04 求婚の返事。
「ゾッとしました。妹の反応が恐ろしくて恐ろしくて、逃げる決心が出来た瞬間でもあります」
「「!」」
「”なんでお姉さまが、魔法の才能を持っているの? わたくしにちょーだい”とさも譲られることが当然のような顔で小さな手を差し出すのです。そして譲れないものならば、両親は私に怒声を浴びせるのでしょう。”何故お前が魔法の才能を持つんだ””妹のシエルヴィアが可哀想だと思わないのか”と、責め立てるのですよ」
公爵と補佐官の二人が信じられないという顔で絶句をするが、あの家族はそういう人達なのだ。
十年耐えた私は、断言出来る。
「つまり、私の家出を数日後か、数週間後か、気が付いてどうするかを話し合った時に、妹が言い出したのでしょう。”もったいないから、お姉さまの存在をちょーだい”とか言ってね」
我ながら、身の毛がよだつ話だ。あの妹には、本当にゾッとする。
「私から、周囲の愛情を奪うことが出来なくなった妹の新たな楽しみ、といったところでしょうか。むしろ、『私』という仮面を手に入れられて、大喜びしているのでしょうかねぇ。正直、勝手にすればいいと思ったのですが、妹のせいで婚約破棄騒動が起きたりして、令嬢同士でキャットファイトまでして、手を打たないと火の粉を被る羽目になるかもしれないと危惧してて、死亡届を出すなり、本名で七年前から魔塔に属していることを公表して、ミューチャー伯爵家に育児放棄の罪を、証人になる魔塔主様とともに突きつけようとは考えていたのですよ。でも戦争が起きてしまいましたからねぇ」
戦争が始まったのだから、妹の夜遊びを対処するどころじゃなくなった。
「なるほど……そういうことだったのか。ミューチャー伯爵家……なんて家なんだ」
「主様と潰してしまおうかと考えているんですよね。やっと誕生した魔法の使い手を虐げては、行方不明なことを気にも止めずに、妹になりすまさせて悪事を見逃すような貴族。国としても、汚名じゃないですか。さらには、戦争帰りの騎士まで漁り出したらしいですし? 息の根を、ゴホン、間違えました。ミューチャー伯爵家には引導を渡そうと思ったのです」
物騒なことを言ってしまったが、もちろん冗談だ。と笑顔で押し切る。
二人は顔を僅かに引きつらせていたが、気にしない。
「それで、求婚の話に戻ります」と言えば、公爵は背筋を伸ばした。
「実家を取り潰すから、身分が貴族ではなくなるという話か?」
「違いますよ。それ以前に、こういう事情を抱えた令嬢ですよ? 本当に妻に迎えたいのですか? 男をとっかえひっかえしている悪女。なりすましによる冤罪だとしても、外聞は悪いのです。元から貴族の教養がない平民相手に求婚をしたのですから、教育期間も費用も覚悟しているとは思いますが、この身の上でもいいのですか?」
「もちろんだ。むしろ、オレとの結婚で、復讐してくれて構わない。欲しがりな妹が悔しがって発狂するんじゃないか? 君が幸せになると知れば」
「……清々しい笑顔で言いますが、承諾前提なんですね」
「違うのか!? オレがいいと言えば、復讐するためにも結婚してくれるとばかり……!」
「それでいいんですか?」
「構わない! お世辞でなければ、オレは顔も人柄もいいと褒められているから、努力して君に気に入ってもらう!!」
多分、お世辞じゃないと思うよ、それ。
「んー。そもそも、どうして、私に求婚をするのですか? 一目惚れでここまでします?」と首を傾げる。
正直、長く一緒に居るのは、今日が最長だ。ほぼほぼ初対面だというのに。入れ込みようが、激しい気がする。
「キス一つでそんなにゾッコンになります? ……そんなに初心なんですか?」
「なッ! ち、違う! お、オレはっ……! 救援要請に応えて現れた君が……あまりにも美しくて……! 本当に一目惚れだ。あのあと、辺境伯卿の戦場での二つ名を聞いて、しっくりきた。君はまさに『天使』だ……。君は、自分の魅力に自覚がないのか?」
動揺で頬を真っ赤にしながら、そう尋ねてくる公爵。
「私ですか? 人並みに身だしなみは気にしてはいますけど、魅力と言われるほど、男性に褒められたことないですね」
「そうなのか!? 失礼だが、君の同僚はもっと女性を褒めるべきだと助言した方がいい」
「いえ、魔塔にこもる大半が、変人奇人なんで、外見なんて誰も気にしないですよ。髪飾りの違いや髪の長さの違いに気付くよりも、研究資料を見つめて違いに気付きたい人種なんで」
そこはキッパリと言っておく。
「公爵様こそ。一目惚れとは仰りますが、社交界へは行かれているでしょう? 言い寄られるでしょうに」「今までは戦争に備えていたこともあって、断っていたんだ。どうなるかわからないご時世で、婚約などとても考えられない。……だが、君が現れたんだ、シル嬢。その上、戦争が終わると予言もしてくれて……。君の、その……唇の柔らかさを知ってしまったせいか……君以外、考えられない」
公爵は耳まで真っ赤にして恥じらいながらも告げる。
「キース殿から君のことを根掘り葉掘り聞き出したかったのだが、真面目で優秀ということぐらいしか答えてくれず、もしかしたら二人はそういう仲なのかと勘繰ってしまったが、そういう事情を隠すためだったのか」
その話を聞いて、疑われたのかと、げっそりした顔のキースを思い出して、心の中で労うことにした。
「王都に戻ってから調べてみても、君は天才的な才能の発揮で、一目置かれた魔法の使い手であり、辺境伯領の戦場を一人で任されるほどの実力者。『戦場の銀の閃光の天使』と呼ばれる辺境伯領での評判もそうだ。戦友達ともいい関係を築き、辺境伯卿にも高い評価を受けている。目の前で見た魔法も、魔力感知も、素晴らしかった。功績ばかり褒めているが、こうして話していても、君に悪い印象は全然感じないし、威風堂々したような姿勢がとても好ましく思う」
公爵からのべた褒め。本当にゾッコンなのだな、と目の前にしてしみじみ思う。
「君は、その……なんだ……オレのことは、外見のいい公爵という程度の認識なのだろうか?」
やはり、自分のことになると、途端と自信なさげなのは何故だろうか。
「いえ? 私も公爵様を好ましく思っていますが」
「!!」
「一目見た時、あの戦場でもキラキラしている美貌の持ち主だとは思いましたが、あなたの魔力量の多さも、あと剣技も素晴らしいと間近で感心しました」
「そ、そうなのかっ……!」と再び真っ赤になって、わなわなと震える。
喜んでいるのだろうか。
「花束持って現れた姿も、またキラキラして美しいと思いましたし、お世辞抜きで顔も人柄もよい方だと思います。それに、魔力の相性が一番いいと言いましたよね? 魔力の相性がいいと、あらゆる面でも相性がいいとも言われてますよ」
ニコリと笑っておく。
「そ、それは……い、色よい……返事と……受け取っていいのだろうか……?」と恐る恐るでも、期待いっぱいな公爵。
「妻になる私の身辺整理を手伝ってくれると仰るのなら……ええ、はい。公爵様の求婚をお受けいたします」
そう私は求婚の返事をした。
ぱぁああっと、涙目で明るい顔になる公爵は、ガッツポーズ。
補佐官は、涙ぐんで目元をハンカチで拭った。
今日はここまでです! また明日から1話ずつ更新しますね!
執筆動画なんて新しいことをしてドキドキしてますが、
温かい目で見守ってください……!
03~04話の動画→ https://youtu.be/_sCK_Dly9ZA?si=R7CM7RDVpAUxdCza
これからざまぁしに動き出しますが、その前に戦友ターンが入りますよ!
お楽しみに!
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2025/04/18〇