第一章 1 純白の世界
丁寧に書こうと言葉を選んでいたらかなり文に力が入ってしまいました。読みにくかったら率直にでもよいのでご指摘お願いします。
目覚めると佳は真っ白な空間にいた。いや、正確には自分がどこにいるのか以前に本当に起きているのかさえも疑わしかった。目に入るものは一切なく、ただただ白であり続ける。あまりにも唐突に広がる光景に佳は動くことを忘れ固まっていた。
そうしていると放心から徐々に思考は現実味を取り戻し、肢体の感覚を恐る恐る確かめつつも上半身だけを起こす。ようやく自分の一部が視界に入ると鼻らの呼吸、底に突く手の感触、瞬きの振動、そして穏やかに
波打つ胸の鼓動が一斉に脳に伝播しじんわりと安心感が包む。
自分が生きている根拠を見つけ佳は嬉しさを噛みしめる。
しかし、改めて思い出すのは佳の直前の記憶である。ついさっき佳は横断歩道で自動車に信号無視で轢かれたのだ。いきなりのことでそれが現実の事なのか確証は持てないが頭の中には面白くないくらい鮮明に映し出されていた。
すると思い出したように体は強張り、眉間には自然と小さなしわができ眉はアンバランスに歪む。嫌なことを思い出したからか腹の奥には自動車の運転手に対しての怒りが渦を巻くように出てきた。
だが佳はこの状況で生きていると信じたかった。ついさっき掴んだ生の証も夢とは思いたくないのだ。周りは輪郭などない不思議な空間で満たされようと、思考の続く限りは足掻いていものなのだ。それが不条理に起きた納得のいかない最後ならなおさらだ。
ゆっくりと起き上がり佳は周りを見渡す。やはりそこには白しかなかった。誰にともなく声をかけるが呼び声に応えるものはなく、足にはスニーカー越しに感じられる固い物質の感触だけがある。足を踏み鳴らして聞くことができるのはダンダンと遠く彼方へ吸い込まれていくような音だけ。触るとそれはやっぱり固く、ノックするように第二関節でたたくとコンコンと鳴り、少しだけひんやりしていた。欠乏した情報量の中で唯一の触れられる物質にすがっているとその内どうしようもない虚しさが心中を襲いう。このままでは何か始まるわけでもなく、他にすることもないので佳はすこし辺りを歩くことにした。
この空白ともとれる何もない空間では、風も吹いていなければ自分以外では音すら耳にしない。驚いたことに、ここでは自分の生み出すであろう影すらもできないのだ。一体どういった仕組みなのかわからないが、だからなのか下を歩いているだけで佳は平衡感覚を見失うこともあった。歩き始めてから数分、次第に佳の心は何度か物寂しさが浮かぶようになり、自分の内心にある未知の動揺に比べ佳を取り囲む空間は不変でいて、なんだか置いてけぼりにされた気分でふと俯きがちに歩くようになる。
佳は昔から他人と自分とを比べる未意識の内の癖があり、それは佳の性格の大部分に深く根付き本人はダメなことだと思いつつもすでに諦めきっているのだ。最初は注目を浴びたい子供ながらの旺盛さだったが思春期を過ぎ高校生の今ではその姿は歪に変形し質の悪い物に成り下がってしまった。佳はこの癖を決して悪いだけだとは思わずむしろ、今まで取り立てて能力のない自分がここまでこれたのもこの品のない競争心故だと分かっていた。だからこそいまさら捨てられもしなく、ずっと胸に収めている。
また暫くたまに喉を鳴らしたり、鼻をすすって歩いていると、佳は何時からあったのか自分の数メートル先に木製の椅子を見つけた。椅子は最初からそこにあったかのように一つだけぽつんと位置している。佳は、しばらくぶりの刺激に警戒の先端を抱えつつ嬉し交じりの好奇心に甘え、ゆっくりと伺うように近づく。
椅子は一見すると奇抜な模様もなければ装飾もない。しかし、よく見てみると所々つなぎ目が不格好でしっかりと出来ている様ではなかった。佳の知っている普通の椅子が組み立て式でできていればの話だ。
まるでさっき削り出した後のような椅子は明るい幹色が大部分で、背もたれには薄いトビの羽毛のような茶褐色を残している。今いる空間のせいなのか佳は奇妙なそれに触れるのを寸秒だけ躊躇った。佳は、意を決して慎重に指先を椅子に伸ばす。
その瞬間、佳の目の前、つまり直前に椅子を見ていた視界に突如として黒いものが現れる。驚いて裏返った声を上げ、慌てて後方に下がる。その際、足を踏み外し軽く後ろからつまずき佳はしりもちをついてしまう。
急いで椅子のあった場所を見るとそこには一人の男が佳をまっすぐ見据えていた。男は先ほどまでの無人の椅子に座っており、凛とした静寂を柔らかく纏つつ、そのおかげで緩和された厳かな雰囲気は、佳にいっそ潔いよいくらいにその男を理知的にみせた。
男の瞳はまるで熱帯の海辺と沖のあわいのように澄んだ群青色をしていた。
嫉妬してしまうくらいに迷いなく綺麗な瞳は男のためにだけあるように。
佳はそんな男の壮麗ないでたちに、まるで崇高なものに反骨心の火を掲げるように意識の最奥で小さな棘を生やしていた。
次で転生します。異世界に。 異世界の設定どうしよ。