第十話 間一髪でパーティを救出
そのパーティは最近になってメイジを加え、新たに結成し直していた。
彼らは自分達でパーティ名を考えようと話し合い、その結果『星の光』という名前に落ち着いた。星の輝きのように、光り輝く実力を身に付けようという決意の表れであった。
メンバーは四人。リーダーで楯使いの戦士のアルベルト。同じく戦士だが軽装型で槍使いのエリアス。ヒーラーのソフィア。新規加入でメイジのクロエ。四人はみなレベル十三で、しかも年齢もニ十才と同じだった。アルベルトとエリアスは男性、ソフィアとクロエは女性である。
フラビオとステラがデートしていた日も、彼らはダンジョンに潜って魔物を討伐していた。初めはぎこちなかった連携も、戦闘を重ねる度に良くなっていった。その日は銀貨三十枚近くの魔石を入手し、幸先が良いと四人で喜んでいたものである。
その翌日も、四人はダンジョンに来ていた。
「キメラだ。教わった連携でいくぞ」
アルベルトが声を掛けると、四人が集まってキメラへと突進した。
「ストレングス!」
ソフィアの強化魔法が、アルベルトとエリアスに掛けられる。そしてそのまま、ソフィアが前に出る。
キメラが炎を吐こうとした瞬間、今度は魔法の楯を発動する。
「ホーリーシールド!」
その楯が炎を防ぎ、三人がその陰で炎をやり過ごす。
次の瞬間、アルベルトとエリアスが左右からキメラに攻撃を始める。
アルベルトの斬撃は力強く、エリアスの刺突は鋭い。マスターレベルだけあって攻撃にも十分な威力がある。しかし、キメラの頑丈さが勝り、二人の攻撃ではわずかな傷をつける程度にしかならない。
キメラもその攻撃を嫌がり、尻尾や前足で反撃してくる。
そこで牽制の攻撃を加えたのがクロエだ。
「アイシクルランス!」
初級の攻撃魔法で、氷の槍を生み出し、ぶつける魔法だ。それがキメラの顔面を直撃し、大きくへこませた。しかし、これも大したダメージにならない。キメラは平然と、再び炎を吐こうと口を開いた。
そこがキメラの最大の隙だった。クロエが待ちかねたように魔法を放つ。
「エクスプロード!」
開いたキメラの口の奥、体内を起点に爆発の魔法を発動させた。さすがのキメラも体内から強烈な爆発を受けて、顔面が消し飛んでいた。大きなダメージを受けてよろめくキメラに、戦士二人がとどめの攻撃を放つ。
「闘気剣! 三段斬り!」
「闘気槍! 流星突き!」
強烈な攻撃がキメラを斬り裂き、また突き刺していく。キメラが深手を負い、そのダメージで地に倒れ、霧状になって消えていった。後には魔石が残るのみである。
「よし、全員無事。今回も連携が見事に決まったな」
「これもフラビオさんに戦術を教わったおかげだ」
「魔法のタイミングもうまく合わせられて良かった」
「じゃあ、一休みして次に行きましょう」
高難易度で有名なこのカルスのダンジョンで、魔物を次々倒せるようになって、意気の上がっている四人組だった。
それからも、何体もの魔物を彼らは討伐していった。
現在は地下二階。この階層ならもう自分達は負けることはない。そんな風に自信をつけていた。
しかし、それが油断だったのだろう。
彼らには探知魔法がないため、遭遇するまで魔物の種類が何なのか分からない。相手を見つけた時は、とにかく接近して正体を確かめるのだ。
そして、次に彼らが見つけた魔物は、体長四メートルを超える、巨大な悪魔型の魔物だった。
「デーモン? でも、レッサーじゃない?」
「まさかグレーターデーモンか?」
「そんなはずないだろ。まだ地下二階層だぞ」
「どうする? 今なら離脱できると思うわよ」
四人は小声で話し合った。これほどの強敵、見るのも初めてである。
「逃げるにしても、軽く戦ってからにしないか」
「そうだな、どの程度の相手なのか、手ごたえを確かめたい」
戦士二人は交戦する方を選んでいた。
ソフィアは反対であった。
「無謀な戦いは止めた方がいいと思う。一度ギルドに帰って、またフラビオさんとかに、グレーターデーモンの対処法を聞くとかして、戦うならそれからにした方がいいわ」
クロエは迷っていた。戦わずに逃げるのもどうかと思うし、ソフィアの言う通り安全第一にすべきかとも思う。
「私にはどちらがいいとも言えない。でも、まず戦ってみて、勝てそうにないと分かってから逃げても遅くない気もする。けど、安全を考えたら、戦わない方がいいに決まってるし、ちょっと決断できない」
「なら、まず戦ってみよう。手ごたえを確かめよう」
「危なくなったら戦闘を止めて逃げる。それでどうだ」
戦士二人が強く推してくる。結局、ソフィアもクロエもその意見に賛同することとなった。
「よし、じゃあ行こう」
「まずは強化魔法ね。ストレングス!」
キメラ戦と同様に、まずは戦士二人にソフィアが身体強化の魔法を掛けた。これだけ巨大な相手だと、素の力で傷をつけるのも難しそうだからだ。
「よし、突入!」
四人が一丸となって突撃する。
デーモンがゆっくりとパーティに向き直る。
そしていきなり魔法が飛んできた。吹雪の魔法ブリザードだった。一定の範囲を凍り付かせ、冷気によるダメージを与える魔法だ。
「ホーリーシールド!」
ソフィアが魔法の楯を発動させる。間一髪間に合ったが、冷気が楯のない横から染み込んでくる。凄まじい威力だった。
「お返し、フレイムピラー!」
クロエが魔法を発動させる。炎の柱を生み出し、相手を焼き尽くす魔法だ。それがデーモンの全身を包み、大きなダメージを与えたかのように見えた。
だが、炎が収まってみると、デーモンには全くダメージがない。
「そんな、レジストされた?」
強力な魔物の中には、魔法耐性が高く、魔法を受け付けないものもいるという。このデーモンが正にそれだった。
「ならば、武器攻撃で! いくぞエリアス!」
「任せろ!」
アルベルトとエリアスが二手に分かれてデーモンの足元を斬りつける。強化魔法の恩恵もあって、一撃ごとにわずかだが傷をつけることができていた。しかし、それだけである。とても大きなダメージを与えられそうにはない。
まだ必殺の闘気剣、闘気槍が残っているが、その隙をデーモンは与えてくれなかった。
手足を振り回し、それが二人の体近くをかすめる。当たればただでは済まない威力だった。それを二人は必死で避けていた。
「援護をしなきゃ。ストーンブラスト!」
石つぶてを放つ魔法である。威力は小さいが、顔面を狙うことでデーモンの視界を遮り、攻撃の手を緩めさせることに成功していた。
一息付けた戦士二人が、体勢を立て直し、再度攻撃を試みる。
「三段斬り!」
「流星突き!」
手ごたえは十分にあった。それなりの傷をデーモンの足に付けることに成功していた。そしてデーモンがそれを嫌がり、また手足を振り回す。それと同時に、小さな火球が連続して何発も飛んできた。接近していてはそれを避けきれず、二人がデーモンから大きく距離を取る。
「ダメだ、こいつは強すぎる」
「仕方ない、退却するか」
戦士二人がソフィアとクロエのところに合流する。
「すまん、勝てそうもない」
「俺達の判断が甘かったみたいだ」
「じゃあ、撤退ね」
そうして四人はその場から逃げ出そうと試みた。しかし、デーモンの魔法がそれを許さなかった。先程クロエが放ったのと同じ、フレイムピラーの魔法が四人を包んだのである。
「マジックシールド!」
今度はクロエがその魔法を防いだ。しかし、魔法を防いで動きが止まった瞬間、四人は逆に隙を作ってしまった。
デーモンが大きな拳を振り下ろしてきた。巨体から放たれる凄まじい威力の一撃だ。喰らったらただでは済まない。
「ホーリーシールド!」
クロエの防御魔法と合わさり、辛うじて拳を防ぐ。しかし、デーモンの拳は単発ではなかった。
左右の腕で連続で拳を放ってくる。一撃、また一撃と楯で何とか防いでいるが、明らかにじり貧である。魔法の楯が失われれば、直撃を受けて無事では済まないだろう。
しかも、拳だけでなく、火球まで飛んでくる。ファイアボールの魔法で威力はそう高くないが、これも受ければただでは済まない。拳と火球の波状攻撃に、四人は全く身動きが取れなくなってしまった。
「まずいぞ。このままでは全滅する」
「隙を見て脱出したいけど」
「その隙が全く無い。どうすればいいんだ」
「シールドもそろそろもたない。どうしよう」
四人は焦ったが、デーモンの猛攻の前に為す術がなかった。
「くそ、このまま全滅したくない!」
四人が必死で楯の陰に身を隠す。
すると、そこに大きな岩の塊が飛んできた。その岩がデーモンの頭を直撃し、デーモンの体が揺らぐ。
攻撃が一瞬だが止んだ。今がチャンスである。
四人は黙ってその場を離れ、走ってデーモンの間合いから逃れた。
「よお、またあんた達か。縁があるな」
そこに現れたのはフラビオだった。
「フラビオさん!」
四人の声が重なる。先程の岩も、フラビオの土属性魔法ロックアタックであった。岩の塊を飛ばす中級魔法である。
「危ないところだったな。しかし、グレーターデーモンとはなあ。普通二十層より下にしか出ないんだが、何かのイレギュラーか」
相変わらずの口調である。パーティ星の光の四人が手も足も出ない相手を前に、それでもフラビオには余裕があった。
「アイシクルランス」
フラビオが牽制の氷の槍をデーモンに当てる。先程のフレイムピラーと同様、やはり魔法をレジストしていて、効果はほとんどない。物理的な威力で、当たったところが少しへこんだだけであった。
しかし、デーモンの狙いがフラビオに逸れた。狙われなくなった四人は大きく息を吐いて安堵した。しかし、今度はフラビオが危険である。
「フラビオさん!」
四人が心配して大声を上げた。だが、フラビオは余裕で右手を上げただけだった。
デーモンが先程と同じように殴り掛かってきた。威力は全く衰えていない。凄まじい勢いでフラビオめがけて拳が飛んでくる。
フラビオはそれを軽く跳んでかわすと、そのままデーモンの腕に乗り、胴体の方へと駆け上がった。デーモンがまるでうっとうしいと言わんばかりに腕を振り回す。
フラビオが再度跳躍して、デーモンの肩の上に乗った。そこからさらに跳び上がり、そして魔法を放つ。
「バーストエンド」
最上級の爆発魔法だった。それが至近距離でデーモンの頭を直撃した。爆発の威力は頭部を即座に消し飛ばし、そのまま上半身を粉砕していった。それが腰から足へと波及していき、見事にデーモンの全身が粉微塵に砕けたのだった。
そして霧状になってデーモンの残骸が消えていく。グレーターデーモンもやはり魔物なのである。
フラビオは、空中から着地する寸前、エアークッションの魔法で勢いを殺し、静かに地上へと降り立った。
四人は、一撃でデーモンを粉砕した光景を見て、呆然としていた。フラビオは、そんな彼らの元へと歩み寄り、いつも通りに声を掛けた。
「何とか無事みたいだな。それにしても相手が悪かったな」
「フラビオさん、ありがとうございました」
「危ないところでした。おかげで命拾いしました」
「本当に助かりました」
「助けて頂いて、ありがとうございました」
四人が口々に礼を言う。何はともあれ、無事で良かったとフラビオも思う。
「ところで、グレーターデーモン、どうやって倒したんですか」
「私の魔法は一切通じないし、剣や槍の攻撃もほとんど効果なかったのに」
当然の疑問である。フラビオとしても隠す必要はないので、簡単に解説してやった。
「魔法をレジストする相手には、それを上回る威力の魔法を、至近距離でぶつけてやればいい、ただそれだけさ。だから、デーモンの上に飛び乗って、頭の上から最上級の爆発魔法をぶつけた。そういうことだ」
「なるほど。勉強になります」
「さすがに、四人にはまだ難しいだろうな。全く歯が立たないわけじゃないんだが、命懸けになるから止めておいた方がいい。今回、あれを見つけた時点で、即撤退するのが普通だ。功を焦るのは良くないぞ。無事に戻ってこそ一流の冒険者だ。無事なら、また戦えるからな」
「分かりました。肝に銘じます」
そしてフラビオは、グレーターデーモンの魔石を回収すると、四人に見せてやった。
「並の魔物のより一回り大きいだろう。強い魔物の魔石はこうなんだ。これだと一つで銀貨十枚ってところだ」
「キメラでも銀貨五枚ですから、それだけ良いものなんですね」
「そうだ。というわけで、今回は当然、報酬をもらうぞ。いつも通りの値段でいい。金貨一枚だ」
危ういところで命を救われたのだ。もちろん四人もお礼を支払うつもりでいた。しかし、たった一戦で金貨一枚とは。相変わらずがめついところはフラビオらしいと思った。
「すみません。ちょっと赤字です。この近くで稼げる場所ありますか」
ソフィアが困り顔になって言う。
それを見て、フラビオがニヤリと笑った。こういうところでは、案外人が悪い。
「ちょうどいい。近くにジャイアントホーネット二十匹、それで銀貨二十枚だ。報酬分にぴったりだな。狩りに行くぞ」
四人はうんざりした顔になり、フラビオの言葉にうなずいたのだった。
ジャイアントホーネットは体長六十センチくらいの、蜂型をした小型の魔物だ。当然耐久力も低く、剣や槍の一閃で十分に倒すことができる。ただし当たれば、である。
蜂型なだけに、空中を飛び回る動きは不規則で、狙いをつけにくい。振りかぶってから振り下ろしたのでは大概間に合わない。最短の動きで一気に突くなり斬るなりするのがコツだ。
星の光の四人も、レベルの低かった頃に何度もこの魔物を倒している。しかし、その時の数は精々五匹くらいだった。それが二十匹ともなると厄介なことこの上ない。ぶんぶん飛び回ってきて、一匹倒している間に、何匹かの攻撃を受けてしまうのだ。
特に、杖での打撃しか攻撃手段のないソフィアには厳しかった。ホーリーシールドの魔法で攻撃を防ぎ、隙があれば殴り掛かるのだが、一撃では倒せないでいた。
逆にクロエは群れから距離を取り、ウィンドカッターの魔法で遠くから切り刻む戦いを展開していた。おかげで彼女だけは無傷で戦えていた。
接近戦しかできないアルベルトとエリアスは、いくつもの傷を受けながらも、地道に一匹ずつ倒していた。彼らもマスタークラス、それなりに攻撃をかわしてはいるのだが、数が多いうちはそれも難しかった。
しかし、地道に戦っているうちに数は減り、残りが十匹を下回ってからは魔物の攻撃を受けることもなくなっていた。良く狙いを定め、残りを一匹ずつ確実に仕留めていった。
十分ほどの戦闘の末、見事に二十匹のホーネットを全滅させることに成功した。しかし、戦士二人とソフィアが傷だらけだった。なお、フラビオは一切手を貸さなかった。ホーネットを倒した分の銀貨を、自分が分け取りにしては意味がないからだ。
「ぜ、全部倒しました」
「うわ、傷だらけだよ、俺達」
「回復魔法掛けるわね」
「ごめんね、私だけ離れた場所にいて」
戦いの後も四人は大変そうだった。見ていてそれは分かるのだが、フラビオはここでも手を貸さなかった。冷たいようだが、この程度乗り切れないようなら、マスターレベルパーティではない。
それよりも褒められる点がある。
「ご苦労さん。それにしても良かったな」
「え、何がです?」
「グレーターデーモンの恐怖があっても、まだこうやって戦えることがだよ。もう戦闘を怖がって、魔物と戦えなくなる奴もたまにいるからな」
なるほどと四人がうなずく。
「でも、お前さん達四人は、その恐怖に負けず、こうやって魔物と戦えた。それもこんなに傷だらけになってまで。大したものだと俺は思うぞ」
「ありがとうございます」
褒められた四人が礼を言い、笑顔を浮かべた。せっかく四人パーティに組み直したばかりなのだ。ちょっとやそっとでへこたれたくはなかった。
彼らの気持ちはフラビオにも十分伝わった。
「さて、引き上げるか。傷は負ったが魔法で回復できるし、今回は十分に無事だと言えるだろう。良かったな、こうして無事に戻ることができて。また次も頑張れよ」
「はい。頑張ります」
こうしてフラビオは四人と一緒に冒険者ギルドへと戻るのだった。
「おかえりなさい、フラビオさん。星の光の四人も一緒だったんですね」
ギルドでは、ステラが真っ先に声を掛けてくれた。例のデートの後も、公私はきちんとわきまえていて、ギルドの中ではあくまで一職員としてフラビオに接していた。
「ただいま、ステラさん。また換金頼む」
魔石をいつものように換金してもらう。フラビオの方も、公私のけじめはつけていて、精々多少の雑談をする程度に抑えていた。
隣ではパーティ星の光の四人も魔石を換金していた。全部で金貨二枚。そのうち一枚分が例のジャイアントホーネットを狩った分だった。
換金が済むなり、リーダーのアルベルトが礼を言いながら、金貨を一枚フラビオに差し出す。
「今日もありがとうございました」
「なに、いいってことよ。無事で何よりだ」
金貨を受け取りながら、フラビオが答える。
「ありがとうございました。では、また」
そして四人は疲れた顔に笑顔を浮かべて、部屋へと戻っていった。彼らもまだ冒険者ギルドで寝泊まりしていたのである。
「また彼らを助けてあげたんですね」
薄々事情を察したステラが話し掛けてきた。
「まあね。今日は本当に危ないところだったよ。とにかく無事が一番って、俺も柄にもない説教しちまった。若い頃は、人よりはるかに無茶ばかりしてたくせにな」
その辺の話も、いつか聞いてみたいとステラは思う。しかし、今はフラビオの無事を喜ぶべきだろう。
「フラビオさんも無事で何よりでした。無事じゃないと、また一緒に出かけられないですから」
「ありがとな。俺も気を付けるよ。じゃあ、風呂にでも行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」
こうやって話せる相手がいるのはいいものだな。そんな風に思いつつ、フラビオはのんびりと骨休めをするのだった。
一話丸々戦闘だらけでしたね。そして人の危機に颯爽と現れ、敵を蹴散らす定番のパターンでした。グレーターデーモン、この名前に聞き覚えのある方は、そのイメージにかなり近いのではないかと思うのですが、とにかく強敵を出そうと思って、これに決めた次第です。




