第七話
「「「──ブレイブ・イグニッション!」」」
勇者カードを天に掲げて叫ぶと、ボクたちの体が、まばゆい光に包まれる。
そして数瞬の後には、変身が完了した。
勇者姿になって、燐光ときらめく光の粒を散らすボクたち三人。
そのボクたちに向かって、ゴブリンの群れが襲い掛かろうと向かってきた。
中でも足が速いのが、ムキムキ筋肉のガテン系ゴブリン──ホブゴブリンの三体だ。
歩幅が大きい分だけ、ほかのゴブリンたちを置き去りにして突出してくる。
「真名、下がれ! 前は私たちが引き受ける!」
拳を構えた神琴が、ボクの前に立ってそう伝えてくる。
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
ボクは前衛を神琴と勇希に任せて、後退。
同時に【モンスター識別】のスキルを使用する。
使い方は自然と頭に思い浮かんだ。
ターゲットを見て、識別したいと念じるだけだ。
ゴブリン、ホブゴブリンをそれぞれ一体ずつ──それに後ろの方で立ち止まって怪しげな仕草をしているゴブリンシャーマンを視界にターゲッティングし、スキルを発動。
するとビビビッと、ターゲットから吹き出しが生まれるような感じで、ボクの視界にそれらのモンスターのステータスが表示された。
***
ゴブリン
レベル 1
最大HP 7
最大MP 0
攻撃力 9
防御力 6
魔力 2
魔防 4
素早さ 4
スキル
暗視
呪文
なし
弱点・耐性
なし
***
ホブゴブリン
レベル 3
最大HP 12
最大MP 0
攻撃力 14
防御力 8
魔力 3
魔防 6
素早さ 7
スキル
暗視
呪文
なし
弱点・耐性
なし
***
ゴブリンシャーマン
レベル 4
最大HP 11
最大MP 12
攻撃力 10
防御力 8
魔力 16
魔防 10
素早さ 9
スキル
暗視
呪文
フレイムアロー
弱点・耐性
なし
***
戦闘中、細かく数字を見るのはしんどい。
ざっと確認──
レベルはゴブリンが1、ホブゴブリンが3、ゴブリンシャーマンが4。
どれも特に弱点はなし。
ホブゴブリンは、ゴブリンと比べて全体的にステータスが高い肉弾戦闘派の模様。
一方のゴブリンシャーマンはフレイムアローの呪文を使ってくるみたいだけど、魔力の値はボクと比べてかなり低い。
パッと見でそのぐらいか。
あとは実際に戦ってみないと。
──よし。
ボクは敵のステータスの確認を完了させて、攻撃に移る。
杖を手に、魔力を高めていく。
そして──
「──フレイムアロー!」
ボクは魔法を放った。
ターゲットは、今にも勇希たちに接敵して殴りかかろうとしていたホブゴブリンたちだ。
生み出した三本の炎の矢を、一体につき一本ずつぶつけてやる。
──ドォオオオオン!
炎の矢はそれぞれのホブゴブリンに見事直撃して、白煙を巻き起こした。
「よっし、ナイス真名!」
勇希がボクに向けて、背中越しにサムズアップをしてくる。
でも──
その一方で、油断のない顔つきで前方を見つめ続けていたのは神琴だ。
「いや──来るぞ、勇希!」
「へっ……? ──うわぁっ!」
巻き起こった白煙を突き抜け、三体のホブゴブリンが勇希たちに向かって襲い掛かってきた。
もちろんホブゴブリンたちは無傷ではなくて、むしろ大ダメージを負っている様子だったけど、一発では撃破するには足りなかったみたいだ。
──ガキィイイイインッ!
勇希は自分に向かって振り下ろされた棍棒の一撃を、すんでのところで剣で受け止める。
「あぶなっ……! ──こんのぉおおおおっ!」
勇希は力ずくで押し込んでこようとするホブゴブリンを逆に押し返し、相手がたたらを踏んだところを剣で切り捨てた。
そのホブゴブリンは、紫色のモヤになって消え去り、地面に宝石を落とす。
「ふぅっ……びっくりしたぁ」
「──はぁっ! ──勇希、油断しすぎだぞ!」
「にははっ、ごめんごめん。──とりゃあ!」
さらに神琴が一体、勇希が一体のホブゴブリンに攻撃を仕掛けて、それぞれ撃ち倒した。
でも、今度はそこに──
「神琴、危ない!」
「なっ……!?」
ゴブリンシャーマンが放った三発の炎の矢が、神琴に向けて一斉に襲い掛かってきた。
神琴はとっさに横に飛んで一発を回避したけど、残りの二発が直撃コース。
神琴が両腕をクロスさせてガード体勢をとったところに迫り──
──ドドォン!
二発の炎の矢が命中して、白煙が巻き起こった。
でも──
「むっ……? なんだ、見た目よりも大したダメージではないな」
勇者の力なのか、炎の矢の直撃時に神琴の体が燐光をまとってダメージを軽減したみたいで、大きな怪我は負っていないようだった。
勇者カードのステータスに「魔防」っていう数値があったけど、あれが高いと魔法ダメージを大きく防いでくれるのかもしれない。
だけど──安心するのはまだ早い。
今度は、ホブゴブリンより少し遅れてやってきたゴブリンの群れが、勇者姿の勇希と神琴に向かって殺到してくる。
「まったく、次から次と。息つく間もないな」
「ま、そう言ったって──やるっきゃないっしょ!」
「──そうだな!」
勇希と神琴がゴブリンの群れに躍り込んで行く。
二人は目が回るような素早い動きで小さな怪物たちを翻弄、次々と撃ち倒して紫色のモヤへと変えていった。
特に剣士の勇希は輪をかけて凄まじくて、閃光のような立ち回りで剣を閃かせ、瞬く間にゴブリンの数を減らしていく。
一方でボクも──
「──フレイムアロー!」
──ボボボッ。
三つの炎の矢を生み出すと──
「──行け!」
杖を振って、発射。
三本の炎の矢を、後ろで次の呪文を放とうとしていたゴブリンシャーマンに、集中砲火でぶつけてやった。
「──ヒギャァアアアアアッ!」
三つの炎の矢が着弾すると、ゴブリンシャーマンはあっという間に燃え上がって、紫色のモヤになって消え去った。
キラッと、わずかに光るものが地面に落下する。
ゴブリンシャーマンのジェムかな。
あとで忘れずに回収しないと。
それはともあれ──
「……ふぅ」
ボクはそこまでで、ようやく一息をつく。
これで大物は片付いた。
あとは雑魚のゴブリンだけだ。
ならもうあとは、勇希と神琴の二人に任せて大丈夫でしょ。
ボクはそのまま息を抜いて、二人の可憐なヒーローがばったばったとゴブリンを倒していく様を、ぼんやりと眺めるのだった。
***
……はい、そんなわけで。
しばらくたつとゴブリンも全部片付いて、戦闘終了。
となれば戦闘結果発表のお時間です。
ボクたちはひとまず変身を解いて制服姿に戻る。
それからジェムを拾い集めて適当に勇者カードに収納した後、三人で寄り集まってカードの見せ合いっこをした。
「んー、数字ばっかで、何が書いてあるのかよく分かんないよねこれ」
「真名はこれを見て、意味を読み取れるのか?」
「……まあ、ある程度は。……少なくとも、エッチなピーちゃんが不倫相手じゃないことぐらいは分かる」
そんなやり取りをしつつ、二人の勇者カードの数値も確認していく。
で、とりあえず分かったこと。
今の戦闘で、全員3レベルから4レベルにレベルアップして、少しだけ強くなったらしい。
***
有栖川真名
職業 魔法使い
レベル 4(+1)
最大HP 35(+3)
最大MP 39(+4)
攻撃力 10(+1)
防御力 11
魔力 43(+3)
魔防 21(+1)
素早さ 11(+1)
残りスキルポイント 1(+1)
スキル
モンスター識別
呪文
フレイムアロー
フリーズアロー
装備
魔法使いの杖
魔法使いのローブ
魔法使いの帽子
所有ジェム 37
ブレイブチャージ 96%
***
剣崎勇希
職業 剣士
レベル 4(+1)
最大HP 61(+5)
最大MP 20(+2)
攻撃力 45(+3)
防御力 27(+1)
魔力 9(+1)
魔防 14
素早さ 19(+2)
残りスキルポイント 4(+1)
スキル
ソードマスタリーⅠ
呪文
なし
装備
鉄の剣
鉄の胸当て
鉄の小手
所有ジェム 37
ブレイブチャージ 96%
***
獅童神琴
職業 神官
レベル 4(+1)
最大HP 41(+4)
最大MP 34(+3)
攻撃力 21(+2)
防御力 18(+1)
魔力 28(+2)
魔防 18
素早さ 15(+1)
残りスキルポイント 4(+1)
スキル
なし
呪文
ヒール
装備
神官のローブ
神官の聖印
所有ジェム 37
ブレイブチャージ 96%
***
……細かい数字に関しては置いといて。
とりあえず、少しだけ強くなったんだなっていうことぐらいは分かる。
けど、ゴブリンだけなら変身したら楽勝だったけど、ホブゴブリンとゴブリンシャーマンが混ざったら結構大変になった感あったな……。
負けるとか何とかいうレベルではなかったけど。
もうちょっと敵が強くなってくると、危なくなってくるかもしれない。
でも敵をどんどん倒してレベルを上げていけば、こっちだって強くなるってことで──
やっぱり、そのうちドラゴンとか出てくるのかな。
ちょっと怖くもあるけど、ワクワクもするかも。
あと、勇希と神琴のスキルどうしよう。
これもスキルリスト見てみないと分かんないな……。
「……ちょっと、勇希と神琴の勇者カード、借りてもいい? スキルを見てみたい」
「うん、どうぞ♪」
「私も自分で触ってみてもよく分からないからな。真名に任せる」
ボクは二人から勇者カードを回収して、少し離れた場所でそれぞれのスキルリストを眺めていった。
……ふむふむ、なるほど、やっぱりボクとは修得できるスキルが微妙に違うんだな。
などと考えていると──
そこに勇希がやってきて、ボクの耳元で一言。
「……なんだか、真名に自分の身をゆだねているみたいで、ドキドキするね」
「……ッ!」
ボクは操作していたカードを取り落としそうになった。
な……何を言うかな、この娘。
「にひひっ、あたしのことよろしくね、真名♪」
勇希はそう言って、今度は神琴のほうに行ってルンルンと駆け寄っていった。
そしてボクにしたのと同じように、神琴に耳打ちをする。
すると神琴の顔がボンッと茹で上がり、湯気を噴いた。
「なっ……なっ……何を言っているんだ勇希! 変なことを意識させるな!」
神琴はそう悲鳴のような声を上げて勇希に抗議すると、今度はちらとボクのほうを見てきた。
それでボクと神琴の目が合ってしまい、お互いに慌てて視線を外す。
「にはははははっ」
それを見た仕掛け人の勇希が、一人愉快そうに笑っていた。
お、おのれぇ……覚えてろよ勇希。
いつかぎゃふんと言わせてやる。