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保険本舗異界本部  作者: バルサントス
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気がつけば、視界いっぱいに乱杭歯が広がっていた。

次第に迫ってくる歯の一本一本、隙間に残る何かの筋や、唾液が咥内で糸を引いていることすらはっきりとわかる距離だったが、それでも男は動かなかった。

否、動くことすら忘れていた。

確かに今しがたまで仕事に取り組んでいたはずなのに、まばたきをしたら口腔を眺めている現状を把握すら出来なかったのだ。


閉じられれば鼻の欠損は免れないぐらいに近づかれ、顔に途切れた糸が付着して、やっと男の体は行動した。

悲鳴とも雄叫びとも言えぬ音を吐き出しながら、出し得る全力を以て殴りつけたのだ。

幸いあたりどころが良かったのか、体の上に陣取っていたナニかは横様に吹き飛び、男は腕を振り抜いた勢いそのままに立ち上がる。

息を荒げながらもあたりを見渡せば、足の踏み場がないほどに生い茂る下草と乱立する樹木ばかり。僅かながらに見える隙間も霧に満たされ、見通すことは叶いそうになかった。


状況が激変したことについていけず、ただ錯乱したかのように視線を飛ばしていると、男は少し離れた草場に鞄を見つけた。

見間違うはずもない。入社時から愛用している革張りのトランクに駆け寄り抱え込むと、馴染みの手触りにいくらか落ち着くことができた。

改めて周囲を観察してみるものの、やはり景色に覚えはない。

日本であるならば有名な樹海のようにも見えるが、いずれにせよ先ほどまでいた殺風景な事務所とは程遠い。そもそも先ほどまで室内にいたのに何故外にいるのか。男は無意識にトランクに手を這わせながら、出るはずのない答えを探していた。



がさり。



果たしてどれぐらい思考に囚われていたのか。無音に包まれていた男の耳に聞きたくもない気配が飛び込んできた。

体中の筋が強張ると同時に振り向いた方向は不幸なことに何かを殴り飛ばした先であり、結果として顔に付着した唾液の主を直視することになった。

一言でいえば、ヘドロの塊であった。しかし本体と思わしき部分には見おぼえるのある歯が大口をあけており、あり得ないことに歯の一本一本が蠢くさまは、遠目から見るとまるで太い蛆がわいているようだった。

泥が這えばこうなるのか、知性のかけらも示すことなく乱雑に音を立て近づいてくるソレに対し、無意識に一歩引き下がった途端、男は弾けるように逃げ出した。




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