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ミーミルの愚者・m  作者: 色夏
4/5

3 異世界転生

一応、転生はしました。それにしても進まない。

もう少し書き方と物語の進行の仕方を学びます。

するすると伸ばされた希望に佳は純粋に見入ってしまう。

願ってもない逃げ場のない甘味的な誘いに思わず生唾を飲み込む。


「その提案って何ですか、聞かせて下さい。」


もはや佳の意識は手を差し伸べてきたヴァラヌスという男に支配されていた。


「うん。それじゃあ説明するよ。まず君が次に暮らす世界には、聞いたことがあるだろう?『魔法』と言うそれに似た概念が存在する。ただそれは、使用する際に何か詩的な言葉を『唱えたり』、『祈ったり』するのではなくて『解放』をする。」


「『解放』。なんですかそれ。」


「その世界には、『ソダ―リタース』という名前の結晶がある。一般にはリタースの愛称で呼ばれている。結晶には多種多様の種類があって、それぞれには色々な作用に対応した反応が現れることが分かっている。」


その後もヴァラヌスの説明は続く。


「結晶は、昔からあるものだが、あの星では、生命を宿した世界自体がまだできてから間もないんだ。君の地球の人間は自分達の星を完全にではなくても表面的にはほぼ探索しただろう。あの星の人間はまだ世界のの半分ほどしか探索できていないんだ。」


「その原因にとある領域が問題になっている。領域は五つ、それぞれに星特有の強力な生物がいて人間の探索を阻止しているんだよ。そして、問題はここからだ。」


ヴァラヌスは一泊おいて佳の顔を改めて見直して言う。不思議なことに佳の頭の中には、新しい情報が記憶に染み付くように浸透していた。新鮮な単語を一つ一つ素早く処理しながらヴァラヌスに耳を傾ける。


「彼らの支配する領域に踏み込む人間の中に、とある結晶がある。長年その結晶は見つければ五つの願いが叶うとされていて、そんな物は眉唾ものだと言う人もいるが中には国でその結晶を狙うことがある。その結晶は『五つ乞いの石』と言われる。君には、その結晶の探索をしてもらいたい。」


「探索って見つけて何をすればいいんですか。」


怪訝な顔をした佳は不安になりながらも慎重に言葉を選ぶ。探索とはまた曖昧な表現をしたものだと身構える。


「見つけて、その結晶がもし本当に逸話道りなら君には結晶に一つ、五つの領域にいる生物の滅亡を願ってもらいたい。」


「それって俺じゃなくてもあなたが自分でやればいいんじゃないんですか。」


今度は明確に、挟み込むように佳の質問が横槍を入れる。


「そうだね。あの星は僕が管理しているんだから。でもだからと言って僕が手を下すのは世界のバランスがどこかで狂ってしまう要因になる。僕がなでるように触れたとしてもだ。だからこれまでは僕が秘密裏に使いの者を送って調査や調整をしてきたんだ。ただ今回ばかりは違う。相手は今までの使い達では相手にならなかった怪物だ。」


「その人達が無理なら俺はもっと無理なんじゃ。」


ヴァラヌスは自分を生き返らせ、星を一つ管理する神の所業を何んとなしに実現してしまう人物だ。ならば彼の送った使いは人並みを通り越しているはずである。佳には彼らが相手にならない怪物を相手取っても望みなど微塵もないのではと思わずにはいられない。佳は想像で怪物の体を知れる限り獰猛な動物の部位で繋ぎ合わせ、いざ怪物に対峙した時に卒倒しないだろうかとさらに不安にかられる。


「彼らは僕が作ったんだよ。つまり彼らの体自体には、僕の力が色濃く出てしまうんだ。星に接触可能な力の程度はある程度決まっていて、後から力を付与しようとしても限界があるんだよ。だからより強力な力を与えるために、純粋に僕以外の手で作られていてかつ他の星の生命体である必要があるから君が選ばれたというわけだ。」


「説明が長くなったけど提案としては、もし君が五つ乞いの石で五体の怪物を倒したなら、君をあの星で住ませてあげよう。乗るか。」


佳は今一度熟考する。下を向いて思考を整理、自分が置かれている状況を理解しようとする。まだ心臓は鳴りしきり、再び訪れた静寂では顕著に聞こえる。自分は現状ここに生き、過去に死亡。また生き続ける道はヴァラヌスと言う男の提案に乗るのみ。


「もちろん、すぐじゃなくていい。何年も、ゆっくりと、時間をかけてもやり遂げてくれればそれでいい。あっちに行ってからも知るべきことはたくさんある。」


佳の心に被せるようにヴァラヌスの言葉がかかる。心音は微かに穏やかになり、さざ波は拠り所を求めて右往左往する。


「君は、僕が作ったわけではないからさらに強力な力を与えよう。誰にも劣らないくらいの、最強と呼べる力を。」


ヴァラヌスの呼びかけは佳の浮き上がりつつある感情を揺さぶる。

たまらず佳の口は独りでに動く。


「もう戻れないんですか。」


「そうだね、かなり難しいね。君が死んだことはもう家族や知人は周知だし、面倒をかたずけようとしてもあの星と同じように地球に何が起こるか分からない。」


言いながらヴァラヌスは佳の足元に同じ映像を映す。佳の視界は直接その姿を捕らえる。

無駄な、何度もした、分かっているであろう問答に鎮まりつつあった佳の心は揺れ、確かな振動と共に先刻とは違うざわめきが起こる。目で見る情報は人間の知覚情報の多くを占めるのだ。情報はそれ次第で世界を作り、日々変える。


思えば、今までの人生良いことはあれどそれは自分の環境を変える程ではなかった。成長し、視野が広がると自由は増えるがその分汚い物はたくさん見えるようになった。理由も無く、ふざけ半分でからかう中学時代のクラスメイト、人の前で白々しく嘘をつく友人だった人。周りに追いつかれないように人一倍頑張り、もがいた場所ではなにも変わらず。すごい、立派は増えたけど。痛い、辛いは倍になる。押しつぶされはしなくても常に気を張る生活は、次第に周りと自分を憎む種になっていった。眼前に揺れ動く、自分の亡骸によって集る群衆は面白い物でも見たかのようで。佳の煮えたぎる思いでは、自分よりも成功して興味の示さない目で見てくる兄、毎日小五月蠅く吠える母、色を直した姿が深く、最奥で激しく天に手を伸ばす火を灯していた。全部が煩わしかった。努力もしたし、人並み以上には前に出た。その最後が役立たずの無用な飲酒運転手に殺されたなんて割に合わない。


「戻せないものはどうしようもない。なら回ってきた好機を掴むのは当然だろ。」


その時だけ、ヴァラヌスが放った砲声の様な一言は、彼方の果て、どこに終わりが在るのか分からない純白の空間全土に呼応する様に轟く。


何時しか映像は消え、佳の中の叱咤は、しんと鳴りを潜め規則的な心拍が場に残される。

最初に森閑を破るのは一言。


「提案に乗ります。」


数刻置いてヴァラヌスは佳の瞳を見据える。


「よかった。時間は掛かってもいいから、頼んだよ。」


「はい。」


「それじゃぁ、早速送るけど君には誰にも負けない位の力を与える。あっちの星の言語はこっちで何とかするから心配は無用だ。」


ヴァラヌスは立ち上がり椅子を取って佳から距離をとる。


間もなく、佳の踏んでいた白い物質はゆっくりと色を変え、四つの円柱が包む。一瞬虹のような波が現れると佳の視界は途端に霞む。不思議と音は聞こえない。どおやらこの空間には影だけでなく音にも仕掛けがされているようだ。


ふと佳は最後に聞いておきたいことを思い出してヴァラヌスの方向を向く。すでに彼の姿をはっきり見ることは叶わない。


「聞き忘れました、どうしてここに呼んだのは俺なんですか。」


薄れる意識の中、ヴァラヌスの声は佳の耳元に届く。


「たまたま。」


「え。」


素っ頓狂な声と共に佳の意識は呆気なく霧散する。




特にけだるくもない、寝起きのもやっとしたでもない感覚は佳をすぐに覚醒させた。

目を見開くと佳は地面に横たわっていた。頬には乾いた土が当たり、小石はチクリと刺さり不格好な跡を残す。砂を払い立ち上がると目の前にはもう一つの世界が広がっていた。


平原には草花が謙虚に茂っている。薄緑や黄緑で一面に敷かれたは草には各々を赤や薄ピンクといった色で着飾った小花が細々と咲いている。右手には先に行くにつれ禿げて地面が晒されているのが分かる。

対して左手、その最奥には、無辺な森が深緑を称えるように深く青々と繁栄し、どっしりと立派な山脈を抱えている。天を穿つように勢い良く立つ姿は有無を言わせない霊妙さを誇らしく示しているようだった。


どうしてか極端に見える左右の光景は不可解さを含んでいるが、わりと都会暮らしだった佳からすれば、このはるかに垢抜けない自然に文句をつける理由も無かった。平日は必ずと言っていい程吸わされる排気ガスに混ざった鼻に突く臭い。あんなものは慣れてしまえばいいが、体中を吹く風を肺に入れた今では、自分が毒を吸わされていたのかと思ってしまう。佳には、体がスッキリし、身軽いと勘違いするのも無理はなかった。


「この星って縄文時代とかじゃないよね。」


普通に暮らしてもめったに見ない光景に不安が過る。


「制服も知らない服装に代わってるし。」


いつの間にか佳の白のワイシャツと鼠色のズボンの制服は、白のワイシャツに明るい茶色のズボンといった控えめな服になっていた。


「これ、どこに向かえばいいの。力もどんなのか分からないし。」


ヒントも何もないから当てもない。どこかも知らない場所で夜を開けるのも嫌だ。そもそもどんな生物がいるかも分からない。野宿をしようにも火もなければ明かりもないだろう。


この澄んだ空気と人の手の入っていない環境ならきっと夜空には満点の星が輝くだろう。ここは地球とは別の星だ、もしかしたら全く違った物が見えるかもしれない。星明りを抱いて眠るのもいいだろう。


囲む絶景にらしからぬ考えを浮かばせるが流石に佳には浮かれた感情に長時間浸っていることはできずまた思案する。

立っているのも何なので辺りをぶらつこうするとポケットの方から紙が出てきた。


「なんだこれ。」


手に取ると紙には細かく文字が日本語で書かれていた。佳は、おそらくヴァラヌスの書いたであろう紙に目を通す。

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