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09 悪女の正体と事情。



 ラーズ子爵家の応接室。

 相手が相手だから、対応するには、あまりにも貧相に思える部屋だ。


 片や、王都と並んで繁栄する公爵領の主である、美貌のライオネル・フェナールド公爵様。

 もう片や、戦場の大恩人である美しい魔法使いの美少女シルさん。

 『戦場の銀の閃光の天使』と呼ばれた魔塔の魔法使いシルの本来の身分は『シシルヴィア・ミューチャー伯爵令嬢』だという。


 だから、実質、家格上の身分がいらっしゃる状態である。普通に身分でも委縮するが、対峙すれば、普通に怖じ気づく美貌が並んでいらっしゃる。


 ちらりと隣り合って並ぶエヴァと目を合わせた。

 ……うん。目の前の高貴な方々、眩しいよな……。


「私の存在に委縮するのも無理はないだろうが、とりあえず、置いておいてほしい。私も、シルから事情を聞いた上で、つい先程、求婚を承諾してもらったばかりだ」

「「つい先程!」」


 びっくり仰天だ! 事情を聞いて、すぐさまこっちに直行!? それでいいの!?

 つまり、謝罪を、優先したと……?

 冷や汗をダラダラ垂らして緊張をした。


「簡潔に知りたいですか? 詳しく知りたいですか? 前置きとしては、『悪女シシルヴィア』の罪は償いさせます。『今のミューチャー伯爵家』も、ただじゃ済ませません。婚約を申し込んでくれた公爵様も、私の事情を知った上で、片付けを手伝ってもらうことにしてくれましたが……それで、戦友の被害を知り、急に訪問させてさせてもらった次第です」

「あ、あの、す、すみません、シルさん、い、いえ、あの、シル嬢? ミューチャー伯爵令嬢? どうお呼びしたらっ……とにかく! 自分に口調を改めないでください!」


 今まで戦場で気安く話してくれた大恩人の上官に、丁寧な敬語を使われてはむず痒いし、居心地が悪い。それに未来の公爵夫人だ。制止するために上げた手まで、震えてしまう。


「……私は加害者側の立場で謝罪しに来ました」

「や、やめてください! 自分を襲ったのは、あなたの名を騙る『悪女』であって、あなたは加担者ではないでしょう!?」


 顔を曇らせてやや俯く『天使様』に、胸が締め付けられる。


 あの日が脳裏に浮かぶ。倒れるセヴ。駆け寄るのを止めた『天使様』。突き飛ばしては燃やし尽くした『天使様』。倒れた仲間を見捨てて走れと怒号のような命令を響かせた声。とんでもない範囲で燃え上がる炎の魔法で、味方ごと燃やし尽くした『天使様』の苦しげな横顔。零れても蒸発して消えた涙。自分を恨めと告げて、一人で罪を背負った『天使様』。

 白銀に靡く髪の凛々しい佇まいでも、儚いこの少女。


 違うのに、また罪を背負うんじゃないかと、ドクドクと嫌な鼓動が高鳴る。


 この人。そんな生き方をしてきたのか……?

 二歳も年下の彼女は、戦場で多くを助けて導いてくれたのに。本来の名前は汚されているし、自分が犯したわけじゃない罪で、こうして思い詰めた様子で真っ先に謝りに来た。


「では……詳しい事情をお聞かせください。ですが、”シルさんとして”、お話ししくれないなら聞きませんっ」

「ブライアン!」


 全部聞かないと。謝罪を受けつけないぞ、みたいな姿勢を虚勢で張る。

 悲鳴みたいな声を出すエヴァには悪いが、こうでもしないと『天使様』は下手の姿勢を貫くだろう。

 せめて、元の言葉遣いで話してほしい。オレも、一先ず”シルさん”呼び。

 未来の公爵夫人をこんな呼び方、もしかしたら咎められるかと、『天使様』の隣の公爵様を見てみたが、怒った様子はなく、ただ『天使様』の様子を静観していた。


「……ブライアンがそう望むなら」と、しぶしぶ頷く『天使様』にホッとする。


「申し訳ございません。私も詳しい話をお聞きしたいです。ですがっ!」と、エヴァが挙手した。


「先にあの『悪女』の正体を教えてください!」


 その要求は、ごもっともだ。

 結局のところ、誰が『天使様』の本名で、男をとっかえひっかえしている悪女を振る舞っているのか。本当の加害者は、どこの何者なのだ。


「わかりました。エヴァ嬢。ごもっともです。ですが、今は聞くだけで留めていただきたいです。先に言った通り、今更となってしまいますが、その『悪女』に本当の報いを受けさせるためにも、可能な限り大打撃を与えたいので、その準備を整えて実行するつもりです。そちらの請求する慰謝料も然りです」


 エヴァの方には、『天使様』は丁寧な言葉遣いをする。エヴァは、ガチガチに緊張した様子で頷いた。

 慰謝料請求。それを『天使様』の本名宛てにした事実に、クラクラと眩暈が起きる。オレの方が平謝りしたい。

 すぅ、と小さく深呼吸した『天使様』は、答えた。



「『悪女シシルヴィア』の正体は、『シエルヴィア・ミューチャー伯爵令嬢』です」



 驚きのあまり固まってしまったのは、今日で何度目だろう。


「私の妹です。髪の色を変える魔道具を身につけて、白銀色の髪で私の名を使っている妹を、同僚が確認しました」


 絶句だ。

 オレを襲ったのが、『シエルヴィア・ミューチャー伯爵令嬢』? 悪女の姉に、悲しむ心優しい令嬢。そんな令嬢が、実は自分自身で『悪女の姉』を演じていた?

 一人二役? え? 何故?


 どうりで『天使様』が自分の罪のように、謝罪をするわけだ。妹の罪。姉としても、頭を下げているんだ。

 いやでも……『天使様の妹に襲われた』という衝撃は、強い。


「そ、ですか…………あの、私も、ブライアンと、同じ言葉遣いで、お願いします……」


 エヴァは呆けたまま、弱々しい声でそう言った。

「エヴァ嬢がそう言ってくれるなら」と、『天使様』はすんなりとエヴァ相手にも言葉遣いを崩してくれた。


「…………いや、待って!? 『シエルヴィア嬢』は本人ですよね!?」

「ええ」

「タウンハウスに行ったら、”もう関係ないけど、お姉様がごめんなさい”って泣いてましたが!?」


 ハッ! そうだった!!

 『シエルヴィア嬢』は、エヴァ達に泣いて謝っていたらしい。


「……昔から、嘘泣きも特技です」と、肯定の言葉を『天使様』は重い頷きとともに放つ。


「んぐうううー!!」と、呻くエヴァだが、これでも堪えた方だ。

 この方々の前で叫びを上げなかっただけ、褒めてやりたい。


「あの女と直接顔を合わせて、突き飛ばされたのにッ!!」と頭を抱えたエヴァ。


 だめだった。嘘泣きで騙されたから悔しいだろうし、怒りも憎しみも倍増だろう。


「エヴァ嬢、怪我はなかった?」

「ハッ! い、いえ! ありませんわ!」


 突き飛ばされた件で『天使様』に気遣われて、ハッとして慌てて取り繕うエヴァ。


「メイクを使い分けているらしい。印象変える濃厚メイクと派手なドレスと髪色変える魔道具だけでも、別人と思い込ませられたみたいだね。本物の『シシルヴィア』を知らないならなおさら、信じてしまうのも無理ないわ。顔が似ている姉妹って認識させたし、一度も揃って参加しないのは”お姉様に嫌われてるから”と憂いた風に言うだけでよかったみたい」


 と、とんでもねぇ……! 二つの姿と対面して話もしたのに、エヴァも気付かない変装! 魔法は、髪色を変える魔道具だけだから、なおすげぇ!

 って、感心している場合じゃないな!?


「……シルさんと、似ているのですか?」と、思わず問う。


 正直『天使様』の妹を、どう称すればいいかわからない。加害者だから、当然雑に言いたいが、『天使様』の妹というだけで、躊躇する。とんでもなくとも。


「昔は似ているとは言われたことあるわね。でも、妹がそれで泣いちゃって。”ルヴィーのほうがかわいいっていって”と泣きじゃくったので、誰も言わなくなったわ。あと『悪女メイク』を褒めていた同僚からすれば、私とは似ていないと笑っていたけど、私は見たことないから」


 肩を竦めた『天使様』は、唯一まともに見ているエヴァに目をやる。

 注目が集まったエヴァは「……ぜんっぜん似てません」と、カッと目を見開いて力強く否定した。

 例え、似ていたとしても、”似ている”なんて言わないか。見ていないオレとしても、似ていない方がいい。


「では、事情を詳しく話すわ。先ずは、そうね……『ミューチャー伯爵家』について。詳しすぎて省略して欲しかったら言ってくれて構わないわ」


 『天使様』は話しを始めた。全部聞きたいから多分言わないと思うけれど、了解したと示すためにエヴァと一緒に頷いて見せる。


「『ミューチャー伯爵家』の初代当主は魔法使いで爵位をもらった人だったのだけれど、ここ100年はまともな魔法の使い手も生まれなかったから、魔力鑑定すら受けさせなかったの」

「あっ……お金がかかるから?」

「そう。戦争前に、魔法の使い手を育てようってことで魔力鑑定道具を見直しして、改良したことで、鑑定費も抑え込めるようになったけれど、その改良に成功したの、私だから」

「「ええ!?」」


 あっさりととんでもない事実を、また明らかにして来たこの人!!

 魔力鑑定道具の改良といえば、震撼させるほどに騒がれたニュースだった! 五年前だっけ!? 鑑定費がバカ高かったのが、もう庶民も手軽に鑑定出来るほどに押さえ込まれた上に、魔力量測定が正確ってやつ! 実績がすげぇええ!!


「そうだったのか。素晴らしい功績じゃないか」

「ありがとうございます。これも魔塔主様の教育の賜物ですね。まぁ、魔力感知に関しては私は主様も超えていると、ご本人に太鼓判押されてます」


 公爵様が明るく笑いかけて褒めるから、『天使様』も柔らかく笑い返した。

 わっ……いい雰囲気……。


「おっと、逸れましたね。とりあえず、当時、魔力鑑定をされなくて、本当に不幸中の幸いで……むしろ命拾いしたわね」と、『天使様』はすぐに話しを戻す。


「不幸中の幸い? 魔法が使えることがバレたら……え?」


 とんでもない功績を実家にも隠しているのは、何故だろう。

 命拾いって……そんなに危険なのか? どういうことだ?



 


いいね、ブクマ、ポイントをよろしくお願いいたします!


09話目の執筆動画→ https://youtu.be/qxViqjfE2-I?si=iQZjJ6MB9y0xdq3W


本日Vtuberデビューをします!

ぜひいらしてください! 19時です!

今日は軽い自己紹介をして、明日は『執筆配信』です!

https://www.youtube.com/live/QJMQwnAihFc?si=5ypDiYS2HI9oDDFb

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