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第二章:シラサギカップル

―1-

射手座?

新しい星座がいる。中等部…。日向先輩と同じクラス…!!

行きたい!!

会いたい!!

でも…初等部の人間が中等部の校舎になんて入れないし…

苗木海は少し考えながら満天星学園中・高等部の正門前をうろちょろと歩き回っていた。


6年生の授業はすべて終了している。

が、中学生も同じ時刻に終了するとは限らない。

きっと、もっと遅いかもしれない。


日向先輩に会いたいな…

そしたら射手座を紹介してもらえるのに…。


でもきっと日向先輩は部活だから帰りもきっと日が沈んでからだ…。

とてもじゃないけれどこの寒空の下ずっと待っているわけにはいかない。

親だって心配する…。


「あら…かわいい、初等部の子よ?」

正門から出てきた女子生徒たちが俺を見てクスクスと笑ったので

なんだか恥ずかしくなってしまった。

どうしよう…

やっぱりこの制服でここ居たら目立つよな???


「ねぇ、お兄さんかお姉さん待ってるの?」


とうとう声を掛けられてしまった

二人組の中等部女子生徒がニコニコと俺の前に立った。


「え?…いや…あの…」

そういうわけじゃ…と言いかけてハッとする。

そうだ!

「あの…中等部1年の日向明さんに会いたいのですが…」

「あら面会?」

「はぁ…まぁ…そんな感じで…」


「日向君ってバスケ部の、よね?部活中かしら?体育館行ってみる?」


「え?」


話が思わぬ方向に逸れだした。


今部活をしている日向先輩のところへ行ったらめちゃくちゃ迷惑だろう。

それにその射手座がバスケ部とは限らないし…


困った…変な事言っちゃったなぁ…



「あーーーー!!」


突然背後で声が上がる


驚いて二人の女子生徒と俺はそちらを振りむいた。


すると俺を指差したっていたのは、見覚えのある女子生徒だった。

ツインテールを揺らしながら俺をキッと睨みつけている。


「あんた!!海じゃない!!こんなところで…ってえ?

初等部の制服?やっぱうちの学園関係者だったのね?

何しに来たのよ!!」


「あら知り合い?じゃあ…」といって

女子生徒二人はそっと去っていった。


「なんだ…ババァか!こんなところで何してんだよ!」

思わずいつもの調子で毒づいて見せた。


そこにいたのは夢幻空間で一緒に?活動していた

七瀬愛理がいたのだ。


「んまぁ!!年上に向かって相変わらずその態度!!

本当にあんたって失礼な奴ね!!」


「ふん!…あ!ちょうどいい!

お前、射手座知ってるか?知ってたら会わせろ!」


「はぁ?…射手座…?ああ…竹人君?」


“竹人”…それが射手座の名前らしい。男か。

少しホッとする。


しかし愛理の表情がみるみる曇っていくのが分かった。



「竹人君に一体何の用よ?」

そういって愛理は海を軽く睨んで見せた。


「お前には関係ねーだろ?

で?どこにいるんだよ。その…竹人先輩とやらは!」

「ふん!知らないわよ!今日だって部活休んでるみたいだし

学校にも来てないんじゃないの?」


「はぁ?なんで学校来てないんだよ?意味わかんねー!」


「身内で不幸があったの!…ったく…なんであんたにこんな事話さなくちゃいけないんだか…。」


「お前が勝手にしゃべったんだろ?不幸?

…え?不幸って誰が死んだんだよ…?」


「そんなのあんたには関係ないでしょ?!」


「いや!!……誰ですか…教えてください…」

思わず敬語を使う。


すると愛理はまゆげをピクリと動かして不思議そうにこちらを見たので

思わず目を逸らした。


「ふん…竹人君の弟さんよ。病死ですって……。」


次の瞬間俺は眼を見開いて

まっすぐに愛理の顔を見つめていた


「…なん…だ…って?」


思わず愛理の両肩につかみかかり尋ねた

「まさか…!!まさか…その弟さんも星座関係者なんじゃ…!?」

「ちょ…そんなに力入れないでよ!痛いじゃない…」


「あ…ごめん…」

そして愛理の口元からでる次の言葉を見張った


「そうよ…蛇使い座守護神…だったかしら…?

だから何?あんたが何を聞きだしたいのか意味が解らないわ?

ちゃんと説明しなさいよ?」


「…なんて…事だ…なん…で…みんな…みんな……!!」


気が付くと俺は走り出していた。

後ろから愛理が何か叫んだが耳には入らなかった。


―2-


桜色のカラーが入ったセーラー服を脱ぎ捨て、海は学習机の上にある

写真立てを手に取った。

そこには海自身がそのまま映り込んだのではと言うぐらい瓜二つの

少年があどけない笑みを浮かべてこちらを見ている写真があった。


そらにぃ…。まじかよ…。

射手座の弟が死んだって…。

これで何人目だ?

もうわからないよ…。

俺、本当にこのまま星集めしてみんなを助けられるのかな…?」


「海―?何してるの?おやつ出来てるわよ?」

開けっ放しになっていたドアからひょっこり母が顔を出す。


思わず心臓がドキッ!となって驚いたが

冷静を装い静かに返事をして見せた。


母がスリッパを慣らし廊下の向こうに消えていくのを耳で確認した後

写真立てを机の上に置き直し私服に着替えると

ふーっとため息を一つ付いた…。


自室を出て台所へ行くとふんわりと甘い香りが部屋に広がっていた。

ホットチョコレートの香りだ。


「海、ホイップクリーム入れる?」

「うん」


母はすでにホイップされている市販品の生クリームを海のお気に入りのカップの中に絞って見せた。

カップの隣のお皿にはアーモンドクッキーが3枚並べてある。


「それ食べたら宿題しちゃいなさいよ?」


「はーい」

素直に返事して海は席に着くとカップに口を付けてホットチョコレートを飲んだ。


甘い…。


「海?最近眠れてる?昨晩部屋からなんだかうなされているような声が聞こえたけれど…?」

「え?そう?普通だよ?」

「…そう…ならいいのだけれど…」


そう言って母はひき肉のボールを手で丸めている。

今夜はハンバーグだ!


―3―


夕食が終わり自室に戻ったところでスマホをみると

LINEの通知が一件来ている事に気づき竹人は学習机とセットの椅子に腰を下ろすと背筋を正して見せた。


メッセージは羽鳥先輩からだった。


「竹人君、メッセージありがとう。

急ですが明日の放課後18時過ぎなら空いています。」


お!

ラッキー!


マリアさんは羽鳥先輩が忙しい、と言っていたが

明日早速空いている!のなら

約束を取り付けてしまえ!


メッセージボックスに返信文を入力していく。


「では明日、放課後18時過ぎに大学正門前でお願いします」


返信ボタンをぽちっと押して

スマホを机の上にそっと置くと

うーん!と座ったまま上半身伸びをして見せた。


ブブッ…!!


スマホのバイブ音と振動に驚く


早い!羽鳥先輩からだ!


スマホを再度手にしてメッセージを開く。


「寒いので大学内の3号館前の喫茶店で待っていてください

では。」


あ…なるほど…確かに12月の寒空の中待つのも辛いか。

羽鳥先輩の優しさですね!


「了解しました」


返信しふーっとため息をついた。


そういえば羽鳥先輩とこうしてLINEをリアルタイムでやり取りするって

初めてかもしれない…。


明日話す内容を頭の中でまとめておかねば…


―4-


次の日の放課後、竹人は早速大学の3号館前にある喫茶店へやってきた。


場所は満天星学園中央の広場からさほど遠くなく

案内板にも書かれていたためすぐに分かった。


外観はレンガ造りでとても落ち着いていて

ツタの葉が壁に伸びていて純喫茶を思わせるレトロぶりだ。

もしかして大学が出来たときからずっとあるのかもしれない、この喫茶店は。



それにしても今日は天気はいいが風が冷たく冷え込む…。

コート着てくれば良かったかな?と思うくらいの寒さだ。


竹人は躊躇わず喫茶店のドアを引き、店内へと入った。


店内は思ったよりもとても広くて明るかった。


所々で大学生たちが雑談していたりノートパソコンを広げ勉強していたりしていた。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


ショートボブの似合うウェイトレスが出迎えてくれた。

僕はちょっと背伸びをして言う。


「あ…ええと…待ち合わせをしているんですけど…

まだ来てないかなぁ?」


ぐるりと見渡すがまだそれらしき人は見当たらない。


「あの…後から一人来ます…」


「はい、では空いているお好きなお席にどうぞ」


なるべく目立つところがいいかな?と

入り口近く中央の二人席を選んだ。


鞄を椅子の下に置き紅茶のホットを注文し終えるとなんとなく落ち着かなくて

スマホを取り出すと用もないネットのニュースをぱらぱらと見始めたが

内容は頭に入ってこなかった。


やがて湯気をたてた熱々の紅茶が運ばれてきたので僕は一度スマホを仕舞い

紅茶に口を付けた。


ふんわりと上品な香りが口いっぱいに広がる。


それにしても羽鳥先輩はまだだろうか?

腕時計を見ると時刻は18時48分…。


授業が長引いているのだろうか?


少し不安…いや、かなり不安だ。


大学棟には行くなと教師から言われているからあまり堂々としていられない。

先輩が一緒にいるなら話は違うが

今はまだ一人…。


中等部の制服を着て大学内の喫茶店に一人…


かなり勇気がいる。


なんとなく落ち着かなくてまたスマホを取り出そうとしたところで

頭上から声が降ってきた


「おや、こんなところで一人、お茶会?」


びっくりして顔を上げると

思わず心臓が止まりそうになる…


何故って

そこには

横瀬桜倉先輩が居たからだ。


羽鳥先輩と待ち合わせしているのに

来たのは…桜倉先輩…!?


いや…LINEの送信相手は間違えていない…はずだ…


思わず体が石のように固まり目を見開いて

相手をただただ見つめることしか出来なかった。


「こんなところで何してるの?

待ち合わせ?」


その言葉にLINEの送信相手を間違えたわけではないと知り少し安心する。


「あ…は…い…」


「羽鳥先輩?」


「………」

思わず言葉が詰まる。


「たぶん少し遅れてくると思うよ?

他の生徒たちにつかまってたから。」


「あ…はぁ…そうなんですか…」


少しいいかな?と言って桜倉先輩は僕の向かいの空いた席に腰を下ろした。

重そうなリュックをドスン!と音を立てて床に直置きする。


「この度はご愁傷さまでした…

明人君のご冥福を祈るよ」


そこで僕ははっ!とする。


このレトロなカフェの雰囲気にまどろんで心がのんびりしていたが

そうだ、

桜倉先輩のせいで明人の救出が遅れて…

桜倉先輩は…、僕らの敵であって…

それで…

僕に日本刀で切り付けてきた張本人なわけで…


テーブルに置いていた両手がカタカタと震えだす。

勿論怒りで、だ。


どうしたらいいのだろう…

この状況、この感情…


思い切りにらみつけるつもりで顔を上げると

何故か桜倉先輩は悲しそうな表情を作っていた。


「竹人君の気持ちは…わかるつもりだよ…これでも…ね。」

ゆっくり、静かに桜倉先輩は話し出した。


「誰も好き好んでこんな役回りをしているんじゃない…。

僕もね、大切な人を失ったんだ…それで…

これ以上誰かを悲しませたくなくてあの夢に誰も入らないようにしようと

僕なりにやってるつもりなんだけどね…

でもどうしても君らは来てしまう。

羽鳥先輩の頼み事なんかの為だけに危険を冒してまで?

そうじゃないよね…少なくとも…竹人君はまだ会った事ないかな?

双子座は違ってたかな。」


ふぅ…と俯いて小さくため息をついた桜倉先輩を僕はただただ見つめるだけしかできなかった。

と、

「いらっしゃいませ」

突然頭上からウェイトレスの声がして

水の入ったコップが一つ桜倉先輩の前に置かれた。


「ご注文お決まりの頃にお伺いします」と言ってウェイトレスは厨房の方に戻って行った。


「…あの…、僕は本当にわからない事だらけで…

羽鳥先輩の頼み事じゃない目的を持った双子座ってどういう事ですか?」


「それは…」

「それは、願い事が叶うからだよ」

桜倉先輩が話しかけたところで

桜倉先輩の方にぽん、と白い手がかけられ

羽鳥先輩が言葉の続きを話した。


「羽鳥先輩…」

「やぁ、遅れてごめん。桜倉君も一緒だったんだね?」

「いえ、僕はたまたまの通りがかりです。」

そういってゆっくり席を立ちあの重そうなリュックをひっかけると

じゃあと言って軽くお辞儀すると喫茶店を出て行った。


「一緒でもよかったのに。その方が竹人君としては都合が良かったかもしれないね?」

「…はぁ…」

間の抜けた返事をすると

ウェイトレスがまたお水を持ってきたので

羽鳥先輩は僕と同じホット紅茶を注文した。


「あの…双子座の願い事って、どういうことですか?」

「竹人君もききたいかい?」

「え?…はい」

すると羽鳥先輩は眼鏡の奥のグリーンの瞳を落として少し悲し気な表情を作った。

それは一瞬だったが僕は見逃さなかった。


すぐに僕の方に向き直り目を細めて羽鳥先輩は言った。


「望んだ死者がよみがえるんだよ。」


「…え?」


「時を巻き戻してすべてなかったことにできる」

「………」

「そして死者は死ぬことなく新しい道を生きる事になる」


どう…反応したらいいんだろう…

考え込むついでに紅茶を一口啜った。


しかし答えはそこにはなかった。


たしかに…不思議な事が沢山続いている…。

でもまだ足りない?これ以上の不思議な事がまた続く予感を感じた。


「天秤座もそれを強く望んでいるようだね…」

!?

天秤座って、秋桜ちゃんの事…だよね?

「…秋桜ちゃん…が、ですか?」

秋桜ちゃんが望む死者の生き返り…

そういえば…たしか秋桜ちゃんのお父さんが交通事故で亡くなったって

以前お母さんから聞いたことがある。それを機に北金倉に引っ越してきたって言っていた。


ああ…だからか…。

以前僕が夢の世界にはもう行かないでほしいと言ったのに

秋桜ちゃんが拒んだのは

お父さんを生き返らせるため?

そうか…

そうだったんだ…


だから…

桜倉先輩が日本刀を使って止めても言う事を聞かなかったんだ…


ばらばらだったパズルのピースが突然繋がり出したような感動が心の中にあった。


が…次の瞬間に違和感を覚える。


双子座は双子の兄の復活

天秤座は父の復活…


この二人に関してはわかったが

ではマリアさんの話だと

桜倉先輩も恋人を亡くしている。


桜倉先輩もみんなと一緒に星集めをして

恋人の復活を望んでは…いないのだろうか?


「あの…なんとなくわかっては来ましたけれど、桜倉先輩はなぜ反対しているのですか?

桜倉先輩も恋人を亡くしたと聞きましたけれど…」


すると羽鳥先輩は目を細めて見せた。

「その情報はマリアさんから…かな?」

「え?あ…はい…」

「そう…。確かに桜倉君も恋人を亡くしている…。でもね、桜倉君は死者の復活には反対しているんだ。」

「え?恋人に会いたくないんですか?」

「そうじゃないよ。なんというのかな…本来の時間の流れをいじっていいものかって悩んでいるみたい。自分でも潔癖だけど、と言っていたよ。」

「はぁ…潔癖…ですか…」


確かにまぁ、桜倉先輩の言い分も分からなくはない。


一度亡くなった死者をよみがえらせる事自体

普通ではない。

本来ならありえない事なのだから…。

それに逆らう事の違和感みたいのがあるのだろうか…


死者…死者と言えば…

明人…

明人が…蘇る?


確かに…

手放しで純粋に喜べることではないと僕も思う。


桜倉先輩の気持ちが理解できて少しホッとする。


勿論明人に会いたくないわけではない…。

だけど…


だけど…。


「紅茶、お待たせいたしましたー」


その声にハッとする。

羽鳥先輩の前にあたたかな湯気を立てた紅茶のティーカップが置かれた。


「羽鳥先輩は…どうなんですか?」

「どうって?」

「どなたか蘇らせたい人が、いるんですか?」

「あれ、話してなかった?」

キョトンとした表情を作って羽鳥先輩は少し表情に明るさを取り戻していた。


「え?…はい…。」

何の事だろう?


「琴ちゃんをね、

琴ちゃんを、生き返らせたいんだ。」


―5-


「……え?」

思わず聞き返してしまった。

話がよくわからない…。


琴ちゃん?


琴ちゃんって

あの琴ちゃん、だよね?


長い髪を揺らし

まんまるお目目をした小さな女の子。


いつだったかのお茶会でかわいらしいアイシングクッキーを…ええと誰だったっけ?

あ、そうそう…翔さんと一緒に作って見せた、あの琴ちゃんの事、だよね?


僕が黙り込んでも羽鳥先輩はただ僕の目をまっすぐに見つめていた。


「あ…の…、琴ちゃんって、僕らが会ったあの琴ちゃん、ですか?…うん???」

なんか間抜けな質問をしているような気がしたが

なんて質問したらいいのかよくわからないのが正直なところだ。


「そうだよ。

竹人君たちは会ってるよね。その琴ちゃんで間違いないよ。」


「え?でも琴ちゃんは死んでないですよね?え?え???」

そこでハッとする。

まさか僕らが会った後に琴ちゃんに不幸があったのでは、と。


「琴ちゃんはね、指輪をした星座関係者にしか見えないんだよ。」


「…は?」

また間抜けな返事をしてしまったかもしれない。

だが…そう言いざるを得なかったようにも思える。


「ちょ…ちょっと待ってください。

話が良く分からなくなりました…。

え?

琴ちゃんが星座関係者にしか見えていないって一体どういう事なんですか?」


すると羽鳥先輩はまるで勿体ぶるようにティーカップに口をつけて

紅茶を啜って見せた。


「またみんなを集めようか…この話を何度も話すの、僕的にもダメージがあってね。」

「え?」

「あの時、この前のお茶会の時みんなに話した事は嘘ではないけれど、

事実でもない、かもしれない…。

竹人君一人に話しても他の星座関係者が納得しなければ駄目なんだ。

でないと時計が時を刻めなくなる…。」


よくわからなくなってきた。

嘘ではないけれど、事実でも、ない???


難しすぎる…。


「急だけど、星座関係者に声をかけておくよ。

明日の土曜日、僕の家に集まってほしい。

全部話すよ。全部、ね。」


「え…明日?…明日は…」

「何か予定でもあるのかい?」

「いえ…大丈夫ですけど…」

明日は…。

「そう。

じゃあ本当に急で悪いけれど

僕からみんなに声をかけておくから…

竹人君にもぜひ来てほしい。

あ、そうそう…

これも渡しておこうかな?」


そういってズボンのポケットから取り出したのは…

「懐中時計…ですか?」

「懐中時計と星座盤が一緒になったちょっと珍しいデザインのモノだよ。

それが“鍵”となるから12星座で天の川銀河の中心方面に位置する射手座守護神の

竹人君に持っていてほしいんだ。

僕が持っていても、そろそろあまり意味を成さなくなってきたしね。」


羽鳥先輩のいう事は謎だらけだ。

何を言っているのかわからない…。


じゃあ、と言って渡された懐中時計を受け取るとそれを羽鳥先輩がそうしていたように

自分もズボンのポケットに入れて見せた。


―7-


時刻はすでに19時を回っていた。

北金倉駅に着くとちょうど電車が滑り込んだのですぐに乗れてホッとする。

乗客はまばらだったのでロングシートに腰を下ろした。

ポケットから懐中時計を引っ張り出して蓋を開けて見せる。

パチン!と勢いよく開いて

驚いたのは

蓋の裏にミニチュアサイズの星座盤が張り付いている。

円の淵のギザギザを指で滑らせるとちゃんと星座盤が回転した。

わー、凄い。

よく出来てるなぁ…。

時計の方も美しく

文字盤に星座のマークがそれぞれあしらわれている。

長針には星、

短針には月の飾りがついていた。

と、

「…射川?」

慌てて顔を上げると

そこにはバイオリンケースを持った入間が立っていた。


「…入間…」

「…久しぶり…。ここいいか?」

そういって隣の席を目で差したので

僕は頷いた。

軽くにこりと微笑むと入間はそこに腰を下ろし

両足でバイオリンケースを挟む格好をして見せた。


「…ごめん。部活随分さぼっちゃって…」

「いいよ…それより…明人君の事、なんと言ったらいいのか…」


「………」

「………」


思わず二人して無言になってしまった。

そんな二人をよそに電車は次の駅応船駅に到着しようとしている。


「あ…あのさ!

入間、明日時間ある?」

「え?」

「羽鳥先輩がまた家でお茶会するって言うんだけど、来れそう?」


「明日…でも…明日って確か…」


「応船~、応船~」


電車が駅に着いてしまった。

僕は乗り換えの為ここで降りなければいけないが

入間はこのまま二つ先の東小塚駅まで乗る事になる。


「あ…じゃあ…続きはLINEする!またね!」

と言って慌てて電車を降りると

驚いたことに

入間も続いて電車を降りたのだ。

次の瞬間に電車のドアは閉まりゆっくりと動き出す。


「え?」

「射川…少しいいか?」

「あ…うん…いいけど、入間良かったの?電車下りちゃって…。

別に電話でも…」

と、

入間の手が僕の肩に伸びる。

「そうじゃないんだ…

そうじゃ…」


エキナカに円形のベンチがあったので二人してそこに座った。

トイレ、と言って入間が一度消えたので

僕はスマホで自宅に電話を入れた。


「あ、もしもしお母さん?僕、竹人。

今友達といるんだけどもう少し時間かかりそうだから…うん…

大丈夫…何もないってば!

先ご飯食べてて?うん、じゃあ…」


そう言ってスマホの通話を終了すると

おでこに温かい熱が生まれた


「ほうじ茶で良かった?」


入間が小さなペットボトルを二つ持って、その一つを僕のおでこに軽くぶつけたのだ。


「ふふ…ほうじ茶!渋いね!!」

ありがとうと言って受け取るとすぐには飲まずに冷たくなっていた両手をカイロ代わりに温めた。


隣に腰を下ろすと入間はキャップを開けてほうじ茶を一口啜る。


「さっきはごめん。

あのさ、羽鳥先輩と会ったんだけど

明日みんなでまた会おうって話になって…

それで入間も来る?」


しかし入間は虚ろな表情でただぼんやりと人の流れを眺めているだけのように見えた。


「…入間?」


「ん?…あ、ごめん…。

なんだっけ?」


「どうした…の?

なんか元気ないよ?」


「…何、言ってるんだよ…当たり前だろ?」


その“何”が何を指すのか鈍感な僕はハッと気づき

またしても二人で俯いてしまった。


「明人君の事…もっと見張って居ればこんな事にはならなかったかもしれないのに…」

やっとの事で入間が口を開いたが

それがまるで自分が悪かったのような口ぶりだったので僕は慌てる。


「何言ってるんだよ!入間は何も悪くないよ…!!

悪いのは僕だよ…。夢の入り方を迂闊にも教えてしまったから…」


「でも…」


「いいんだよ、入間は…

ううん。

誰も何も悪くない…」


「…射川…」


ガラス玉のように目をキラキラさせながら

今にもその輝きがポロリと零れ落ちそうで、落ちなくて…


と、


次の瞬間、たまらずそれがポロリ、と零れ落ちてしまった。


「……入間…」


「だめだ…やっぱ…俺…明人君を救ってあげられなかった…

すげー後悔してる…

悪い…射川…

本当、すまない…!!」


「や…何言ってるんだよ!入間…!!

だから自分を責めないでって…

泣かないで?

ね?」

友人の肩を抱くと

その肩はかすかに震えていた。


「…もう…誰も悲しませたくない…」

入間がそっと顔を上げると

僕の目を射るようにまっすぐに見つめた。


「射川は死んでも俺が守るから、な!」


「ちょ!!

死んだら意味ないんだよ!!

死んじゃダメなんだよ!!


入間変な事言ってるよ。

それじゃ誰も救われないんだってば!


だれも…


死んじゃダメ、なんだ、よ…!!」


気が付くと僕ら二人は抱き合って泣いていた。


二人とも肩を震わせ

ただただ静かに泣いていたんだ。



やっと我に返ったのは

通行人が足を止めて僕らを見ている事に気づいたから。


“キャ!ビーエルよ!!ビーエル!!”

“シラサギカップル!!”


“ビーエル”という言葉が何なのか一瞬理解できなかったが

少し脳を回転させて“BL”、つまりボーイズラブの単語に行きつき

思わず苦笑いしてしまった。


しかも…

スマホのカメラで撮影しようとする学生までいて

それに気づいた入間は慌てて立ち上がると


「はーい、おねーさんたち、肖像権の侵害だよ~?

写真はやめようね?」


まるでピエロのように笑った入間が痛々しかったが

僕も涙を袖で拭った。


泣いてなんかいられない。


これ以上泣くのはやめよう…。


これ以上誰かが悲しまないように…。


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