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その魔術師はがめついだけじゃない  作者: たわしまつわ


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第十六話 旅の目的地で

 スレイの町に到着早々、トラブルに巻き込まれたフラビオとステラだったが、それもすぐに収まり、今は宿屋街を歩いていた。

 その中から一軒の宿を選び、二人で中に入る。手続きの時、今日も二人が同室を希望し、またもご夫婦ですか、と尋ねられたのは余談である。

 この日は公衆浴場へ行った後、着替えの洗濯をした。井戸端で洗った衣服は部屋の中に干しておく。室内でも丸々一晩あれば乾くのである。当然だが、干した衣服の中には下着も混じっている。互いにそれが目に入るわけなのだが、フラビオはともかく、ステラには気にした様子がなかった。

 フラビオは恥ずかしくないか聞こうと思って止めた。中身に興味を持って欲しいとか言われたら、返事に困るからだ。ここ最近、ステラの押しはかなり強い。無難が一番である。

「フラビオさん、どうしました?」

 そんな内心を知ってか知らずか、ステラが話し掛けてきた。妙なことを考えていたのを知られるのも困るので、フラビオは関係のない返答をした。

「うーん、エールを飲もうかどうか、ちょっと考えてただけ」

 エールというのは大麦麦芽の麦汁にホップを加え、上面を常温で短期間に発酵させて作る、いわゆるビールの仲間である。短期間で作れるので量産に向き、一定規模の町では必ずと言って良いほど作られていた。気軽に飲める酒の代表である。

「洗濯物眺めながら、そんなことを考えてたんですね」

 あ、何か察してる感じがする。しかし、フラビオもそこは適当に流してごまかした。

「普段、あんまり酒は飲まないからね。旅先くらいはいいのかなって」

「いいと思いますよ。私もご相伴します」


 夕食を取りながら、それをつまみにエールを一杯。昨日と同じで、二人でのんびり話をしながら酒を飲んでいた。

「この仕事、くじ引きで当たった時は嫌だったんですけど、フラビオさんと一緒だと楽しくていいですね。良かったです」

「そりゃあ、大金持っての一人旅じゃ不安だよなあ。お役に立てて何より」

「護衛としても信頼できますしね。そう言えば、昼間、絡んできた男達に、珍しく容赦しなかったですね。何か理由でもあるんですか」

 普段のフラビオなら、攻撃を全て受け切って終わりにするだろうと、ステラは思っていたのである。

「ああ、態度が悪かったからだな。根性が曲がってるというか、とにかくあの二人、自分達が悪い癖に人に絡んできただろ。たまには痛い目を見た方がためになるかと思ってさ」

 なるほどとステラは納得し、軽くエールをあおる。

「分かる気がします。ああいうはた迷惑な連中、少しは周りのことを考えて欲しいですよね。あれで反省してくれればいいですけど」

 ふうと息をついて、ステラが話を変えた。

「そう言えば、この間、ニコルさんのパーティが、他のパーティからメイジを一人借りてダンジョンに潜ったんですけど、報酬の件で揉めてましたね。間に入ったギルド職員も、かなり手を焼いたみたいで、和解するのに時間がかかってましたね。魔物相手じゃないんだから、人同士、すっきり話し合って解決して欲しいものです。本当に」

「ギルドの人も大変だ。冒険者は我が強いからな」

「そうですね。その点、フラビオさんはがめついですけど、最初にきちっと条件出しますし、ダンジョン内で実力を見せれば大概のパーティは大人しく従いますし、揉めることが少ないので助かってますよ」

 そんなところを褒めどころにするのか。ステラも仕事柄、苦労してるからなんだろうな。フラビオは黙ってうなずいた。

「まあ、フラビオさんの場合、逆に条件を提示した時、大概揉めてますけどね。金貨一枚に収益分け取りですから、高いって思うんでしょうね」

「安全の対価としては妥当だと思うけどな。まあ、これが高いと思うようなら、別の助っ人を頼めばいいんだし」

「それはフラビオさんの強さがあるから言える台詞ですよ。でも、うーん、こうやって一緒に飲んでると、気安い旅の仲間って感じで、でたらめなほどに強いって、あまり感じないですけどね」

「そりゃあそうだ。ここにいるのはただの酒飲んでるおっさんだからな」

 そんな風に、楽しく話をしながら、のんびり酒を酌み交わしていた。


 部屋は同室なのだが、さすがに仕事で大金を輸送中の職員と、その護衛ということで、互いに適切な距離感を保って接していた。

 何事もなく一晩ゆっくりと眠り、次の朝を迎えた。

 この日はステラの方が先に目を覚まし、フラビオの寝ている様子をじっと眺めていた。

「こういう姿を見てると、無敵のメイジには見えないなあ」

 その無防備な様子にステラが和む。ずっと見ていても飽きない。

 やがて、もぞもぞとフラビオが動き出す。

 目を開けて、体を起こすと、ステラが微笑みを浮かべていた。

「おはようございます、フラビオさん。ゆっくり眠れたみたいですね」

「ああ、おはよう、ステラさん。今日もよろしく」

 フラビオは背伸びをしてベッドから出ると、まずは顔を洗いに行こうと夜着を着替える。ステラもそれに倣って動き出す。

「いい朝ですね。いよいよ今日、目的地のタルトスの町です。よろしくお願いしますね」

「任せてくれ。ステラさんはきちんと守るから」

 そして二人で井戸端へ行き、顔を洗って水を飲む。部屋に戻って洗濯物を鞄にしまい、荷物を確認して朝食へ。

 宿の食堂で二人向かい合わせで朝食を取る。チーズオムレツにサラダとスープ、それにパン。この日はジャムと牛乳も付いていた。新鮮な牛乳は王都のような大都会ではなかなか飲めない。流通の都合で、生乳は過熱して提供するか料理に使うかのどちらかが多い。これも旅の良さだなと思いつつ、二人で朝食を平らげる。おいしい食事を取ると元気が出る。

「さて、忘れ物はないかな」

 部屋に戻って荷物を点検し、出発である。

 商店街で昼食のパンを買い出し、市街地を抜けて街道に出る。そこから東に向かって一本道である。

「考えてみると、ステラさんと二人きりの旅行か。楽しいのはいいんだが、またやっかむ連中がいそうだな」

 道中、ふと思い出したようにフラビオが言った。ステラも自分がそれなりに人気のあることを知っている。若くて美人、明るく気立ても良く、対応は丁寧と、いいところづくめなのだから当然である。

「そうかもしれませんね。でも、フラビオさん、役得なんですから、そのくらい仕方ないですよ」

「役得って自分で言うかね」

「私も役得ですよ。フラビオさんを五泊も独占できるんですから。文句のある人には言わせておけばいいんです」

「すごい割り切り方。さすがというか、見事というか」

「いいじゃないですか。せっかくこんなに楽しい旅なんですから。二人で来られて良かったですよ」

「まあね。それには同意だな」

 そうやって二人は、歩き始めてからも、雑談を交えながら楽しく過ごしていた。


 そろそろ昼食休憩にしようかという頃、またもトラブルに見舞われた。

 二人組の男が、言い争いをしているところに居合わせてしまったのだ。拳を交えるまであと少しという感じで、二人共、互いにかなり頭に来ているようだった。

「ケンカ、多いなあ」

「そうですね。知らぬふりで、さっさと行ってしまいましょう」

 二人は面倒事は放置で、先に進もうとその二人を追い越そうとした。

 すると、なぜかケンカをしているはずの二人から苦情が来た。

「ちょっと待てよ。間に入ってくれないのかよ」

「俺達だって、ケンカしたくてしてるわけじゃないんだ。止めてくれたっていいだろう」

 何だこの勝手な言い草は。フラビオはとっさにそう思ったが、表情には出さなかった。立ち止まると、一応の礼儀を守って声を掛けた。

「それは済まなかったな。二人は旅の同行者なんだろう。ケンカするほど仲が良いというヤツかと思ったんだよ。だから放っておいて先に進もうと思っただけなんだ」

 その言葉に続いて、ステラも質問を返した。

「では、お二人はどうしてケンカをしていたんですか。それほど激しく言い争ってたんですから、相当の理由があるんでしょう?」

 すると、二人が視線を逸らし、ごまかすような素振りになった。

「話し辛いことなんですか」

 ステラが重ねて問うと、歯切れの悪い返事が返ってきた。

「いや、昨日の夜、酒代は割り勘なのに、こいつが一杯多く飲みやがって。ずるいだろうと文句を言ったんだ」

「いいじゃないか、エールの一杯くらい。お前はその分、料理をたくさん食べてたんだから、それでチャラだろうと言い返したんだ」

「ずるいものはずるいって。それに、こいつがいつもそうやって自分ばかり得しようとしてるから、俺はいろいろ文句を言ったんだ」

「何言ってるんだ。自分ばかり得しようとするのはお前の方だろ、と。エール一杯で文句を言うくらい、けち臭いのはそのせいだと」

「そんなこんなで言い争いが続いてたってわけです」

「ただ、誰も止めてくれないから、それがずっと続いてしまって」

 話を聞けば、何とも下らない理由であった。しかし、仲が良いからケンカするというフラビオの言葉も、あながち間違いではなかったのである。

 フラビオが聞こえよがしにため息をついて、柄にもない説教をした。

「なあ、二人は一緒に酒を飲むくらい仲が良いんだろう。お互いに欠点があるのは認めた上で、長所の方を見るようにしたらどうなんだ。一杯多く飲んだ分、料理を譲ってるとか、料理を多めに食べる分、一杯追加するのを許すとか、そんな風に思いやれたらいいんじゃないのか」

 全くその通りである。ちょっと互いに配慮すれば、こんな馬鹿なケンカは起きないのである。

 二人もこれをいい機会と思ったようで、詫びを言って頭を下げた。

「すみません、関係のない人を巻き込んでしまって」

「おかげで落ち着きました。こいつとは昔馴染みの友達なんです。まあ、この先もこんな風にケンカするかもしれませんが、なるべく相手の良いところを見るように気を付けますよ」

 何ともあっさりと決着が付いていた。好きでしているケンカではなかったようだ。

「良かったな、仲直りができて」

「ありがとうございます。俺達、王都まで行くんで、これで失礼しますね」

「お世話になりました。それでは、お二人もお気を付けて」

 男達が陽気に手を振るのを見送って、フラビオとステラの二人は苦笑を浮かべていた。

「はた迷惑なケンカでしたね」

「そうだな。まあ、ちょっとした行き違いは、誰にでもあるもんだろうさ」

「そうですね。ギルドで仕事してると、揉めている原因って、大概今の二人と似たような感じですからね」

「確かにそうかもな。そんなことより、昼食にしようか」

 二人は少し離れた所にあった休憩所へ向かい、そこで朝方に買ったパンを取り出して食べ始めた。


 目的地であるタルトスの町には、まだ日が高いうちに到着することができた。行程に余裕があったからである。無理のない行程を組んだステラのおかげである。

 早速市街地の中にある冒険者ギルドへと向かう。大金の受け渡しなどという用事はさっさと済ませるに限ると、ステラも思っていた。ついでに今晩の宿を借りる用事もある。

 冒険者ギルドに入ると、二十代後半くらいの女性が受付にいた。ステラがギルドの職員証を提示し、ギルドマスターへの面会を頼む。話は通っていて、すぐに職員の女性がギルドマスターを呼んできた。

「私がギルドマスターのオットーです。本日は王都からわざわざ足を運んで頂き、ありがとうございました。運営資金の方、大金貨三十枚、確かに受け取りました」

 そしてペンで受領証にサインをして、ステラに渡してきた。

「このギルドは私と職員のクレア二人だけで運営しておりまして。クレアはまだ子供が小さいので、泊りで王都まで行くのは無理なのです。私もクレアに全てを任せてギルドを出るわけにもいかず、こうしてお届けして頂くよう頼んだというわけなのです」

「そうでしたか。お役に立てて何よりでした」

 ステラが穏やかにそう返すと、手間をかけたことを気にしていたオットーも、ほっとしたようだった。

「それで、今晩はうちのギルドに泊まるのですね。部屋の方はご用意できますが、人手不足で掃除が行き届いておりません。申し訳ないのですが、ご自身で掃除して頂きますよう、お願い致します」

「分かりました。なら二人部屋を一つ、お借りしますね」

 あ、とフラビオは思った。大金を運んでいて不安だからと、同室を承諾していたが、まさかその用事が済んでも同室とは思わなかったのだ。しかし、今まで同室で泊まっておきながら、それに文句を言うのも変である。互いに節度を守れば問題ないかと、フラビオは断りの言葉が出かかっていたのを引っ込めたのだった。

 部屋を借りた後は、二人で掃除の時間になった。ざっと一通りはいて、机や椅子、棚や桟、壁などを水拭きして回る。何だかんだと手間がかかったが、ステラは喜んで掃除をしていた。

「二人で一緒に掃除するなんて、いい経験になりましたね」

 何の経験かは聞かない方が良さそうなので、フラビオは黙ってうなずいたのだった。


 タルトスの町のギルドも、人手がないので食事の提供はない。近くの料理屋で取ることになる。

 公衆浴場で旅の汗と掃除の埃を落とした後、フラビオとステラは一緒に夕食を取りに出かけた。

 しかし、ギルド近くの料理屋に冒険者は少なく、この料理屋には二つのパーティメンバーが来ているだけだった。なるほど、オットーがタルトス北のダンジョンはそれほど人気がなく、今は五つのパーティが潜っているだけだと言った通りだった。タルトス北のダンジョンは、適正レベルが中級から上級といったところである。稼ぎもそれほどいいとは言えず、王都の周辺に比べれば冒険者が少ないのもごく当たり前のことだった。

 フラビオは食事中も、隣のテーブルにいたパーティが話をしているのを耳にして、気に掛けていた。どうやら中級者のパーティらしい。

「またホーンドデビルに負けたな。まあ、無事に引き上げられたから、良かったけど」

「攻撃もあまり通らないし、魔法も避けられるし」

「その間、楯やってる俺の身にもなれよ。結構辛いぞ」

「ごめんね。私がうまく魔法を当てられなくて」

 男二人、女二人のパーティだった。こういう苦労もあるよなと、フラビオはそう思いながら話を聞いていた。

「倒せない魔物がいると、結構頭にきますよね。私にも分かります」

 ステラも何気に隣にいるパーティの話を聞いていた。

「でも、私は攻撃を受け続けるのを繰り返すうちに怖くなって、冒険者は引退しちゃいましたけど。今はそれで正解だと思ってます。だから、現役の人達、よく頑張ってるなって感心します」

「まあ、そこは人それぞれだよ。俺も自分がこんな風になるとは思ってなかったしな」

「私がギルドに来た時には、もう王都最強のメイジでしたからね」

 その言葉が隣の冒険者たちの耳に入ったらしい。

「ちょっとそこのお姉さん、このおっさんが王都最強って本当か?」

 パーティのうちの一人、年若い男が不意に声を掛けてきた。年齢は恐らくまだ十代だろう。少年と青年の境目という感じだ。

「本当よ。王都の冒険者ギルドでフラビオといったら、がめついけど突き抜けて強いって、誰でも知ってるわ」

「おいおい、そんな宣伝、こんな場所ですることもないだろ」

「いいじゃないですか。本当の事なんだし」

 ステラは涼しい顔でそう言った。当然、若いパーティの四人が食い付いてくる。

「じゃあさ、頼みがあるんだよ。俺達にホーンドデビルの倒し方を教えてくれよ」

「いつもいい線までいくんだけど、最後は押し負けちゃうのよね」

 フラビオにも、勝ちたいと切望する彼らの気持ちも分かる。とりあえず簡単に説明してみる。

「ホーンドデビルは動きが速い。まずは剣でどこでもいいから傷をつける。傷がついたら、至近距離でその傷口にエクスプロードを直撃させればいい。ダメージを与えて動きが鈍ったら、繰り返し、その場所に攻撃を集中すれば勝てる」

 四人がそれを聞いて一瞬表情を明るくした。しかし、すぐに残念そうな表情に変わる。

「言ってることは分かるけどさ。どうすればそれを実現できるか、言葉だけじゃわからないんだよ」

「できることなら、一緒に来て、実戦の中で教えてくれませんか」

 ここであったのも何かの縁だ。力を貸すのもやぶさかではない。ないのだが、旅程の都合というものもある。さて、どうしようかと思っていると、ステラが割って入った。

「そういうことなら、もう一泊、タルトスのギルドでお世話になりましょうか。せっかくの機会だし、私も一緒にダンジョンに行きたいです」

 観光旅行みたいなノリで言うなあと、半ば呆れたフラビオだったが、ステラが久々にダンジョンの中を見たいというのも本音だろう。安全に関しては、フラビオが守ってやれば済む。

「分かった。そういうことなら、明日、一緒にダンジョンに潜ろうか。ただし、報酬は高いぞ。本来なら金貨一枚もらうところだ」

「ええっ、そんなに?」

「と、言いたいところだが、旅の途中だし、ステラさんの希望もあるしな。今回は銀貨五枚に負けておいてやる。その分、お前さん達が頑張って魔物を倒さないと赤字になるから、覚悟しておけよ」

「分かりました。よろしくお願いします」

 こうしてフラビオ達は、旅のついでにとばかり、中級者パーティの手助けをするため、タルトス北のダンジョンに同行することとなったのだった。

 大金輸送の仕事を無事に終えた二人。今度は中級者パーティの手伝いをすることになりました。若いパーティのメンバーのために一肌脱ぐ感じですね。でも、ちゃんと報酬を請求するフラビオなのでした。

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