救世主の快進撃
救世主の快進撃
翼は翌朝も鎧を着こみ、馬車に乗り、同じ天幕に入った。
「我らがクリストよ!昨日はその御加護のおかげで大勝を収めることが出来ました!本日も、何卒我々を御守り下さい!」
そんな熱烈な挨拶を受け、昨日よりは手際よく馬に乗り、昨日と同じ丘に登る。今回も号令を求められたが、昨日よりは落ち着いていた。馬車の中で予め教えてもらっていた原稿を口の中で復唱しながら前に出る。
「諸君!もう私から言うことはない!栄光と勝利は、以前我々の頭上にある!進め、とにかく進め!勝利は既に我らの手の内にある!」
スピリィが考えたこの挨拶は、初日のものよりも遥かに短くなっていて、翼が覚えやすいようになっていた。また、使いまわしも出来るようになっている。
この挨拶を続け、人間側は次々と勝利を収めていった。
段々、翼自身もこの流れに慣れてきた。鎧もある程度自分で着れるようになり、馬に乗っても足が震えることはなくなった。相変わらず自分のしていることに理解はしていないけれど、その状況にも慣れてきた。
翼がいつも通りに号令を掛けて天幕に戻ると、彼は朱色の騎士に呼ばれた。
「我らがクリストよ、こちらにお越し下さい」
呼ばれた先には騎士数人に囲まれた机があり、そこには大きな紙が広げられている。
「これを御覧下さい」
その紙は見慣れない模様の地図のようなもので、その上にいくつかのキューブが置かれている。
「こちらは、現在の我が軍の布陣になります。今我々が居るのがここで──」
騎士は、一際大きい赤いキューブを指さす。
「ここが、現在の最前線となっております」
騎士は筆を執ると、最初のキューブからしばらく離れた所に線を引いた。
「そして、今日奪取せんとしているのが、ここになります」
今度は青色のキューブを、線の反対側に置く。
「ここは対ヴァイサルにおいて非常に需要なものであり、ここを取ることが出来れば、我々の勝利はより近くなります」
そう語る朱色の騎士の声音は高まっていたが、その意味は翼には分からなかった。今まで説明された作戦状況も全く理解していない。
「そこで、本作戦が成功し、ここを奪取することが出来れば、我々はここに本陣を移そうと考えています。ここは敵に深く踏み入る場所にはなりますが、最近の我々の攻勢を考えれば、この地点への移動は必須であると考えます」
「な、成程……」
要するに、この天幕が移動するということなのだろう。翼はそれだけを理解して、取り敢えず頷いた。
「なお、ここからは更なる激戦が予想されます。どうか、変わらない御加護を我らに授けて下さいますようお願い申し上げます」
これが本題のようだった。しかし、翼にとってはどこに連れていかれようがあまり関係はない。曖昧に頷いて、その日の会議は終わった。