表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『ヘビの嫁とプレスマンの芯』

作者: 成城速記部

 あるところに長者があった。美しい娘が三人いて、どの娘も、速記にも書けない美しさであった。周りの者たちも、美しい美しいと褒めるので、長女と次女は、美しさを鼻にかけていたが、本当に美しいので、仕方がないと言えば仕方がない。

 ある日、長者が、庭の池を眺めていると、一匹のヘビが、一匹のカエルを、まさに飲み込もうとしていた。これから飲み込もうと対峙しているのではない。すでにカエルの体の半分は、ヘビの口の中にあったのである。長者は、カエルを気の毒に思って、ヘビに向かって、カエルを放してやってはくれまいか、と言ったが、ヘビは反応しなかった。私の三人の娘のうち、一人を嫁にやろう、というと、ヘビは、口をぱかっと開けて、すぐさまカエルを介抱した。カエルは、死を覚悟していたのに信じられないという表情で、何度も振り返ると、跳ね去っていった。ヘビも、もと来た、細長く草が倒れた蛇の道を、悠々と去っていった。

 翌朝、長者は、目が覚めてからしばらく、布団から出られずにいた。すると長女が、おとっつぁま、朝げの支度ができております、と起こしに来た。長者は、長女を部屋に招き入れ、実はきのう、カエルを助けるために、ヘビに、娘を嫁にやると約束してしまったのだ。すまないが、お前、ヘビの嫁になってく、言い終わる前に、長女は部屋を出て行ってしまいました。次に、次女が起こしに来ました。次女も、話を最後まで聞いてくれませんでした。最後に、末の娘が起こしに来た。末の娘は、おとっつぁまが約束してしまったのなら仕方ありません。約束は守らないと、と、殊勝なことを言うので、長者は、いずれ財産を末の娘に全て与えることを告げた上で、末の娘を嫁に出すことにした。

 末の娘は、もやもやしたものが夢枕に立った気がして、長者に、何だか不思議な夢を見た気がします、ふくべにさじ一杯の水銀を入れたものと、プレスマンの芯を三千本ほど用意してください、と言うので、あっという間に用意してやった。そうこうすると、ヘビが羽織を着て、花嫁を迎えに来たので、長者は、泣く泣く、末の娘を嫁に出した。

 花嫁行列は、奥山の谷間の沼まで続いた。沼のほとりで、ヘビが、この中にわしの屋敷がある、と言うので、末の娘はふくべを投げ入れて、このふくべをお屋敷まで沈めてください。私はそれを目印にもぐります、と言うと、ヘビは、何とかふくべを沈めようとしたものの、くるくる回ってしまって、一向に沈まなかった。眷属のようなヘビたちが何百と出てきて、ふくべを沈めようとしたが、一向にふくべは沈まなかった。末の娘が、ヘビたちに、プレスマンの芯三千本をばらまくと、ヘビたちは、芯の毒気に当たって、皆死んでしまった。

 そこへ羽織を着たカエルがあらわれて、末のお嬢様、夢枕に立ったのは私です。お教えしたとおりにやっていただけたようですね。もう、ヘビに悩まされることはありません、さ、お屋敷にお帰りなさい、私が送っていきましょう、といって、末の娘は長者のもとへ帰ることとなった。

 長者の喜びようといったらこの上なく、早速、末の娘は、カエルを婿として祝言を挙げることとなった。

 長女と次女は、ヘビの嫁になるのは嫌だが、カエルの嫁になるのも嫌だなあと思って、妹を哀れんだのでした。



教訓:この話が西洋に伝わって、カエルの世継ぎという話になったという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ