小話:ロードスを放り出した後の、ルーヴによる甘やかし
番外編「魔術師の幸福な日々」で、サモトラが魔の森からロードスを放り出した後の幕間です。短いですが、楽しんでいただけましたら。
ロードスを転移で放り出したことで、ようやく己の領域を侵すものを排除できたと、少し溜飲が下がる。
しかし、まだざわついた心は落ち着かない。なにしろサモトラは、ルーヴをロードスに会わせたくはなかったのに、結局二人は対面してしまった。その上、ルーヴがロードスの味方をしてサモトラを説得するような発言をしたのだ。
「ルーヴ……」
再びその存在を腕の中に収めて、少しでも心を宥める。
「仕事をちゃんと続けて、偉いね」
頭を撫でられたので、ルーヴの肩に額をつけてもっと大事にしてほしいとねだる。ついでに首筋に唇で触れる。安易に痕をつけたら以前ひどく叱られたので、軽く口づけを落とすだけに留めた。
「俺は、仕事は辞めたかったのに」
「うん。でも、続けてくれるのでしょう?」
「……ルーヴがそう望むから」
「そうだよ。私は魔術師としてのサモトラも好きだからね」
「………………」
「あら、まだちょっと納得しきれてないかな。まだご褒美が必要?」
「…………足りない」
首筋に埋めていた頭を両手でとられ、ルーヴと額を合わされる。
「サモトラはいつだって必要だよ。魔術を使えない時も放っておけない感じで微笑ましかったけど、今はその髪色も格好いいし、魔術を編み上げる時の真剣な顔もすごく好き。最近は杖を持つようになって、その魔石がなんとなく私の髪みたいな色でちょっと嬉しい。王宮の偉い友達がサモトラを必要としているのも、あなたの所有者として誇らしいよ」
「っ、………………」
至近距離で目を見て告げられた言葉にひとつも嘘はないと分かり、宥めようとしていた心がまた別のものに乱される。以前はあれだけ暇で麻痺していたサモトラの心を、ルーヴは容易く振り回すのだ。
サモトラの動揺を分かっているように、ルーヴは微笑む。
「目を閉じて……」
サモトラは、その柔らかい唇が触れてくれるのを期待して目を閉じた。
しかし、次に感じたのは、首へ回された手によって下へ引き寄せられた頬への、柔らかいぬくもり。それから、優しい音。
思わず目を開けると、サモトラはルーヴの胸へ顔を埋めるように抱きしめられていた。
「、………………!?」
状況を理解すると、顔に朱が上る。
だが、ルーヴのぬくもりに包まれ、その柔らかさに癒され、優しく響く心音になんだか離れがたくなり、サモトラも腕を回してルーヴを抱きしめた。
そうすると更にその柔らかさが感じられて、男としての欲が少しだけ頭をもたげたが、今はそれよりもこのぬくもりに癒されていたかった。
ルーヴと二人だけだったはずのここへ他の人間が、それも自分と同じ魔術師が入り込んだことを、サモトラは自分で思うよりも気にしていたようだ。
正直なところ、サモトラはルーヴからの口づけを期待していたので拍子抜けした。
だが、これはもしかしたら、口づけをもらうよりもこの場合は有効だった気がする。
この時サモトラが求めていたのは、ルーヴに必要とされることであり、側にいることを許されているという自信だった。
こうして胸に抱いてもらうと、とても大事にされていると思えた。
やはりルーヴは、サモトラの予想をいつも上回る所有者なのだ。
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一連の出来事を横で見ていたシュロ
「ルーヴ、甘やかしすぎではないのか」
「んん、そうかな?でも、拗ねたままだとかわいそうだし。それに、なんだかずっとイライラしていたみたい?」
「……そうか。では、帰りもわたしが連れて帰ってやろう。早く乗れ」
「シュロも仲良くしたくなったの?よしよし、仲間外れじゃないよ。じゃあサモトラも一緒に帰ろうか」
「いや、あいつは乗せないが」