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8、異変の原点

 ミキと名乗った女性は、仲間の男に目配せした。すると卓上に湯呑が2つ置かれる。コウタ達に、座れと言外に告げていた。


 コウタ達に拒絶の選択肢はない。仮にここで逃げ出したとしても、行く宛など無いのだ。野宿をしようにも大子は冷える。それが秋深まる11月ともなれば、尚更である。



「それにしてもなぁ。坊やの方はカーディガンに黒パンツなのは良いけど、嬢ちゃんはブレザーの制服姿とか。まるで、どっかから慌てて逃げ出してきた。そんな格好だな」



 ミキは忙しなく髪を掻き上げては、小さく笑った。嫌味ではなく前フリだ。身の上話をしろという誘導であった。


 コウタは自己紹介を交えつつ、これまでの経緯を説明した。身内が逮捕されたこと、ミトッポの末裔であること、そして大子まで訪れた理由について。



「なるほど。あの大物ジアンがたった3人で乗り込んできたのは、そんな事情があったんだね。随分と軽率だって思ったよ」


「茨収を陥落させるために兵が必要だ。でも、ここの奴らは全然話を聞いてくれなくて、募兵どころじゃなかった。終いには通報までされちまうし」


「恨まないでやってくれ。大子の人々は苦しんでるんだよ。それはアタシらレジスタンスの責任なんだ」


「そういや、さっき壊滅しかけてるとか言ってたよな?」



 今度はミキの番である。彼女は切れ長の瞳を、一層細めて語りだした。虚空を見つめる眼は、湯呑から立ち昇る湯気を、ボンヤリと捉えている。



「10年以上前の事だ。この大子も例に漏れず、エンパイヤ東京に支配された。当時、小学生だったアタシは、今でもあの日の事を覚えている。何台もの自転車に乗って押し寄せてきた、迷彩服姿の軍人どもをな」



 沈んだ声色であるものの、言葉は的確で淀みない。聞く側にとって、話を理解することは容易かった。



「アタシ達は様々な物を奪われた。りんご園はタピオカに変わり、アユを食する事を禁じられた。そして、久慈瀑布に立ち入ることも」


「久慈瀑布?」


「日本でも指折りの滝で、アタシら大子の民の誇りさ。雄大で、気品があり、観る者の心を魅了すると有名だ。しかも真冬には滝が全面凍りつくんだ。あの美しさと言ったら、もう言葉も出ないほどだね」


「そんなものがあったのか」


「今や、見る影もないけどね」


「それはどういう事だ?」


「話を続けよう。東京による無慈悲な支配が続いて、8年も経ったろうか。アタシらは街の若者を集めるようになった。抵抗運動だ。密かに訓練を積んで、武器を蓄え、いつか反乱を起こしてやろうと企てた。大子の人たちも、それとなく味方してくれたもんさ」


「今日の仕打ちを考えたら、とても想像できねぇ」


「あの一件以来、誰もが希望を棄ててしまったからな」



 ミキが、手元の湯呑を呷り、卓に叩きつけた。すると仲間がポットを傾け、湯気の立つ白湯を注ぎ込んだ。



「大子レジスタンスが順調に勢力を伸ばし、力を蓄えだした頃だ。この街に済む『タネばあさん』が危篤に陥った。持病が悪化しての事だが、明日も知れぬ、死の淵に立たされたんだ」


「そのバアサンがどう関わるんだ?」


「タネばあさんは言ったよ。死ぬ前に一口だけで良いから、アユの塩焼きが食べたいって。このままじゃ死んでも死にきれないって。だからアタシ達は、どうにかしようと決めた。街の協力あってのレジスタンスだしな。他に選択肢は無かった」


「でも、アユは禁止されてるんだよな?」


「そうさ。だからアタシ達は闇夜に紛れて密漁した。警備の兵士を、どうにかとっちめてな。仲間総出で久慈川の夜釣りを決め込んだよ。月の見えない、暗い夜に」


「魚は穫れたのか?」


「いや失敗した。アタシらの動きを察知した敵ども、大子軍は兵を伏せてやがった。釣りに没頭するアタシらに襲いかかり、片っ端から捕まえだしたんだ」


「クソッ。卑劣な奴らめ……」


「そうして仲間の大半を失い、主力メンバーも捕まるか、逃げるかだった。この体たらくは、街の人達を大きく落胆させちまった。なまじっか、希望を見せた分、落差が激しかったんだ」


「それが原因で、壊滅の危機になってると?」


「その通りさ。あれから何年も経つけど、全くもって盛り返せてない。やっぱり大子の皆から支持されなきゃ、どうにもならないんだわ」



 かつてはこの民家に、多くの仲間がやって来たという。作戦会議に成果報告。奪った物資を持ち込む事もあった。しかし今は静けさがあるばかり。たった2人だけなのだ。


 コウタはやるせなくなり、手元の湯呑を両手で握りしめた。



「東京の奴らめ、好き勝手やりやがって……! バアさんの最後の願いすら、死ぬ間際の想いすら踏みにじるとか、血も涙もねぇのかよ!」


「いや、言いにくいんだけどさ。タネばあさんは生きてるよ」


「……ハァ!?」


「無事に峠を越したからな。あの日の衰弱っぷりが嘘のようで、今もすげぇ現役。確か御年96歳だったかな」


「あっ、そう。それは何より……」

 


 コウタは、溢れんばかりの憤激がすっかり萎んでしまい、手持ち無沙汰に湯呑を掌で弄んだ。そして、ツムギと共に気まずそうにミキをみる。


 そのミキも、曖昧な笑みを浮かべて横を向いた。そして黙る。この静寂は、耐え難いほどに気まずいものであった。



「まぁ、そんな経緯があってさ。大子の人たちはレジスタンスに拒否反応しちまう。ここで募兵なんて、逆立ちしても出来やしないさ」


「本当にそれだけが理由なのか? 街の人達は、だいたいが生気の無い顔をしてた。他にも何かあるんじゃないのか?」


「まぁ、その通りだよ。あの夜の事件だけじゃない。皆の心をへし折る程の、酷い仕打ちが待っていた。それが一番の原因だと思う」


「一体何が?」


「久慈川に関する事だが、論より証拠ってやつかな。明日連れてってやるから、その目で見たら良い。今日は遅いからもう寝ちまえ」



 ミキはそこまで言うと、襖戸の部屋に引っ込んでしまった。締め切られた襖からは、話し合う余地など感じられない。明日まで待つ必要があった。


 それからは、仲間の男が世話してくれた。上下が赤ジャージと妙に目立つ彼は、文部一郎もぶいちろうと名乗った。



「文部さん。オレ達はこれから……」


「あっ、名字呼びは止めてもらえます? 名前で呼んでもらえます?」


「何でだよ!?」


「すんごい嫌なんで。昔から擦られまくった名字なんで。いやほんと、イチロウでお願いします」


「じゃあイチロウさん。オレ達はここに泊まって良いんだよな?」


「もちろんです、もちろん。ここは元民宿っつうか宿泊施設なんで。お2人を泊めるなんて簡単なんで」


「民宿か。どうりで部屋数が多い訳だ」



 コウタ達は、イチロウの案内で2階に通された。4部屋のうち、3つは6畳間の襖部屋。木目ドアは洋式トイレである。


 そのうちの一部屋を割り当てられると、ツムギが口を開いた。



「イチロウさん。ここが宿なら、お風呂ってありますよね? ゆっくり湯に浸かりたくて」


「あっ、それダメです。ダメ。温泉は使えないし、水も諸事情から貴重なんで。湯船を張るとか贅沢の極みなんで」


「じゃあ、身体を洗うことも出来ませんか?」


「ちょっと待っててください。諸々準備するんで。一度にたくさん仕事振られても、身体は1つしか無いんで」



 イチロウは1人で階段を降り、やがて戻ってきた。その両手には大きな金ダライがあり、温かな湯で満たしていた。



「これ使ってください。タオルで身体を拭けば、それなりに身綺麗になるんで」


「あぁ、そういうパターンなんですね」


「2階にある3部屋は好きに使って良いんで。僕やミキさんは下に居るんで、何かあったら声かけて」



 それきりイチロウは1階へと消えた。部屋の片隅に金ダライを残して。



「ええと、コウタ君。どうしようか」


「お前が先に洗えよ。オレは後で良い」


「本当に良いの? お湯が汚くなっちゃうと思うけど」


「変に気を遣うな。構わねぇって言っただろ」


「えへへ、ありがとう。コウタ君ってやっぱり優しいよね」



 コウタは襖を後ろ手で閉めつつ、隣室へと向かった。そして窓の締め切った部屋で、1人横になる。天井で煌めく白色灯を眺めては、言葉が心に浮かぶに任せて、ボンヤリと考え込んだ。



「そういや、ジアンは無事だろうな? 捕まるようなヤツじゃないとか、言ってたけど」



 一抹の不安を覚えつつも、その想いは振り切った。ジアンは大人で、しかも水戸レジスタンスを束ねるリーダー格である。踏んだ場数がコウタとは違うのだ。心配するだけ無駄というものである。


 今は身体を休める事を優先すべきか。などと考えた矢先、隣室のツムギから呼びかけられた。



「どうした。もう終わったのか……!?」



 襖を開けてみれば、そこには半裸のツムギが佇んでいた。白く艷やかな背中は、濡れた肩は、暴力的なまでに妖艶である。



「まだ終わってねぇのかよ! 何で呼びつけた!?」


「ごめんね。背中を拭いて欲しくって。前ならちゃんと押さえてるから、見えないでしょ?」


「そういう問題じゃねぇだろ……」


「お願いお願い。小汗かいたから気持ち悪くってさぁ」


「分かったから! こっちに振り返んな!」



 コウタは濡れタオルを絞ると、ツムギの背中を磨き始めた。顔を真横に逸しつつ。



「いたた。もう少し優しくしてよ。お肌が傷ついたら、コウタ君だって嫌でしょ?」


「どうしてオレが。関係ねぇだろ」


「アッハッハ、朴念仁〜〜。ポクポクネジ〜〜」



 ツムギが能天気に笑うが、どこか渇いた響きだった。そして、笑い終わると、今度はか細い声で呟いた。



「久慈川で、何かあったのかな?」


「さっきの話か? 確か、そんな事を言ってたな」


「覚えてるかな? 久慈川って、小学校の頃に遠足で行った、思い出の場所だよね」


「まぁな。薄ぼんやりだけど、覚えてはいる」


「そんな場所がさ、壊されちゃうのって嫌だね。酷いことになってないと嬉しいな」


「そればっかりは考えても仕方ないだろ。この目で確かめろって言われたんだ。明日を待つだけだろ」


「そうだよね。分かってはいるけどね」


「それよりサッサと服を着ちまえ。風邪ひいても知らねぇぞ」



 コウタは濡れタオルをツムギの頭に置くと、部屋を後にした。そして、押し入れから引っ張り出した布団を敷いて、早々と横になる。想像以上に疲労を溜めており、間もなく眠りに落ちていった。たまに覚醒した気もするが、その度に眠気が押し寄せて、意識を奪い去ってゆく。


 迎えた明け方。物音で目が覚めた。イチロウが入室しており、ちゃぶ台に朝食を用意してくれたのだ。小皿を埋め尽くすアーモンドと、冷水入りのケトル。それだけだった。



「食い終わったらそのままで。後片付けは僕がやるんで」



 そう言って立ち去るイチロウを横目に、コウタは寝息を立てるツムギに声をかけた。



「そろそろ起きろ、朝だぞ」


「んん……あと5分ちょい……」


「当然のように同じ部屋で寝やがって。とにかく朝飯にするぞ」


「そこは、ほら、甘い囁きで起こして。幼馴染特権、とってん……」



 イラッ。



「朝だぞ! 早く! 起きろよメシだッ!」


「ンニャァァァ優しくないーーッ!!」



 悶絶するツムギは無視。コウタはアーモンドを二粒程ガリガリと噛み締めて、冷水で胃袋に流し込んだ。



「残りはツムギにやる。オレはもう要らねぇ」


「ありがとう。アーモンドって香ばしいから、好きなんだよね」


「そりゃ何より。オレは好かん」


「コウタ君と分かち合う喜び。得難し、得難し」


「それって均等に分けた時に使う言葉じゃねぇの?」 



 朝食は、ほぼツムギの胃袋に収まった。アーモンドだけでなく、ケトルの中身まで空っぽだ。気持ちの良い完食だった。


 それから下に降りると、身支度を整えたミキが待ち受けていた。セーターにジーンズと、昨日と同じ装いである。



「待ってたよ、お2人さん。早速出掛けるから付いてきな」



 誘われるままに外出。昼間の路地裏を行く。森の脇道や工事現場付近といった、見通しの利かない道を選んでいる。その為、街人に見咎められる事無く、順調に歩を進めた。


 そして昨日、ミキと出会った場所までやって来た。



「ここからは道が険しくなるよ。主要街道は、エンパイヤ共がうろついてるからね」



 ミキは崩れかけた石垣を登ると、そのまま斜面を進み始めた。


 コウタも続くが、聞いた通り道が険しく、勾配も急だ。手当たり次第に雑草を掴まなくては、転がり落ちてしまいそうになる。ちなみに、もう片方の手はツムギと繋いでいる。



「ありがとうね、コウタ君。ご迷惑おかけします」


「良いよ別に、割と予想してた。ところでお前、ブレザーは置いてきたのか?」


「うん。こんな風に運動すると暑くって。だからブラウスだけにしたんだ。コウタ君のカーディガンは暑くないの?」


「通気性あるやつだから。むしろ、寒い日もあるくらいだ」


「そうなんだ。寒い時は言ってね、ブレザーを半分貸してあげる。一緒に温まろうよ」


「半分貸すって、引き千切るのか?」


「違うよ。発想が怖いって」



 そこの2人、無闇にイチャつかない。そんな叱責があると、コウタ達も黙々と登り始めた。そして、首筋に小汗を感じた頃、先行するミキが足を止めた。



「どうした。まだ途中だよな?」


「そうだよ。とりあえず下の方を見てみな。崖の下」



 言われるがままに目を向ければ、そこは渇いた崖が連なっていた。ただし崖は段々に続いており、何らかの規則性があるように感じた。



「何だこれ。階段にしちゃ大きすぎるし、風化した崖にしては整いすぎてるような……」


「これが今の久慈瀑布だよ」


「えっ!? 水なんて1滴もねぇぞ」


「原因はこの先にある。また登るよ」



 動揺するコウタ達に構わず、ミキはまた斜面を登りだした。


 一体何が起きているのか。滝が消えるだなんて有り得るのか。信じられない想いになるが、実際、完全に涸れているのだ。まさしく論より証拠。現実だと受け入れがたくとも、五感は正しい情報を送り込んでくる。



――茨城が誇る滝は失われたのだ、と。



 しかし傷心に浸る暇はない。まだ道半ばで、真相にまで辿り着いていなかった。だから登る。この先に絶望が待ち受けていようとも、知りたいという願望には逆らえなかった。



「着いたよ。お疲れさん」



 斜面を登りきった先は、深くえぐれた谷だった。崖から下を覗けば、渇いた地面に河原が点在するのが見える。


 コウタは絶句した。ツムギも青ざめて震えだす。彼らは、ここがかつて『渓谷』だった事を知っているからだ。



「川が……久慈川が無い!?」


「そんな、おかしいよこんなの! 私達、遠足で来た事あるもん!」


「お2人さん、驚くのも当然だが、もう少し上流の方へ行くよ。久慈川と、滝が消えた理由が見えるからさ」



 颯爽と歩いてゆくミキ、その後ろから、支え合うように歩くコウタ達が続いた。


 眼下の光景は、やはり信じられない。しかし行けども行けども、あるのは涸れ川だ。記憶と激しく乖離した光景が続くばかり。


 だがいつしか、彼らは水の音を聞いた。歩けば歩くほど音は大きくなる。ついには耳にうるさい程になり、今だけは、そのやかましさが嬉しく感じられる。



「水の音だ! もしかして、涸れてなかった……!?」



 確かに、久慈川の水は残されている。渓谷に潤いを与える大きな恵みは、確かに存在していた。


 だが、その水の全ては、川の中央に築かれた何かに吸い込まれていった。土のうの要領で積み上げられた物。大自然の力をいとも容易く吸収してしまう、未知なる存在に、コウタも腹の底から震えてしまった。



「何だ、あれ……」


「乾燥剤だよ。それをこうして、堤防のように積み上げてさ、久慈川をこの世から消してしまったんだ」


「乾燥剤だって!? そんな馬鹿な!」


「アタシだってそう思うさ。でもこうして川の水全てが吸い込まれてんだ。信じるしか無いだろうよ」


「……もしかして、滝が消えたのも?」


「久慈瀑布は、この川を水源としてる。だから涸れたよ。それだけじゃない。ここいらのアユも、1匹残らず絶滅した。もう2度と戻らないだろうさ」


「そんな……。こんな事が許されんのかよッ!」



 コウタは感情の整理がつかず、ただただ震えた。名産品を大河ごと消してしまおうという邪悪な発想と、それを実現できる科学力。憤りを覚えると同時に、圧倒的な力には戦慄を禁じえない。


 拳を強く握りしめる。ミトッポという唯一無二の力を授かった身でも、果たして対等に渡り合えるのか。今はただ、震えることしか出来ない我が身が、恨めしくなる。


 そこへツムギが、小さな声をあげた。掠れた響きで、今にも消え入りそうな声が。



「懐かしいよね、小学校の時、遠足で来たんだよ。今でもハッキリ覚えてる」


「オレだって覚えてるよ。全部って訳じゃねぇけど」


「コウタ君ってば、誰よりも先に河原まで走ってさ、石を探して水切りを始めたんだよね」


「そうだっけか。あんまり覚えてねぇ」


「そしたら他の男子も、みんなが水切りやりだしてね。先生が、危ないからやめろって止めたんだ」


「担任だろ? あの先生、普段は優しいけど、キレると怖かったよな」


「そんでさ、そろそろ帰りのバスに乗る直前に、コウタ君が私に言ったんだよ。これは覚えてるかな?」



 ツムギの瞳に一筋の光が煌めく。彼女の胸にあるのはもちろん、懐かしさだけではない。



「私を誘ってくれたの。先生には内緒で、コッソリ水切りをやろうぜって」


「さっきからソレばっかだな! 他の思い出は無いのかよ!?」


「あとはね、友達と笹舟流したり、キレイな石を見つけたり。楽しい思い出がたくさんあったのに……」


「次に聞かれた時は、そんな風に答えような」

 

「でも、その河が。久慈川が無くなっちゃった」


「東京の奴らめ……ここまでやるかよ普通!」



 コウタは、少し強引にボルテージをあげた。ツムギとの会話に、いくらか気が抜けてしまうが、どうにか憤りを損なわずに済んだ。



「絶対に許さねぇ。エンパイヤの奴ら、まとめてブッ倒す!」


「そうだよ、戦おうよ! きっとジアンさんも協力してくれるよ!」


「そういやジアンの奴を探さなきゃ。一体今頃、どこをほっつき歩いて……」



 するとその時、付近に耳慣れぬ声が響き渡った。反響して聞きづらいものの、拡声器から放送されているようである。



――大子の皆様。昨晩、反逆思想を持つ男を逮捕しました。橋本事案24歳、独身、ナルシスト。水戸レジスタンス所属。これより処刑を執り行いますので、お手すきの方は駅前広場にお集まりください。繰り返します。昨晩、反逆思想を持つ男を逮捕しました。



 放送が終わると、3人は気まずそうに顔を見合わせた。



「おい。捕まってんじゃんアイツ」


「そうだよね。ジアンさんの事だよね!?」


「ミキさん。アンタさぁ、アイツは捕まるようなヤツじゃないって」


「んん〜〜、そうだっけ? アタシが言ったんだっけ?」



 全員が無言でうつむく。行動の起点となったのは、コウタの溜息であった。



「仕方ねぇ。助けに行ってやるか」


「私も行く! 何かお手伝い出来るかも!」


「アタシも、一枚噛んでおくよ。ここで恩を売っときゃ、後々オイシイだろうからね」


「じゃあ今すぐ行くぞ!」



 こうして、コウタ達は麓へと降りていった。彼らを待ち受けるのは、紛れもなく軍隊だ。大子地方を支配する正規軍なのである。


 たった3人で挑むとは、どう見積もっても無謀である。アッサリと蹴散らされるだけだ。そうだと分かっていても、彼らは行く。そして無事、助け出したら、開口一番に告げようと決意した。


 簡単に捕まってんじゃねぇよ、と。




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