第四話
ゴブリンを倒したら、謎の少年が現れた。
どうする?
たたかう
にげる
はなしかける
という感じだけども。
……まあ、普通に考えて、話すよね。
ボクは勇希たちの前に出て、その少年に声をかける。
「……こんにちは。……いろいろと、聞きたいことはあるけど」
ボクがそう言うと、フードの少年はにっこりと人懐っこい笑顔を向けてくる。
何でも聞いて、という様子だ。
その少年は輝くような銀髪の持ち主で、見た目の歳はボクたちより少し上ぐらいに見える──十五歳か、十六歳ぐらい?
だから本当は、ボクから見ると「少年」っていうより「お兄さん」って言ったほうがしっくりくる。
瞳は吸い込まれるような綺麗な紫色。
でもやけに深みがあるというか……何となくだけど、見た目どおりの歳じゃないのかもしれない。
……で、まあ。
普通に考えて、最初に聞かないといけないのは──
「……とりあえず、あなたは誰?」
ボクはそう質問した。
お兄さんはけろりと答える。
「僕の名前はユアン。人々からは『賢者ユアン』なんて呼ばれているね」
……なるほど。
名前を聞きたかったわけではないんだけど、まあいいや。
「じゃあ、二つ目の質問。……これ、何?」
ボクはそう言って、ファッションショーよろしく、お兄さん──賢者ユアンの前でくるりと回ってみせる。
ボクはいまだに魔法使いの姿をしているのだけど。
これが単なるコスプレでないことは、間違いない。
何しろボクは「魔法」を撃った。
当たり前だけど、日本で暮らしていたただの中学生であるボクが、そんなものを使えるわけがない。
だから、「この姿と力は何なの?」とボクは聞いたわけで。
するとその質問に、賢者ユアンはこんな返答をしてきた。
「それは『勇者』の力さ」
「……勇者?」
予想外の言葉が飛んできた。
困惑するボクをよそに、賢者ユアンは話を続ける。
「ああ。キミたち三人は、選ばれし『勇者』として人々を苦しめる『魔王』を倒すために、このマナリスフィアの世界に召喚されたんだ」
「……はあ」
ぽかーん、だ。
もうずっとそうだけど、起こる出来事や出てくる話が片っ端からいきなりすぎて、何言ってるの? バカなの? 死ぬの? みたいな気持ちになっているわけで。
何度も言うようだけど、ボクたちはただの女子中学生だ。
それがいきなり変な世界に連れてこられて、「あなたたちは勇者ですよ、魔王を倒してください」なんて言われて、はい分かりました、うおお燃えてきたぞ、なんてなるわけが──
「おーっ! ねぇね神琴、あたしたち『ユウシャ』なんだって! なんかカッコ良くない!? あれだよね、すっごい有名なゲームか何かであったよね、そういうの!」
「ふむ……なんだかよく分からないが、つまりその『マオウ』とかいう不貞の輩によって、この世界の人々が苦しめられているということか。そして『ユウシャ』の力を持つ私たちだけが、その『マオウ』という悪党を打ち倒せると」
「うわーっ、熱いシチュエーション! よっし、燃えてきたぁああああ!」
「うむ。私たちにしかできないことがあるなら、そしてそれが人々のためになるのなら、是非もないな」
後ろからそんな二人の親友の声が聞こえてきて、ボクはかくんと肩を落とした。
……あ、そう。
それ、ありなんだ……。
まあ二人とも武闘派だし、正義感強いし、そういう風にもなるかぁ……。
「……って、どうしたの真名? しょんぼりしてるみたいだけど」
「……ううん、いい。……何でもない」
心配そうにのぞき込んでくる勇希に、ボクは首を横に振ってみせる。
……まあいいか、二人がいいって言うなら。
嫌だって言っても、余計めんどくさいことになるだけって気もするし。
それに何より、ボクは場に流されるのが得意なのだ。
たゆとうようにゆらゆらと、水のように流れに逆らわず、自然のままに。
……いや、本当はめんどくさいことが嫌なだけだけど。
ボクは怠けものなのだ。えへん。
と、そんなことを考えていると、賢者ユアンが「ただ……」と付け加えてきた。
「気を付けなきゃいけないのは、キミたちはずっと勇者の力を使えるわけじゃない。勇者の力を宿したその姿──『ブレイブフォーム』には、制限があるんだ」
……ほうほう。
それって、つまり──
「……三分たったらカラータイマーがピコンピコン鳴って、ほにゃらら星雲に帰らなきゃいけない的な?」
「んー、よく分からないけど、それほど短くはないよ。でもそれは『勇者カード』を見てもらったほうが早いか。ひとまず『ブレイブリリース』って唱えてみてくれるかな」
「……? えっと……『ブレイブリリース』? ──っ、うわわっ……!」
ボクが賢者ユアンに言われたとおりの言葉を言ったら、ボクを包み込んでいた魔法使いコスチュームが光り輝いて──
一瞬の後、ボクは元の制服姿へと戻っていた。
……おー。
なんか、最初にコスチュームチェンジしたときにも思ったけど、そこはかとなく魔法少女モノアニメの「変身」みたいだ。
とりあえず、魔法使い姿になるアレを「変身」と呼ぶことにしよう。
ちなみに、制服姿に戻ったボクの手には、変身前に持っていたあのカードがにぎられていた。
これがユアンの言った「勇者カード」なんだと思う。
……それにしても、覚えないといけない感じの単語が多い。
全部覚えようとするとしんどいから、適当にスルーしていったほうがよさそう。
ともあれボクは、賢者ユアンに質問を続ける。
「……ん、戻ったけど。……これで、どうすれば?」
「いま手に持っているそのカードに、『ステータス』って書いてあるキーがあるでしょ? それを触ってみて」
「……ん、これ……?」
ポチッとな。
ボクは手にしたカードのそれっぽいところを、言われた通りに触ってみた。
すると──ヴンッ!
「えっ……?」
カードの表示が、変わった……?
ボクが手に持っていたカード。
そのカードの表面に描かれていたボクの絵などが消え去って、代わりに「ステータス」と書かれた表題と、その下にずらっと文字や数字が表示されたのだ。
ひょっとしてこのカード、スマホみたいに触って操作できるってこと……?
ちなみに表示された「ステータス」は、こんな感じだった。
***
有栖川真名
職業 魔法使い
レベル 3(+2)
最大HP 32(+7)
最大MP 35(+8)
攻撃力 9(+2)
防御力 11(+1)
魔力 40(+6)
魔防 20(+3)
素早さ 10(+2)
残りスキルポイント 3(+2)
スキル
なし
呪文
フレイムアロー
装備
魔法使いの杖
魔法使いのローブ
魔法使いの帽子
所有ジェム 0
ブレイブチャージ 97%
***
……って、ゲームか。
RPGと書いてロールプレイングゲームと読む感じのゲームなの、この異世界?
……いやもう、ツッコんだら負けなんだろうな……。
ちなみに、心配になって後ろを見てみると、勇希と神琴もいつの間にか変身を解除していて、お互いのカードを見せ合いながら何やら話をしていた。
「ねぇ神琴、これなんて読むのかな? えっちぴー?」
「ふむ……鉛筆の硬度表記に似ているが」
「エッチなピーちゃん? ──ねえ、ピーちゃんって誰よ!? どこの女!? ねぇ神琴、あたしのことは遊びだったっていうの!?」
「待て待て、落ち着け勇希。唐突に不倫夫婦ごっこを始めるな」
「本当にあたしのことを好きならキスして! 今すぐに! んーっ……」
「こらこらこらこら! や、やめろっ……ちょっ、バカっ、本気か、離せっ──ぎゃああああっ!」
……うん。
まったく話を聞いてないというか、それ以前の問題みたいだ。
これはボクがしっかりしないとダメそうだな……。
ボクは二人のことは無視して、ユアンから話の続きを聞くことにした。