4.ちょっと変わるDREAM
「」は、現実世界の発言
()は、ミズキ専用脳内会話
『』は、テン専用会話
…で、やってます。間違ってたら…ごめんなさい。
ログイン2回目。自分の部屋の中でミズキとテンは馬鹿々々しい会話を続けているのだが、ミズキのやりたい事に関して、テンは更なる問題点を話し始める。
『あなたのやりたい事は理解したんだけど、この部屋には調理場は無いわよ。』
「なにぃ!?」
全プレイヤーに無料で与えられる簡易宿泊所は通常自分一人、もしくは許可した人間との会話・休憩などの為に与えられた安全な場所であり、特殊な活動…例えば、多いのは鍛冶をしたいとか、錬金術をしたいとか、そうした特殊な場所は別途で作業場所の購入が必要である。
調理に関しては飲食店などに調理場はあるし、共同の小さなキッチンはあるけれど多くのプレイヤーは、他にやりたい事に時間を費やす為に外食やテイクアウトで済ませてしまう事が多いし、共同キッチンを一人で長時間占領する訳にもいかないのが実情だと説明を受ける。
『まぁ、鍛冶場とかに比べれば安価で買ったり、借りたり出来るわよ。不動産みたいなものね。新しく作るよりは小さな飲食店でも買う方が良いのかもしれないわよ。』
「別に、人様に売るようなレベルを求めちゃいないんだが…」
『私は料理をする環境を求めるにあたって、難易度的に提案しているだけよ。』
「そうか…この世界は何でも出来る代わりにハードルは結構高いんだな…」
珍しく段階的な思考をするミズキだが、不動産的な…と言うことばを聞いて、更なる現実に直面する事になる…金銭的な事であり、行動的な事だ。買うにしても、借りるにしても、買うまで殆ど料理なんか出来やしない事に気付き、そして彼なりの解決策として突拍子もない事を言いだいた。
「なぁ、この世界、アルバイトとかあんのか?飲食店のスタッフとか。」
『ア、アルバイト?…ちょっと待ってね…』
テンはヘルプボットのデータベースに於いてDREAMのプレイヤーがアルバイト希望する案件を見つける事が出来ない。しかしながら、プレイヤー以外の生活者、いわゆるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)はこの世界にプレイヤーの何倍も存在し、仮想現実を表現する為にAIの疑似人格を伴って活動している。
この世界に於いての金銭を稼ぐ手段としては、冒険者としてギルドやNPCからの依頼に対する報酬や、鍛冶や裁縫、調理等の制作からの販売、モンスター・動物などを討伐しての素材のトレード売買…その他多岐に亘りはするが、ギルドでの都度雇用…所謂クエスト的な雇用はあれど、ギルド以外のNPCがプレイヤーを一般的労働で時間給雇用するという仕組みがこの時点では構築されていなかった。物を届けるお使いクエスト的なものをアルバイトと呼ぶなら別だが。
DREAMは、最新の仮想現実世界を提供をしているが、忘年会でミズキの同僚も言っていた様に現状で最新のものである…あるがゆえにビジュアル面始め有利な部分もあるのだが、成熟している先行他社の仮想現実世界と比較して未成熟な部分も多く存在し、DREAM制作者側も、起業を仮想現実で達成したい希望はあれど、まさか仮想現実でNPCに雇用されるアルバイトを希望はしないであろう…と考えるのは、責められるものでもないのかもしれない。同様に自由を謳歌するプレイヤーを念頭に置いている為に現状就職も設定構築されていない。しかし、この世界は現実同様に日々変わる事が出来る。
そして、アルバイト…時間給雇用と言ったシステムが現状実装されていなかった為に、テンはネットワークを介してプレイヤーが時間給労働者として雇用される仕組みの構築をリクエストとして申請する。何でも出来るをうたっている以上、無ければ作っていくシステムは存在し、ヘルプボットのみならず、キャラクターに扮したスタッフやNPCが街の中から汲み上げるプレイヤーの声をこの世界に反映していくのだ。今回はミズキの声が汲み上げられた、そして世界はちょっとだけ変わる…それだけである。
今回のリクエストも実現されるはずだが、実装するまでの時間を稼ぐ必要があるとして、また早く外で活動させるべくヘルプボットらしくこう答える。
『有るんじゃない?多くの人達がこの町で働いているんだもの。とりあえずは実際に街の中を歩いて見なさいよ。』
「おぅ、そうだな。さっきここに来るまでにちょっとだけ眺めたが、ヨーロッパの街並みっぽくて、いい感じだったもんな。楽しみだぜ。」
そんな事とは知らずにテンの提案に同調するミズキ。遠足を次の日に迎えた子供の様に、そわそわとし始めて、早く外に出ようと思ったミズキは重かった腰をあげる。そして、部屋を見渡して目に入ったドアを出口だと考え向かって歩き出し扉を開けると…
目の前にあったのはトイレ。そして脇にはシャワールーム…と呼ぶには簡素なスペース、バスタブは無い。ミズキはオートマタであり新陳代謝も排泄もないので必要ない物である。出口では無いなと思いつつ、一歩踏み込んでぐるりと部屋の中を見渡す。
「なんだ…便所かよ。」
…と、外に出ようとして人影が目に映る。そこには可愛らしい女性の顔がチラリと見えあからさまに狼狽える。
「すいませんっ!失礼しましたーっ!」
『騒がしいわね。』
「いや、便所に女の子がいたんだって。」
『さっき言ったけど、ここはあなた専用の部屋よ。他人が居る訳ないわ。』
慌てて飛び出したミズキに、テンが困惑した様子で尋ね、答えるテンの言葉を聞いて、ミズキは再び扉をくぐるが人影なんか無い。女の子なんて見当たらない。では、さっき見たのは誰なんだと、落ち着いてバスルームを見渡すミズキは目の前の鏡に気付き、洗面台の上に張ってある鏡の中に写る女性をみて驚愕する。
「これ…俺かよ…?」
『自分でこの姿を選んだよね?』
「選んだのは髪型だけで、あとは平均にしたんだよな…今考えると、腕がドリルで無くて良かったぜ。」
『自分の姿くらいは覚えていなさいよ。こっちが驚いたわ。』
「面目ない…」
鏡に映った自分をお化けと勘違いしてしまったかの様な状況に、居た堪れなさを感じつつもミズキは再び鏡を覗き込んで、じっくりと自分の姿を観察し始める。そもそも自分そっくりのテンが目の前にいるのに今更何をしているのだろう。
「しっかし、可愛いな、俺。」
『皆が可愛く、恰好良く作るから、平均も高いのね。』
「なるほどねぇ…まぁ、納得したわ。しかしオートマタって、見た目人間と変わらんな。」
『そうね、SFのアンドロイドみたいな感じと思えばいいんじゃない。』
無表情なものを想像してたミズキは、面白がって鏡で馬鹿みたいに百面相をしている。
理解しやすい伝え方を選んで伝える。ここまでの間で学習したがミズキはVRに疎い。未知なるものに対する想像力も大したことがない。でも、理解が早いと言うか頭の回転は速い様に思うが、発想が突拍子もない。そこで子供に成るべく覚えさせる様、小学校の先生の様な思考を試み始めている。
「そんでさ、どうやってここから出るんだ?扉ないよな?」
『ここに来た時の事を覚えてる?』
「意地わりぃな…どこに手をかざ…」
部屋にあった唯一の扉がバスルームだったからの質問と回答に、ミズキはハッとして、言葉を発し様とする途中で、ミズキの視界に例の棒付き飴玉が入る。すたすたと歩み寄り、端末に手をかざすと…一瞬のブラックアウトの内に宿泊所の入口カウンターまで飛んだ。
「これで、いいんだよな?テン。」
『よく出来ました。でも…』
「なんだよ?」
『口調と独り言。気を付けてね。』
「あ…っと…わかった。気を付けます…けど…」
少し得意げな表情で話しかけるも。何か嫌な予感からの注意。不安を抑えきれずにミズキは問うと、二つの注意点をあげられた。自分でやると言った手前なんか気まずい。そんな中途半端な感情が、中途半端な言葉にも表れるが注意点の半分が理解出来ない。
『けど?』
「独り言って、何の事?」
『私は貴方の視界には存在するけど、他人には見えないの。外に出たらわかるけど、誰も何か連れてはいないから。』
先程迄の乱暴な話し方を律してはいる。そして、その言葉を聞いて、ミズキはとある行動に出る。手を伸ばしてテンを捕まえようとした…がすり抜けてしまい捕まえられない。感覚的にはその辺に居るはずなのに触れる事が出来ない。そして、テンは不快な表情で問いかける。
『…何をしようとしたの?』
「捕まえてみようかなって…」
『しょうもない…さっきは部屋だったから言わなかったけど、頭の中で考えるだけで私との会話は成り立つわよ。』
そもそも捕まえて何をしようとしたのかは別として、ヘルプボットが物理的に存在していない事。プレイヤー個人の視野に現れるだけの一種のNPCである事。他人と会話は出来ない事などを伝えていくと、その最中にミズキがやらかす。
(テンの馬鹿)
『なんですって?もう何も教えないわよ?』
(わりぃ。本当なのかってさ。でも、考えが筒抜けって嫌じゃね?)
『私に意識を向けなければ、私に全部伝達したりしないわ。仮に流れて来ても、別に誰かに伝えたりもしないし、これでも守秘義務とかうるさいのよ。』
本当に聞こえるのかと、少しふざけて念じてみただけなのだが普通に聞こえてたみたいで苦笑するミズキと、本気で言った訳ではないのを理解しつつ、牽制するテンの構図である。思考を読まれる点に関してはそんな設定なんだなと思う事にする。反論したって変わるわけでもなし…がミズキの結論だ。
『あと、口調は部屋の中と外程度では分別を付けないと、ボロが出るわよ。』
(そうだな…わかった。色々ありがと。別けるのとか難しそうだし、慣れるまではテンともこんな感じの口調でいい?)
『何でもいいわよ。しかしほんと変な人ね。』
(変?御礼くらい言うよね?)
『違うわよ。説明書にお礼を言う人なんて居ないって事よ。』
(俺…いや、私の中じゃテンは友達みたいなものだから。)
『やっぱり変な奴ね。』
「色んな人が居るよ。別方向に変な人だっているじゃん?」
『さぁ、それじゃ何をする?案内ならするわよ。』
(まずは…町の散策かな。言葉に甘えて案内役頼んでもいい?)
『まかせておきなさい。』
最初にログインしてから現実世界で一週間。やっとミズキは街の中を歩き始める。ある意味初めて…いや、さっきちょっと歩いたけど、別世界に足を踏み出した。この世界(VR)には無知、好奇心は子供並、行き当たりばったり感はあれど、そんな悪い奴でもない。そんなミズキの活動はやーーーっと始まる。
友人に言われた一言「メインタイトルのセンスがさなすぎる」…悲しい。
ミズキは、一人称が「私」の僕っ子的な話し方とでも思って貰えれば。
やっと外に出られました。




