表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/238

3.やりたい事

中々先に進めません…難しいですねぇ…

 初めてDREAMにログインしてから6日後…それまで平日は普段通りの生活をして過ごしいていた。彼にとってDREAMはまだ単純な暇つぶし…と言う感覚しか持ち合わせてはいない。ある程度の長い時間が無いと出来ないと思っているのだ。そんな感じで次の休日である土曜日に再びミズキはログインする。


 前回の初めてのログインで経過した体感時間は1時間程度、現実では5分以下。メイキングで結構長い時間が経過したにも関わらず、広場のやりとり位しか、自分で動いた印象がないのだ。そんなミズキは現実の1分=仮想現実世界の1分…位にしか考えていなかった。


「じゃ、久し振りにやってみますかね。」


 ベッドに寝転んで、ヘルメットを被り、端末を起動させる。ゆっくりと夢の世界に入る様にミズキはDREAMに飛ぶ。


---


『ミズキっ!』


 いきなり大きな声で名前を呼ばれ目を覚ます。視界も広がる。気付くと、ベッドに寝転んで、空中の人形を下から見上げて、ちょっと忘れかけた名前を、なんとか思い出す。


「よぅ………テン?」


『私の名前つけたのミズキでしょ…忘れないでよ。』


「はっはっはっ、わりぃわりぃ。」


 謝りながら、体を起こしてベッドに座りなおす。現実の寝起きの様な気怠さがある訳ではないのだが、寝ている状態から起きるより、ずっと寝ていたいと言う欲はあったりする。


『5か月振り位だね。忙しいの?』


「いや?平日は普通に働いて…っておい?今、なんてった?」


『久し振り?』


「その前っ!」


『5か月振り位?』


「それだっ!俺が前に来たのって、せいぜい1週間前だろうよ?」


『あぁ…そういう事…』


 そう言えば、こういう人だったわ…ミズキって…と記録しつつ、テンはDREAMに於ける時間の進み方と現実世界における時間の進み方の違いを丁寧に説明する。その間、ミズキはへぇ…とか、ふぅーん…とか、理解したのかよく解らない返事をするので、


『こっちの一日は、現実の1時間!それだけ覚えてればいいわ。』


「わかった!」


 結論だけ簡単に言えば、ミズキは理解するんだな…とテンも理解し始める。なんやかんやとする必要はないのだと学習する。この男に経過や経緯はあまり重要ではないのだ。


『けど、珍しい人ね。』


「そうか??…いや、何が珍しいんだよ?」


『毎月お金払うんだから、毎日やる人が多いのよ。』


「……あぁ…なるほどな。月額制だからいくらやっても一緒だからか?」


 ミズキは納得してそう答える。結論を先に伝えれば途中を勝手に理解する。テンの中で初心者で無知で馬鹿っぽいと言うミズキの印象が少し良い方に転じる。ミズキは無知には違いないが、言うほど馬鹿と言う訳ではないのだと。毎回、正解にたどり着くかは別として。


『そういう事。』


「でも、多いとか…なんで、そんなこと知ってんだ?」


『私達ヘルプボットは、ある程度サーバーと情報共有してるから。』


「へぇ。しかし、結構人間くさいよな。」


『AIで性格付けされて学習もするのよ。ミズキが友達モードに設定したでしょ。』


「あぁ、そうだったっけ?」


 口調が固いと言う理由だけで、ヘルプボットの口調を変えた事がすっぽりと頭から抜け落ちていたミズキは答える。馬鹿ではないのかもしれないが、思った事を結果を考えずにすぐに口に出したり、好奇心に変換されてしまうのだろう。


『実際は、初期設定のまま使う人が大半で、ミズキはレアね。』


「ここの連中、あんなかてぇ口調のまま、お前と話してんのか…」


『お前と言うかヘルプボットね、私は相当レアケースよ。ヘルプボットを付けない人も多いし、付けたって初期状態で使う人が多いもの。それに私はたった2回目のミズキとの会話でミズキ寄りの性格付けになってるはず。だから、同じ様なヘルプボットは現状居ないわ。』


「よくわかるもんだな…けど、現状なのか?」


『仮に…だけど、コピーすればコピーした瞬間の私は他の人の前に現れる事は可能なのよ。でも、きっとすぐ別人格になってくわね。私の傍にいるのはミズキで、コピーの傍に居るのはミズキではないもの。そもそもヘルプボットとばかり話してるのも、ミズキ位よ。』


「普通ねぇ…っていうか、他のやつらは何をしてんだ?」


『やりたい事よ。』


「多くの連中がやりたい事って、なんなんだ?」


『多くは冒険者ね。モンスターと戦ったり、色々な経験を重ねていくの。』


「テレビゲームみたいだな。」


 昔やったロールプレイングゲームを思い出す。勇者になって魔王を倒すとかそんな感じのゲームが沢山あった。多少はやったことが有るが、ミズキは外で遊ぶ方が多いアウトドア派だった。


『そうね。そんな感じ。でも、やろうと思えば結構何でも出来るのよ。』


「らしいな。調べてたらそんな事が書いてあったからな。」


 DREAMを始める前に、簡単に調べてたら書いてあった事を思い出す。そんなミズキをレールに乗せようとヘルプボットとして、しっかりとナビゲートもする。


『最初にも聞いたけど、やりたい事はあるの?』


「あぁ。俺は…ちょいと料理をしてみたくてな。」


『料理?』


 同じ質問の返答としては他にあまり例のない回答にテンの思考に疑問詞が付く。冒険者として

活動しつつ料理をする人はまぁまぁ居るが、メインの活動として料理がしたい等と言う人間は今迄いなかったのだ。そんなテンに言い訳がましくミズキは続ける。


「現実世界でやるには…ハードル高けぇんだよ。」


『そうなの?』


「あぁ、そんなに出来る訳でもないのに材料無駄にしちまうだろ?でも、料理が出来る様になりたいんだよ。フランス料理とか、中華料理とか、なんか特別な料理って訳ではなくて…なんつーかなぁ…自分の飯位自分で作れる様になるのが最初の目標かな。」


…と、理由を答えるミズキに対して、仮想現実のある事実を伝える。


『この世界、味を感じる事も、匂いを感じる事も出来るけど、食べ物は腐るし、不味く作ったらキッチリと不味いわよ。』


「げっ!まじかよ…まぁ、そうじゃないと意味ねぇし。現実に戻ってもある程度使い物になればいいんじゃねぇかと思ってる…って、そう言えば生活費ってあるんだろ?」


『ステータスに乗ってるわよ。9,600P持ってるはずよ。』


「ステータス?」


『ログアウトの時みたいに念じてみなさい。ステータスって。』


 頭の上に「?」が浮かんだような表情になったミズキに一言で説明する。この男は基本的な事を知らないのだ。そんな言葉の後、念じて目の前にウインドウが現れるので、そのまま説明を続ける。


『右下に数字が有るでしょ。それがミズキの所持ポイントよ。』


「9,600Pか…中途半端な数字だな…」


 なんで1万じゃないんだろうと疑問に感じた言葉だ。


『ミズキはパスポートプレイヤーだから、現実時間で1日に1回4,800P貰えるわ。ログインすればね。』


「2回目だから9,600Pか…それで、パスポートって何だ?別の国にでも行くのか?」


『1年間先払い特典よ。まぁ、ログインの度に貰えるって事ね。』


「で、そのポイントの価値っていうのか?どんなもんなんだ?」


『ここでは1P=1円位の認識でいいわ。4,800Pは現実で使うなら約5円ね。』


 とりあえずはこの世界のお金がもらえる事実にホッとしつつも、現実での価値を聞いてテンションを下げられ、意識の目まぐるしいアップダウンを繰り返してたりする。そう言えば、リアルの買物が出来るとかあったな…と、記憶の底から持ってくる。


「現実でってなんだよ?」


『説明されたでしょ…この世界のポイントで現実世界の買物が出来るの。』


「あー、言ってた気がする…けど…5円かよ…しけてんなぁ…」


「でもまぁ、4、800円分の料理の練習が出来ると思えばいいか…」


『それで、料理をしたかったのは、どうして?』


「まぁ…いいじゃねぇか、そんなのは。でも、出来る様になりたくてな。」


『理由なんてそれぞれね。』


「それで、男で料理なんざかっこわりぃ…と思って、女の格好にしてみた。」


 現実世界の有名な料理人の多くは男性だったりもするのだが、ミズキの中では料理は女性がするものであって、男性が料理を練習するなんて、人に見られるのは恥ずかしい…と、女性を選んだ理由を口に出す。この男が現実世界の姿とDREAMでの姿が違う事を理解せずに始めた事でこんなことになっている。テンもテンでデータベースを検索して選択傾向を調べたのち返答する。


『寧ろ、そっちの理由がレアね。』


「そうか?」


『異性を選択するプレイヤーは、現実で出来ない事をしたい人が多いわね。』


 と、同じく傾向から返答するヘル。その答えをちょっと想像すると、自分がアバターを作った時にやらかした行動が思い出される。


「あー、これってエロイことも出来んのか?」


『そういう事よ。何でも出来るのよ。相手を伴うのはハードル高いけど。』


「はぁ…まぁ、いろんな奴がいるよな。」


 己の想像力不足を嘆くのか、想像力豊かな奴を褒めるのか、DREAMの使い方に感心したり呆れたりしている最中、テンが下らなそうに答える。

 DREAM自体は12歳以上推奨なので、そういう事が出来るのは18歳以上と厳密に設定されており、また同意無しの性交渉は出来ない様になっている。何でも出来ると言っても倫理観はキッチリと守られている。


『残念だけど、オートマタに生殖機能は無いわよ。』


「俺は、そーゆうんじゃないから。」


『あらそう。』


 データの平均と比べ枠を少し外れるミズキを横目に、これまでのやり取りで別視点からの問題点と解決策を提起しようとする。


『時に口調はそのままでいいの?』


「ん?どういうことだよ?」


『男の姿が格好悪いから女性型にしたのなら、口調でばれない?』


「あぁ…まぁ…そうなるな…でも口の悪い女だって居るだろ?」


『現実世界にはいるでしょうけど、この世界だと性別は見た目じゃ判断されないんだから、口調で判断されるわよ。』


 何が問題なのかわからなかったミズキは理解に苦しんだ後、考えてもなかった問題点に困り果てる。しかし、能天気なこの男はひとつの答えをひねり出す。


「じゃあ…テン以外と話す時は、女口調でやってみるわ、折角だし、面白そうだし。」


『…そう。まぁ、頑張ってみて。』


 実は、仮想世界で異性を選択したプレイヤーが仮想世界で異性を満喫する機能のひとつとして、テンが口調を友達口調に変更した様なイメージで口調を変換する機能がDREAMには実装されている。テンは話し始めた時にその機能を解決策として勧めようとした訳だが、ミズキが会話の最中に「面白そう」と発言した事で自分から無理に勧める必要はないと判断したのだ。


「そー言えば、テンってカワイイ声してるよな。見た目が同じなら、俺の声も同じなのか?」


『そうよ。ボイスデータは同じだから、同じと思って問題ないわ。』


「そっか…なぁ、テン。お前、歌とか歌えるのか?」


『歌?有名な曲なら検索すれば歌えるけど。』


「そんじゃ、ちょっくらハモってくんね?」


 また一体何を言い出すのか…ヘルプボットと一緒に歌を歌う?基本的にヘルプボットは実行可能な事を拒否する事が出来ないので、ミズキのリクエストしたマイナーな歌の錆の部分の1小節を唄って見事なハモリを実現させた。


「おー、大したもんだな。この歌好きでさ。」


『それで、何の為に私は歌ったの?』


「ん?意味なんかないさ。まぁ、有るとするなら自分の声の確認かねぇ?」


 相も変わらず、思いつきだけで行動するミズキは質問と応答の応酬で、ただただ時間が過ぎていた。ログインしてから此の方、テンと会話しているだけである。一体、いつになったら外にでるのか…と、テンが思考したかどうかはは知る由もない。

私も知る由もない…です。はい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国によっては記号が違うらしいのですが私の記憶では 4.800(よんピリオドはちぜろぜろ)で4.8 四と小数点一桁目が八 以下零 4,800(よんコンマはちぜろぜろ)で4800 四千八百 4…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ