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6.仮想世界でも厳しい現実

中々外に出ないと思ったら、今度は中々料理が出来ません。

 料理をしたいはずなのに何でかかんでか不動産屋を目指すミズキ。ちょっとキッチンがあれば事足りるはずなのに、中々上手く進まないこの世界。そんな事はどこ吹く風と今日もミズキは我が道を行く。


(しかしあれだね。今日一日中歩いてるのに疲れないね。)


『疲労しない訳でもないんだけど、プレイヤーは基本丈夫なのよ。そうじゃないと疲れてばかりで何も出来ないでしょ?』


(だね。因みにずーっと走ってられたりするの?)


『街の中は一部を除いて疲労が溜まりにくい仕様にはなってる。外に出て、戦闘可能区域にでると、丈夫な前提で普通に疲労として影響を及ぼす様になってるわ。』


(楽でいいね。ずっと街の中に居よう!)


 さらりと他のプレイヤーからはほぼ出ないであろう発言を聞いて呆れつつも、ミズキのリクエストによって連れてきた場所は…ギルド会館だった。


『着いたわよ。』


(これ、ギルド…って、書いてない?)


『プレイヤーが物件に関わるなら、来る必要があるのよ。』


(なんで?)


『厳密に現実の不動産屋…って言うのは無くて、ギルドが仲介窓口になっているのよ。まずは登録が必要になるから、流されるままに登録しちゃって。』


(わかった。)


 郷に入りては郷に、ローマに行ったらローマ、DREAMに来たらDREAMに従えと。

 とりあえずは中に入ると、結構な人で賑わっている。ミズキが扉をくぐった際に幾つかの視線がこちらを捉えたが、すぐに外れる。新人が来た…程度の認識である。そんな事など歯牙にもかけず、ミズキは正面のカウンターに向かうとスタッフの一人が声を掛ける。


「どの様なご用件でしょうか?」

 

「調理場もしくは、調理場の有る居抜きの店舗を捜しているのですが。」


「では、ギルド証をご提示願えますか?」


「ギルド証?持っていません。」


「…では、適正確認から始めますので、右手の扉から中へお進み下さい。」


 まさに流されるままに流されるミズキ。テンが流されればいいと言っていたので、特に文句を言う訳でも無く指定された部屋に入ると別スタッフに、簡易宿泊所にあった巨大飴玉に手をかざす様に促される。簡単な能力測定の様なものらしい。


「精神力が高めで、敏捷値・耐久値が低め、他は平均値に近い感じですね。推奨は魔法系スキルの取得でしょうか。成長過程である程度調整も出来ますが。」


「戦士…とか、魔法使い…とか、明確に職業が区別されていないんですか?」


「されていません。剣を扱う技術と魔法を扱うスキルを習得すれば、魔法を使いつつ剣士の様に立ち回る事も可能です。ただ明確な目的を持って技術を得ねば、どちらも中途半端になってしまいます。その為に一般的にはやりたい事を決めて、それにスキルを合わせて取得していく方が多いです。やりたい事は出来ると言えど、明確に上限は設定される為に、自称勇者になる事は可能ですが、本当に勇者の様になるには相当の計画と努力が必要になるでしょうね。何かご希望の活動などはございますか?」


「えっと…調理のスキル習得とかありますか?」


「戦闘技術や魔法技術等のスキルと呼ぶべきものは特にありません。練習して御自身で習得願います。ただ調理をされるのであれば、例えば火の魔法スキルを習得される方は多くいらっしゃいますし、他にも何らかのスキルを得る事で調理の幅は広がるかも知れません。」


「そうですか。ありがとうございます。」


「他に何か質問はございますか?」


「いえ、特にありません。」


「では、ミズキ様で登録致します。こちらは登録を始め、各ギルドを纏める立場になります。調理がご希望ですと生産職希望でしょうか…商業ギルドで詳細を伺う事をお勧めします。」


「あの…ギルド証は貰えないんですか?」


「失礼しました、説明不足でしたね。こちらでは個人の適性を確認する程度で、発行自体は各種ギルドで適性があると判断されれば発行されます。ランクや賞罰等が記録されるもので、ステータス等の個人情報は記録されません。先ずは商業ギルドに赴かれてはいかがでしょうか。」


「わかりました。商業ギルドはどこにあるのでしょうか?」


「商業ギルドは…」


 そうして案内された、商業ギルドの場所はすぐ傍だったのですぐに向かう事にする。

 その間にテンと脳内会話をしようとすると、馬鹿にしたような第一声を頂戴する。

 

『ミズキって、ちゃんとした話し方出来るんじゃない。』


(お前なぁ…一応、これでも社会人なんだよ。)


『素に戻ってるわよ…まぁ、今迄の口調を聞いてるとね。言われてみればそうだけど。』


(あと、ちょっと聞きたいんだけどさ、調理は練習するしかないんだろ?調理器具とか調味料とかちゃんとあんの?この世界。)


 そうした質問にテンは簡単に説明してくれる。


 調理や裁縫等の日常的生産技術は、現実世界での技術をこちらでそのまま流用出来る。つまりは自分で習得して下さいと言う事。またDREAMの世界設定が欧州中世の情勢を再現している為に、調理器具や作業道具、現実世界の各種調味料で存在しないであろう品物は沢山あると言う事。ただ、逆に実際に作成する事で再現する事は可能と言う話をする。

 そして日常的ではない生産技術、例えば鍛冶や錬金術なんかはこちらは合成スキルが存在すると言う事。なんだか差別されているような気もするが、鍛冶とか錬金術なんか普通に出来る訳も無いかと勝手に納得する。


(要は、化学調味料とかはないと?)


『そうね。塩とか砂糖とか油位は普通にあるわよ。あと、この辺りだとハーブとか。』


(そこいらを集めるのも楽しそうだよな。その前に場所だけどな。)


 そんな世界の説明を受けつつ歩いていると、ものの数分で商業ギルドに到着する。

 そこでもお役所仕事とも言うべき対応を受けて、自分が調理をしたい事、調理場を手に入れる方法の相談、商業ギルドに入ると出来る事等を一通り聞く。これらは興味がある事だったのか、真剣に聞き入るのだが、結論を聞いて出た言葉は…


「大金貨5枚(500万P)かぁ…」


 商業地区の隅っこも隅っこなのにこの価格。購入…と言っても30年間の利用権利を一括で買うお値段。30年もDREAMを続けないだろうから買う必要はないかもしれない。不動産そのものは領主の一括管理で厳密に買い上げる事は出来ない。その為に検査の名目で緊急時には立ち入る権限も持たれている。そういう意味では完全なるパーソナルスペースは簡易宿泊所の自分の部屋のみなのである。


 ちなみに賃貸時は1ヵ月(現実世界30日・DREAM720日)で小銀貨5枚(5万P)で借りられるから、最初はこちらを目標にするのが現実的であるが、それでも借りればランニングコストが掛かる。5万Pで考えれば、1年間なら毎月11日もログインすれば払えない額ではないが、他の事にお金は使えない事になる。

 キッチンだけを時間で借りる様な事が出来るかも聞いたが、そこはそうした施設を所持している人と直接交渉して欲しいとの事。助言として、好きな時間に使う事は出来ないし、調理器具、素材などは都度運ばなければいけないであろうが為、練習には向かないのでは…との事。


 どうするにせよ、それらの為にある程度稼がなきゃいけない…仮想世界でも生きる為には稼がなきゃいけないのかと憂鬱になり始めているミズキが佇んでいた。

ブックマークしてくれた人が二人つきました。

続きを読みたいと言う意思が見えたのが、とても嬉しい昨日です。

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