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証拠と頭の良さは大事

「というわけで多分王子とトルタ嬢は婚約破棄からの婚約、その上で王命だとでも言って俺とエレノア嬢をくっつけて丸く収めようとするのではないかと思います」


恒例のお茶会、今日はみんな集まっているから私はそう報告した。いずれそうなるように持っていこうという話はしていたから別に混乱することもない。


「上手く言ったんですね姉上。協力してくれたあいつらにも伝えておきます」


姉上の部分は小声にしてアルバートが嬉しそうに言う。


「ありがとうアル。ほんとに感謝してるから今度あの時の二人の家には何か贈り物を送っておいてくれ。ご令嬢達には俺から直接お礼しておくから」


あの時の二人やファンクラブの二人へのお礼の予定を決めてから話を先に進める。ヴィンセント会長がいつの間にまとめていたのか資料を配ってくれた。


「これが王子らが集めたというレグラス嬢とラハンスの不貞の証拠だ。お粗末なものだがな」


みんなでその資料を捲りながらしばらくの間紙を捲る音と飲み物を啜る音が響く。それから誰ともなく押し殺した笑い声が漏れ出し、私達は笑った。


「これ、ほんとに証拠として出すつもりなんでしょうか」

「王族なのに情報収集できる部下もいないんですねあの王子様」


あからさまに不快そうなアルバートに。聞かれていたら不敬とも取られかねないギリギリ発言のベンジャミン。エレノア嬢やルシルは口にはしないものの呆れているようだ。

その証拠というのも一緒のベンチに並んで座っている写真だとか(隣にはルシルもいる)エレノア嬢の手を取って馬車から降りる時のエスコートの写真だとか(男性ならエスコートでそれくらい普通にする)カフェテリアで談笑している様子の写真だとか(ヴィンセント会長やアルバートも見切れて写っている)まさにヴィンセント会長の言う通りお粗末な証拠が記されていた。

これは笑う。証拠と言うには説得力が弱すぎる。

改めてドミニク王子の能力の低さやこの証拠でOKだと思ったヒロインちゃん、あと多分協力しているであろうルーカスの頭の悪さに呆れてしまった。

エレノア嬢、こいつとの結婚ほんとやめた方がいい。


「こんな証拠で私との婚約破棄を申し出なんてされたらお父様がお怒りになりますわ……」

「まだ分かりませんわエレノア様、円満な婚約解消が出来ない時のために用意しているものかもしれませんもの」


多分、エレノア嬢にはもうドミニク王子への愛情とかそういった気持ちはないのだろう。口から出るのは家の心配、父親の怒りの行方の心配ばかりだ。

そんなエレノア嬢をルシルもフォローしているが多分フォローにはなっていない。ヒロインちゃんにあんなお膳立てをしたのだから多分王子達がするのは婚約解消ではなく婚約破棄。

ヒロインちゃんがあそこで聞いた会話をちゃんと覚えていれば、だけど。

8割の確率で婚約破棄のつもりで動いていて証拠集めもしているのだろう。全然証拠にならないけどね。


「それじゃあ今後もレグラス嬢とラハンスが一緒にいる場合は誰かが傍にいるように。二人きりの写真が撮られてしまえば厄介だ。まぁ向こうはおそらく協力者がほとんどいないだろうから問題ないだろうが……」


ヴィンセント会長はこっそり生徒会のメンバーやクラスメイトにお願いして私やエレノア嬢が二人きりの写真を撮られないようにと見かけたら近くに写りこむように歩いてほしいというお願いをしてくれたそうだ。

決定的は証拠は撮らせない。でもこっちはさらに証拠を掴む。

いつ婚約破棄を言ってくるか分からないのでしばらくはこの方針で行動することが決まった。私もファンクラブのみんなにお願いしないと。

最悪二人きりの写真を撮られてしまってもなんとでも言えるようにファンクラブの子やクラスメイトと二人で写真を撮るのもいいかもしれない。こうやってツーショットの写真なんかよくあるぜ、的な?


王子やヒロインちゃんが証拠集めをし始めた頃、別の変化もあった。アホ王子がエレノア嬢に以前より一層冷たく接するようになったのだ。


「近寄るな。お前の顔は冷たい顔だ。見ていて不快だから寄るな」


「もっと愛らしくできないのか? 少しは笑ってみせろ」


「はぁ……こんな時シャーリィなら……」


こんな感じで時々隠しもしないでヒロインちゃんの名前を口にするようになった。今まで従順だったからそれくらいでエレノア嬢が何か言ってくると思っていないのだろう。

……代わりに私が殴ってやりたい。王族だからそんなこと出来ないけどね。


「そしてこっちが最新の不貞の情報だ」


ヴィンセント会長が続いて見せてくれた資料は最近一週間の王子とヒロインちゃんの密会やお忍びデートの報告書だ。


「あの王子様もう隠す気なんかないのでは? だってこれなんかカメラ目線ですよ馬鹿らしい」


ベンジャミンが一枚の写真を見て汚いものを見たかのように吐き捨てると机の上にポイと放った。それを手に取り両隣のエレノア嬢とルシルと一緒に見る。


「うわぁ……」

「これわざとかしら……?」

「殿下……はぁ……」


気持ち悪いくらいのキラキラ笑顔。ヒロインちゃんを守るように抱き締めて、からのこのスマイル。

すまん、気持ち悪い。

ルシルはあまりにも綺麗なカメラ目線にドン引きを超えてむしろ疑問が浮かんでいる。そしてエレノア嬢は呆れていた。

そしてぽそりと聞こえた。


「やっぱり婚約は考え直した方がいいですわね……」


うん、ぜひそうしてほしい。お父上に相談してくれますように、と祈りながら私達は資料を読み込む。

写真はばっちりカメラ目線だった。

過去にも何度も街に繰り出しては市民の暮らしの調査と言って遊んでいる。その時町の新聞社に写真をお願いされたことがあったらしくエレノア嬢曰く私達がお願いしている浮気調査の探偵や王家の諜報部隊等のカメラもその類だと思っていてわざと写りが良くなるように振舞ったのではないか、とのことだった。

馬鹿だ。

お忍びデートじゃなくなっているしそもそも王族が城下町や地方にお忍びで行く場合はバレてはいけないのに。暗殺されるぞ。むしろされてくれ。それなら一件落着なのに。


「これだけあれば王子有責で婚約解消、慰謝料を貰って円満に解決出来そうな気もしますけど……」

「難しいだろうな。おそらく王子はどうにかしてレグラス嬢への慰謝料の支払いを拒むはずだ。そうするためにも今こうしてレグラス嬢の不貞の証拠集めをしているだろうからな」


アルバートとヴィンセント会長がそう話している中エレノア嬢が会話に入る。


「私、王妃様にご相談してみますわ。在学中に婚約解消は難しいと思いますので、卒業後に私の両親も揃って関係者で話し合いの場を設けていただけるように、と」

「うん、それが一番いいだろうね。出来れば卒業パーティーの後がいいんじゃないかな。エレノア嬢のご両親も卒業をお祝いに来るんだしそのまま王城へ行けるだろうし」


エレノア嬢と王妃様の仲がいいことは聞いているので知っている。息子を甘やかすような人柄でもないとのことだ。公平なお方なのだろう。

あとは、それが上手くいけばいいなと思うことしかできない。

どうかシナリオのように卒業パーティーでの婚約破棄なんて馬鹿な真似をしませんように。


やんわり筋肉もといルーカスにルーカスの友人経由で「殿下のご卒業が今から楽しみですね。きっと凛々しいお姿を見せてくれるのでしょうね」とか「卒業パーティーで何かトラブルが起きないといいですよね。殿下の晴れの舞台ですからね」と言ったけど……通じているか不安だ。

ちなみにそのルーカスの友人はファンクラブの新入生達のお兄さん達だ。感謝。

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