9.ごはんパニック
ブックマークに入れてくれた方が増えたのが嬉しいです♪
誤字は無くならない様でまだまだですね…ご指摘感謝です!
ギルドで一通りの説明を受け、卵を納品するお使いをすることになる。
これまで丁寧に説明してくれているエマが、説明し忘れているのか、わざと伝えていないのかは納品時までにはわかるからいいとして、これから確認する必要がある事を頭の中でいろいろと整理し始めようとしていると、今まで黙っていたテンが声をかけてくる。
『ミズキって頭いいのか、悪いのか、わかんないわね。』
(いきなりだな。楽しむ為の労力は惜しんだら損じゃね? テンも言ってたじゃん、喜びは苦労するからたくさん喜べるんだろ?)
『そんなことも言ったわね。それで、これからどうするの?』
(飯かな。)
『りょーかい。あんたごはん食べてないもんね。』
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「では、納品を楽しみにしていますね。」
「はい、少しかかると思いますが、頑張ってみます。」
テンとの会話の途中でエマからもお声がかかり、短い言葉を交わして商業ギルドを出る。こちらの時間で午前中から活動は始まったのだが、今はもう日が暮れつつある感じだ。飲まず食わずで平気だったのは、オートマタの体のお陰なのか、ゲームの仕様なのかは判断も出来ない。感覚的に腹に何かを入れたい欲求が沸いていたんだが、次の会話で絶望に突き落とされる事になる。
『ごはんの話をしていたけど、食べたいものでもある訳?』
(ん?そうだな、牛丼とかカツ丼とか、ガッツリと白米が食いてぇ。)
『えーっと…多分残念なお知らせなんだけど…ショートグレインライス、いわゆる日本米に準するものは、この街で一般的に流通してないわよ。』
「………なにぃぃぃぃぃ!?!?!?」
一瞬の思考停止からの再起動。口調の事など気にもかけず、思わずいつもの口調で叫んだ後に、出てきたばかりの商業ギルドに駆け戻り、さっきまで話をしていたエマのカウンターに両手を叩きつけ、乗り上げて、再びエマを驚かす。
「この地に、米が無いって本当!?」
「えっ?えぇっ?!何ですか?何の話ですか?ミズキさん!?」
「えーっと、何か食べたくて、お米が無くて、テンと話して…」
「ミズキさん…ちょっと深呼吸しましょうか。落ち着いて下さい。」
エマに促されて、カウンターを離れ、一度大きく息を吸い込んで呼吸を整えた上で、落ち着いてからエマに話しかける。
「お米、日本のお米…えーっと、ショートグレインライスかな?…は、この街で流通していないんですか?」
「高価なものですし、たまに流れてくる事はありますが、常時流通している訳ではありませんね。別種のロンググレインライス、ミズキさんにわかりやすく言えばタイ米でしょうか?そちらであれば、ライスプディング等で其の辺りのお店に行けば口にする事は出来ますよ。」
「タイ米…あれは違うんです…ライスプディング?音的にデザートみたいに聞こえるんですが、それは何ですか?」
「牛乳で煮たおかゆ…と言えば解りやすいでしょうか。甘い味付けが多く、ナッツやドライフルーツ等を添えて朝食として食べたり、デザートとして食べたりしますね。」
「違う…違うんです…ご飯が食べたいんです…食事として…」
「はぁ…ショートグレインライスがあればいいんですか?」
「あるんですか!?」
希望の光を感じたミズキは嬉しさのあまり、物があるかないかもわからないうちにエマの両手を握りしめ、かなり顔を近づけて迫る。女性が女性に熱烈に迫る姿は、傍から見ればかなりシュールと捉えられたり、妖艶だったり…と周りの人も珍妙なものを見る視線で様子を伺う。日も暮れて人が少ないのはせめてもの救いか。
「近い、近い、近いです!」
「あぁ…すみません。」
「ある。ありますよ。少量ですけど棚卸の時に見かけた覚えがあります。」
「下さい!売ってください!おいくらですか!」
「待ってください、わたしの判断ですぐに売れるものでもないんです!」
興奮するミズキをあしらう為に、本来なら簡単に口にしてはいけない在庫の話をしてしまった挙句、火に油を注いでしまう結果となり、今度は売れと迫るミズキの執念に恐怖すら感じていると、奥から整った髭が似合う身なりのいい男性が現れて話しかけてくる。
「珍しいなエマ。お前が居て騒がしくなるなんて。」
「あぁ、リチャードさん。すみません、私が悪いんです。」
「で、その興奮した人形はなんだ?説明してくれるか?」
「はい…」
エマは今ここで起きた出来事を簡潔に説明する。
ミズキがギルド員になった事、米を探している事、その希望の品がギルドの在庫にある事を伝えてしまった事と購入希望をしている事等を順に。
そうすると、片方の口角を少し上げてニヤリというのがピッタリの表情でいきなりミズキの髪をワシャワシャと撫で繰り回した後に肩を組んで話しかけてくる。
「おまえ、やるなぁ。基本無愛想なこいつをここまで狼狽させるやつとか初めて見たぞ。有望だな、おぃ。」
「は、はぁ…ありがとう…ございます?」
「で、新人ならムーノに行くのか?」
「…その予定ですが、まずは下調べでもしようかと思っていますが。」
「すぐに行けばいいじゃないか。」
「まぁ、もう遅いですし。事前に調べる事とかあるんです。経費の計算とか、損益分岐点も出しておこうかと…」
「ふーん…エマぁ、おまえ交通費の話とかしたのか?」
「言ってませんよぉ…言うなってリチャードさんが決めたじゃないですかぁ。」
「ふむ。まぁ、マシかもな。」
いきなり現れ、軽い威圧を伴ってガンガン会話を進めるリチャード。その脇で混乱したからかエマが砕けた口調で応答している。エマの応対からするにきっと上司であろう事は想像が出来るが、秘密っぽい事の話とか、マシとか、なんの話なんだか分からないが、エマがリチャードを紹介してくれる。
「こちらが商業ギルド長のリチャードさんです。そして、こちらが新加入したミズキさんです。」
「あ、ミズキと申します。」
「リチャードだ。宜しくな。」
「それで…お米は売って頂く事は可能なのでしょうか?」
「米?ロンググレインか?」
「いえ、ショートの方なんですが…」
「駄目だ。」
「そこを何とか。」
「駄目だ。」
「じゃ、仕入れをお願い出来ますか?」
「高いぞ。」
「どれ位ですか?」
「キロで小金貨1枚ってとこだな。」
「小金貨1枚!?」
「あと、時間も貰うぞ。半年位だな。」
何が何なのか、興奮から混乱へ目まぐるしい感情の変化を経て、最後に沈黙させられる。価格も時間も尋常じゃない。米がキロ10万!?納品に半年?とんでもない世界だな…何もかもやる気がなくなって来るのを感じる。胡椒が同じ重さの金と同額なんていう時代もあったと朧げな話を記憶の底から引き摺りだし、米もかよ…と、絶望しつつ出た言葉は…
「ギルド辞めます…旅に出ます…」
もう、米がある場所に行くしかない…そう感じた瞬間だった。




