16.いろんな普通
るぅは自覚した事で困った事態に直面する。
…そう、やる事が思いつかない…当たり前である。さっきまで辞めようと思って、これが最後のログインの予定だったのだから。それならそれでまずは面白い物を見続けたい…と思ったのだ。
「…ねぇ、ミズキちゃん…ついて行っていい…?」
「良いですよ。卵買うだけですけど。」
「…お料理のため…?」
「いいえ、商業ギルドのノルマ?納品?そんな感じのやつです、何も面白くないですよ?多分。」
「…だいじょうぶだよ…暇だし…」
一度、現実世界に戻るなり、休憩所で6時間飛ばすのも一つではあるが、自分が冒険者ギルドでクエストをこなす様なものだろうと、お散歩感覚でついていく事にした。コークに戻るにしても馬車が来るのは大体8時間後なのだから。
「…おつかい…みたいだね…?」
「そうですねぇ…やっぱり、納品と言う名のおつかいですよねぇ。」
「…でも、手ぶらで大丈夫なの…?」
「収納で運べるんですよ。昨日知ったんですけど。」
「…しいれって、そんなに少ないものなの…?」
「通常のと別に、固有スキルが別収納なんですよ。」
「…あぁ…「拡張収納」もってるんだね…」
るぅの固有スキルが「拡張収納」と言う訳ではなく、以前に持っている人を見た事があるのだ。
戦闘に使えないスキルを取得した人は戦闘で特徴を出す事が難しくなる。しかし、取得した素材を持ち帰る事に関しては他の追随を許さないので地味に人気のあるスキルではあるのだ。
厳密に言えば、ミズキの「次元収納」は「拡張収納」の完全互換では無いにしろ上位の別スキルではあるのだが、ミズキの感覚では通常収納と別の収納と言う意味では拡張収納と言うくくりには違い無く、全くそこには気付かないし触れられない。
「そうなんですよ。初めは背負子とかリヤカーみたいな物でも用意しようと思ったんですけど、要らなくなっちゃいました。」
「…そうなんだ…便利だよね…」
「これしか知らないので比較出来ませんけどね。あぁ、でもこれ無かったら…るぅさんとこうして話してないかもしれませんね。」
「…?」
そう話したミズキが何を言ってるのか理解できず不思議そうな顔をするので、理由を話しだす。
「例えばリヤカーを買ってたら…馬車に乗ってないでしょ?そしたら、るぅさんにも出会ってないし、フレンドにもなってないし、犬耳だって触れてないでしょ?そう考えるとスキルに感謝しなきゃ駄目だね。」
「…ぷっ…スキルに感謝するの…?…やっぱり変…」
「なんか、笑われてばっかりじゃないです?俺?まぁ、泣かれるよりは良いですけどねー」
「…む。…それは、ずるい…」
「おあいこですっ。」
なんて話しているうちに、テンのナビで養鶏場にたどり着く。
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るぅと話をしていたので会話は控えていたが、やる事はやる出来る子?です。テンは。
(さんきゅー。流石だな。)
『誰かさんはイチャイチャしてるけどね。』
(イチャイチャ?お前とか?)
『るぅよ、るぅ。楽しそうじゃない。』
(あぁ、るぅさんか。年上には見えねぇよな。従妹の子と散歩してる感じだよ。)
『…かわいそ…』
(何が?)
『別に。とりあえず、さっさと卵を買えば?』
(おっ、そうだな。)
テンの判断が有ってるのか、違っているのかは解らないが、ミズキはがそういう目でるぅを見ていないのだけは確かである。
そうしていると、意識の外から声が掛かる…
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「…だいじょうぶ…?」
「あ、ごめんごめん、テンと話してた。」
「…てん…?」
「ヘルプボット…だったかな、なんかお助けマン…いや、ガール?」
「…ヘルプボットに…名前をつけてるの…?」
「そうだよ?呼ぶ時に便利だし。」
まただ…この人はさも普通に普通じゃない事をやっている。
るぅも初期は便利でお世話になったものの、視界の一部に滞在されるのが鬱陶しくなって解除したのだ。しかも、ヘルプボットに名前?…を付けるなんて話を聞いた事がない。挙句にヘルプとして検索をするわけではなく…「話してる」…とも言っていたが、検索の事を言っているのだろうか。
話からすると始めたばかりの新人のはずなのに、その新人からやたらとカルチャーショックを受けている気がしてならない。レールに乗っていたのか乗らされていた自分と、気ままにレールを無視して行動しているミズキを比べて、なんだか風が通り過ぎた様に清々しい気分になった。
「るぅさんにもいるでしょ?」
「…いまは付けてないけど、こんどまたつけてみるね…」
「そんなことも出来るんだ?」
「…う、うん…」
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そんな話を聞いてると、やっぱり聞いてみたくなる様だ。
(テン。お前、出したり消せたりすんの?)
『…消したいの?』
(いや、居なきゃ困るんだけどさ。居ない人も沢山居るんだろ?)
『まぁ、そうね。説明書は読んでわかったら片付けてから使うでしょ。普通。』
(テレビとかならそうだろうけど、そんな簡単じゃないだろ。この世界。)
『ミズキ以外は、そうでもないんじゃないの?』
(皆、器用なんだな…すげぇわ…)
テンからすれば、予測不能なプレイヤーとしてのミズキの方がよほど凄いと言うか厄介なのであるが、勿論そんな事は伝えない。
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そうした会話のインターバルは、始めたばかりでヘルプボットで調べながら遊んでいるんだ…と、静かに見守っていると急に会話は始まる。
「るぅさん、凄いよね。俺はわかんない事ばっかだから。」
「…すぐに慣れるとおもうよ…?」
「そうだといいんだけどなぁ。」
「…だいじょうぶだよ…ミズキちゃんなら…」
「あっ!いい事、思いついたっ!ちょっと待ってて。」
そう言って再び黙り込むので、また何か調べものでもあるのだろう…と、るぅはミズキの横で佇みつつ昔を思い出す。昔の私もこんな感じで色々調べながら、時間を掛けてやっていたなぁ…と懐かしく思った。
普通は人の数だけあるというお話。
200713
るぅの口調調整




