転生者 前世の夢を見る
俺は前世の夢を見た。曖昧な感じなので本当の記憶なのかはわからないがやけにリアルな感じだった……森の暗がりで6人で焚火を囲んでキャンプをしている様だった。そうだ……あの時は仲間がいたんだっけ……人種にとらわれないバラバラなチームだった。犬系種族の戦士、耳が長い人間型種族の狩人、猫型の軽装戦士、爬虫類型の回復魔法士、魔族の賢者、そして俺。現代では俺以外は異形種の扱いだろうが前世の俺にとっては普通の光景だった、とても信頼できる仲間だった。ああ、そうだ、俺には仲間がいた、なぜ思い出せなかったのだろう……なぜかものすごく悲しい気分も思い出した、なぜこんなにも悲しいのだろう……遠くでアラームの音が聞こえ……現実の世界に引き戻された。
「兄ぃ、最近、寝起き悪いねぇ……」
部活の朝練の準備を終えた妹がアラームを止めたようだった。
「ん、おはよう?」
「おはよう、それじゃ起こしたからね!じゃねー」
「いってらー」
先日の壮絶な遅刻があったせいで母さんに起こすよう言われたのかな?と思いつつ顔を洗いに行くと、洗面台の鏡に映る俺の顔似涙の跡があった。なぜあのキャンプの夢を見て俺は悲しくなったのだろうか?どこに悲しい要素があったんだろうか?よくわからないまま朝の準備を終えて学校に行く準備をする。朝ごはんの菓子パンを食べながら朝のテレビのニュースを見る。平和な世界だなぁ……とつくづく思う。日本だからかな?海外では大変な事が起きているとニュースが流れる……よくよく考えると、今まで魔法が使えたなんてニュースも流れた記憶がないので、世界的に見ても俺ってかなりのレアなケースになってしまったとも思う。バレたりしたらどんな事になるのだろう……と思うと若干おなかが痛くなる感じがする。これがストレスだろうか?
「俺って、つくづく凡人だよなぁ……」
「凡人で良いじゃない、あんた、結構頑張って今の学校は入れたからそのままやっていけばいいのよ」
母ちゃんが俺のつぶやきをフォローする。まぁ、確かに今の高校入るため結構頑張った。遠くの高校に頑張って通うのはちょっと考えられなかったし、海斗とも別れるのやだったしね。それなりに頑張ってそれなりの大学に行き、それなりの会社に……うーん、このままだと魔力のおかげで大分普通の人生から外れそうだな……使わなければ普通の人生が送れるのか……
「それじゃ先に出るね、ちゃんとカギ閉めてね、余裕あったらお皿も洗っておいて」
母ちゃんが慌ただしく玄関まで小走りで靴を履き外に出る。前世の母親の記憶……何故だろう……二十歳前後の記憶しか思い出せない……なぜだ……?師匠や先生の顔は良く思い出せるのに両親の記憶はほとんど思い出せない……そんなことを考えながら律儀に皿洗いを終わらしてから準備を整えて学校に向かう。
「お、優斗、おはよう」
「おはよう」
若干、海斗の様子がぎこちない感じがする。これは昨日の事を聞けというサインだろうか?うん、そうだろう。
「昨日どうだった?」
「うっ、い、いきなりか……面白かったよ、思ったよりもストーリーが考えさせられる感じで」
「そっちか……まぁ、そっちはレビュー見るからいいよ。で、鈴香とのデートはどうだったの?」
海斗の顔が一瞬でかなり赤く染まる。何時も余裕のありそうな顔ばっかりだからギャップが見ていて面白い。俺も思わず顔がにやついてしまう。
「ああ、いつも通りだった、多分……」
「特に進展無しか」
「くっ……」
「ん~面白い話を聞きたかったなぁ」
海斗の顔の赤さも取れ、ふと、突然真面目な顔をして話しかけてくる。
「なぁ、まじな話」
「ん?」
「鈴香って、俺の事……好きなんだよな?」
「え?どこからどう見てもそうだと思うけど?」
「うーん……なんか友人として好き……くらいな感じなんじゃないかと……」
この前、鈴香が「海斗くらい押しが強い方が男として良い」とか「海斗くらい色々気を使ってくれると女として嬉しい」とか「海斗くらいポジティブだと良いんだけどなぁ?」とか海斗を褒める感じで俺に「男とはこうあるべき的な理論」を力説していたのになんでだろ?俺、割と無気力で押し弱いし割りと現実的だからなぁ……やっぱり、鈴香も小さいころから3人で絡む事が多かったから恋愛に移りにくいのかなぁ……?
「告白しないとやっぱダメかねぇ?」
「……やっぱりダメだよなぁ……」
「おまえモテるのに……なんか残念な感じだな……」
「うるさいなぁ……好きでもない人にモテても意味ないよ……告白とかしてダメだったら、ギクシャクしたまま残りの高校生活送る事になるだろ?」
「まぁ、確かに。ギクシャクするのはやだね……あ、ちょっとこのまま歩くスピードを落としてゆーっくりと行くと丁度、鈴香たちと鉢合わせ出来るんだけど?」
「!……普通に歩こう、ちょっと心が……不安定だ、いやかなりか」
「へいへい……」
海斗は歩くスピードをかなり上げて学校に向かう。普通に行ってればかち合わないんだけどなぁ……思ったよりヘタレだなぁ……と思いつつ付いていく。
学校に着くと先週のだらけた雰囲気と打って変わり、テスト前独特のピリピリと活気がある雰囲気になっていた。今週はあまり練習できる雰囲気じゃないなぁ……席に着いた俺はバッグから勉強道具を取り出して席に入れながら海斗に話かける。
「テスト勉強すすんでる?」
「ぼちぼちやってるよ。昨日の事で若干、手に付かない感はある……」
「そう言うものか……」
「そう言うものみたい」
海斗が後ろの方に目線を送った後若干固まり、また再起動してあいさつ代わりに手を上げる。鈴香が教室入ってきたかな?と思い後ろを振り返る。案の定鈴香だった、割と海斗と違って普通な感じだ。ついでに俺も鈴香に手を上げる。後ろに歩く与謝峰さんも手をひらひら振ってにこやかにしてくれるので、こっちもひらひらと振り返す。鈴香があれ?っと言った表情になり後ろを振り返る。なんか二人が話し込んでいるがよく聞こえない。
「あっちは普通だな」
「……だな。俺が意識しすぎなんだよなぁ……」
放課後に与謝峰さんと落ち合う約束してたけどどうしよう?「勉強会やろうぜ~」とかなると会う時間が足りなくなるなぁ……放課後の時間を少しでも稼ごうと、俺はテストに向けて授業中にも勉強をすることにした。途中で気が付いたのだが、ものすごくスラスラと頭の中に色々な事が入るようになった気がする。モチベーションのなせる業なのか、それともこれも前世の記憶パワーだろうか?頭が明瞭になった感じなのだ。
昼休みになると鈴香と与謝峰さんが話しかけてくる。
「ねぇ、勉強どうする?みんなで集まってやらない?」
「俺はちょっと一人でやりたいかも、テスト終わったらみんなで遊ぼうよ」
海斗ナイス!と心で思ってしまった……鈴香すまない。俺も早く帰って魔法の訓練がしたいのだ。
「すまないけど、俺もパス、色々やりたい事をやりながらダラダラやるつもりだから」
「んーわかった。ちょっと寂しいねぇ……」
「こっちゃんはどうするの?」
こっちゃんとは誰だ?与謝峰さんか?
「こっちゃん?」
「あ、与謝峰さんの事よ」
「私は家の事がちょっとあるからあまり付き合えないよ。今日も親が仕事で弟たちの晩御飯作らないと……」
「それは……大変だね……」
「誰か勉強に付き合ってくれる人いないかなぁ~?」
鈴香が他の女子グループの子に声をかけに行く。相変わらず行動力あるなぁ……
鈴香に取り残された与謝峰さんが俺に小声で耳打ちしてくる。
「今日はちょっと家の事で行けないからまた今度ね」
「おう、わかった」
ひらひらと手を軽く振って与謝峰さんが俺たちから離れて行く。その様子を見ていた海斗が若干驚いた感じで話しかけてくる。
「あれ?与謝峰さんと接点あったの?」
「……この前、帰りが一緒になってちょっと話し込んだ感じかな」
「そういえば与謝峰さんの事聞いてたもんな」
「あーあの辺だな」
「霊感……ある感じの子なのか?」
「霊感は……わかんない……頭の回転が早くてズイズイ来る感じかな?」
「おっとりしてそうなのになぁ……」
「俺もそう思ってたかも」
「あっ、そう言えば小学生のころは今と違ってかなり活発な感じだったかな?」
「え、そうなの?」
「鈴香と一緒に3人で遊んでたりしたよ。率先して立ち入り禁止区域入ったり、お化けの確認しにいったり、なんか勇気ある子だったよなぁ、今はなんか落ち着いちゃってるね」
「そんなはっちゃけタイプだったのか」
ん?あれ?今もはっちゃけているかな?興味があるとズイズイ来て、無いとおとなしい感じなのかな?俺も接点あるまで知らなかったしな。
その日の夜テスト勉強の追い込みをしていた。さすがに魔法の練習などをしている暇じゃぁないと思って自重した。いくら魔法が使えても将来安泰……と言うわけには行かないのもこの数日で良く知ってしまったからだろう。野望を持って有名になりたい、大金持ちになりたい人にとってはチャンスでも普通の人生をそれなりに送りたい人間にとっては過ぎたる力だった。まぁ、ちょっとは楽したいけどね……
夕ご飯を終えて部屋に戻るとスマホに着信があった、与謝峰さんからだった。
【ゲームにあまり詳しくないけど、なんかそれっぽいゲームあったら教えてくれる?調べておくから】
俺よりも異世界系の事にはまってる印象だなぁ……学校の成績落とさないでくれよ……と思いつつそれっぽいゲームの例を上げて返信するが、あり得ないものばっかりだから参考程度にしてとメッセージを書く。
【ありがとう、さっそく調べてみる】
【テスト勉強しなくていいの?】
【何とかなるから大丈夫よ】
勇ましいのか、楽観的なのか良くわからない返信が来た。
翌日の朝、いつも通りに目が覚めると、朝一で与謝峰さんの方からメッセージの着信があった。
【今日の放課後時間取ってくれないかな?テスト前で申し訳ないのだけど、気になって気になって眠れなかったの……】
うん、わかる。記憶が戻った初日の俺の様だな……巻き込んでしまった感があるのでちょっとだけ付き合うか……
【OK、その代わり勉強ちょっと教えて。】
【ありがとう!学校終わったらよろしくね!、魔法の練習はしなくて良いから中央公園の藤園あたり……かな】
【わかった、詳細はスマホで連絡し合おうか】
【うん、それじゃ学校で】
考えてみたら鈴香以外の女性でスマホで連絡取り合う人ってあまりいないんだよな……なんかしっくりくる相手だなぁ……と思いつつ学校に行く準備をして家を出る。
授業も終わり放課後になって海斗と帰ろうとすると、ばったりと鈴香と一緒になる。
「あれ?1人?」
「こっちゃん用事があるって、急いで帰って行ったよ。よくあるんだよねぇ」
「一緒に帰るか」
「うん!」
鈴香がほほ笑む。横目で海斗を見ると若干固まっている印象だった。もうちょっと自然にした方が良いと思うんだけどね……若さだなぁ……あ、なんか記憶が戻ってから性格がちょっとおっさんになった気がする。何歳で死んだんだろう?結婚してたのかなぁ……思い出せた方が良い事あるのだろうか?思い出さない方が人生楽しく生きられるのだろうか?謎だ。
つんつんと鈴香に指で突っつかれる。
「また、上の空だねぇ」
「そうだな、最近多いな」
「……確かに、頭の中で色々考えるようになったかもな……あ、すまない、聞いてなかった、何の話してたの?」
「……」
「特に話はしてないよ、複雑な顔をして心ここにあらずな優斗を見てただけだよ」
いつもなら二人で延々と話しているのに……珍しい、ってか前回のデート実はうまく行ってなかったんじゃないか疑惑が俺の中で浮上する。場を和ませるためにも俺の悩みをちょっと混ぜたタラレバ話をしてみよう。
「なぁ、もし、自分がスーパーパワーを手に入れたら、映画みたいなヒーローになってみたいとか思う?」
「あー、あの映画そうだったもんなぁ……ネタばれレビュー見ちゃったか」
「うーん、私だったらスーパーパワーがあっても知らないふりしちゃうかもなぁ……ってそんな事考えてたの?テスト前なのに余裕ね……」
「俺だったら普通に人助けしちゃう……と思うけど、映画みたいな悪役なんて現実世界には居ないから、あんまりやる事なさそうだよね」
「やっぱり悪役いないと始まらないものね」
「この平和な世の中じゃ悪役探す方が大変かもな」
「確かに」
二人が普通に話せるようになって良かった。まぁ、海斗が意識しすぎてただけだな。その後も3人で他愛のない雑談をしながら帰宅する。
家に帰るとスマホを見て連絡が無いか確認をする。与謝峰さんからのメッセージがあり、急いで着替えて自転車で待ち合わせの公園まで行く。待ち合わせ場所に行くと屋外のテーブル付きベンチの上に割と大きめのリュックを背負った与謝峰さんが座って待っていた。俺に気が付いたのか手をひらひら振って挨拶をしてくれる。
「お待たせ」
「待ってないよ~丁度来たところ、今日はありがとうね来てくれて」
そう言うと与謝峰さんはリュックの中身からタブレットやら雑誌、イラスト集?などを取り出す。
「前回はごめんね、ひとりでテンションが上がっちゃって、聞きたいことの10分の1も聞けなかったよ」
「え?10分の1?」
「だって異世界の記憶ってものすごい面白い事を聞いたのに、異世界の話は全く聞けてないんだよ?」
「ああ、まぁ確かに魔力の練習をして終わり際にちょっと話しただけだもんな」
「それで今回はテスト勉強で時間もとれなさそうなので、アジェンダを用意しておきました!」
「お、おおぅ?」
相変わらずものすごいテンションだ、そしてさすが成績優秀者だ。やる事がなんかすごい。あなたはもう社会人なのか?
「あ、その前に魔力感知で人に聞かれない距離かどうかのチェックをお願い」
「大丈夫、もうやった」
「あ、すごい、予備動作無くなってる……それじゃ、第一の質問です。どれくらい前世の記憶を覚えているの?例えば生まれてから死ぬまでをきっちり覚えているとか、部分的に覚えているとか?」
「ああ、これは俺も疑問なんだけど、何故か駆け出しっぽい時期で、その前後の記憶しかないんだ、今でいうと社会人になってすぐ……くらいなのかな?」
「ああ、やっぱり断片的だったのね。魔力操作なんかも知っていると言うより、試しながらびっくりしている感じだったから、ちょっとおかしいと思ったの」
「なるほど……」
え?そんなのも分かっちゃうのか……すごい洞察力だ。それか俺が挙動不審なのかな?
「第二の質問です、前世の名前や物の名前……文章などは書けたりする?」
「あれ……?分からないかも……ちょっと待って……人の顔とかはおぼろげに覚えているんだけど……」
「そう……」
なんかものすごく与謝峰さんが落胆している。重要なことなのかな?
「あれ?どうしたの?」
「あ、その文章や名前を唱えると呪文が発動するかなー?とか思ってました。思っていたよりも情報が少ないかなぁ……」
「ああ、でも、なんか魔法を使ったり、きっかけがあると思い出すことが多い気がするよ」
「……そうなの?それじゃぁ、今までと同じで色々な種類の魔法使うとかやってみた方が良さそうだね」
「第三の質問です、これもわからないかもしれないけど……前世の性別、職業などは?」
「性別は男だと思う、可愛い子に反応してた記憶なんかはある。職業はおそらく狩人……だな魔物を狩る感じの職業のはず」
「……そう……あ、この人気ゲームの〔ドラゴンハンター〕みたいな感じ?」
与謝峰さんは持ってきたタブレットに保存していたゲームの画像を俺に見せる。そこには人間サイズのキャラクター達が、10メートルはあるドラゴンと退治している絵が描いてあった。
「ああ、さすがにこんな巨大な奴を狩った事が無い気がするが、もっと小さいのはやった事ある……なぁ……」
あれ?なんか突然頭痛がしてきた、い、痛い……思わず顔に苦痛の表情が出てしまう。
「……大丈夫?」
「ちょっと待ってね……」
しばらくすると頭痛が引いてきた。なんだこれ?思い出す事が頭痛になってるのか?与謝峯さんが不安そうな顔になってくる。
「大丈夫……続けて」
「記憶障害的なものなのかな……?」
「それじゃ気を取り直して第四の質問です、周りにはどんな人がいたの?見た目とかは思い出せない?」
「ああ、これは大分思い出せたよ」
「おお!これは期待できるかな?」
「まずは俺たちと同じような人族、爬虫類と人の間の種族、ネコと人間の間の種族、犬と人間の間の種族、狐と人間の間の種族……ああ、なんか動物の力を取り入れた獣系の種族がいた。あとは体が巨大だったり、小さかったり、耳が長くて綺麗だったり、角を生やした魔法が得意な種族……なんか色々いたよ……」
ほんと色々な種族がいたと思う。肌の色がちょっと違うだけで同じ種類の人種のこの世界に比べたら、多種多様過ぎだな。一回あっちの世界を経験したらこっちの世界の人達はもうちょっとみんな仲良く出来るのかもなぁ……与謝峰さんが持っていた雑誌やら資料を広げる。
「こんな感じ?」
与謝峰さんが見せてくれたのは殆ど人間に耳と尻尾を付けたようなキャラクターだった。もうちょっと獣率が高いんだよね、獣系の人はもれなくうっすらと体中に毛が生えているからね。
「ちょっと違う」
「それじゃぁ、こっちくらい?」
海外のリアル系映画に出てきた半獣人のキャラクターを指さす。
「これの方が近いな、骨格が人型過ぎる気がするけど」
「……そう……現代の人たちには受けが悪そうな見た目かもね……」
確かに日本の漫画では人間に獣の耳と尻尾をはやしただけのキャラが多いものな。可愛くないからか?結構可愛かった気もするんだけどなぁ……
「第5の質問です、社会はどんな感じだったの?文明レベルは?後、神様とかやっぱり信じてる感じ?」
「文明レベルはここより大分落ちる……戦国時代とか?あの辺レベルな気がするよ。石造りが基本だったけど、コンクリみたいのはあったけど…………電気とかは無かったな……井戸に手漕ぎ式のポンプなんかはあった。世界遺産とか見て見たけど、何となく似てるなぁ……くらいな感じ」
「うーん……やっぱり建築物には宗教性が出るからあんまり似てないか……」
「あ、神様は普通に神殿に降臨されたりしていたぞ」
「……え?……」
「この世界には神様が降臨……しないんだよな……あっちの世界と根本的に違うのかな……」
「か……神様とはどんな?感じ?」
「それは美しい人だったよ、降臨されてみんなに祝福を与えてくれるんだ.…そう、祝福……」
頭に唐突にものすごい痛みが襲う、思わず頭を抱える。ちょっと、マジで痛いぞこれ!!
「ぐ、ぐ、ぐ……」
「ちょっと羽雪君!!大丈夫?ああ、どうすれば……」
何だこれ、半端なく痛い……痛いが与謝峰さんの前でカッコ悪いところは見せられない……記憶の中の女神様が何か俺に話しかけている気がする……痛い……浄化?浄化って何のことだ????……痛い……突然記憶の中が光りだし、頭の中が光で満たされると、唐突に痛みが治まってきた。
「うう……治まってきた……大丈夫だ……」
ちょっと涙目で申し訳なさそうな顔をした与謝峰さんが俺の額をウェットティッシュで拭く、気の利く良い人だな、ありがたい……
「ものすごい……脂汗……ごめんね……記憶、思い出そうとすると大変な事になるのね……」
「ああ、女神様の事を思い出そうとしたらそうなった……あ、でも今は大丈夫だ」
ふと、自分の周りの色々な流れが解る様になっていた。頭がものすごいスッキリして気分が良くなっていた。俺は試しに魔力感知を周囲に放ってみる。200メーターどころか、300m以上か?目視で見える範囲は大体のものが見えるようになっていた。これはすごいな。
あれ?与謝峰さんの身体の芯の部分に黒いモヤみたいのが見える気がする。思わず手を伸ばして与謝峰さんの黒いモヤを触ろうとしてお腹辺りを触る。今だったら黒いモヤを触れそうな気がしたからだ。
「ひゃん!!!!」
あれ?黒いモヤが消えた?どうなってるのこれ?握ろうとしたらキラキラとした光になってしまった。なんだろこれ?
「ちょっと羽雪君!いきなり魔力を流さないで!、っていきなりお腹を触らないで!」
「あ……ごめん……何か与謝峰さんの芯の部分に黒いモヤが見えたから触ってみたら消えちゃった……」
「……黒い……モヤ?煙みたいなの?」
「うーん、わからないなぁ……なんとなく感覚で見てるからよくわからないかも……今は見えないや……」
俺は与謝峰さんの周りをぐるっと立ち上がって見てみる。やっぱり異常はない。ほっと安心した与謝峰さんは、ちょっと残念そうな感じになる。
「前世の記憶を辿るのはやめた方が良さそうね……」
「そんな事は無いと思う、さっきの頭痛が治ったら、なんか、魔力の扱いがもっと上手くなってる感じ、全部思い出せたらなんかすごい事が出来そうだ」
「そう、それなら良いのだけど……はたから見てるとかなり苦しそうで、いたたまれなくなるよ、実験は辞めた方が良いかな……」
「んーそんな事言わないでくれよ、これからも付き合って欲しいよ、なっ?俺の賢者様」
目をそらしていた与謝峰さんが俺の方をビックリした感じで見る。
「……え?」
「あー、だからこれからも色々実験に付き合ってって事なんだけど……」
あれ?おかしいかな?なんか前世の記憶のせいかちょっと恥ずかしい言い回しになってたか……俺の賢者様……じゃなくて俺のブレインなんだからさ……って感じだったんだけど……言いなおすか?それもなんだかなぁ……
「うん……こちらこそよろしく」
与謝峰さんがややぎこちなくほほ笑む。ちょっと違和感を感じた……
「あ、でも、次はテストが終わってからにしようか、私の知りたい事は結構知れたし、羽雪君の記憶を辿ったりした時に前世の記憶が影響してテストの範囲忘れちゃっても困るものね……」
「え??その可能性は考えなかった……」
「まぁ、ちょっと忘れてもスパルタで何とかしよっか?」
「ほどほどでお願いします……」
■とある森の中で……
とある森の中、人型のなにかが完全に動きを止めていた。たまに目が光ったりしているので、何かを考えているのだろうか?
『! ロストしていた微弱な反応を再び確認……若干の力の増減を確認、波形から同一のものと予測……調査のため移動開始します……想定距離……5日程度と予測、なお、対象の状況が不安定と予測。ターゲットとの意思疎通ができない可能性があります。ターゲットとの接触前にこの世界の言語を習得する時間を必要とします』
何かに報告をしている感じだが、相手は見えない。通信機器を装備しているのかも、はたから見た感じだと全くわからない。
再び、人型のなにかは疾走し始める……
本作品をお読みくださり、本当にありがとうございます
本作は割と短めでさっくりと終わる予定です。
たくさんの方に楽しんで頂きたいので、面白いなど思っていただけましたら、ブックマークや画面下にある『☆☆☆☆☆』を押して評価していただけると嬉しく思います!