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その後の話

最終話です。

「廃嫡か離宮にて病気療養か、ですか?」


卒業パーティーの次の日、ルーカスは家で教育のやり直し、エレノアとの婚約は俺有責での破棄になったと知らされた。

それは喜ばしかった。これで愛しのシャーリィと婚約できる。

けれど喜ぶ暇もなく俺には二つの選択肢が出された。


廃嫡は困る。エレノアへの慰謝料として俺の個人資産はなくなってしまった。それに平民の暮らしはたまに遊びに行く分には慎ましくても楽しかったがそれが毎日だなんて耐えられないだろう。それに何よりシャーリィにまた平民暮らしをさせたくない。

それならば、と思い俺は後者を選んだ。


俺は王太子教育で習ったはずなのにすっかり忘れていたのだ。

王族の離宮での病気療養の裏の意味を。

もう二度と表舞台に戻れることはないことを。

幾許かの後に毒杯を賜ることになることを。

理解していなかったのだ。


体が段々怠くなっていった理由が日々の食事に微量の毒が混ぜられていたからだということも、すっかり疲れ切ったある日の食事がやけに好物ばかりだった理由も。

離宮にきてから一切飲むことのできなかった成人の祝いのワインが今になって出されたその理由も。

段々痺れてきた体に違和感を覚えてやっと気が付いたのだ。

自分にはもう未来がないことを。

声も出せず、段々霞む視界の中で考えたのは愛しい恋人のことではなく生きたいという渇望だった。



────────────────



「どうして、どうしてなの、上手くいくはずなのに、本だったら上手くいってたじゃないの。ドミニク様は王子様で、叶わないことなんてないはずなのに」


王城の隅にある貴族用の幽閉棟の個室でシャーロット・トルタは今日も一人ぶつぶつと呟いている。

最愛だったドミニクが王族の資格なし、頭に問題がある故に政治的価値なしと判断され離宮で病気療養に入ったと聞かされてからずっとこの調子だ。


病気療養、つまりこの後期間がどれくらい先か分からないがいずれ病気が悪化し儚くなる運命だと丁寧に説明された。

お花畑な脳味噌で一日かけて考え、ようやく意味を理解した彼女はそれから壊れてしまった。


ある日は「ドミニク様の傍にいさせて! 私は彼の愛する女性なのよ。将来の王妃なのよ!」と叫びまたある日は「私も殺される。食事なんか絶対食べないわ。貴方達の思い通りになんて死んでやらないんだから。だって私のことはドミニク様が助けてくれるはずだもの」と部屋の隅でひたすら繰り返し呟き、またある日は鉄格子の嵌った窓から外に向かって「助けて! 誰か助けて!」と声が枯れるまで叫んでいた。

彼女がこの場所に幽閉されてからひと月経った頃、鍵のかかった部屋の扉が開き宰相が部屋に入ってきた。食事を十分に取っていない彼女はげっそりとした顔を向ける。


「ドミニク王子が亡くなりました」


そう、端的に宰相は告げた。そうして付き添いの者に目で示し、ベッド横のサイドテーブルに二つのグラスを置かせる。


「こちらの水は毒です。効果が出るまでは体全体に痺れが出て声も出せませんが最終的には苦しむことなく死ねるでしょう。陛下達よりこちらを飲めばドミニク王子の婚約者として死ぬ名誉を与えるとのことです。そしてこちらは記憶を消す秘薬を溶かした水です。記憶を無くし己に身に覚えのない罪を償うために今後一生城で働くのであればこちらをお飲みください」


どうしますか?


その問いに彼女は壊れた頭で考え、グラスを手にした。


────────────────


「イヴァン殿下、婚約者の令嬢と随分仲がいいって本当ですか?」

「ええ、とても仲睦まじいですわ。それにお二人とも勉強に真面目に取り組んでくださって……私も王妃教育の先輩として時々授業のサポートに行っておりますけど見ていて微笑ましいんですの」

「エレノア様がお教えになるなら将来も安心ですわね」


ルシルがマカロンを食べ終えてから微笑む。そうだなぁ、これで王国の将来は安泰そうだ。

そんな話をして笑いあった。


「そういえばルシル様、ベンジャミン様とのご婚約おめでとうございます。またお祝いの品を贈りますわ」


そう、ルシルもちゃっかりあの後ベンジャミン本人からではなく家から家への婚約の打診という形ではあるが遠回しに求婚を受けそれを受けたのだった。

うん、丸く収まったと思う。なんやかんやルシルも素直でないベンジャミンを嫌いではないらしく最近では言葉の裏を考えるのが楽しいとのことだった。


「また六人で集まってそれぞれお祝いも兼ねてお茶会をしましょうか」


そんな柔らかな空気の中紅茶をすすりながらエレノア嬢が別の話題を口にする。


「そう言えば、王城の図書室に新しい使用人が入りましたのよ」

「新しい使用人? そんな話をするのは珍しいですねエレノア嬢」


少し伸びた髪を撫で、ミルクティーを啜りながら私は笑う。

珍しい。いつもそんな話をいちいちすることはない。使用人の失敗談をフォローを交えて話すことはたまにあったがただ使用人が増えただけのことを話題に出すだろうか?

そう思いながら話の続きを待つ。


「彼女、たちの悪い毒を口にしてしまって口と手に痺れが後遺症として残ってしまったらしいんですの。それに毒のせいかどこかで頭を打ったのか記憶がないそうなんですの。ですがご家族が大変らしくて働かないといけなくて伝手で図書室の掃除と司書様のお手伝いとして入って来たそうですわ。雇ってくれるのがそこしかなかったんでしょうね」

「まぁ……それは大変ですわね」


なんとなく、予想がついてしまった。

そんな私に気が付かずのほほんとした口調で返事をしたルシルは新しくクッキーをかじっている。


「彼女、珍しい綺麗なピンク色の髪なんですのよ。それに少し喋りが拙いですが明るくて真面目ないい子らしいですわ」


その言葉でやっぱりなぁと思った。ピンクの髪という言葉でルシルも気が付いたようだ。


「記憶喪失だなんて、本当、大変ですわね。けれどとっても真面目で間違っても頭にお花なんて咲いていないお方でよかったですわ」


そう言ってうっそりと微笑むエレノア嬢は悪役令嬢にふさわしく、とても美しかった。

あぁ、やっぱり私の一番の推しは貴女だ。

これにて完結となります。拙い分ですがお読みいただきありがとうございました。


ルーカスは一応攻略対象だったのに頭の中が筋肉だったので出番もほぼありませんでしたね。

あと卒業パーティーの場でのヒロインちゃんもほぼ空気でしたね。

補足として書きますと最後にエレノア嬢が言っていた記憶喪失で毒の後遺症がある使用人はヒロインちゃんです。思考がもう壊れてしまっていたので最後の選択を選べずグラスを混ぜて一つにして一気に飲んでしまい毒の作用は薄れ死ねず記憶は失うといった状態になっています。

また、名前でしか登場のなかった第二王子イヴァンは現在10歳の設定でした。まだまだ勉強ざかりなのできっと兄を反面教師にしていい王様になるでしょう。


ちなみにみんなの苗字は意味を持たせていました。

ノアとアルバートのラハンスは嘘。エレノア嬢のレグラスは氷。ルシルのヴェルデは緑。ヴィンセントのウィズダムは賢明。ベンジャミンのリーツエルは風。

王家のクレアーテは創造。ヒロインちゃんのトルテは菓子。筋肉ルーカスのホンツは犬です。

性格や立ち位置、イメージカラーなどから名付けています。

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