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婚約破棄劇の開幕/セナリオ・マージン子爵令息の独白

「ドロシー・ドロフォノス、今日限りでお前との婚約を破棄する」


クロッド第一王子は、勝ち誇った笑みを浮かべてそうおっしゃった。


ご趣味の狩猟のせいか冬でも浅黒い肌、燃える石炭のような赤銅の瞳。

亡き正妃様譲りの銀髪を紳士風に後ろへ撫でつけてはいるが、大柄な体格を差し引いても、尊大な物言いや態度は威圧感があり優雅とは程遠い。


よく言えば凛々しいが、悪く言えば粗野な印象を受ける方。


僕の第一印象はせいぜいそんなところだったのだが。


――婚約破棄だって!?


まさかすでにあんまりよくない第一印象が、さらに悪化するとは思わなかった。婚約破棄宣言。それも、こんな華やかな舞踏会の真っ最中に。


思わず殿下の視線を辿り、ざわつく会場をぐるりと見渡せば――いた。


ひときわ目を引くご令嬢がいらっしゃった。


下手より『人形令嬢』こと、ドロシー・ドロフォノス侯爵令嬢のご登場だ。


こんな間近でお目にかかるのは初めてだ。

しがない子爵家の三男坊で、家業の金貸しも手伝わずフラフラしている自称劇作家の僕からすれば雲の上のご令嬢。噂に違わずとんでもない美人だ。


透き通るような白磁の肌、艶やかな黒髪は華奢な肩や背中に流れ落ち、澄んだ瞳は極上の翡翠も霞むほど。ドレスも扇も靴も手袋も夜色で統一され、作り物めいた美貌のドロシー嬢は本当に人形のようだ。たった今ひどい辱めを受けたにも関わらず無表情で、けぶるような長い睫毛をゆっくり瞬かせている。


「クロッド殿下、婚約破棄とは。一体どういうことでしょう」


問いかけるドロシー嬢は落ち着き払っている。品のある可憐な声だが、クロッド殿下は金切声でも聞いたように顔をしかめ、これ見よがしに嘆息した。


「はあ、婚約破棄の意味も分からないのか、『人形』は」


「意味は分かります。しかし――」


「だったら人形らしく黙って頷いてろ。『かしこまりました』と言うくらいなら、お前でも出来るだろう」


殿下は鼻先で笑った。


「勘違いするな。大勢集まっているからついでに周知しておこうと思っただけで、お前の意見を聞こうと思ったわけじゃない。陛下のお耳にはもう入れてある。私には『政略のための婚約など必要ない』とな。そこには自由も正義もないし、なにより愛が伴わない。真実愛する相手を妃にしてこそ、王太子としての重責を全うできるというものだ」


僕はすっかり呆れ果てた。


なんとまあ勝手な言い分だろう。


――真実愛する相手?要は女が出来たから乗り換えたいということか?上級貴族はこんなの普通なのか?おまけに王位継承権第一位というだけなのに、もう王太子気取りって……恐れながら、殿下はご自分が影でなんと呼ばれているかご存知ないのだろうか。


演説に満足したのか、殿下は控えていた楽団に顎で合図する。


ぎこちなく舞踏曲が再開されたが、当然誰も踊り出さない。周囲の物言いたげな視線が交錯する中、殿下だけは気にせず話を切り上げようとしている。


「言い忘れていたが、解消という形にすると双方に問題があると思われるから、破棄とさせてもらった。後始末も簡単に済むしな。みなもそう心しておいてくれ。話は以上だ」


「お待ちください、殿下」


足早に退場しようとする殿下の前に、ドロシー嬢が進み出る。大柄な彼の前だと、ご令嬢のなんとか弱そうなことか。なのに殿下はうっとうしげに彼女を押しのけようとする。


「邪魔だ。もう話すことはない」


「いいえ、クロッド殿下。承服致しかねます」


「――なんだと?承服?」


殿下は舌打ちをした。見た目通り頭に血が上りやすい御仁のようだ。


「お前の許可なぞ必要ない! 誰に向かってそんな口をきいている!これだから、ただ顔がいいだけの人形のような女など――」


僕は、ドロシー嬢がわずかに唇を噛んだのを見た。


「なんと言われようと」


覚悟に満ちた緑眼が殿下を捉える。


「クロッド殿下との婚約破棄はお断り致します」

いらっしゃいませ~!読んでくださりありがとうございます!(*´ω`*)


次話「元側近たちと社交クラブにて」は説明文が多いので「早く状況を知りた~い!」という読者様は、よろしければ「道化王子の三文芝居」からお楽しみくださいませ!あとで興味がわいたら2話めも読んでみてね~!

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