婚約破棄は許さない。私が彼女を幸せにします。
外交官として有能な令嬢を勧誘する話です。
「退屈なパーティーね」
私はメルク共和国大統領の長女アネット。
ベンダー王国のバルド国王の生誕祭に招待されて、王宮のパーティーに出席していた。
余りの退屈さに辟易して、溜め息をついた。
「私はボルグ公爵家令嬢セピアとの婚約を破棄して、マルダ男爵家令嬢のグレースとの婚約を新たに結ぶ。その理由は真実の愛に目覚めたからだ」
唐突にランド王太子が大きな声を上げた。
「婚約を破棄?真実の愛?」
看過出来ない言葉が聞こえたので、王太子の居る方に視線を向けた。
すると王太子が見知らぬ令嬢を侍らせていた。
これは最近流行りの婚約破棄だなと推測した。
しかし王太子の癖にこんな場所で騒ぎを起こすなんて、正気を疑ってしまった。
しかもセピア嬢との婚約を破棄するなんて、愚行も甚だしい。
私は彼女とは友人なので、余計に腹立たしかった。
「セピア嬢との婚約を破棄するなんて、ランド殿下は正気なのか」
「しかもグレース嬢と新たな婚約を結ぶなんて、尚更おかしいわ」
周囲の子息や令嬢達が蔑むような視線を向けて、王太子を非難した。
「本気なのですか?」
セピア嬢が呆れ果てた表情で、問い詰めた。
「勿論本気だ」
「分かりました。婚約破棄を受諾します」
セピア嬢はあっさりと婚約破棄を受諾した。
「それでは失礼致します」
そして会場を早々に退出した。
「待って下さい。相談があります」
私は彼女を追いかけて、声を掛けた。
目的は彼女をメルク共和国に勧誘する事だ。
私は有能な人材を確保するのが趣味なのだ。
彼女は周辺国の言語を全て習得していて、外交官として有能だと前々から思っていた。
ランド殿下に婚約破棄を言い渡されてしまった。
元々この婚約は政略的意味合いが強くてお互いに好意が持てなかった。
だから婚約破棄されても、何とも感じなかった。
しかし父上からは激しい叱責を浴びせられるだろう。
「待って下さい。相談があります」
どうしようかと思案していると、友人のアネット嬢から声を掛けられた。
どうやら相談があるみたいだった。
「相談とは何ですか?」
「貴女を勧誘したいんです。メルク共和国に来ませんか」
「はい?」
アネット嬢の相談とは、私をメルク共和国に勧誘する事でした。
「失礼ですが、このままでは貴女は社交界で肩身の狭い思いをしなければならないでしょう。そんな事は友人として見過ごせません。是非メルク共和国に来て下さい。必ず幸せにします」
「何だか求婚みたいですね」
彼女から求婚みたいだと、言われてしまった。
確かに求婚のような、言い方だった。
「確かにそうですね」
「確認しますが、本気なのですか?」
「勿論本気です。貴女は外交官として有能だと前々から思っていました」
「‥‥‥」
彼女は驚愕したらしく、呆然となってしまった。
「あのセピア嬢」
「失礼致しました」
私が声を掛けると、正気に戻った。
まさかアネット嬢が私に外交官の素質があると思っていたなんて、意外だった。
確かにこのままでは社交界で肩身の狭い思いをしなければならないだろう。
新たな婚約も出来そうにない。
それならばメルク共和国に行くのも良いかもしれない。
「有難い申し出ですが、私の一存では決められません。家族と相談させて下さい」
「確かにそうですね。それなら迷惑でなければ、私も同席させて下さい」
アネット嬢が相談に同席させて欲しいと頼んできた。
「構いませんけど」
取り敢えず構わないと答えた。
「王太子から婚約破棄されただと」
ボルグ公爵は婚約破棄の話を聞いて、最初は激昂した。
「一応話を聞かせてくれませんか」
取り敢えず話を聞いてくれる事になった。
途中で不審者を見るような視線で私を睨んだみたいだったが、気のせいだろうと無視した。
「お前はどうしたいのだ」
「私はメルク共和国に行こうと思います」
「話は分かりました。娘を宜しくお願い致します」
最後には説得に納得して、渋々承諾してくれた。
こうしてセピア嬢という有能な人材を確保する事が出来た。
ちなみに彼女に女性として好意を抱いているの事は絶対に秘密だ。




