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まずは友人にならねば

「豪華な入学式だったわねノア」

「今年はドミニク王子に未来の王妃であるエレノア嬢もいらっしゃるからね」

「うふふ、そうね。なら来年は少し質素に見えそうね」


式が終わった後、ルシルと他愛ない会話をしていたのだが不意にルシルが私の袖を引き耳打ちをする。周りがざわめいた気がするが気にしない。


「見て、エレノア様よ。ドミニク王子とルーカス様とご一緒だわ」

「さり気なく後を着いていこう。今日はもう後は学園内を見回る自由時間だし」


そうして私とルシルは学園内を見回る他の生徒に混じり三人の後についていった。

そして着いたのは中庭。聞こえてきたのは王子のとんでもない発言だった。


「同級生も上級生も中々美人が多かったなルーカス」

「そうですね殿下」

「将来の側室候補として何人か声を掛けてみるか」

「善は急げと言います、今からでも良いと思います」

「あはは、そうだな今から行くか。おいエレノア、そういうわけで俺は行くぞ。文句は言わせないからな」

「……はい、承知致しました殿下」


深く頭を下げているエレノア嬢を見ることもなく二人は笑いながら中庭から去っていく。王子がいるからと他の生徒は気を遣い周辺に人気はない。

ぽつりと中庭に取り残されたエレノア嬢はベンチに腰を下ろすと静かに涙を零した。


「これはいけますわ。ノア、私はタイミングをみて行きますから打ち合わせ通りに」

「まさかほとんどルシルの予想通りにいくとは……さすが恋愛小説好き。それじゃいってくる」


色々シュミレーションしたうちの一つが当たった。

私は今来ましたと言わんばかりに中庭に足を踏み入れる。そうして泣いているエレノア嬢に気がつくと慌てて駆け寄りポケットからハンカチを取り出し跪いてそれを差し出した。


「エレノア・レグラス嬢。どうぞこちらをお使い下さい」

「……ありがとうございます」


エレノア嬢は泣いているところを見られたのが気まずいのか躊躇いながらもハンカチを受け取ってくれた。

よっしゃ、第一段階クリア!


「それにしても、ドミニク王子はこんなにも美しい婚約者殿を放ってどこへいかれたのでしょう。俺なら悪い虫がつかないようにずっと側についていますけどね」


いかにもなキザなセリフだけど許して。監修はルシルだから文句はルシルに言ってほしい。でも半分くらいは本音だ。こんな美人を放置して愛人探しに行くとか万死に値する。


「ふふ、面白いお方ですね。あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 新しいハンカチをお返しいたしますので……」


よっし! いい感じ!


「俺はラハンス伯爵家のノア・ラハンスと申します」


ここではあえて長男とか長女とか名乗らない。いずれ言うけどね。


「ラハンス様ですね。寮のお部屋に届けさせますわ」

「そんな、本当に大丈夫ですよ。俺がしたくてしたことですから」


そんな言い問答が続き、二人してくすりと笑った。大変好感触じゃないだろうか。ルシルの考えてくれたいくつもの台本にも負けないこの感じ!

褒めて!


「あの、ラハンス様……」

「ノア! ここにいたのね」


エレノア嬢が何かを言いかけたちょうどいいタイミングでルシルが登場。最高の相棒だよほんと。ナイスタイミング、と私は心の中で親指を立てた。でもそれは表情には出さないでルシルへと微笑みを向ける。


「ルシル」


私を目が合うと少し拗ねたような顔でルシルが言葉を続けた。


「探したわ。あら、エレノア様、どうなさいましたの?」

「ラハンス様のご婚約者様かしら? 何もありませんわ。目にごみが入ってしまって、心配してくださったラハンス様がハンカチを貸してくださっただけですの」


ルシルの心配する言葉はエレノア嬢には牽制に聞こえたらしい。

至って何事もなかったように言葉を返している。クールで素敵だなぁ。


「ふふ」

「うふふ」


ルシルと一緒に思わず笑ってしまった。そんな私達を見てエレノア嬢は不思議そうに首を傾げる。

見かける度に公爵令嬢らしくツンとしていて冷静な姿ばかりを見ていたからかそういった小さな仕草が非常にレアで可愛らしい。クール系美人の素の顔を垣間見た気になるよね。


「エレノア様、私とノアは婚約しておりませんわ。親友ですの」

「親友……?」

「ええ、家同士が元々仲が良くて」

「そして、俺もルシルも、貴女と仲良くなりたいなって今朝話してたんです」

「私と……?」

「エレノア様、ここで話もいいですけれどカフェテリアに行きませんこと? ミルクティーがとっても美味しいと私聞きましたの」

「俺も飲みたいなって思ってたんです。エレノア嬢、ご迷惑でなければ……」


私の差し出した手をエレノア嬢は少し迷ってから、そっと握ってくれた。そのままルシルの手も取る。


「両手に花とはまさにこのことですね」


そんな冗談を言いながら場所を学校内のカフェテリアに変えて私達は三人で交流を深めることにした。

ルシルをからかっている男の子達から私が助けた話をして、ルシルが私に婚約したいと親に伝えた話をしたあたりでエレノア嬢がまたしても首を傾げた。


「そこでご婚約にはならなかったんですの?」

「はい、未来の王妃であるエレノア嬢はご存知かと思いますが我が国は同性婚は認められておりませんからね」


そう私が言ったところでしばらく沈黙が続いた。私は頼んだミルクティーをすすり、ルシルはフルーツタルトを一口食べた。そうしてようやく状況を理解したらしいエレノア嬢は私を見て驚いたように口元に手を当てた。


「……女性、でしたのね。申し訳ありません、私……」

「いいんですよ。公然の秘密といいますか、知ってる家は知ってますし」


そうして私は結婚相手を見極めるためにこのような格好をしているのだと伝えた。あくまで小声で。


「学園には家の事情でと伝えてありますし先生方も知ってますから不自由はないですしね」

「ですが我が学園は男女別の全寮制ですわ」


さすがだ。学園の細かなルールまできっちり頭に入っているらしい。入学したばかりなのにね。


「事情を知らない家は俺とルシルが婚約しているものだと思いこんでいるみたいなので同室にしてもらってます。寮は二人部屋ですから」

「それなら、なんとでもなりますわね……。他にも婚約者同士で同室の方もいらっしゃいますし……」


納得した様子のエレノア嬢に私は確認を込めて聞くことにした。友人になってくれるかどうか。

……聞くの緊張するな。


「エレノア様、ノアは女性ですから仲良くしてもドミニク王子に何も言われる筋合いはございませんから大丈夫ですわ。どうか私達と友人になってくださいませんか?」


ルシルーー!

グッジョブだよルシル!

中々言い出せなかった自分に代わってルシルがさらりと切り出してくれた。昔に比べてすっかり図太くなったんだよねルシルって。

返事が怖かった私はそーっとエレノア嬢に目を向ける。ばちっと目の合ったエレノア嬢は恥ずかしそうにはみかみながらもこくりと一つ頷いてくれた。


「私でよろしければ、お願い致しますわ。幼い頃から王妃教育が忙しくて親しい友人がいませんでしたの」

「よかったぁ……」

「うふふ、ノア安心した? 断られたらどうしようって入学式の前からずっと気にしてたものね」

「あ、ちょっ、ルシルそれは内緒……!」

「ふふ、そうだったんですの?」


くすくす笑うルシルとエレノア嬢。そんな二人を見ながら私はほんとうに良かった、と心の底から安堵したのだった。これなら彼女を悪役ルートから守れるかもしれない。

同時に、あぁ、ほんとに親友になれちゃうかも、と考えてしまい頬の緩みを抑えるのが大変だった。

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