表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

「……って、思いっきり廃墟じゃねーかっ!!」


 その夜、薄暗い自室にオレの大きな独り言(ツッコミ)が響いた。


 目の前には部屋をぼんやりと照らすパソコンの画面。そこに表示されているのは、都市伝説などを扱うふざけたサイトだった。

 やたら大きな字で『生放送中に消えた3人の実況配信者!』とか書いてある。

 ウカから聞いた『裏野ドリームランド』というキーワードで検索した結果、何故かここに飛ばされんだが……こういうときは、眉に唾でも付ければいいのか?

 残念ながら目の前のページはそのくらいじゃ消えてはくれないようだ。消えてくれないかな?

 そもそもこのサイトにたどり着く前に既に開いたあのオンライン百科事典の『カテゴリ:日本の遊園地 (閉園)』というページにばっちりと裏野ドリームランドの名が挙がっていることは確認済みだ。


 オレは迷うことなく充電中のスマホに手を伸ばし、アプリを開いて文字を打ち込む。




《大和:今度行く遊園地の名前間違えてねーか?》


《大和:裏野ドリームランドはとっくに閉園してるんだが》




 返事はぴったり1分後、既読の文字が出てからすぐに来た。



《宇花:裏野ドリームランドで合ってるよ、とっくに閉園してるのは知ってる(`・ω・´)》


《大和:意味がわからん》


《宇花:( ´,_ゝ`)》


《宇花:閉園したけど施設は残ってる。つまりそういうこと( ̄∇ ̄+)》


《大和:おい、まさか》


《宇花:もう動かないメリーゴーラウンドも良いと思うの( ´ ▽ ` )b》



 オレは画面を見ながら溜息を吐いた。

 ウカは筋金入りのメリーゴーランド馬鹿だ。ついでに言うと、一度決めたことは何が何でも曲げない頑固者でもある。

 しかしさすがに廃墟ツアーをやらせる訳にはいかない。ここは彼氏として、なんとしてもこいつを止めなければ。



《大和:却下だボケ》


《宇花:ところでここに、市民プールのチケットと新品の水着があるのだけど( ^V^ )》


《大和:よし行こうじゃないか》


《宇花:m9(^Д^)》


《宇花:じゃあ行き方は調べといて。おやすみー(。・ω・)ノ゛》




「お、や、す、み……と。さーて、とりあえず住所だな…………ハッ!?」


 今更ながら気付く……してやられた、と。

 しかし、オレの心は実に清々しいものだった。目指す未来に桃源郷(ふともも)が待っているのだから。




 目的地までのルートを確認したついでに、先程開いた都市伝説のページも確認しておくことにした。

 別にオカルトに興味があるとかそういう訳じゃない。得体の知れない場所に行くのなら、少しでも情報があれば良いと思ったからだ。


 ページを上から順に読み進めていく。最初に感じた通り、内容は怪しいことこの上ない。

 12年前の凄惨な事件と、それに伴う突然の閉園。

 その後解体もされずに放置されている事への邪推が、何故か謎のカルト教団の存在の主張にすり替わっている。

 更に水底の異形だの地下の拷問部屋だの……流石にナンセンスが過ぎると思う。お、一応メリーゴーランドの話もあるんだな。

 ……ん? 何人もの子供が行方不明? おいおい、ただの迷子ってオチじゃないだろうな? 人が消えるだなんて、まるで神隠し…………



 ————妖精に連れてかれるんだよ————



 ざわり、と背中を走る悪寒に思わず身震いする。

 無意識に腕を摩ると鳥肌が立っているのが分かった。そのくせ、嫌な汗が肌を伝う。

 頭の奥がチリチリと音を立てて警鐘を鳴らしている。なんだ? 今オレは何を思い出そうとした(・・・・・・・・・・)


 オレは強制的にパソコンの電源を落とすと、ベッドへ飛び込むように倒れ込んだ。

 寝苦しいからあまり使わないタオルケットを引き寄せて、ばさりと頭から被る。

 なんだか、ひどく疲弊したように全身が重かった。……ああ、今日は遠出したからな……。

 とにかく今は何も考えたくない。さっき無理に落としたパソコンのように、オレは意識そのものをシャットダウンさせた……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それからしばらく経って、裏野ドリームランドに行く日がやって来た。

 その日までオレは夏休みを有意義に過ごすべく、バイトをしたりゴロゴロしたりといった毎日を送っていた。 友達? 居ねぇよ。

 そんな中で近所の市民プール(パラダイス)にウカと出掛けたりもしたのだが……まぁ、それについては割愛する。


 オレとウカは今、電車から乗り継いで目的地近くへと向かうバスに揺られている。

 ちょうど昼過ぎ、2人の他に乗客はなく、テンションと共にボリュームも上がり続けるウカの声を気にする者はオレ以外にはいない。いや、運転手よゴメン。

 ゆらゆらと軽く頭を揺らしながら、彼女は意味不明な薀蓄(うんちく)を垂れ流していた。


「ある作家はね、ぐるぐると回るメリーゴーラウンドを神事に喩えていたの。柱を中心に据えてその周りを廻る儀式は色々あってね、例えば古事記にあるイザナギとイザナミの国造りも、天の御柱を用いた婚姻を結ぶことで成り立っていたりと」


「……なぁ、その話いつまで続くんだ?」


「回転は万物の真理そのものなの。地球も銀河も、電子の世界だって廻るもの。つまりメリーゴーラウンドは万物の縮図であり、宇宙すら内包する神秘の」


「…………ぐぅ…………」


「ねぇヤマト、もうすぐ終点だって! ヤマト? ヤマ……起きろ三輪大和!!」


「ぐべらっ!? ぁ……あぁ、ウカか。おはよう」


「おはようヤマト、バス終点着いたよ。早くしないと置いてくよー?」


「馬鹿、オレが道案内しなきゃお前右も左も分からないだろうが」


「んふふ、案内よろしくー」



 道はそんなに複雑ではなく、更に観覧車らしき影が見えるため迷う心配はない……はずなのだが、こいつに限って言えば確実に道に迷う。

 地図を持っていようと、案内板があろうと迷うのだからどうしようもない。多分ナビの音声を聞いていても迷う奴だ。

 何故かは不明だが、ウカは気が付けば道を外れている。真っ直ぐに歩くべき場所で勝手に曲がり、一度立ち止まってキョロキョロしたかと思えば逆走したりする。

 もちろんその方向音痴スキルは遊園地内でも有効だ。周囲の人間に道を尋ねる程度では、一生かかってもメリーゴーランドには辿り着けないだろう。


 唯一彼女を適切に導くには、手を繋いで引っ張ってやる他ない。本当にそれしかないのだから仕方ない。

 ……付き合いたての頃、ドキドキの初手繋ぎイベントが迷子のウカ(バカ)のせいで非常に残念なことになった恨みは、いつか晴らそうと思う。


 バスを降りてからは、結構歩くことになる。

 昔は『裏野ドリームランド前』なるバス停もあったらしいが、そんなものは既に需要がないためとっくに消滅していた。

 この酷暑にこれだけ歩くのはかなり苛酷だ。オレはこの日のためにしっかり準備しておいたリュックの中から、半分だけ斜めに凍らせたスポーツドリンクを取り出してウカに手渡す。

 地味に手間はかかるけどこういうときは重宝する小技を使ったものだ。もちろんリュックの中にも保冷剤があるからまだほとんど溶けていない。


「ほら、道は長いからコレ飲みながら歩け」


「ありがと。おぉ、ひんやりー」



 そして2人で手を繋ぎ、炎天下をひたすら歩き続ける。

 目的地はどうやら高台にあるらしく、徐々に上り坂に道が変わっていく。

 さすがのウカもこれは堪えるのか、口数がどんどん減っていった。

 それでも時折思い出したかのように、『各社の作るメリーゴーラウンドの違い』を口にしたりはしていたが。


 繋いでいる手の中はじっとりと濡れて、お互いの汗が混じり合う。

 若干の不快さはあるが今更どうということもないし、手を繋がなければ後が面倒だから離すという選択肢は最初から存在しない。

 そうだ、いっそ綱でも付けておけば万事解決じゃないか? などと益体も無いことを考えていたら、急にウカが大声を上げた。


「ヤマト! あれ入り口じゃない!?」


 駆け出す彼女の手を離さないようオレも急いで足を動かす。

 もうずっと手入れされていない植え込みからは蔦が伸びて、そこにそびえ立つ大きな門に絡まっている。

 その蔦に沿って見上げると、その門には森の小人のようなキャラクターと共に大きな文字が記されていた。



 『裏野ドリームランドへようこそ』と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ