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10/12

10、立ち上がれ大子

 霞がかった光景が広がる。空が広い。河も広い。


 いや、自分が小さくなったのかと、コウタは思う。視点が、例えるなら小学生くらいにまで下がった気分である。


 それでも今はどうでも良かった。小石を熱く握りながら、たった今起こした成果を叫びたくて仕方ない。



「見ろよツムギ! すげぇ飛んだぞ、6段だ6段!」


「上手だねぇ……アタシもやりたい!」



 チャポン。



「だから何度も行ってんじゃん。手首だよ手首。石を指先で弾きながら、手首をクイッてやんだ」


「そのクイッが分かんないよ」


「クイッはクイッだろ。こんな風に、ホラ」


「えぇ〜〜? それはヌムッとかじゃない?」


「そんな擬音聞いた事ねぇが!?」



 他愛のない会話、ありふれた景色。いつまでも平穏な毎日が続くと疑わなかった、幼き頃。


 だがそれは違う。消えた。あの、下らなくも愛すべき日々は。そして懐かしさを覚える久慈川も。今はどこにも無いんだ。


 そう思った瞬間、意識は覚醒した。クワと目を見開く。すると、板張りの天井が目に飛び込んできた。



「ここは……どっかの部屋? 確か、駅前に居たんじゃなかったか?」



 掌が不思議と温かい。そちらを見れば、利き手が誰かの両手によって包み込まれているのが分かる。逆光だ。窓から差し込む日差しに、思わず目が細くなった。



「良かった。目が覚めたんだね、コウタ君」


「ツムギ……か」


「心配したよ。丸一日ずっと起きないんだもん」




 まだ日中の頃合いだ。大した時間が過ぎていないと感じるものの、実は翌日だという。コウタは驚きつつも、その通り受け入れた。ツムギに嘘をつく理由が無いと判断したからだ。



「ここは、レジスタンスの拠点?」


「そうだよ。ミキさんのところ。それより体の調子はどう? 熱っぽいとか、吐き気がするとか」


「いや。少しダルいだけだ。別に風邪みたいな症状はない」



 コウタが身を起こそうとした瞬間、廊下から足音が近づいてくる。重たい音だ。体格の良さを感じさせる。


 そうして訪れた者は、開けた襖に背中で寄りかかせた。黒革ジャケットにジーンズ姿で、不敵な笑みを浮かべる男。ジアンである。



「おす、コウタ。お目覚めだな。無事なようで何より」


「それはこっちのセリフだ。あんだけ生クリームを食わされたんだ。平気なのかよ?」


「一応はな。少し胸焼けしてるが問題ない。明日には治ってるだろうさ」



 ジアンは2本の指を立てながら、頬の側で振った。見るからに健在である。そんな余裕を見せつけられると、小言の1つも言いたくなった。



「つうか、アッサリ捕まってんじゃねぇよ。今回は助けられたから良いものの、下手すりゃ全滅してたぞ」


「それはほんと面目ない。昨日は、途中までは順調に逃げてたんだがな。だが久慈川の惨状を見た途端、思わず呆然としてしまった。その隙を突かれて、連中に囚われちまった」


「確かに。あの光景には、オレ達もショックを受けたよ。そこを襲われたとしたら、一網打尽だったかも」


「言い訳がましくて心苦しいが、そんな経緯があった。すまなかった。次からは慎重に事を進める」


「いいよもう、謝んな。過ぎた事だし」



 コウタは、ツムギの手から離れ、身体を起こした。一度、視界がグニャリと歪む。目を閉じなければ耐えきれない、それ程の異常であった。



「コウタ君、大丈夫? まだ寝てた方が良いよ? 私が付いててあげるし」


「いや、平気だ。ちょっと目眩がしただけ。そんな事より、エンパイヤ共はどうなった?」


「愛宕山だ。そこの中腹に、奴らは防衛拠点を築いている。そこそこの数の残党兵が、今も占拠して動かないんだそうだ」



 ジアンが窓を指さした。そちらに目を向ければ、黒地に金糸の旗がはためくのが見えた。


 砦はというと、豊かな木々に隠れており、全容が確認できない。木造建築らしきものが垣間見える程度だった。



「あそこの敵は、どれくらいだ?」


「モブが調べてくれた、およそ50人。2個クラスってとこだ。ちなみに指揮官、あの太っちょが東京の病院に運ばれたせいか、指揮系統は乱れがちだ」


「つまりはチャンスって事?」


「そうだ。エンパイヤが代理の指揮官を派遣する前に、攻め落としたいんだがなぁ」


「すぐにやろう。大子から奴らを一掃するんだ」



 コウタが鼻息を荒くしたのだが、ジアンは取り合おうとしない。肩をすくめて、首を小さく横に振る。



「無理だね。兵が足りない」


「どれくらい足りないんだよ?」


「一般論として、拠点争奪戦においては防衛側が有利だ。もし仮に力攻めするとしたら、敵軍の2倍から3倍の兵力が必要になるだろう。当然、犠牲も多い」


「相手が50人だから、100人以上か……。そんなに集まる訳ねぇだろ」


「兵士だけじゃないぞ。武器も、攻城兵器も無い。もし攻め落とすとしたら、相当に工夫しなくちゃな」


「クソッ。せっかく大将を撃破したのに、このまま指を咥えて眺めてろってのか!」



 コウタは、窓の向こうではためく旗を睨み続けた。あそこに居座る敵を、旗ごと追い出してしまいたい。しかし、どれだけ強く睨んだとしても、景色は変わらなかった。旗は勇壮にひるがえるばかりだ。


 すると、階下がにわかに騒がしくなる。大勢の人が押しかけたような気配が2階まで届いた。



「何の騒ぎだ……もしかしてエンパイヤの奇襲か!?」


「違うと思うぞ、コウタ。少し様子を見てくる」


「待て。オレも行くぞ」



 一足先に階段を降りるジアン。コウタはというと、ツムギに肩を支えられる事で、ようやく立つことが出来た。そして階段を一歩一歩、丁寧に降りていく。


 やがて階下の光景を目にして驚いた。勝手口に大勢の人々が詰めかけているのだ。顔ぶれはまちまち。老若男女が揃い踏みで、世代の壁は見当たらない。



「オレ達も戦う! レジスタンスに加えてくれ!」


「昨日のアンタの言葉は、皆の心に響いたぞ。これからエンパイヤ軍をブッ倒そうぜ!」



 これには、ミキやジアンも困惑顔になる。志願そのものは喜ばしいが、その強すぎる熱意に危ういものを感じ取ったのだ。


 彼らの想い、下手に焚き付けるべきでない。ジアンの返答は、はりつけの時とは異なり、冷静さを滲ませるものになった。



「申し出はありがたい。だが落ち着け、丸腰では戦えもしないだろ」


「そう言われると思ったよ。武器なら良さそうな物を持ってきたんだ。ちょっと外に来てくれよ」



 言われるがままに裏庭に出ると、そこには確かに、棒状の長物が積み置かれていた。ステンレス製で、日差しをギラリと反射する。その無言の迫力には、かすかな戦慄を覚えてしまう。



「これは……物干し竿か」


「そうだよ。こいつでブッ叩いたり、突いたりすりゃあ、東京の奴らだってひとたまりもねぇ!」



 1人の青年が勇ましくも物干し竿を振った。しかし重心は不安定。一振りしただけで、たたらを踏んだ。


 そこで、いち早く反応したのはジアンだ。示すのは歓喜ではなく否定。純然たる却下であった。



「ダメだな。それを武器とする事は認められない」


「どうしてだよ。ちょっと練習すりゃ遣えるようになるって」


「そうじゃない。威力が強すぎるんだ。もし仮に、敵兵に大怪我をさせてしまったら? 万が一後遺症が残った時、お前たちは責任取れるのか?」


「それは、その……」


「だから、物干し竿の武器利用は禁止だ」


「そうなると、オレ達には遣えそうなもんがなぁ」


「だとしたら結論は出たな。武器も無しに、皆を戦地に連れて行くわけにはいかない。申し出は嬉しいが、今回は見送り……」



 ジアンが解散を告げようとした時、別の方からしわがれた声が響いた。



「待ちな。武器なら他にも有る」



 その言葉で群衆が割れた。現れたのは、腰の曲がりきった老婆だ。老いた顔は、年輪が刻まれたようにシワだらけ。たるんだ肌の隙間からは、眼光が鋭く煌めく。執念などと、一言で現すには足りないほどの、強烈な念が感じられた。


 老婆は手元の杖を支えにして、背筋を伸ばそうとした。利き手が震えている。それでも曲がったものは治らず、依然として前かがみであるのが、寂しさを誘った。



「タネばあさん……」


「ミキちゃん、恩返しの時だよ。オレのワガママのせいで、アンタには辛い想いさせちまった。死にぞこないだけんども、弾除けくらいにはなるからよ」


「そんな事言うなよ。アタシはただ、闇雲に頑張っただけで。恩を売るつもりなんか……」


「ヒェッヒェッヒェ。若いもんが遠慮すんなよ、みっともねぇ。それに武器なら持ってきてんだ。藏の中から、ご先祖様の、ヒイヒイヒイ爺様が遺したヤツをよぉ」



 老婆の合図で、背後の男が動く。そちらも白髪頭の老人なのだが、タネに比べて姿勢が良く、まだ老け込むような年齢ではなかった。


 その男が地面に黒い棒の束を置く。それは大量のゴボウであった。



「これが、武器だって?」


「そうだよ。コイツで東京モンの尻をブッ叩いてやんだ。泣いて謝るまでよぉ」



 曲がった腰をいとわず、タネは素振りしてみせた。それの姿を、とある青年が嘲笑った。年寄りの冷や水とでも言いたげである。



「バアサン、耄碌もうろくしたのか? 古びたゴボウなんかで戦える訳ねぇだろ。大人しく土いじりでもしてろや」


「なっ……! 馬鹿こくでねぇ! この、ごじゃっぺが!」



 スパァン。


 無神経に嘲笑った青年の尻を、老婆のゴボウが叩きつけられた。痛い。痛すぎる。尻から伝わった衝撃がミゾオチまで貫き、身体の中で暴れるかのようだ。


 青年は言葉にならない叫びを撒き散らしては、辺りをのたうち回った。


 確かに威力は申し分なく、そして大怪我させる程でもない。ただし、それでも問題がある。ジアンは、たった一撃で、ゴボウが根元から折れた事実を懸念した。



「耐久力がなぁ。一撃だけってのは、武器として頼りない」



 ジアンは肩をすくめて、首を横に降った。その様を眺めるコウタもフォローが出来ない。血気盛んな少年から見ても、状況はまだまだ厳しいのだ。


 確かに人は増えた。一挙に30人もの協力者が現れたことで、事態が進展したようにも思える。しかし、皆が皆、戦う術を知らぬ者たちだ。語弊を恐れず言えば烏合の衆である。敵とまともに戦えばどうなるか、考えるまでもなかった。寄せ集めの兵に、寄せ集めの武器。気迫だけで乗り越えるには壁が大きすぎた。


 救いがあるとすれば、熱心である事。それからも、どうにかして武器を見つけようとして、熱い議論が交わされた。



「工具屋がロープを貸してくれたぞ。これで首を締めてやれば」


「ダメだ。そんな危険な兵器は人道にもとる」


「じゃあ、この布を濡らして、敵の顔を塞ぐのは?」


「殺す気か! ダメに決まっているだろう!」


「さっきから何なんだよアンタは! 水戸のお偉いさんらしいが、ダメだダメだばっかり。少しはアイディア出せよ!」


「まったく。言われるまでもなく考えては……ッ!?」



 ジアンは改めて付近を回し見た。物干し竿、ロープ、大きな布。そして、しなびたゴボウに戦意溢れる者たち。


 それらを眺めるうち、歴戦の戦士は閃く。それは奇策とも言うべき手段であった。



「うん、うん。イケるな。これだけの人数が居れば。それに、昨日のコウタが見せた武神の如き働きを加えたら……」


「もしかして、何か名案でも?」


「ペンキが必要だ。急ぎ手配するんだ」


「そりゃ出来るけどよ。一体どうすんだ」


「無駄口を叩くな! 陽の高いうちにカタをつけるぞ、駆け足!」



 ジアンが激を飛ばすと、周囲は慌ただしく動き出した。


 まずは物干し竿の一本に、一枚の白布をくくりつける。布には紺色の塗料で六芒星を描き、中央に『水』と描いた。


 ジアンは満足気に頷くものの、周囲は理解が及ばない。居並ぶコウタもその1人である。



「ジアン。それは?」


「オレたちの、いや、コウタの旗だ。水の1字はミトッポから引用している」


「後ろの六芒星は?」


「タンパク質、脂質、炭水化物。それとビタミンにミネラル」


「5大栄養素じゃねぇか。残り1つは何だよ」


「知れた事」



 ジアンは、拳でコウタの胸を小突いた。



「茨城を愛する心だよ」


「良いね。気に入った」 

 


 コウタも返答として、握りこぶしでジアンの胸を叩いた。そしてお互いに笑顔を交わす事で、話はまとまった。



「よし、これから作戦を説明する! 故郷を取り返す瀬戸際だ、しっかり聞けよ!」



 ジアンの説明を、人々は真剣な面持ちで耳を傾ける。ここが大きな岐路となる事は、疑いようもない。それは誰もが理解していた。


 配置は、合図は、狙いは何か。その全てが事細かに説明された。



「作戦は理解したな。じゃあこれから、主役であるコウタから激励をもらおうか!」


「ハァ!? 急に振るんじゃねぇ!」


「良いから良いから。お前さんが中心なんだから、節目ごとに目立ってもらわないとな」


「そういうのは、もっと早く言えよ……!」



 ジアンの大きな掌が、コウタの背中を押した。すると自然に耳目が集まりだす。


 仕方ない。コウタは半ばヤケになりつつも、胸を張り、肌の震える声を響かせた。



「大子のみんな、これまでの間、辛い仕打ちを受けてきただろう! オレのような若造には思いつきもしない、壮絶な苦労があったはずだ!」



 周囲は答えない。しかし、奥歯を噛みしめる顔が、全てを肯定していた。



「だが、そんな苦労も終わりだ! 今日、この場で、歴史が変わるんだ! エンパイヤ軍を、オレたちの手で打ち破るぞ!」



 コウタが掌を晴天に向けて伸ばし、握りしめた。虚空で掴んだのは勝利か、それとも栄光か。



「敵は愛宕山にあり! オレの旗に続けーーッ!」


「オォーーッ!!」



 コウタを先頭に、レジスタンスは一丸となって進撃した。駆け足ではない。お年寄りの混在する部隊だ。細やかで手厚いケアをセットにして、しかし覇気を迸らせながら歩を進めた。


 やがて彼らは砦の付近までたどり着く。エンパイヤ軍の籠もる拠点は堅牢だ。板張りの壁を張り巡らせ、空堀に逆茂木までも完備。ここに籠られてしまえば、攻め落とすことは困難である。ましてや敵の方が多勢なのだ。



「皆、配置に着いたな。始めるぞ!」



 コウタは叫ぶなり、単身で砦の前に躍り出た。それだけで敵軍に動揺が走るのが分かる。警備の兵士など、構える傘が震える程であった。


 思った以上に武名が轟いている。しかしコウタに油断はない。決められた作戦を、全力で遂行するばかりだ。



「聞け、エンパイヤの兵士共! 無駄な抵抗は止めて、大人しく出てこい!」


「だ、誰が現地民なんぞに従うか! 我らは誇り高き、東京の一等民だぞ!」


「やせ我慢すんな! ここにはお前らの味方は1人も居ない! 大子の民はレジスタンスに味方したぞ!」



 その言葉を合図に、付近の山々から雄叫びが飛ぶようになる。そして学校から借り受けた大太鼓やシンバルが盛大に打ち鳴らされた。山で反響する事で、それらの音は何倍にも聴こえてしまう。


 続けて砦付近の森で、レジスタンス旗が一斉に掲げられた。南、北、東。純白に紺で描かれた『水』と六芒星。ここで敵兵は早くも浮足立つ。



「な、なんだあの旗は!?」


「それに三方に展開するだなんて、敵はいったい何百人居るんだ!?」



 そしてトドメと言わんばかりに、周囲の森がざわめきだす。それは茂みに隠れたレジスタンスが、あちこちの枝に絡めたロープを一斉に引き始めたのだ。傍から見れば、何十もの大木が唐突に騒いだようである。


 エンパイヤ軍から見れば、山を埋め尽くす程の大軍が押し寄せたように見える。冷静であれば看破したかもしれないが、彼らはもはや恐慌状態だ。まともな判断など不可能である。



「見たか、エンパイヤども! お前たちは大子の民の逆鱗に触れた! タダで済むと思うなよ!」



 コウタが悠然と、そして闘気を放ちながら砦へと歩み寄った。その逞しさは、味方からすれば王者の行進である。


 一方で敵からすれば恐怖の象徴だった。この若干15歳の少年が、死神にすら見えただろう。



「さぁ、痛い目を見たい奴から掛かってこい!」



 コウタはこれみよがしに干芋を抜いては、敵軍に突きつけた。重力に任せて、刀身はヘニャリと垂れ下がる。


 それでも死神の鎌だ。エンパイヤ軍は士官から兵卒に至るまで、腹の底から戦慄してしまう。



「ひぇぇ! 助けてくれぇ!」


「西だ! 西側の方はまだ手薄だぞ!」



 雪崩をうって敗走するエンパイヤ軍。包囲の綻びを見てとり、大挙して押しかけたのだ。


 当然ながら、それも罠である。ジアンはここまでの展開を予め想定し、そして的中させたのだ。



「今だ! ゴボウ隊、突撃ーーッ!」


「うおおーー! 久慈川の仇ーーッ!」


「故郷を返せ、クソ野郎どもが!」



 スパァン、スパァン!


 エンパイヤ軍は西側の深い森へと逃げ込んだ。しかし、そこは既に死地である。



「うわぁぁ! レジスタンスの伏兵だ!」


「このごじゃっぺ共め、尻だすべよオラァ!」


「アひぃン! お願い許してぇ!」



 ゴボウでしたたかに打ち据えられたエンパイヤ軍は、ほうほうの体で潰走した。退路は無数の涙で染まり、激しく湿る。その凄惨さから、以降は落涙街道と呼ばれる事になる。


 こうして戦闘は終わった。圧勝である。レジスタンスは終始優位を保ち、そして、理想通りの幕引きを迎えた。その手に、大きな大きな戦果を握りしめて。



「やった……遂に勝ったぞ! あの東京に、オレ達は勝ったんだーーッ!」



 コウタが雄叫びを響かせると、ジアンもすかさず続けた。



「みんな、勝どきをあげろッ!」


「鋭、鋭、応ーーッ!!」

 

 

 大子軍の全員が、声を揃えて叫ぶ。傾く夕日が、彼らの顔を一層赤く照らそうとする。それは高揚のせいか、歓喜の涙で赤くなるのか。誰にもわからなかった。


 この日、歴史は変わった。コウタを中心として立ち昇る反逆の狼煙は、確かに、関東全域をどよめかせた。そして、情勢を大きく動かすほどの一大事件となったのである。


 しかし当事者達には、そこまでの自覚はない。むせび泣き、肩を抱き合っては喜びを分かち合う。東京の支配を追い払えた事を、心から祝福する。


 今はそれだけで良かった。



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