斬りつけるタイミングがつかめず、不発に終わった。
デビルが再び空中へと戻っていく。
「焦らなくていい。まずは一撃入れるところからだ」
フラビオが四人を励ます。真剣な表情で四人がうなずく。
二撃目、三撃目、デビルの攻撃が続く。その合間に火球の攻撃も飛んでくる。オリアスが必死にその攻撃を楯で防ぐ。
四撃目、鍵爪の攻撃が当たる直前、グレイが動いた。カウンターを取るには先手で動かないと間に合わないと踏んだのである。
鍵爪がオリアスの楯に当たる。その瞬間、グレイが斬撃を放った。ざっくりと手ごたえがあり、デビルの羽の根元を一部斬り裂いていた。
それでもまだデビルは飛べている。それほど深い傷にはならなかったのである。デビルが一撃を受けたことが意外だと言いたげな表情をしたように、四人には見えた。もちろん、悪魔の顔には何の変化も見られない。
デビルからの五撃目。グレイが斬撃を成功させたのを見て、メイジのメアリもタイミングをつかんでいた。同じように鍵爪が振り下ろされる直前に動き出し、デビルに標的を定める。
そして高らかな金属音。オリアスが攻撃を防ぐのと同時に、メアリが魔法を発動させた。
「エクスプロード!」
グレイが与えた羽の根元を起点に、大きな爆発が発生した。その威力は大きく、デビルの羽を根元から引きちぎり、背中に深い傷を残した。さすがのデビルも片翼を失って地上に落ちた。
「今がチャンスだ!」
オリアスとグレイが剣を構えて突進し、斬撃を放つ。地上で立ち上がったデビルは、その攻撃を両腕で防いだが、剣の威力に負けて傷を作っていた。
しかし、デビルもそれでは終わらない。まるで咆哮を上げるような音声を発し、火球の魔法を続けざまに撃ってきた。オリアスが楯でその攻撃を防ぎ、グレイはクリスが展開したホーリーシールドの魔法に守られていた。
その間、メアリはデビルの背後に回り込み、魔法を撃つ隙を窺う。
火球の攻撃を凌いだ後、オリアスとグレイが反撃に転じた。再度威力のある斬撃を放つ。デビルがそれを弾く。弾かれた勢いも利用しつつ、さらに斬撃を加える。二人の攻撃は執拗で、デビルに背後の備えをさせなかった。
「ここ! エクスプロード!」
二発目の爆発の魔法が放たれる。今度も背にできた傷を起点に、派手な爆発が起こった。その威力は背中を大きくえぐり、もう一方の羽をちぎり落とし、体に大穴を開けるほどだった。
爆発の余波が収まったところで、オリアスとグレイがとどめを刺そうと剣を振るう。
「闘気剣!」
「無想斬り!」
二人の攻撃が深く鋭くデビルの体を斬り裂く。ついにホーンドデビルは地に倒れ、そのまま霧状になって消えていった。パーティ四人の見事な連携の勝利だった。
「やった、ついに倒したわ!」
「ああ、とうとう勝てたな、俺達」
「私の魔法、決まって良かった」
「文句なしの勝利だ」
四人が勝利を喜ぶ。そしてクリスが全員の無事を確認する。
「誰も手傷は負ってないわね。ちょっと疲れただけで異常もなし。全員無事を確認、と」
ダンジョン内は危険だ。パーティリーダーは戦闘の後、仲間の無事を確認し、いつでも次の動きに備える必要があった。さすがはレベル九、その辺の基本もしっかりしていた。
そして四人はフラビオのところへと近づき、礼を言った。
「作戦通り、うまくいきました。これもアドバイスのおかげです」
「さすが銀貨五枚の報酬を要求してきただけのことはありましたよ」
「ちょっと、それフラビオさんに失礼なんじゃ」
「すみません、俺達こんなんで。でも本当に助かりました。雪辱を果たせてうれしいです。ありがとうございました」
四人がみな喜びに顔をほころばせている。いい手助けができたと、フラビオは思った。
「もう少し魔物を狩ってもいいですか。せっかく勝って余力もありますし、もう一稼ぎしたいところなんです」
リーダーのクリスがそう提案してきた。仲間達もみなうなずいている。反対する理由もなく、フラビオもそれに同意した。
「ああ、みんなに任せるよ」
それを聞いて、グレイがまた探知魔法を使う。
「まだこの先の奥に昆虫型が三体、その左手奥にトカゲ型が三体。とりあえず、そいつらを倒しに行こうぜ」
パーティメンバーが賛成し、一行は魔物の方へと向かった。
「ストレングス!」
「フレイムピラー!」
「無想斬り!」
「闘気剣!」
四人の技がそれぞれ放たれる。魔物達が次々に倒され、霧状になって消えていく。さすがにこのパーティはダンジョンでの討伐に慣れていて、格下の相手はものともしなかった。
フラビオものんびりそれを眺める余裕があったし、ステラもパーティ四人の見事な技を見てしきりに褒めていた。何だかんだと、全部まとめて金貨一枚分は稼いでいる。大したものだと二人も思っていた。
「順調に討伐できました。今日はこれで引き揚げようと思います」
「ああ、見事な戦いぶりだった。さすがだったぞ」
「ええ、みなさん、本当に頑張ってましたね。さすがでしたよ」
フラビオとステラもそう言ってパーティを褒めた。
「ありがとうございます。おかげでいい経験が積めました」
そして一行が来た時の昇降機へと戻っていく。
しかし、事はそう簡単に運ばなかった。昇降機の少し手前で、まだ魔物がいたのである。ジャイアントホーネット十体。体長六十センチくらいの、蜂型をした小型の魔物だ。当然耐久力も低く、武器の一撃で十分に倒すことができる。ただし当たればだ。蜂型なだけに、空中を飛び回る動きは不規則で、狙いをつけにくい。振りかぶってから攻撃したのでは大概間に合わない。最短の動きで一気に突くなり斬るなりするのが倒すコツだ。
「面倒な相手ですね」
クリスがそうこぼすと、フラビオが手でみなを止めた。
「じゃあ、せっかく来たんだし、俺も芸の一つでもお見せしようか」
「いいんですか。こんな雑魚相手、私達で十分ですよ」
「それは分かってる。だからだよ。どうせ倒せるなら、無理して相手することもないだろ。俺一人で十分だ」
そう言うと、フラビオはステラに声を掛けた。
「俺の魔法を見せるのは初めてだったな。まあせっかくだから見物していってくれ。じゃあ、行ってくる」
簡単にそう言うと、フラビオは一人で魔物の群れの中へと進んでいった。
ホーネットもフラビオが現れたことで、それを敵と認識し、攻撃を始めてきた。
まず一匹がフラビオの眼前に迫る。
「ファイアボール」
その瞬間、フラビオは火球を放った。高レベルメイジのフラビオの魔法は威力が半端ではない。即座にホーネットは焼き尽くされ、霧状になって消えていった。
次の一体が迫るより早く、フラビオは次の魔法を放った。
「ウィンドカッター」
真空の刃が放たれ、三体のホーネットを続けざまに斬り裂く。不規則な軌道の魔物の動きを見事に把握していたのである。
「もう一発、ウィンドカッター」
これもまた、三体のホーネットを次々に斬り裂いていた。これで残るは三体だけである。
知性はないはずの魔物が散開し、別々の方向から襲い掛かってきた。その程度はフラビオも予測済みである。
「ウィンドカッター」
真空の刃を円弧を描くように放つ。離れていたはずのホーネットが、一体、また一体と順に斬り裂かれていく。その刃は見事に最後の一体までをも斬り裂き、あっさりと戦闘は終わっていた。
「す、すげえ。初級魔法一発で三体ずつかよ」
「これが高レベルメイジの実力なのね。すごいわ」
パーティから感嘆の声が上がる。
「言ったろ、これも芸の内だってな」
フラビオにとっては戦闘ですらないのだった。魔物を狩ることを作業のように淡々とこなしてきた者の姿だった。
「さすがフラビオさんですね」
ステラもさすがに驚いていた。この強さでもフラビオの本領にはまだ遠いと思うと、本気で戦った時の実力はどのくらい凄いのだろうと思う。
フラビオは驚くみなをなだめつつ、あっさりと言った。
「さ、片付いたことだし、みんな引き上げよう」
「そうですね。ギルドに戻りましょう」
こうして、タルトス北のダンジョンでのレクチャーは終わりとなったのだった。
旅先のギルドで、中級者パーティの手助けをします。がめついフラビオには珍しく安値でレクチャーしています。しかも魔物退治のおまけつき。相変わらず、フラビオも根が親切な部分を出しているのでした。




