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第一章:ジンジャーチャイティー

こちらは銀河夢幻伝シリーズ第八弾となります。

第一弾【銀河夢幻伝サジタリウス】https://ncode.syosetu.com/n8095hd/

第二弾【銀河夢幻伝スコーピオン】https://ncode.syosetu.com/n8142hd/

第三弾【銀河夢幻伝オフィウクス】https://ncode.syosetu.com/n8154hd/

第四弾【銀河夢幻伝オリオン】https://ncode.syosetu.com/n8580hd/1/

第五弾【銀河夢幻伝ヴァーゴウ】https://ncode.syosetu.com/n1061he/1/

第六弾【銀河夢幻伝トーラス】https://ncode.syosetu.com/n1068he/1/

第七弾【銀河夢幻伝リーブラ】https://ncode.syosetu.com/n1073he/1/

を未読の方はそちらからお読みいただければと思います。

―1-


チャイムが鳴った。


久しぶりに聴く音…。


射川竹人は校門をゆっくり潜り抜け

並木道を歩き進めていた。


空を仰ぐとまっすぐ透き通ったガラス色の青空…


また、ここへ戻ってきたんだ…。


前を向き直して一人、大きなため息をついた。


もう…だれも傷付けたくない…。


秋桜ちゃんとも交わした約束を思い出しながら手にこぶしを作ってキュッと握って見せた。


一年A組の教室に辿り着くと

ゆっくりとドアを開いて中に入った。


最初僕を見つけたクラスメイト達の塊は

あ、という顔をして

その後何事もなかったかのように「おはよう」と付け加えた。


「おはよう」


僕も挨拶して自分の席に着く。


鞄から教科書とノートを取り出して

トントンと机の上でそろえていると

視界に日焼けした手が入ってきた。


ゆっくり顔を上げると

心配げな日向君の顔が見えた。


「おはよ、射川」


「おはよう、日向君」


すると申し訳なさそうに頭の後ろをぽりぽりと描いて見せる。


「あのさ…あ、まずは、この度はご愁傷様です…ええと…」

と歯切れ悪そうにしてみせた。


「いいよ、別に気を遣わないで…」

「いや…まぁ…でも…さ」

「普通にしてていいよ。

でないと僕も逆に気を使ってしまうし…みんなお通夜にも来てくれたじゃない。

それで十分だから」

「…そう…。そうだよな…わかったよ…

ただ…射川には話しておきたいことがあって…

ここじゃなんだし…生徒ホールか満天星ホールで話さない?

星関係のことでちょっと…」

「…そう。いいよ。じゃあお昼休みかな。満天星ホールで良い?」

「わかった。じゃあそれで…」


そう言って日向君は静かに僕の席から離れ自分の席に着いた。


明人のお葬式も終わり心の整理がついた…といったらおかしいが

秋桜ちゃんが家に来てくれてまた学校に行こう、そう思って

やっと登校することが出来たのが今日。


それまで他の友達や入間でさえ連絡をすることはなかったから周りも気を使ってしまっているのかもしれない。


それにしても日向君の言う“星関係”の話って一体なんなんだろう?

もう誰も傷ついてほしくない…誰も死んでほしくない…

誰も…誰もだ…。

本鈴のチャイムが鳴り、なんとなく教室を見渡したところでやっとそれに気が付く。

観月紫苑が登校していないという事に。


あれ?紫苑君…?


そういえば…

あの夢の中で紫苑君はスコーピオンとなり…明人を…

いや…直接手を下したのはこの僕自身だから…

でも…


だけど、もしその記憶を紫苑君が共有していたとしたら

僕とは顔を合わせずらいのかもしれない…


僕も正直次顔を合わしたらどんな言葉を交わしたらよいのか、わからない…。


いい…少し休もう。

少し心を休めよう…。


とりあえず日向君から昼休みに話を聞くまでのそのささやかな間だけでも…


―2-


昼休み、食事を終え教室内を軽く見渡すとすでに日向君の姿はなかった。

先にホールに行ったのだろう。

待たせては悪いと思い僕もお弁当箱を片付けると早足でホールへと向かった。


ぐるぐる螺旋階段を回って

ホールに顔を出すと

ピアノ椅子に座っている日向君の姿を見つける。

ガラス壁に向き合った状態なのでちょうど僕には背を向ける形だ。


「日向君、お待たせ」

日向君は僕の声に反応して反射的にぱっとこちらを向いた。

ピアノ椅子の横に辿り着くと

そこでやっと日向君がとても難しい表情を作っている事に気が付く。

「…どうしたの?」

「あ…いや…。

まぁ、座ってよ?」


そう言って一つしかない椅子を僕に譲ろうとして席を立ったので

僕は遠慮して日向君と向き合って正面に立った。


「で?話って?」

「あ…うん…あまり時間もないから手短に…。

紫苑の事、知ってるか?」

「え?ああ…今日休んでるみたいだけど先生何も言ってなかったね。

どうしたの?」


「あいつ…自殺未遂したんだ」


「……え?」


“自殺未遂”という予想もしていなかった言葉に僕は思わず反応が鈍る。


「なん…だ…って???」


「詳しいことは俺にもわからねぇけど…

野田から聞いた話だと夜中に海で入水自殺図ろうとしたみたいで…。

たまたま近くでパトロールしていた警官が見つけて助け出したんだけど

今も入院中だって。詳しい容態まではわからないけど…

その日最後の様子を聞くと随分と落ち込んだ様子だったって…。

なんでも僕が射川の弟を殺したとかって言っていたとか…

どういうことか俺、さっぱりわからないんだけど…

射川、何か知ってるか?」


はっとして思わず俯いた。


紫苑君はやっぱりあの夢の記憶を持っているんだ…。

それで責任を感じて自分を追い詰めてしまったんだ…。


だけど…

僕にはなんとも…。


「実はさ、もう一つ話があって…」

「え?…なに…?」


「俺、初等部も満天星だったんだけど

その時バスケクラブ入ってて、二つ年下のやつと知り合ったんだけど

そいつが双子座守護神っぽいんだけど…

“苗木海”っていう奴…今小6なんだけど射川知ってるか?」


「え?…苗木…海?

さぁ…初等部の事は全然…僕は外部生だし…」


「そうか…でな?

苗木海には双子の兄がいて、そらって言うんだけど

その空ってやつ、死んでるんだよ…。」

「…え?」

「車にはねられたって話なんだけど

気になるのは前日の夜、夢幻空間内で弟と一緒に星探しをしていたところ

星座に襲われて、夢の中で命を落としたらしいんだ。

翌朝は普通に生きてたんだけど

朝、登校途中に信号無視してきたトラックにひかれたって…。


なぁ…偶然にしてはおかしいと思わないか?


今回の…射川の弟だって星座関係者だったんだろ?

双子座に射川の弟に…

あとは入間先輩から聞いた話けど

入間先輩も…えと…なんだっけ…あ、そうそう!

アキレスだった時に一度死んだって…。


人、死にすぎじゃないか…って俺思ったんだけど


で、苗木海は兄の復活を望んで命の危険を冒してまで星探しをしているそうじゃないか…


一体、どうなってしまってるのか…さっぱりなんだよ…

射川…

夢幻空間で色々とみてきたんだろ?

また誰か死ぬなんて…俺は絶対嫌だぞ…」


そこまで言って日向君は伏し目がちに下を向いて見せた。


「…そん…な…」


言葉がスローモーションでしか出てこない…。


「ぼ…僕だって、もうこれ以上誰かが傷つくのを見るのはつらい…

それに、何も知らないんだ…

ただ知っているのは

明人、僕の弟が死ぬ前日に夢幻空間で起こった事だけ…

日向君の言う通り確かに明人は夢幻空間で一度…死んで…

現実世界でも…病死だけれど…。

夢幻空間で死んだら現実世界でも死ぬ…?


本当にそうなの?」


「海の話ではな…そう言ってた…」

「…そう…」


「今度、海にも合わせるよ。」

「…うん…わかった」


僕が小さくため息をついたとほぼ同時に昼休み終了のチャイムが校内に鳴り響いた。


なんとなく心救われたような気がした。

「じゃ、教室戻ろうか?」

言って二人、螺旋階段をぐるぐると降りて行った。



―3-


放課後、僕は部活には寄らず

なんとなく学園中央にある広場に向かっていた。


特に何か用事があるわけではない。


ただ…なんとなく足が勝手にそちらに向いたのだ。


並木道を抜けると

一気に視界が開け巨大な広場が出現する。


大学敷地内と繋がっていてお天気の良いお昼なんかになると大学生が

広場の端にあるベンチで昼食をとっていたりもする。


そのベンチに僕は腰を下ろした。


椅子も風も冷たいが構わない。

なんとなしにズボンのポケットからスマホを取り出して電源を入れた。


最後に電源を切ったのは数日前。


もう何の情報も見たくなくて遮断していた。

LINEやメールの通知も知らず、目覚まし機能も使っていないので

本当に久しぶりの起動だった。


と、

意外にもたくさん来ているかと思った通知はたったの一通だけだった。


だれだろう?


と開くと

苺を抱きしめたウサギのアイコンが表示される。


…このマークは…


“観月紫苑”とある。


まさ…か…


本文を開いた


「射川へ。

ごめん。僕、もう無理だ。

良かれと思って蠍を取り込んだのに

周りに迷惑かけっぱなしで…。


死んでお詫びします。


本当にごめんなさい。」


日付は、明人が亡くなった二日後の深夜、だ。


入水自殺する前に打った文章だろう。


良かった。少しホッとする。

というのも

紫苑君は助けられて入院していると聞いた。

もう無事助けられたのだから大丈夫…

そう…

もう、大丈夫…


ゆっくりと立ち上がって

歩き出した。


どこへというわけでもない。

ただ何となく学園をぐるりと見て回りたかった。


そして歩きながら考える。


紫苑君も相当悩んだのだろう…


思いつめて自殺未遂なんてことを…


蠍を取り入れたのは…正直僕から見れば失敗以外の何物でもないようにしか見えない。

だってそうじゃないか。

メリットが何一つないのだろうから…。


「あ~ら?こんなところで何しているのぉ~」

突然肩をぽんと叩かれて驚き後ろを振り返ると

長身の女性が立っていた。

長いストレートヘアーをさらさらと揺らしている。


「え?」

(どちらさま?)と心の中でおろおろしていると

女性はまたにっこりと笑顔を作って微笑んで見せた


「あら?私たち直接は会ったことなかったかしら?

私阿部マリアよ。あなた射川竹人君でしょ?」


「え…ええ…そうです、けど…」


阿部マリア?

あべまりあ…


アヴェ・マリア…


偽名じゃないだろうか???


「こういった方がいいかしら?私は乙女座の守護を受けるもの…って

あなたは射手座、ね?」


なるほど…星座関係者のようだ。それも黄道12星座の一つ、乙女座…。


「どこ行くの?翼に会いに?」


羽鳥先輩を“翼”呼ばわりするこの女性は一体羽鳥先輩とどういう関係なのかが気になった。ただの星座関係のつながり、だけなのだろうか?

もしかして羽鳥先輩の…彼女???


「あ、いえ…何となくぶらぶらしたくて…」

「そぉ?でもこっち大学棟よ?

また迷子になったらシャレにならないんじゃない?」

そういいながらマリアさんはクスリと笑って見せた。


“迷子”…。僕が失踪した事知っているのだろうか?


そうだ…この人はどっち派なのだろう?

つまり桜倉先輩の味方なのか羽鳥先輩の味方なのか…

いずれにせよ少し話が出来そうだ…


「ねぇ、良かったらお茶でもしない?おごるから!」

僕が考えていたことがお分かりでしたと言わんばかり

マリアさんはお茶を提案してきた。


これでゆっくり話ができる…。


「私お気に入りのカフェがあるの!」

「…は…はい…」

するとマリアさんは白い手をにゅっと出すと

僕の手を取って歩き出した。


手は少し冷たかった。


―4-


満天星学園敷地を出て北金倉駅に伸びる道の脇に小さな喫茶店を見つけた。


日は傾き空はだいだい色からラベンダー色に染まろうとしている。

そんな中に喫茶店の玄関にぶら下がったおしゃれなランプがオレンジ色に明るく光っていた。


「いらっしゃいませ」

ドアを開けて中に進むと小柄な若いウェイトレスが出迎えてくれた。


「二名でお願い」

「はい、お好きな席にお座りくださいませ」


「じゃあ…」といってマリアさんは壁側の4人掛けのテーブルに着いた


アンティークな雰囲気のおしゃれな店内に客は他に2組。

その2組から一番離れた席をマリアさんは選んだ。


「ここね、ジンジャーチャイティーがとても美味しいの。

心も体も温まるわよ?」


「…はぁ…」


「えっと…ほら、竹人君!メニューどうぞ?」

「あ…僕はマリアさんと同じものでいいです」

「あら?ふふふ…遠慮しちゃって。可愛いわね?

じゃあ…

すみませーん」

そういって長い手をにゅっと上げると先ほどのウェイトレスを呼ぶとジンジャーチャイティーを二つ注文した。


とそこでやっと彼女の左手小指にピンク色の丸い石が光指輪があるのを見つける。

乙女座はピンク色、なんだ…。


「さて、と。私に聞きたい事あるんでしょ?

お役に立てるかどうかはわからないけれど知ってる範囲でお答えするわよ?」

「…あ…有難うございます…じゃあ…ええと…、

夢幻空間に、マリアさんも行ったことがあるのですか?」


「え?ああ…夢の中ね?

ないわよ。

私はね、ノータッチで行きたいの。

最後の最後、本当に私が必要になった時だけ呼んで?と翼には話してあるわ。」


「…そうなんですか…」

中立派、なのだろうか?

だとしたら逆に色々と聞きやすいかもしれない…。


「あの…横瀬桜倉先輩ってご存知ですか?羽鳥先輩の後輩にあたる人なんですけれど…」

「え?ああ…桜倉君ね?知ってるわよ。法学部、よね?」


「法学部?…そうだったんですか…」

それは知らなかった。

「で?桜倉君がどうしたの?」


「あ…えと…夢の中での話なんですけれど

羽鳥先輩が集めようとしている星を

桜倉先輩は壊して回ろうとしていて…

二人が対立してるみたいな感じに今なっていて正直どうしたらいいのかわからず困ってるんです…」

「あらあら、それは大変ねぇ…

二人は同じ弦楽部の仲間だったわよね。

だからもともと仲が悪い訳じゃないのだけれど…

桜倉君…色々あったから…

それで星の力を信じられなくなっちゃったのかもしれないわねぇ…。」


「?どういうことですか?色々って?」


するとウェイトレスがお待たせしました、といってチャイティーを運んできた。

ふんわりとショウガのスパイシーな香りと甘い香りが絡まって

たしかに、心を癒す効果がありそうだ…。


「桜倉君の彼女、亡くなったでしょ?いつだったかしら、最近よね?」

そう言ってマリアさんはカップに口を付けた


「…え?」

“亡くなった”…


また人が、死んだ…


また…まただ…!!


「まさか夢の中で命を落としたから?」

「…そうみたいね。夢の中で命を落とすと現実世界でも…みたい。」

「…そんな…」

ただの偶然ではないのだろうか…

じゃあ…明人が夢の中と現実世界で死んだのは…

必然…?


「ひどい…これじゃあ悪夢そのものだ…

一体何のために僕らはこんなことに巻き込まれてしまったんでしょうか…?!」


「さぁ…私にもわからないわ。

私も巻き込まれた人間の一人だから、ね。

翼に聞いてみたら?」

「そう…なんですけどね…なかなか難しくて…」

「ああ…桜倉君の事もあって気も使うわよね…大変ねぇ…」


そこでやっと僕はチャイティーに口を付けた。


…甘い…。


「翼に聞いてみなさいよ。でないと前に進まないわよ?」

「え?」

「だって桜倉君には話せないんでしょ?だったら翼しかいないじゃない?」

「…はい…そうですね…」

「洗いざらい全部話してもらってあなたが納得したうえで星探しなりなんなり

やった方が気持ち良いでしょ?」

たしかにそうだ…。

「翼の連絡先は知っているわよね?」

「はい、LINE交換しましたから…」

「早くした方が言いわよ?翼なんだか忙しそうだからなかなかつかまらないの。

私とのデートも全然付き合ってくれなくって…寂しいわよねぇ…」


「…はぁ…。

あ、あの…マリアさんは羽鳥先輩の…、その彼女なんですか?」

「え?私?

うふふ…

だったらよかったのにね。

残念ながらただの友達、よ。

少なくとも翼はそう思ってるわ。

私は違うんだけどねぇ…」

そういいながらマリアさんはふーっと深いため息をついて見せた。


「かわいらしいフィアンセさんがいるじゃない。

彼女には叶わないわ。」

ああ…琴ちゃんの事、か。


「でも、不思議な話ですね。

記憶どころか成長までとまってしまうなんて…」

「そうね。あの二人に関わると不思議がおまけでくっついてくるのよね。

とんでもなくおっきなおまけ。」

くすっと笑いチャイティーを啜って見せた。


―5-

帰宅後、着替えてベッドに転がり夕食が出来上がるのを待ちながら

僕はスマホを手にしていた。

羽鳥先輩にLINEするためだ。

なんてメッセージしよう…

思わず緊張する。

そういえば個人で羽鳥先輩とLINEでやり取りをしたことがない事に

今さらながら気が付く。

でも…聞かなくちゃいけないような気がした。

明人のためにも。紫苑君のためにも。

そして僕自身のためにも…。


「お久しぶりです、射川です。

お話したいことがありましてメッセージしました。

LINEじゃなんですので

今度直接会ってお話がしたいのですがご都合いかがでしょうか?」


と打ったところで

階下から母の呼ぶ声が聞こえてきたので

送信ボタンを押して

スマホを机の上に置き、台所に下りた。


―6-

すっかり日が暮れ並木道に沿って点々と街灯が白く灯る。

歩く人の姿はまばらで羽鳥翼は正門に向かってゆっくりと歩き出していた。


空を仰ぐと秋の大四辺形が良く見えた。

アンドロメダ座も、もちろん。


「星、綺麗ねぇ…」

肩ににゅっと手が回り抱き付かれたので

僕は小さくため息をついて笑った。

「阿部さん、久しぶりだね」

「そうね…。ねぇ、翼?キスしてもいい?」

「君、酔っぱらってるの?」

ゆっくりと抱き着いていたマリアの体をはがした。


「あら、お酒なんて飲んでないわよ。でも…そうね…

強いて言えば貴方に酔っているかもしれないわね?」


「面白いこと言うね?」


再び歩き出した翼の後を慌ててマリアはくっついて行く。


「で?何か用?」


「今日竹人君に会ったわよ?」

「ふーん」


「なんだか色々ともめてるそうじゃない…星関係の事…。

大丈夫なの?」


「さぁ」


「さぁ…って。あなたが始めた事でしょ?そろそろ何とかしないといけないんじゃない?」


「だろうね…でもね、僕にもできることとできない事がある…

夢の世界で勝手に暴れまわって怪我されてもそこまで責任持てない」


「…確かに…そうだけど…でも…」


「竹人君に何か言われたの?」

「そうじゃないわ。逆。色々と聞かれたのよ。それでね

あ、うまく行ってないんだってわかって…。」


「大勢人がいればそれぞれの動きをするからね…

全員統制なんて不可能ってわかってはいたけれどこうなると僕も困ってしまっていてね。」

「でしょ!?そろそろ一気に片付けた方がいいかもしれないわよ?

例の星の話、まだ誰にも話していないんでしょ?

だったら早く…」

「阿部さん」

「…な、なに?」

「心配してくれるのは嬉しいけれど、あまり首突っ込むと君も帰ってこれなくなるよ。

ほどほどに、ね」

「そ…それは…」

「じゃあ、僕こっちだから。」

そう言って正門をくぐると東方面に歩いていこうとしたのでマリアはあわてて翼の腕にしがみついた。


「何?」

相変わらずの真顔で言われると余計に…こう…


「危ない事しないでね?」


そう言って翼の頬に軽くキスをして見せた。


その後の反応はわかっている。

だから見る必要もなし!

ヒールをコツコツ鳴らしながら足早に金倉駅方面へと歩き出した。


翼はというとマリアが予想した通り

何事もなかったかのように東方面へと歩き出していた。


今日はいつもより少し早く帰れそうだ。


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